ニフェジピンは1976年から発売されている「アダラート」という降圧剤(血圧を下げるお薬)のジェネリック医薬品で、カルシウム拮抗薬という種類に属します。
ニフェジピンには、
- ニフェジピン(先発品は1976年発売)
- ニフェジピンL(先発品は1985年発売)
- ニフェジピンCR(先発品は1998年発売)
の3種類があります。発売年度が新しいものほど改良を加えられており、安全性も高く使い勝手の良いお薬になっています。
現在では一番新しい「ニフェジピンCR」が用いられる事が多いのですが、症例や状況によってはニフェジピンLが用いられる事もあります。一方でニフェジピンは現在ではほとんど用いられる事はありません。
高血圧症の患者さんは日本で1000万人以上と言われており、降圧剤は処方される頻度の多いお薬の1つです。
ここではニフェジピンというお薬の特徴や効果・副作用、またニフェジピン、ニフェジピンL、ニフェジピンCRの違いについてなどを説明していきます。
目次
1.ニフェジピンの特徴
ニフェジピンはどのような特徴を持つお薬なのでしょうか。
ニフェジピンはカルシウム拮抗薬という種類の降圧剤(血圧を下げるお薬)になります。そのため、まずはカルシウム拮抗薬の特徴をみてみましょう。
【カルシウム拮抗薬の特徴】
・降圧力(血圧を下げる力)が確実
・ダイレクトに血管に作用するため、余計な副作用が少ない
・薬価が安い
カルシウム拮抗薬の一番の特徴は、血圧を下げる力がしっかりとしている点です。単純に血圧を下げる力だけを見れば、降圧剤の中で一番でしょう。
降圧剤(血圧を下げるお薬)はカルシウム拮抗薬の他にも、
- ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
- ACE阻害剤(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
- 利尿剤
- α遮断薬
- β遮断薬
など多くの種類がありますが、単純に血圧を下げる力(降圧力)だけをみればカルシウム拮抗薬にかなうお薬はありません。
カルシウム拮抗薬は血管を覆っている筋肉(平滑筋)を緩める事で血管を拡張させ、血圧を下げます。血管にダイレクトに作用するため、その降圧力は強力です。
またダイレクトに血管に作用するため、その他の部位に作用しにくく、安全性に優れ副作用も多くはありません。
カルシウム拮抗薬は薬価が安いのも大きな特徴です。血圧を下げるコストパフォーマンスという見方をすれば、カルシウム拮抗薬はかなり優れたお薬なのです。
では次にカルシウム拮抗薬の中での「ニフェジピン」「ニフェジピンL」「ニフェジピンCR」のそれぞれの特徴を紹介します。
まずはもっとも古いニフェジピンの特徴からみてみましょう。
【ニフェジピンの特徴】
・降圧力が強い
・即効性があり、服用後30分以内に効果が認められる
・作用時間は4~6時間ほどと短い
・副作用が多い
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
カルシウム拮抗薬は血圧を下げる力がしっかりしているお薬ですが、ニフェジピンはカルシウム拮抗薬の中でも強い降圧力を有します。
ニフェジピンの一番の特徴は即効性に優れる点です。服用してから30分以内には効果が認められます。
一方で作用時間は短く、4~6時間ほどしか持ちません。
急速に強力に効くニフェジピンは、狭心症発作など早急に血管を広げた方が良い状態に対する治療薬として開発されました。
狭心症は心臓を栄養する動脈である冠動脈が狭くなってしまう事で生じる発作です。心臓に栄養が届かなくなると命に関わるため、狭心症発作は早急な治療が必要になります。
しかしニフェジピンは確かに急速に強力に効くのですが、急激であるが故に副作用が生じやすいという問題がありました。急に血管が拡張するため頭痛が生じたり、反射的に交感神経が興奮して頻脈になったり、血圧が急激に低下する事でめまいやふらつき、意識消失が生じるリスクがあります。
そのため実際は狭心症発作にニフェジピンはあまり使われず、このような発作には主に硝酸薬(ニトログリセリンなど)が用いられています。
またアラダートは高血圧症に対して適応も持っていますが、実は高血圧の治療にもあまり向いていません。
高血圧症は1日を通して持続的に血圧を下げてあげる事が大切です。急激に効いて、すぐに効果がなくなってしまうようなお薬は、むしろ血圧の波を悪化させてしまうリスクもあり、高血圧の治療薬としては適さないのです。
ニフェジピンは急激に効果が発現するため数値の改善を実感しやすく、一見すると「血圧がすぐ下がった!いいお薬だ」と感じるかもしれません。しかし実際は血圧の波を作りやすくしてしまうリスクがあるのです。
