ノルバスク服用中はなぜグレープフルーツを食べてはいけないのか

ノルバスク(一般名:アムロジピン)は、カルシウム拮抗薬という種類の降圧剤です。

降圧剤というのは「血圧を下げるお薬」の事で、主に高血圧症の治療に用いられています。ノルバスクは降圧剤の中でも「カルシウム拮抗薬」という種類になり、カルシウムチャネルという部位をブロックする事で血管を広げ、血圧を下げます。

ノルバスクは血圧を下げる作用が強力で、かつ持続力にも優れるため評価も高く、多くの患者さんに処方されています。

しかしノルバスクには注意点もあります。その1つに、「服用する際はグレープフルーツを食べないように」というものがあります。

グレープフルーツは日常的に食べる可能性のあるものです。グレープフルーツジュースなどの飲料もありますので、意図せずついうっかりと摂取してしまう可能性は十分にありえます。

ノルバスク服用中の方は、どうしてグレープフルーツを摂取してはいけないのでしょうか。また摂取したらどうなってしまうのでしょうか。あやまって摂取してしまった場合はどのような対処法を取ればいいのでしょうか。

ノルバスクを服用中の方は、これらの事をしっかりと理解しておきましょう。

ここではノルバスクとグレープフルーツの関係について詳しく説明します。

 

1.ノルバスクとグレープフルーツの関係

グレープフルーツはノルバスクにどのような影響を与えるのでしょうか。

ノルバスクの添付文書を見ると、グレープフルーツの摂取について次のように記載されています。

【併用注意】

・グレープフルーツジュース

本剤(ノルバスク)の降圧作用が増強されるおそれがある。同時服用をしないように注意すること。グレープフルーツに含まれる成分が本剤の代謝を阻害し、本剤の血中濃度が上昇する可能性が考えられる。

ノルバスクとグレープフルーツの服用は「禁忌(絶対にダメ)」とまではなっていません。

しかし「併用注意」となっており、「同時服用をしないよう注意すること」と書かれているため、やはり同時には摂取しない方が賢明でしょう。

その理由としては、グレープフルーツ中に含まれる成分がノルバスクの代謝(≒体内で分解される事)を阻害するためと書かれています。

ノルバスクはCYP3A4という酵素によって代謝されます。グレープフルーツはこのCYP3A4のはたらきを抑えてしまうのです。するとノルバスクは代謝されにくくなり、長く身体に残ってしまう事になります。

にも関わらず翌日もノルバスクをいつもの量服用してしまうと、いつもの倍、ノルバスクが効いてしまう事になります。

グレープフルーツがCYP3A4を抑える作用は3~4日続きますので、更に翌日にノルバスクをいつもの量服用すれば、いつもの3倍、ノルバスクが効いてしまう可能性があります。

こうなると過度に血圧が下がってしまう可能性があります。過度の血圧低下は、めまい・ふらつきのみならず意識レベル低下・意識消失などを引き起こす事もあり危険です。

これがノルバスクとグレープフルーツを一緒に摂取してはいけない理由になります。

では「グレープフルーツ中に含まれる成分」とは具体的にどういったものなのでしょうか。それは「フラノクマリン」という成分になります。

 

2.グレープフルーツに含まれるフラノクマリン

グレープフルーツの果肉には「フラノクマリン類」と呼ばれる成分が含まれています。

フラノクマリン類には、

  • ベルガモチン
  • ジヒドロキシベルガモチン
  • ベルガプトール

などがあります。

フラノクマリンは柑橘系(かんきつけい)に含まれ、柑橘系の中でも特にグレープフルーツで含有量が多い事が知られています。

フラノクマリンは私たちの身体の中の「CYP3A4」という酵素のはたらきを抑える作用があります。

そしてその作用は(グレープフルーツの摂取量や体質によっても異なりますが)、3~4日続きます。

ノルバスクはCYP3A4で代謝されますので、フラノクマリンがCYP3A4のはたらきを抑えてしまうと、ノルバスクの成分は本来より長く体内にとどまってしまうのです。

 

3.結局、ノルバスク服用中はグレープフルーツを食べたらダメなの?

