オラドールトローチ(一般名:ドミフェン臭化物)は、1960年から発売されているお薬です。
一般的なお薬のように飲みこむのではなく、トローチ剤であり飴(アメ)のように口の中で舐めて少しずつ溶かしていくという使い方をします。
オラドールは口腔・咽頭に感染したウイルスやばい菌(細菌)をやっつける作用を持ち、主に咽頭炎・扁桃炎など上気道に感染が生じている時に用いられます。
オラドールトローチは「のど飴」のような感覚で処方を希望される患者さんが多いのですが、このお薬はのど飴ではありません。
もちろんのど飴のような作用も期待できるのですが、抗菌作用がオラドールトローチの本来の作用です。そのためのど飴と同じような感覚で服用するものではなく、「お薬」だという認識で服用しなくてはいけません。
オラドールトローチはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに適したお薬なのでしょうか。
ここではオラドールトローチの特徴や効果・副作用について紹介していきます。
目次
1.オラドールトローチの特徴
まずはオラドールトローチの全体像をざっくりと紹介します。
オラドールトローチは舐める事で口腔内・咽頭部のばい菌をやっつける作用(抗菌作用)を持つお薬になります。
そのため、細菌感染が原因となっている咽頭炎・扁桃炎などに処方されています。
オラドールトローチには「ドミフェン臭化物」という殺菌作用を持つ成分が含まれています。口腔・咽頭部にばい菌が巣食っている場合、オラドールトローチを舐めることで口腔内・咽頭部に殺菌作用のあるドミフェンが浸透していくため、ばい菌をやっつける作用が期待できます。
またオラドールトローチを舐める事で口腔内に唾液が分泌され、これによって口腔内が保湿されるという作用も期待できます。
オラドールトローチは副作用が少なく、臨床で処方している感覚としては「副作用がほぼない」と言っても良いようなお薬です。安全性が非常に高いところもこのお薬の良いところです。
またオラドールトローチはハッカ味ですが、これだと小さい子は嫌がってしまうため「オラドールSトローチ」といういちご味の剤型も発売されており、小さなお子様でも使いやすくお薬になります。
注意点として、このような使い勝手の良さからオラドールトローチを「のど飴」感覚で安易に処方されるケースが散見されるという点が挙げられます。
患者さんの中でも処方薬のトローチを「のど飴」だと認識している方がいますが、これは正確には間違いです。確かにのど飴のような感じはありますが、オラドールトローチは「口の中のばい菌をやっつけるお薬」になります。抗菌作用は穏やかですが、このような作用を持つため主に細菌感染が疑われる時に用いるべきです。
またオラドールトローチは一部のウイルス感染にも効果を発揮する事が報告されています。この効果がどこまであるのかはデータが少ないのですが、他のトローチ剤(SPトローチなど)はウイルスへの効果が確認されていない事から考えると、ウイルス感染が疑われてどうしてもトローチを使いたいという場合は、オラドールトローチの方が適しているでしょう。
しかし「風邪っぽいからトローチ下さい」と安易に処方をお願いするのは間違いで、風邪症状の中でもオラドールトローチが必要なものもあれば、不要のものもあるという事を知っておきましょう。
単に唾液の分泌を促進させたかったり、口の中に清涼感が欲しい時はのど飴で十分であり、オラドールトローチが適応となるのは、細菌(そして一部のウイルスと真菌)をやっつける必要がある時になります。
以上からオラドールトローチの特徴として次のような点が挙げられます。
【オラドールトローチの特徴】
・ばい菌(主に細菌)をやっつける作用を持つ |
2.オラドールトローチの適応疾患と有効率
オラドールトローチはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
咽頭炎、扁桃炎、口内炎、抜歯創を含む口腔創傷の感染予防
オラドールトローチは基本的には上気道の細菌感染に対して用いられます。あるいは現在は細菌感染していなくても、今後細菌感染を起こす可能性が高い場合にも予防的に用いられます。
一方でウイルス感染の場合、オラドールトローチはある程度ウイルスに効果がある事も報告されてはいますが、そこまでしっかりとしたデータがあるわけでなく、オラドールを使う必要性は細菌性に比べれば低くなります。
症状としては、上気道の症状(咳・痰・咽頭痛など)が出ている場合に用いられるお薬になります。
細菌感染かウイルス感染かは、医師が診察した結果によって判断されますが、一般的に
- 症状が強い
- 高熱(38度以上)が出る
- 血液検査にて白血球が上昇している
ような場合は細菌感染が疑われますのでオラドールトローチの適応になります。
ではオラドールトローチはこれらの疾患に対してどのくらいの効果が期待できるのでしょうか。