このような理由から現在ではニフェジピンはほとんど用いられていないのが現状です。
そして、このような問題点から改良薬として開発されたのが、次に紹介するニフェジピンLになります。
では、次にニフェジピンLの特徴を見てみましょう。
【ニフェジピンLの特徴】
・降圧力が強い
・服用後30分~1時間で効果が認められる
・作用時間は12時間ほど
・ニフェジピンよりは副作用が少ない
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
前述のようにニフェジピンは強力な作用を持つものの、効果発現が速く、持続性もないため、あまり高血圧や狭心症発作に適していないお薬である事が分かりました。
しかしニフェジピンの強い降圧力(血管を広げる作用)は大きなメリットであるため、「ニフェジピンをもう少し緩やかに長く効かせる事は出来ないか」という事で開発されたのが、ニフェジピンL錠です。
ちなみに「L」は「Long acting(長く効く)」という意味です。
ニフェジピンLはニフェジピンと同じ成分からなりますが、剤型に工夫をする事でニフェジピンを「緩やかに、長く効くように」改良したお薬になります。
ニフェジピンより効果発現が緩やかで作用時間も長いため、高血圧や狭心症治療にも使いやすくなっています。また、ニフェジピンよりゆっくり効くため副作用も軽減されています。
しかし後述するニフェジピンCRの方が、より緩やかに効き、持続力に更に優れるため、現在ではゆっくり長く効かせるという目的でニフェジピンLを処方する事はあまりありません。
ニフェジピンLはある程度の即効性があるため、現在では急いで血圧を下げたい場合(高血圧緊急症など)に対して用いられる事があります。
ただし急いで血圧を下げるような緊急事態にはニフェジピンLのような飲み薬ではなく、カルシウム拮抗薬の注射剤などを用いる事の方が多いため、ニフェジピンLもそこまで使用頻度が多いお薬ではありません。
最後にニフェジピンCRの特徴を見てみましょう。
【ニフェジピンCRの特徴】
・降圧力が強い
・即効性は乏しい
・作用時間は24時間続く
・投与後3~4時間後、12時間後に二相性のピークを示す
・副作用が少ない
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
ニフェジピンCRは「CR(Controlled Released)」という特殊な剤型で、お薬の成分がゆっくり溶け出す工夫がされています。そのため、ニフェジピンLよりも作用時間が長く、1日1回の服用で24時間効果が持続します。
即効性はほとんどなく、お薬を服用してから血中濃度が最大になるまでにかかる時間は3~4時間と報告されています。
普通のお薬は服用してから少し経つと血中濃度が最大となり、その後は血中濃度が緩やかに低下していくのですが、ニフェジピンCRは面白い薬物動態を示します。
服用して3~4時間後に血中濃度が最大になり、その後緩やかに低下するものの、服用8時間後から血中濃度は再度上昇し始め、12時間後に2度目のピークが得られます。
ゆっくり効くため、副作用もかなり少なくなっており、ニフェジピンの中で高血圧の管理や狭心症の予防にもっとも適した剤型となってます。
そのため現在処方されているニフェジピンのほとんどが「ニフェジピンCR」となっています。
また二相性の薬物動態を示す事から、夜間や早朝に血圧が高くなりがちな方にも向いているお薬になります。
2.ニフェジピンはどのような疾患に用いるのか
ニフェジピンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
〇高血圧症、腎実質性高血圧症、腎血管性高血圧症
〇狭心症、異型狭心症
ニフェジピンはカルシウム拮抗薬に属しますが、カルシウム拮抗薬は血管を広げることで血圧を下げます。また冠動脈(心臓を栄養する血管)も広げるため、冠動脈が狭くなる事で生じる狭心症にも効果があります。
高血圧症というのは正式には「本態性高血圧」と言い、何らかの原疾患が原因で血圧が高くなっているわけではなく、動脈硬化によって血圧が上がってしまっている高血圧の事です。
ちなみに本態性高血圧以外の高血圧は、二次性高血圧と呼ばれます。腎臓に原因があって血圧が上がったり、甲状腺などのホルモンに原因があって血圧が上がるような状態がこれに該当します。
腎実質性高血圧は二次性高血圧の1つで、何らかの原因で腎臓に障害が生じて血圧が上がってしまう疾患です。例えば糖尿病による腎障害などが原因として挙げられます。腎臓は尿を作る臓器ですので、腎臓に障害が生じると尿を作りにくくなり、身体の水分が過剰となるため血圧が上がります。
