アシノン錠(ニザチジン)の効果と副作用【胃薬】

アシノン錠(一般名:ニザチジン)は1990年から発売されている胃薬になります。胃薬の中でもH2ブロッカーという種類に属し、胃壁細胞のヒスタミン2(H2)受容体をブロックすることで胃酸の分泌を抑えるはたらきがあります。

胃酸の分泌をおさえるお薬には多くのものがあります。H2ブロッカーにもたくさんの種類がありますし、他にも「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」と呼ばれるお薬もあります。これらの中でアシノン錠はどのような位置付けになるのでしょうか。

アシノン錠の効果や特徴、どのような方に向いているお薬なのかについてみていきましょう。

 

1.アシノン錠の特徴

まずはアシノン錠の特徴について、かんたんに紹介します。

アシノンは胃酸の分泌を抑えるお薬になります。

アシノンはヒスタミン2(H2)受容体をブロックする作用を持つお薬で、そのため「H2ブロッカー」とも呼ばれています。

胃壁に存在する胃壁細胞はヒスタミン2受容体があり、これにヒスタミンという物質がくっつくと胃酸を分泌するシグナル(cAMP)が発信されます。アシノン錠はヒスタミン2受容体をブロックするため、これにより胃酸分泌のシグナル弱めるはたらきがあるのです。

そのため胃酸が胃に対して悪さをしてしまっている時に効果を発揮するお薬になります。例えば、胃炎や胃潰瘍などでは胃酸が胃壁に出来た傷を攻撃してしまうため、胃酸の分泌を弱めた方が傷が早く治ります。

H2ブロッカーの中でのアシノン錠の特徴としては、アシノン錠は他のH2ブロッカーには無い「胃の動きを促進してくれる作用」と「唾液の分泌を増やしてくれる作用」があることが挙げられます。いずれも強い作用ではないため、臨床で使っている分にはそこまでこれらの効果を実感できるわけではありませんが、H2ブロッカーの中でどのお薬を使うかを検討する時の1つの判断材料にはなります。

アシノンの副作用は多くはありません。稀に重篤な副作用の報告もありますが、臨床の実感としては十分安全に使用できるお薬になります。

胃酸の分泌を抑えるお薬というとPPI(プロトンポンプ阻害薬)もありますが、PPIとH2ブロッカーには特徴の違いがあるため、症状・経過によって使い分けられます(詳しくは後述します)。

簡単に言うと、H2ブロッカーは効果はPPIに劣るものの、夜間の胃酸分泌の抑制に効果的です。薬価も安く、急性期よりも維持期に使用するのに向いています。

以上からアシノンの特徴として次のようなことが挙げられます。

【アシノン錠(ニザチジン)の特徴】

・ヒスタミン2(H2)受容体をブロックすることで、胃酸の分泌を抑える
・特に夜間の胃酸分泌を抑えてくれる
・唾液の分泌を促進してくれる
・胃の動きを活性化してくれる
・副作用が少ない

 

2.アシノン錠はどんな疾患に用いるのか

アシノン錠はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】

1.胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎

2.急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善(75mg錠のみ)

アシノン錠は、胃のヒスタミン2受容体をブロックすることで胃酸の分泌を抑えるはたらきがあります。

胃酸は強力な酸ですので、私たちの細胞をも傷付けてしまいます。普段は胃粘膜には胃酸から細胞を守るようなバリアが張られているのですが、胃に炎症や潰瘍などが生じるとこのバリアが不十分になるため、胃酸が胃壁細胞を傷付けてしまいます。

このような場合はアシノンなどのお薬を使うことで、胃酸を弱めて胃炎・胃潰瘍の治りを早めることができます。

また逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流して食道壁を傷付けてしまう疾患ですが、これもアシノンなどのお薬で胃酸の分泌を抑えると改善が得られます。

適応外ですが、これら以外にも抗血小板薬や抗凝固薬といった「血が固まりにくくなるお薬」を服薬している方に胃出血の予防目的で投与されることもあります。

同様に、NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤、いわゆる「痛み止め」)を長期服薬していると胃が荒れやすくなる副作用が生じることがあるため、このような場合にアシノンを併用して胃潰瘍の予防をすることもあります。

 

3.アシノン錠にはどのような作用があるのか

アシノン錠は主に胃酸の分泌を抑えることで胃を守る作用があります。これはどのような作用機序になっているのでしょうか。アシノンの主な作用について詳しく紹介します。

 

Ⅰ.胃酸の分泌抑制作用

アシノン錠は、胃の壁細胞に存在するヒスタミン2(H2)受容体に作用します。

胃壁細胞のヒスタミン2受容体にヒスタミンがくっつくと、cAMPというメッセンジャーが胃酸を分泌させるシグナルを送り、これによって胃酸が分泌されます。

アシノンはヒスタミン2受容体のはたらきをブロックする作用があり、これによって胃酸の分泌を抑えてくれるのです。

 

Ⅱ.ペプシンの分泌抑制作用

アシノン錠はぺプシンという酵素のはたらきをブロックする作用もあります。

ペプシンは胃に存在する酵素の1つで、胃に入ってきたタンパク質を小さく分解する作用があります。

ペプシンはこのように食物中のタンパク質を分解する重要なはたらきがあるのですが、一方で胃炎・胃潰瘍などがある時には、その部位からむき出しになってしまっている生体のタンパク質を攻撃(分解)してしまう事もあります。

このように胃炎・胃潰瘍がある時は、ペプシンの分泌を抑えてあげた方が、傷は早く治るのです。

一方でペプシンの分泌を抑制すると、食物のタンパク質が分解しにくくなるため、これにより時折便秘や腹部膨満感、吐き気などの副作用が生じることがあります。

 