オラドールトローチの有効性を見た調査では、
- 咽頭炎に対する有効率は63.2%
- 扁桃炎に対する有効率は86.0%
- 口内炎に対する有効率は85.6%
- 抜歯創を含む口腔創傷の感染予防に対する有効率は98.1%
と報告されています。
3.オラドールトローチの作用
咳・咽頭痛・喉の違和感などの上気道症状の緩和に用いられるオラドールトローチですが、どのような作用を持っているのでしょうか。
オラドールトローチには、次のような作用が挙げられます。
Ⅰ.抗菌作用
オラドールトローチの主成分であるドミフェン臭化物には抗菌作用があります。
具体的には、
- グラム陽性球菌
- グラム陰性球菌
- グラム陰性桿菌(緑膿菌は除く)
といった細菌に対する抗菌作用が報告されています。
また、
- カンジダ菌(Candida Albicans)
- ウイルス
などの一部の真菌(カビ)、ウイルスに対しても作用が確認されています。
これらの病原菌に対して、オラドールトローチは脂肪を溶かし、蛋白質を変性させる事で菌の細胞膜や細胞内を破壊しやっつけると考えられています。
これを「蛋白凝固作用」と呼びます。文字通り蛋白質を固まらせてしまう作用の事で、凝固した蛋白質は本来のはたらきをできなくなります。
オラドールトローチは菌の細胞内の蛋白質を凝固させることで、結果的に殺菌作用を発揮しているのだと考えられています。
Ⅱ.唾液分泌作用
これはオラドールトローチに限らず一般的なのど飴でも期待できる作用なのですが、オラドールトローチをなめることで唾液が分泌されます。
唾液は食べ物を分解するはたらきの他、口腔、咽頭を保湿することで、ばい菌の増殖を抑えるはたらきがあります。
オラドールトローチは口腔内で舐めて徐々に溶かすことで、保湿効果も期待できるのです。
4.オラドールトローチの副作用
オラドールトローチにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
オラドールトローチの副作用発生率は0.7%と報告されており、安全性に非常に優れるお薬になります。
臨床の感覚から言っても安全性は非常に高いお薬で、副作用は「ほぼ生じない」と考えて良いと思います。
生じる可能性のある副作用としては、
- 腹痛
- 胃・腹部重圧感
- 悪心
- 下のしびれ
などが報告されていますが、いずれも軽度にとどまる事がほとんどです。
ただしどんなに安全なお薬であっても、体質的に合わないということはありえます。そのような時は、摂取する事で過敏症状(発疹など)が出現することがあります。
オラドールトローチもそのような副作用が出る可能性はありうるでしょう。
しかしそれ以外の問題となるような副作用は、ほとんど経験しません。
5.オラドールトローチの用法・用量と剤形
オラドールトローチには次の剤型が発売されています。
オラドールトローチ 0.5mg
オラドールSトローチ 0.5mg
このオラドールとオラドールSは何が違うのでしょうか。
実はこの2つは全く効果・効能としては違いはありません。
違うのは「味」です。通常のオラドールはハッカ味になりますが、オラドールSはいちご味になります。
恐らく、小さなお子様が服用する時にハッカ味だと嫌がる事が多いため、イチゴ味も出したのでしょう。オラドールSの「S」は「Strawberry(いちご)」の略なのではないでしょうか。
オラドールトローチの使い方は、
通常1回0.5mgを1日3~6回投与し、口中で徐々に溶解させる。
なお、症状により適宜増減する。
となっています。
1日3~6回と書かれていますが、実際は正確に1日6回(4時間置き)服用するのは難しいと思います。
必ず4時間置きにきっちりと服用しなければいけないものではなく、1日3回、4回などある程度ライフスタイルに合った服用法でも問題はありません。
6.オラドールトローチが向いている人は?
以上から考えて、オラドールトローチが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
オラドールトローチの特徴をおさらいすると、
【オラドールトローチの特徴】
・ばい菌(主に細菌)をやっつける作用を持つ |
などがありました。
ここから、細菌感染が疑われる上気道疾患(咽頭炎・扁桃炎など)で、喉の症状が強い方に適したお薬になります。
安全性も高く、
- 細菌感染がある、あるいは今後可能性が高い
- 上気道症状が強い
といった状態であれば使用するデメリットは少ないため、ある程度積極的に用いても良いでしょう。
また他のトローチ剤と異なり、一部のウイルスへの効果も報告されていますので、ウイルス感染の可能性が高いけどトローチを使いたい、という場合にはオラドールトローチを選択する方が良いかもしれません。
ただし主な作用は細菌に対する作用になるため、「風邪を引いたからとりあえず処方してください」と安易に処方してもらうものではありません。