ノイエルカプセル・ノイエル細粒(一般名:セトラキサート塩酸塩)は、1979年から発売されている胃炎・胃潰瘍治療薬(いわゆる胃薬)です。
主に胃を保護する物質(防御因子)を増やす作用を持ちますが、胃を攻撃する物質(攻撃因子)を抑える作用もあり、これらによって胃炎や胃潰瘍を改善させます。
2つの作用で胃を保護するため、しっかりとした効果が得られます。
胃薬にもたくさんの種類があります。これらの中でノイエルはどのような位置付けのお薬になるのでしょうか。
ここではノイエルの特徴や効果・副作用をはじめ、どのような作用機序を持つお薬でどのような方に向いているお薬なのかについて説明していきます。
1.ノイエルの特徴
まずはノイエルの全体的な特徴について、かんたんに紹介します。
ノイエルは主に胃を保護する物質(胃防御因子)を増やす作用をもち、また胃を攻撃する物質(胃攻撃因子)を抑える作用もあります。2つの作用によって、しっかりと胃を保護してくれる胃薬です。
ノイエルは主に胃炎や胃潰瘍に適応を持つ「胃薬」になります。
古い胃薬は副作用が少ない代わりに効果も穏やかである事が多いのですが、ノイエルはその中では比較的強めの効果を有しており、軽症のみならず中等症の胃炎・胃潰瘍に対しても使用する事が出来ます。
ノイエルにはいくつかの作用がありますが、主な作用は「胃を防御する機能を高める作用」になります。しかしそれだけでなく「胃を攻撃する機能を抑える作用」も有しています。
胃薬の作用機序は大きく分けて、
- 胃を攻撃する因子(胃酸など)を減らすもの
- 胃を防御する因子(胃粘液など)を増やすもの
の2種類があります。
前者にはH2ブロッカー(ガスターなど)やPPI(タケプロンなど)があります。これらの胃薬は高い胃潰瘍・胃炎改善作用が得られるため、近年の胃疾患治療において主役となっています。
一方で後者は古いお薬が多く、安全性は優れるものの、効果も穏やかで弱めという特徴があります。
この中でノイエルは後者に属するお薬です。しかし前者のような作用も有しているため、後者の中では強めの効果が得られます。もちろんH2ブロッカーやPPIほどの強さはありませんが、穏やかな胃薬の中ではしっかりと効く部類に入るのです。
ノイエルが胃を防御する具体的な機序はいくつかありますが、主なものはプロスタグランジン(PG)という物質を増やす事です。
プロスタグランジンは胃の粘液を増やす作用があるため、プロスタグランジンが増えると胃が保護されやすくなります。
またそれ以外にも胃への血流を増やす作用や胃粘液の合成を促進する作用も報告されており、これらも胃の保護に役立っていると考えられています。
一方で胃を攻撃する因子を減らす作用としては、ペプシノーゲンの活性化を抑制する作用や抗カリクレイン作用(カリクレインのはたらきを抑える作用)が報告されています。
ペプシノーゲンというのはペプシンという酵素の元になる物質で、ペプシンはたんぱく質を分解する酵素です。またカリクレインもたんぱく質を分解する酵素になります。
ペプシン・カリクレインは食べ物中のたんぱく質を分解し、体内に吸収させやすくするはたらきがあります。栄養を効率的に摂取するためには重要な酵素なのですが、胃壁が荒れている時には胃壁細胞中のたんぱく質にも作用してしまい、胃壁細胞を破壊してしまう事もあります。
胃炎や胃潰瘍などで胃が荒れている時にペプシンやカリクレインの作用を抑えてあげる事は、荒れた胃壁をこれ以上破壊させにくくする事になり、これは胃を保護するはたらきになるのです。
以上からノイエルの特徴として次のようなことが挙げられます。
【ノイエルの特徴】
・主に軽症~中等症の胃炎・胃潰瘍に用いられる胃薬である |
2.ノイエルはどのような疾患に用いるのか
ノイエルはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
○ 下記疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善
急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期
○ 胃潰瘍
ノイエルは主に胃炎や胃潰瘍の治療に用いられます。
その作用機序はいくつかありますが、主なものは胃の防御因子(胃粘液やプロスタグランジンなど)を増やす作用であり、それに加えて胃の攻撃因子(タンパク質を分解する酵素など)を減らす作用もあります。
ではノイエルはこれらの疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
急性胃炎・慢性胃炎の急性増悪期の症例にノイエルを投与した調査では、
- ノイエル200mg/日の投与での改善率は63.1%
- ノイエル800mg/日の投与での改善率は73.8%
と報告されています。しっかりとした効果を有し、更に高用量ほどより高い効果が得られる事が示されています。
また胃潰瘍を「ノイエル+水酸化アルミゲル」で治療した群と、「プラセボ(偽薬)+水酸化アルミゲル」で治療した群では、