腎血管性高血圧症も二次性高血圧の1つで、腎臓に向かう血管である腎動脈が狭窄する事によって生じる高血圧です。腎動脈が狭窄して腎臓の血流が少なくなると、腎臓は「血液が少ない。血圧を上げて血流を増やさなければ!」と判断して血圧を上げるホルモン(レニン)を分泌します。これにより血圧が上がってしまうのが腎血管性高血圧です。
また狭心症というのは、心臓に栄養を送っている血管(冠動脈)が狭くなったり、痙攣してしまったりすることで、心臓に血液が届かなくなって胸痛などが生じる疾患のことです。
狭心症は動脈硬化によって冠動脈が狭くなる事で生じますが、冠動脈が痙攣(けいれん)する事で生じる事もあり、これは「異型狭心症」と呼ばれます。
ニフェジピンは血管を拡張させるため、冠動脈も拡張させるはたらきがあり、狭心症にも効果は期待できます。特に痙攣によって生じる「異型狭心症」に対して有効です。
ニフェジピンはこれらの疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
ニフェジピンはジェネリック医薬品ですので有効性の詳しい調査は行われていませんが、先発品のアダラートと同じ主成分を用いているため、アダラートの調査が参考になります。
アダラートの有効率をみた調査では次のような結果が得られています。
<アダラートカプセルの有効率>
- 高血圧症に対する有効率は79.1%
- 腎実質性高血圧症に対する有効率は93.2%
狭心症に対しては、数値はないもののアダラートカプセルの有用性が確認されています。また異型狭心症に対しては、発作が完全に消失したか半分以下に減少した率は94%と報告されています。
<アダラートL錠の有効率>
- 高血圧症に対する有効率は87.4%
- 腎実質性高血圧症に対する有効率は85.1%
- 腎血管性高血圧症に対する有効率は100%
- 労作性狭心症に対する有効率は68.4%
- 異型狭心症に対する有効率は92.9%
(労作性狭心症は運動などの負荷で誘発される狭心症の事で動脈硬化が原因となっているもの)
<アダラートCR錠の有効率>
- 本態性高血圧症に対する有効率は89.77%
- 腎実質性高血圧症に対する有効率は72.97%
- 腎血管性高血圧症に対する有効率は77.78%
- 狭心症に対する有効率は73.44%
- 異型狭心症に対する有効率は88.24%
ジェネリック医薬品であるニフェジピンもこれらと同様の有効率があると考えられます。
このように各剤型でおおむね変わらない有効率が得られています。有効率は変わりませんが、副作用はアダラートカプセル、アダラートL、アダラートCRとなるにつれて少なくなっています。
またニフェジピン、ニフェジピンL、ニフェジピンCRのいずれも動脈硬化によって生じる労作性狭心症より、冠動脈の痙攣で生じる異形狭心症に対してより高い効果が得られる事が分かっています。
3.ニフェジピンにはどのような作用があるのか
血圧を下げるはたらきを持つニフェジピンですが、どのような機序で血圧を下げているのでしょうか。
血圧を下げるお薬にはいくつかの種類がありますが、そのうちニフェジピンは「カルシウム拮抗薬」という種類に分類されます。カルシウム拮抗薬は、血管の周りを覆っている平滑筋を緩める作用があります。筋肉が緩むと血管が広がるため、血圧が下がるというわけです。
より詳しい機序を見てみると、ニフェジピンは平滑筋に存在しているカルシウムチャネルのはたらきをブロックします。
チャネルという用語が出てきましたが、これはイオンが通る穴だと思ってください。つまりカルシウムチャネルは、カルシウムイオンが通ることが出来る穴です。
カルシウムチャネルは、平滑筋細胞の中にカルシウムイオンを通すことにより、筋肉を収縮させるという作用があります。そしてこれをブロックするのがニフェジピンです。
ニフェジピンはカルシウムチャネルの入り口に蓋をしてしまうようなイメージで、これによって平滑筋細胞内にカルシウムイオンが流入できなります。
すると平滑筋は収縮できなくなるため緩み、血管は広がります。これによって血圧が下がるというわけです。
ちなみにカルシウムチャネルにはL型、T型、N型の3種類があることが知られています。このうち、平滑筋に存在しているカルシウムチャネルはほとんどがL型です。
L型カルシウムチャネル:主に血管平滑筋・心筋に存在し、カルシウムが流入すると筋肉を収縮させる。ブロックすると血管が拡張し、血圧が下がる
T型カルシウムチャネル:主に心臓の洞結節に存在し、規則正しい心拍を作る。また脳神経にも存在し神経細胞の発火に関係している
N型カルシウムチャネル:主にノルアドレナリンなど興奮性の神経伝達物質を放出する。