では結局、ノルバスクを服用している方はグレープフルーツを摂取できないのでしょうか。

ちょっとならいいのか、それとも絶対にやめておいた方がいいのか、どうなのでしょうか。

これは「やめておいた方が良い」というのが答えになります。

グレープフルーツが好きな方は多くいらっしゃると思いますが、どうしてもグレープフルーツジュースを飲みたくて飲みたくて仕方ないという方は多くはないと思われます。

グレープフルーツとノルバスクを一緒に服用してしまうと、グレープフルーツ中のフラノクマリンがCYP3A4のはたらきを阻害します。

CYP3A4がはたらけなくなると、ノルバスクが分解されにくくなります。通常、ノルバスクは服用してから35.1時間でその血中濃度は半分に下がると報告されています。これがより長くなってしまうわけですから、数日その効果が持続する事になります。

すると本来想定されていたお薬の効能とか異なってきてしまいます。グレープフルーツを食べながらノルバスクの服用を毎日続けていたら、ノルバスクの成分が徐々に体内に蓄積し、ある日突然血圧が下がりすぎて意識を失ってしまうかもしれません。

グレープフルーツを時々摂取していたら、ノルバスクの効きが日によって違ってしまい、血圧の上下の変動が激しくなります。これも結果的には血管に負担をかける事になります。

グレープフルーツとノルバスクを同時に摂取しても、その時は大きな問題は起こらない事がほとんどです。ノルバスクが効きすぎるというより、効きが長くなるため、その場では過度な降圧が起こる可能性は高くはありません。

しかし長期的に見ると血圧の変動を大きくして血管を痛めてしまったり、血圧を下げ過ぎて意識消失や失神などを引き起こしてしまう可能性があります。

そこまでのリスクをおかしてまで、グレープフルーツを摂取するメリットはあまりないでしょう。

 

4.ノルバスク服用中にグレープフルーツを摂取してしまったら

ノルバスク服用中にあやまってグレープフルーツを摂取してしまったらどうしたらいいのでしょうか。

これは理想を言えば「主治医に相談する」事が望まれます。

しかし現実問題、病院を受診する時間はなかなか取れないという方や、そのくらいで病院に問い合わせるのも申し訳ないという方も多いと思います。

グレープフルーツはノルバスクの効きを高めてしまうものではなく、効きを長くしてしまうものです。そのため一緒に服用したからといって急激に血圧が下がって意識を失う、という事はほとんどありません(よほど大量のグレープフルーツを摂取してしまったらありえますが・・・)。

そのため、まずその日は定期的に血圧を測り、いつもより血圧が下がりすぎていないかを確認するようにしましょう。

もし血圧がいつもより低かったり、あるいはめまいやふらつきなどいつもはないような症状が現れるようであればやはり主治医に相談した方がいいでしょう。

問題は翌日以降になります。

グレープフルーツのCYP3A4を阻害する作用は3~4日続きますので、翌日にノルバスクを普通に服用してしまうと、昨日のノルバスクもまだ体内に残っている可能性が高いため、過度に効いてしまう可能性があります。

そのため、血圧の程度によっては翌日のノルバスクの服用は減量あるいは中止が望まれます。ただしこのあたりの判断は慎重にすべきですので、やはり主治医に一度相談する事をお勧めいたします。

状況によっても異なりますが、収縮期血圧(上の血圧)が100以下と低めであったり、ふらつきやめまいなどの症状が認められる場合は「今日は服用を中止しておきましょうか」と提案する事が多いです。

ただし心機能低下や腎機能低下などがあり、より慎重に降圧をしなくてはいけない方に関してはこの限りではありません。

 

5.どうしてもグレープフルーツを食べたい!という方は

高血圧で治療中だけど、どうしてもグレープフルーツを食べたい、という方は何か良い方法はないのでしょうか。

これは、CYP3A4で代謝されないような降圧剤に変えれば可能です。

ノルバスクをはじめとしたカルシウム拮抗薬の多くはCYP3A4で代謝されますので、カルシウム拮抗薬でない方が良いでしょう。

別の降圧剤、例えば、

  • ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
  • ACE阻害剤(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
  • 利尿剤
  • α遮断薬
  • β遮断薬

などであればグレープフルーツを摂取しても問題のないものを多いですので、どうしてもグレープフルーツを食べたいという方は、これらの薬に変更できないか主治医と相談してみても良いでしょう。