- ノイエル+水酸化アルミゲルの治癒率は88.6%
- プラセボ+水酸化アルミゲルの治癒率は62.2%
とノイエルを併用した方が高い有用性が得られる事が示されています(水酸化アルミゲルというのは胃酸を中和して胃を保護する作用を持つ胃薬の1つです)。
3.ノイエルにはどのような作用があるのか
ノイエルは胃炎や胃潰瘍といった胃疾患に対して効果を発揮するお薬ですが、具体的にはどのような作用機序を持っているのでしょうか。
ノイエルの主な作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.胃粘膜を保護する因子を増やす
ノイエルの主な作用は、胃粘膜を保護する因子(防御因子)を増やすことです。
具体的には、
- プロスタグランジンを増やす
- 胃の血流を増やす
- 胃粘液の合成を促進する
などが報告されています。
ノイエルは胃に対するいくつかの作用が報告されていますが、その1つに「プロスタグランジン(PG)を増やす事」が挙げられます。
プロスタグランジンは胃を保護するはたらきを持つ胃粘液を増やす作用があるため、プロスタグランジンの量が増えると胃炎や胃潰瘍が生じにくくなります。
またノイエルは胃への血流を増やす作用も報告されています。血流が増えればそこに栄養分が届きやすくなるため、粘液を作りやすくなったり細胞の合成・修復もしやすくなります。
胃粘液というのは胃の表面を覆ってくれる粘液で、ヘキソサミンやムチンというたんぱく質などが成分となっています。ヘキソサミンはアルカリ性の物質であり胃酸を中和してくれるため、胃酸から胃壁を守るはたらきがあります。ムチンは粘性のある糖タンパクで、その粘性によって胃壁を保護してくれます。
ノイエルはこのような胃粘液の分泌を増やし、この胃粘液が胃壁をコーティングしてくれると、胃の防御力が高まります。
Ⅱ.胃を攻撃する因子を減らす
ノイエルの主な作用は前項の「胃の防御因子を増やす作用」になりますが、それ以外にも胃を攻撃する因子を減らす作用もあります。
具体的には、たんぱく質を分解する酵素である、
- ペプシン
- カリクレイン
のはたらきを抑える作用を持っています。
これらの酵素は食べ物に含まれるたんぱく質を分解する事で、体内に栄養を吸収させやすくさせるはたらきがあり、本来身体にとって必要不可欠な酵素です。
しかし胃が荒れて胃炎や胃潰瘍などが生じてしまっている時、露出した胃壁細胞にペプシンやカリクレインが反応してしまうと、これらの酵素は胃壁細胞のたんぱく質をも分解してしまいます。
すると胃炎や胃潰瘍はより悪化する事になるのです。
ノイエルはこれらの酵素のはたらきを抑える作用を持ちます。これによって、胃炎や胃潰瘍がこれ以上障害される事を防いでくれるのです。
ちなみに胃の攻撃因子を減らす代表的なお薬である「H2ブロッカー」や「PPI(プロトンポンプ阻害薬)」は胃酸の分泌を減らす事で胃炎・胃潰瘍の改善を得ますが、ノイエルはこれらのお薬のように胃酸の分泌量を減らすような作用はありません。
4.ノイエルの副作用
ノイエルにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
ノイエルの副作用発生率は1.9%と報告されています。
生じうる副作用としては、
- 便秘
- 発疹
- 悪心・嘔吐
- 口渇
- 下痢
などが報告されています。
ノイエルは胃に作用するため、その副作用の多くも胃腸系の症状になります。
ノイエルはペプシンやカリクレインのはたらきを抑えるため、食べ物中のたんぱく質が分解されにくくなってしまい、胃腸に負担がかかりやすくなってしまうという側面があります。
この側面が強く出てしまうと吐き気が生じたり、下痢・便秘など胃腸症状が生じる事があります。
5.ノイエルの用法・用量と剤形
ノイエルには、
ノイエルカプセル 200mg
ノイエル細粒 40% 0.5g
の2剤型があります。
ノイエルの使い方は、
通常成人、1回200mgを1日3~4回食後及び就寝前に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
となっています。
6.ノイエルが向いている人は?
最後にノイエルが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ノイエルの特徴をおさらいすると、
【ノイエルの特徴】
・主に軽症~中等症の胃炎・胃潰瘍に用いられる胃薬である |
というものでした。
ここから、
- 軽症~中等症の胃炎や胃潰瘍の方
- 胃粘膜を防御するお薬ではなかなか改善が得られない方
に向いているお薬と言えます。
胃粘膜防御因子を増やす胃薬というのは基本的に、安全性に優れるものの効果も弱いという面があります。
その中でノイエルは攻撃因子を減らす作用も併せ持っているため、比較的強めの効果が得られます。
そのため軽症例のみならず中等症例にも試す価値のある胃薬です。また効果の穏やかな胃粘膜防御因子を減らすお薬では症状の改善が得られず「もう少しお薬を強めたい」という時にも検討できるお薬になります。