ニフェジピンはL型カルシウムチャネルに選択性が高いため、しっかりと血管を広げる作用を持ちます。
Ⅱ.血液を固まりにくくする
ニフェジピンは動物実験において血小板のはたらきを抑える作用(抗血小板作用)が報告されています。
血小板は血液を固まらせるはたらきを持つ血球で、本来は血管に傷が出来て出血してしまった時に傷口で固まる事によって傷口をふさぎ、出血を抑えるはたらきをします。
血液が大量に失われてしまうと命に関わりますので、このような血小板のはたらきはとても重要な役割になります。
しかし動脈硬化が進行した血管は血管内壁が傷だらけのような状態になっているため、血小板が血管内部で活性化してしまう事があります。すると血管内で血液が固まってしまうため(血栓)、狭心症や心筋梗塞をきたす事があります。
ニフェジピンは血小板のこのような作用を抑制するため、この作用も狭心症の改善に役立っているのではないかと考えられています。
4.ニフェジピンの副作用
ニフェジピンにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
ニフェジピンはジェネリック医薬品ですので有効性の詳しい調査は行われていませんが、先発品のアダラートと同じ主成分を用いているため、アダラートの調査が参考になります。
アダラートの副作用発生率は、
- アダラートカプセルで5.68%
- アダラートL錠で5.12%
- アダラートCR錠で11.12%
と報告されています。
ジェネリック医薬品であるニフェジピンもこれらと同様の副作用発生率があると考えられます。
一見すると一番新しいCR錠の副作用が多いように見えますが、実際の臨床的な印象ではCRが最も副作用は少ない剤型になります。
アダラートカプセルの発売年度が1976年でアダラートCR錠は1998年と約20年の差があります。実は副作用の調査というのは、年を経るごとにどんどん厳密になってきています。
これは調査の精度が上昇した事や健康に対する意識の向上などが原因と考えられていますが、このような理由で新しいお薬ほど副作用が発見されやすく、副作用発生率の数値が上がってしまうという現象が生じているのです。
ではニフェジピンは実際にどのような副作用が生じるのでしょうか。
生じうる副作用としては、
- 顔面潮紅
- 頭痛
- めまい
- 動悸
などが報告されています。
顔面潮紅は顔面の血管が拡張することで生じると考えられます。
頭痛やめまいは急に血圧が下がる事で生じ、、動悸も急に血圧が下がった反動で脈拍が速くなるためだと考えられています。いずれも、急激に血圧を下げるニフェジピンで特に生じやすい傾向があります。
またニフェジピンは主にL型のカルシウムチャネルに作用しますが、一部T型に作用してしまうと心臓に影響し、これが動悸の原因となる事もあります。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- 紅皮症(剥脱性皮膚炎)
- 無顆粒球症
- 血小板減少
- 肝機能障害、黄疸
- 意識障害
が報告されています。
紅皮症は全身の皮膚が赤く腫れ、表皮が剥がれ落ちていく疾患で、重症薬疹の1つです。最悪の場合は命に関わる可能性もあり、早急な対応が求められます。
無顆粒球症は白血球の1つである「好中球」が減少してしまう副作用です。好中球は細菌などをやっつける血球ですので、無顆粒球症になるとばい菌に感染しやすくなり、また感染した際に重症になりやすくなります。
血小板減少は、血を止める作用を持つ血球である「血小板」が減少してしまう副作用です。血小板減少が生じると、血が止まりにくくなったり、ちょっと身体をぶつけるだけで出血するようになってしまいます。
またニフェジピンは肝臓に負担をかけ、肝機能を悪化させてしまう事があります。
いずれも頻度は多くはありませんが、ニフェジピンの服用が長期にわたっている際は、定期的に血液検査を行い、このような副作用が生じていないか確認する事が望まれます。
また対処法としては原則ニフェジピンを中止し、すぐに主治医に適切な対応を仰ぐ必要があります。
ニフェジピンを投与してはいけない方(禁忌)としては、
- ニフェジピンの成分に対し過敏症の既往歴のある方
- 妊婦又は妊娠している可能性のある方
- 心原性ショックの方
- 急性心筋梗塞の方(ニフェジピンカプセルのみ)
動物実験で妊娠動物にニフェジピンを投与したところ、出生児の催奇形性(奇形が生じるリスクがある事)が報告されています。ヒトにおいても同じ事が生じる可能性を考え、このような方にはニフェジピンの使用は禁忌となっています。
心原性ショックとは何らかの原因で急に心臓のはたらきが低下してしまった状態の事です。心臓は全身に血液を送るはたらきがありますから、心原性ショックになると血圧が急激に低下していきます。