Ⅲ.胃排出促進作用

H2ブロッカーの中でアシノン錠に特徴的な作用としては、胃排出能の亢進が挙げられます。

これは、「胃の動きを活性化するという作用」という事です。

アシノン錠は、胃酸の分泌を抑えるだけでなく、胃の動きを活性化させる作用もあるのです。

 

Ⅳ.唾液分泌促進作用

この作用も他のH2ブロッカーにはない、アシノン錠独特の作用になります。アシノン錠は唾液(だえき)の分泌を促進してくれる作用があります。これはアシノンが「アセチルコリンエステラーゼ」という酵素のはたらきをブロックする作用があるからだと考えられています。

アセチルコリンエステラーゼはアセチルコリンという物質を分解する酵素です。アシノンはこれをブロックするため、アセチルコリンが分解されにくくなり、アセチルコリンの濃度が高まります。

アセチルコリンは自律神経から分泌される神経伝達物質で多くのはたらきがあるのですが、その中の1つに唾液を分泌させるはたらきがあります。

唾液は「アミラーゼ」などの食べ物を分解する酵素が含まれているため、これによって食べ物の消化を助けてくれます。また唾液は食道にあがってきた酸を中和するはたらきがあります。これにより逆流性食道炎の治療に一役買ってくれます。

 

4.アシノン錠の副作用

アシノンをはじめとするH2ブロッカーは安全性に優れ、副作用が少ないお薬になります。アシノンもその副作用発生率は0.7~1.8%前後と報告されており、副作用の少ないお薬となります。

生じうる副作用としては、

  • 便秘・下痢
  • 発疹

などが報告されています。

また検査数値の異常としては、

  • 肝機能障害(AST、ALT上昇)

などが報告されているため、アシノンを長期的に服用する場合は定期的に血液検査を行うことが望まれます。

稀ですが重篤な副作用の報告もあり、

  • ショック
  • 再生不良性貧血、汎血球減少、無顆粒球症、血小板減少

などがあります。注意は必要ですが、臨床で適切に使っている分には見かけることはほとんどありません。

 

5.アシノンの用法・用量と剤形

アシノンは、

アシノン錠(ニザチジン) 75mg
アシノン錠(ニザチジン) 150mg

の2種類のお薬があります。

アシノンの使い方は、

【胃潰瘍、十二指腸潰瘍】
通常成人には、1回150mgを1日2回(朝食後、就寝前)経口投与する。また1回300mgを1日1回(就寝前)経口投与することもできる。なお、症状により適宜増減する。

【逆流性食道炎】
通常成人には、1回150mgを1日2回(朝食後、就寝前)経口投与する。なお、症状により適宜増減する。

【急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善(75mg錠のみ)】
通常成人には、1回75mgを1日2回(朝食後、就寝前)経口投与する。なお、症状により適宜増減する。

となっています。

アシノンは腎臓で排泄されるお薬ですので、腎臓のはたらきが弱い方(腎機能障害)では、アシノンが身体に残りやすく効きすぎてしまうことがあるため注意が必要です。

 

6.H2ブロッカーとPPIの違い

アシノンはH2ブロッカーに属しますが、同じように胃酸の分泌を抑えるものとしてPPI(プロトンポンプ阻害薬)もあります。

この2つはどう違うのでしょうか。

まず強さとしてはPPIの方が強力です。その理由はPPIの方が胃酸分泌をより直接的にブロックするためです。

そのため、急性期の胃潰瘍などではまずはPPIを使うことが多くなっています。

即効性で言えば、H2ブロッカーの方が速く効きます。おおよそですが、H2ブロッカーは効くまでに約2~3時間、PPIは約5~6時間ほどと言われています。

また効く時間帯にも特徴があり、PPIは主に日中の胃酸分泌を強く抑え、H2ブロッカーは主に夜間の胃酸分泌を強く抑えると言われています。

最後に保険的な話になってしまうのですが、PPIは投与制限が設けられているものも多く(4週間までしか投与してはいけませんよ、など)、長くは使えないものも少なくありません。

そのため胃潰瘍の治療では、まずは効果の高いPPIから初めて、保険が通らなくなる時期が来たらH2ブロッカーに切り替えるというのが良く行われている方法になります。

 

7.アシノン錠が向いている人は?

以上から考えて、アシノン錠が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

アシノン錠の特徴をおさらいすると、

・ヒスタミン2(H2)受容体をブロックすることで、胃酸の分泌を抑える
・特に夜間の胃酸分泌を抑えてくれる
・唾液の分泌を促進してくれる
・胃の動きを活性化してくれる
・副作用が少ない

というものでした。

H2ブロッカーには多くの種類がありますが、極論を言えばどれを使っても総合的な効果にあまり差はありません。ガスター(一般名:ファモチジン)が一番有名で処方されていますが、どのH2ブロッカーを処方するかは、先生が使い慣れているお薬が選択されることが多いようです。

アシノン錠ならではの特徴として、胃の動きを活性化させてくれたり、唾液の分泌を促進したりする事が報告されています。ただしこれは報告されている作用ではあるものの、臨床で使っている分には特段他のH2ブロッカーとの差は大きくは感じられるものではありません。

アシノンをはじめとしたH2ブロッカーは、急性期にPPIで治療された胃潰瘍の維持期に用いたり、主に夜間の胃酸分泌亢進で困っている方に用いられる胃薬になります。

また逆流性食道炎でPPIが使えない場合には、アシノンは他のH2ブロッカーと同じ胃酸の分泌を抑える作用に加えて、唾液分泌促進作用により食道にきた酸を中和するはたらきが期待できます。そのため逆流性食道炎にアシノンを好んで使う先生もいらっしゃいます。