ニソルジピン錠は1990年から発売されている「バイミカード」という降圧剤(血圧を下げるお薬)のジェネリック医薬品で、カルシウム拮抗薬という種類に属します。
高血圧症の患者さんは日本で1000万人以上と言われており、降圧剤は処方される頻度の多いお薬の1つです。
降圧剤にも様々な種類がありますが、その中でニソルジピンはどのような特徴を持つお薬で、どのような方に向いているお薬なのでしょうか。
ここではニソルジピンの特徴や効果・副作用についてみていきましょう。
目次
1.ニソルジピンの特徴
ニソルジピンはどのような特徴を持つお薬なのでしょうか。
ニソルジピンはカルシウム拮抗薬という種類の降圧剤になります。まずはカルシウム拮抗薬の主な特徴を紹介しましょう。
・血圧を下げる力(降圧力)が確実
・ダイレクトに血管を広げる作用であるため、その他の余計な作用が少ない
・安い
カルシウム拮抗薬の一番の特徴は、血圧を下げる力がしっかりとしている点です。単純に血圧を下げる力だけを見れば、降圧剤の中で一番でしょう。カルシウム拮抗薬の他にもARB、ACE阻害剤、利尿剤など降圧剤はたくさんありますが、単純な降圧力だけでみれば、カルシウム拮抗薬にかなうお薬はありません。
また詳しくは後述しますが、カルシウム拮抗薬は血管の周りを覆っている筋肉(平滑筋)を緩めるはたらきを持ち、これにより血管を拡張させてダイレクトに血圧を下げるお薬です。血管に直接作用するため、その他の余計なはたらきが少ないのです。
これは血管拡張以外の作用が少ないというデメリットでもあり、余計な副作用が生じにくいというメリットにもなります。
カルシウム拮抗薬は、価格が安いものが多いのも大きな特徴です。血圧を下げるコストパフォーマンスで考えると、とても優れたお薬と言えます。
では次にカルシウム拮抗薬の中でのニソルジピンの特徴を紹介します。
・1日1回の服用で1日中効果が持続する
・1日中効果を持続させるためには1週間以上服用を継続する必要がある
・抗血小板作用が報告されている
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
カルシウム拮抗薬は血圧を下げる力がしっかりしているお薬ですが、ニソルジピンも他のカルシウム拮抗薬と同様にしっかりと血圧を下げてくれます。
ニソルジピンは1日1回の服用で、1日を通して効果が持続する長時間作用型のお薬です。最近のカルシウム拮抗薬は作用時間が長く1日1回の服用で十分なものも多くなってきましたが、実は1日1回服用の長時間型のカルシウム拮抗薬で、一番最初に発売されたのがニソルジピンの先発品である「バイミカード」なのです。
ただし服用初日はまだ8時間ほどしか効果は持続せず、24時間持続させるには1週間程度は服用を続ける必要があります。
ニソルジピンならではの特徴として、血小板のはたらきを抑える作用(抗血小板作用)が報告されている点が挙げられます。
血小板は血液を固まらせるはたらきがあり、本来は傷口からの出血などに対する止血に役立ちます。しかし、血管内で血小板が活性化してしまうと血栓が出来てしまい血管が詰まる原因となる事があります。
ニソルジピンの抗血小板作用は、血管内に血栓を出来にくくする事で、狭心症や心筋梗塞などを防ぐ効果が期待できます。
またニソルジピンはジェネリック医薬品ですので先発品の「バイミカード」と比べて薬価が安い点もメリットにになります。
カルシウム拮抗薬は他の降圧剤と比べて元々薬価が安めですが、ジェネリック医薬品であるニソルジピンは更に薬価が安くなっています。
以上からニソルジピンの特徴を挙げると次のようになります。
【ニソルジピンの特徴】
・カルシウム拮抗薬であり降圧作用はしっかりしている
・1日1回の服用で良いが、24時間効果を持続させるには1週間以上服用する必要がある
・抗血小板作用が報告されている
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
2.ニソルジピンはどんな疾患に用いるのか
ニソルジピンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
〇高血圧症、腎実質性高血圧症、腎血管性高血圧症
〇狭心症、異型狭心症
実際の臨床では、高血圧症の治療に対して多く用いられています。
ニソルジピンはカルシウム拮抗薬に属しますが、カルシウム拮抗薬は血管を拡張させることで血圧を下げます。
腎実質性高血圧とは、何らかの原因で腎臓に障害が生じて血圧が上がってしまう疾患です。例えば糖尿病による腎障害などが原因として挙げられます。腎臓は尿を作る臓器ですので、腎臓に障害が生じると尿を作りにくくなり、身体の水分が過剰となるため血圧が上がります。