このような状態で、更に血圧を下げてしまうニフェジピンを投与する事は極めて危険ですので禁忌となっています。
また急性心筋梗塞は冠動脈が完全に詰まってしまう事で、心臓に栄養が送れなくなってしまっている状態で、心臓が急激にダメージを受けている状態です。このようなただでさえ血行動態が不安定になる状況で、急激に血圧を下げてしまうニフェジピンを投与する事は危険であるため、禁忌となっています(ニフェジピンL、ニフェジピンCRは禁忌ではありません)。
5.ニフェジピンの用法・用量と剤形
ニフェジピンには、
ニフェジピンカプセル 5mg
ニフェジピンカプセル 10mgニフェジピン錠 10mg
ニフェジピン細粒 1%
ニフェジピンL錠 10mg
ニフェジピンL錠 20mgニフェジピンCR錠 10mg
ニフェジピンCR錠 20mg
ニフェジピンCR錠 40mg
といった剤形があります。
ニフェジピンの使い方は、
【ニフェジピンカプセル・ニフェジピン錠・ニフェジピン細粒】
通常成人1回10mgを1日3回経口投与する。症状に応じ適宜増減する。
【ニフェジピンL錠】
<本態性高血圧症、腎性高血圧症>
通常成人1回10~20mgを1日2回経口投与する。症状に応じ適宜増減する。<狭心症>
通常成人1回20mgを1日2回経口投与する。症状に応じ適宜増減する。
【ニフェジピンCR錠】
<高血圧症、腎実質性高血圧症、腎血管性高血圧症>
通常、成人には20~40mgを1日1回経口投与する。ただし、1日10~20mgより投与を開始し、必要に応じ漸次増量する。<狭心症、異型狭心症>
通常、成人には40mgを1日1回経口投与する。なお、症状に応じ適宜増減するが、最高用量は1日1回60mgとする。
となっています。
ニフェジピンは作用時間が短いため1日3回に分けて服用する必要がありますが、ニフェジピンLは1日2回で良く、ニフェジピンCRは1日1回で24時間効果が持続します。
6.ニフェジピンが向いている人は?
以上から考えて、ニフェジピン、ニフェジピンL、ニフェジピンCRが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
それぞれの特徴をおさらいすると、
【ニフェジピンの特徴】
・降圧力が強い
・即効性があり、服用後30分以内に効果が認められる
・作用時間は4~6時間ほどと短い
・副作用が多い
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
【ニフェジピンLの特徴】
・降圧力が強い
・服用後30分~1時間で効果が認められる
・作用時間は12時間ほど
・ニフェジピンよりは副作用が少ない
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
【ニフェジピンCRの特徴】
・降圧力が強い
・即効性は乏しい
・作用時間は24時間続く
・投与後3~4時間後、12時間後に二相性のピークを示す
・副作用が少ない
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
というものでした。
まず、どれも血管を広げる作用の強さは同じです。その上で、ゆっくり長く効くお薬ほど副作用が少ないため、ニフェジピンCRがもっとも安全性に優れます。
この3つの中では基本的にはニフェジピンCRが選択すべきお薬になります。
基本的に血圧は早急に下げる必要はないのですが、稀に早急に下げた方がいいケースがあり(高血圧緊急症など)、このような場合はニフェジピンLが使われる事もあります。ニフェジピンは即効性は一番優れますが、急激に効いてしまうために副作用のリスクもあり、現在では用いられる機会はほとんどありません。
カルシウム拮抗薬全体にいえることですが、血管の平滑筋にダイレクトに作用するカルシウム拮抗薬は、単純に血圧を下げたい時に有用です。ニフェジピンはカルシウム拮抗薬の中でも降圧力が強めであるため、特に強くしっかりと血圧を下げたい方には適したお薬になります。
他の代表的な降圧剤として、ACE阻害剤やARBなどがあります。これらももちろん優れたお薬で、腎臓を保護したり、血糖にも影響したりと様々な付加効果があります。これらはうまく利用すれば、1剤で様々な効果が得られる利点になりますが、「単純に血圧だけを下げたい」という場合には、カルシウム拮抗薬の方が適しています。
またニフェジピンはジェネリック医薬品ですので薬価が安いのもメリットになります。カルシウム拮抗薬は元々他の降圧剤と比べると薬価が安いのですが、カルシウム拮抗薬でジェネリック医薬品のニフェジピンは薬価が更に安くなっています。