腎血管性高血圧症とは、腎臓に向かう血管である腎動脈が狭窄する事によって生じる高血圧です。腎動脈が狭窄して腎臓の血流が少なくなると、腎臓は「血液が少ない。血圧を上げて血流を増やさなければ!」と判断して血圧を上げるホルモン(レニン)を分泌します。これにより血圧が上がってしまうのが腎血管性高血圧です。
また狭心症というのは、心臓に栄養を送っている血管(冠動脈)が狭くなったり、痙攣してしまったりすることで、心臓に血液が届かなくなって胸痛などが生じる疾患のことです。
狭心症は動脈硬化によって冠動脈が狭くなる事で生じますが、冠動脈が痙攣(けいれん)する事で生じる事もあり、これは「異型狭心症」と呼ばれます。
ニソルジピンは血管を拡張させるため、冠動脈も拡張させるはたらきがあり、狭心症にも効果は期待できます。しかしニソルジピンは即効性のあるお薬ではありませんので、狭心症発作に対する急性期の治療薬としては適しておらず、狭心症発作が起きないように予防するという目的で投与されます。
ニソルジピンはこれらの疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
ニソルジピンはジェネリック医薬品ですので、有効性に対する詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「バイミカード」では行われており、上記疾患に対して「有効」と判定される効果が認められた率は、
- 高血圧症に対する有効率は77.1%
- 腎実質性高血圧症に対する有効率は65.6%
- 腎血管性高血圧症に対する有効率は72.7%
- 狭心症に対する有効率は67.3%
- 異型狭心症に対する有効率は85.7%
と報告されています。ニソルジピンもこれと同等の効果があると考えられます。
3.ニソルジピンはどのような作用があるのか
ニソルジピンにはどのような作用があるのでしょうか。
確認されているニソルジピンの作用について紹介します。
Ⅰ.血管を拡張させる
ニソルジピンは降圧剤であり、その主な作用は血圧を下げる事になります。
ではどのような機序で血圧を下げているのでしょうか。
血圧を下げるお薬にはいくつかの種類がありますが、そのうちニソルジピンは「カルシウム拮抗薬」という種類に分類されます。カルシウム拮抗薬は、血管を覆っている平滑筋という筋肉に存在しているカルシウムチャネルのはたらきをブロックするのが主なはたらきです。
チャネルという用語が出てきましたが、これはかんたんに言うと様々なイオンが通る穴だと思ってください。つまりカルシウムチャネルは、カルシウムイオンが通ることが出来る穴です。
カルシウムチャネルはカルシウムイオンを通すことにより、筋肉を収縮させるはたらきがあります。これをブロックするのがニソルジピンです。ニソルジピンの作用で、カルシウムイオンが流入できなくなると、筋肉が収縮できなくなるため拡張します。これによって血管が拡張する(広がる)と、血圧が下がるというわけです。
ちなみにカルシウムチャネルにはL型、T型、N型の3種類があることが報告されています。このうち、血管の平滑筋に存在しているカルシウムチャネルはほとんどがL型です。
L型カルシウムチャネル:主に血管平滑筋・心筋に存在し、カルシウムが流入すると筋肉を収縮させる。ブロックすると血管が拡張し、血圧が下がる
T型カルシウムチャネル:主に心臓の洞結節に存在し、規則正しい心拍を作る。また脳神経にも存在し神経細胞の発火に関係している
N型カルシウムチャネル:主にノルアドレナリンなど興奮性の神経伝達物質を放出する。
ニソルジピンはL型カルシウムチャネルに選択性が高いため、しっかりと血圧を下げてくれます。
また心臓を栄養する血管である冠動脈も拡張させますので、狭心症(冠動脈が狭くなって心臓に血液が行きにくくなってしまう疾患)に対しても効果があり、冠動脈の血流を増やす事により虚血反応を遅延させる事が試験で確認されています。
Ⅱ.血液を固まりにくくする
ニソルジピンは血小板のはたらきを抑える作用(抗血小板作用)が報告されています。
血小板は血液を固まらせるはたらきを持つ血球で、本来は血管に傷が出来て出血してしまった時に傷口で固まる事によって傷口をふさぎ、出血を抑えるはたらきをします。
血液が大量に失われてしまうと命に関わりますので、このような血小板のはたらきはとても重要な役割になります。
しかし動脈硬化が進行した血管は血管内壁が傷だらけのような状態になっているため、血小板が血管内部で活性化してしまう事があります。すると血管内で血液が固まってしまうため(血栓)、狭心症や心筋梗塞をきたす事があります。
ニソルジピンは血小板のこのような作用を抑制するため、この作用も狭心症の改善に役立っているのではないかと考えられています。
4.ニソルジピンの副作用
ニソルジピンにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
ニソルジピンはジェネリック医薬品ですので副作用発生率に対する詳しい調査は行われておりません。しかし先発品の「バイミカード」では行われており、副作用発生率は6.5%と報告されています。
ニソルジピンの副作用発生率も同程度だと考えられます。
生じうる副作用としては、
- 顔面潮紅
- 頭痛
などが報告されています。これらは血圧が下がりすぎたり、血管が拡張することで生じる副作用だと考えられます。またこれらの副作用はニソルジピンの服薬量が多いほど高くなる傾向にあります。
また類薬で次のような重篤な副作用の報告があるため、ニソルジピンでも一応の注意が必要です。
- 紅皮症(剥離性皮膚炎)
- 無顆粒球症
このような重篤な副作用の徴候が認められたら、原則としてニソルジピンはすぐに中止し、主治医に連絡して適切な指示を仰ぐ必要があります。
ニソルジピンを投与してはいけない方(禁忌)としては、
- ニソルジピンの成分に対し過敏症の既往歴のある方
- 妊婦又は妊娠している可能性のある方
- 心原性ショックの方
- イトリゾール(イトラコナゾール)、フロリードD(ミコナゾール)を投与中の方
が挙げられます。
動物実験で妊娠動物にニソルジピンを投与したところ、出生児の体重増加の抑制が報告されています。またニソルジピンの類薬を妊娠動物に投与したところ、出生児に奇形が生じたという報告もあります。
ヒトにおいても同じ事が生じる可能性を考え、妊娠中の方にはニソルジピンの使用は禁忌となっています。
また心原性ショックとは何らかの原因で急に心臓のはたらきが低下してしまった状態の事です。心臓は全身に血液を送るはたらきがありますから、心原性ショックになると血圧が急激に低下していきます。
このような状態で、更に血圧を下げてしまうニソルジピンを投与する事は極めて危険ですので禁忌となっています。
またイトリゾール、フロリードDというのは抗真菌薬(真菌をやっつけるお薬)です。これらのお薬とニソルジピンを併用すると、ニソルジピンの血中濃度が上昇し、過度に血圧が下がってしまう危険があるため、併用は禁忌となっています。
5.ニソルジピンの用法・用量と剤形
ニソルジピンは、
ニソルジピン錠 5mg
ニソルジピン錠 10mg
の2剤形があります。
ニソルジピンの使い方は、
<高血圧症、腎実質性高血圧症、腎血管性高血圧症>
通常、成人には5~10mgを1日1回経口投与する。<狭心症、異型狭心症>
通常、成人には10mgを1日1回経口投与する。症状に応じ適宜増減する。
となっています。
ニソルジピンは1日1回の服用で1日中効果が持続するお薬ですが、効果をしっかりと発揮させるには1週間ほど飲み続ける必要があります。
服用初日も血圧は下がるものの、降圧効果は8時間ほどしか持続しません。しかし服用を続けていくと持続時間は徐々に長くなっていき、服用8日後には効果が24時間持続するようになる事が確認されています。
6.ニソルジピン錠が向いている人は?
以上から考えて、ニソルジピンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ニソルジピンの特徴をおさらいすると、
・カルシウム拮抗薬であり降圧作用はしっかりしている
・1日1回の服用で良いが、24時間効果を持続させるには1週間以上服用する必要がある
・抗血小板作用が報告されている
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
というものがありました。
カルシウム拮抗薬全体にいえることですが、血管の平滑筋にダイレクトに作用するカルシウム拮抗薬は、単純に血圧を下げたい時に有用です。
他の代表的な降圧剤として、ACE阻害剤やARBなどがあります。これらももちろん優れたお薬で、腎臓を保護したり、血糖にも影響したりと様々な付加効果があります。これらはうまく利用すれば、1剤で様々な効果が得られる利点になりますが、「単純に血圧だけを下げたい」という場合には、カルシウム拮抗薬の方が適しています。
ニソルジピンはカルシウム拮抗薬の中では古く、現在ではそこまで処方されているお薬ではありませんが、1日1回の服用で効果が持続する事、そして抗血小板作用が報告されている事が特徴になります。
そのため、
- なるべく服用の手間をかけたくない方
- 動脈硬化が進行しており、血栓リスクが高い方
などに向いています。
またニソルジピンをはじめとしたカルシウム拮抗薬は、薬価が安いというのもメリットの1つです。カルシウム拮抗薬で、かつジェネリック医薬品であるニソルジピンは薬価がかなり抑えられており、経済的なメリットは大きいお薬になります。