オテズラ錠の効果と副作用【乾癬治療薬】

オテズラ錠(一般名:アプレミラスト)は2017年に発売されたお薬で、乾癬の治療薬になります。

乾癬は炎症性角化症の1つです。皮膚の表面の角質という層が何らかの原因で肥厚してしまう疾患を角化症を呼びますが、乾癬は角質に炎症が生じる事で肥厚してしまう疾患です。

乾癬の治療薬にもいくつかのお薬がありますが、その中でもオテズラは他の乾癬治療薬が効かないような場合に限って使われるお薬になります。

従来の乾癬治療薬と異なった作用を持つため、今までのお薬が効かなかった方にも効果が期待できますが、副作用にも一定の注意が必要であり、乾癬の患者さんであれば誰でも気軽に使えるといったお薬ではありません。

オテズラはどのような作用を持つお薬で、どのような効果が期待できるお薬なのでしょうか。

ここではオテズラの特徴や効果、副作用について詳しくみてみましょう。

 

1.オテズラの特徴

まずはオテズラの特徴をざっくりと紹介します。

オテズラは、PDE4という酵素のはたらきをブロックする事で炎症を起こしにくくし、角質の肥厚を改善させるお薬になります。

オテズラが用いられる「乾癬(かんせん)」は皮膚疾患の1つで、皮膚のもっとも表面にある「角質層(かくしつそう)」の分化に異常が生じ、角質の肥厚や増殖が生じてしまう疾患です。

皮膚の表面は「表皮」と呼ばれ、表皮は角質層、顆粒層、有棘層、基底層と4つの層から成っています

表皮は主にケラチノサイト(角化細胞)という細胞から作られていますが、これは表皮の一番下にある基底層で作られ、一番上にある角質層に達するまでに徐々に分化していき、角質層に達すると角質細胞となります。この一連の過程を「角化」と言います。

【分化】
細胞が構造的・機能的に変化していくこと。

この角化に異常が生じる疾患を「角化症」と呼び、乾癬も角化症になります。

乾癬で角化異常が生じる原因は完全には解明されていませんが、1つの原因として免疫細胞(ばい菌と闘う細胞)の異常が指摘されています。

本来、表皮の免疫細胞は皮膚から侵入してきたばい菌をやっつけるはたらきを持ちますが、乾癬では免疫細胞が暴走してしまい、自分の細胞であるケラチノサイトを攻撃してしまいます。これにより表皮に炎症が生じ、角化異常が生じるのではないかと考えられています。

乾癬では炎症によってケラチノサイトの分化が正常に行われないため、皮膚が肥厚したり、赤くなったりしてしまいます。また角質が異常に増殖してしまい、鱗屑(りんせつ:皮膚が剥がれ落ちて白い粉をふいたようになる)が出現することがあります。

 

オテズラは、免疫細胞のはたらきを抑える作用を持ちます。これにより暴走した免疫細胞が抑えられるため、表皮に炎症が生じにくくなり、角化異常も生じにくくなります。

オテズラの利点は、今までの乾癬治療薬と異なる作用機序を持つ新しいお薬だという点です。今まで乾癬に用いられていた治療薬は、ケラチノサイトの増殖を抑える作用を持つ活性型ビタミンD3の塗り薬であったり、炎症を抑える作用を持つステロイドの塗り薬が主でした。

これらももちろん有用な乾癬治療薬なのですが、オテズラは免疫細胞のはたらきを抑えるという全く異なる作用を持つため、従来のこのような乾癬治療薬が効かないような方にも効果が期待できます。

また従来の乾癬治療薬の多くは外用剤(塗り薬)であるのに対して、オテズラは経口剤(飲み薬)である点も特徴です。塗り薬は塗った部位にしか効かないため、全身性の副作用が生じにくいというメリットがありますが、皮膚の表面以外には効きずらいというデメリットもあります。

オテズラは飲み薬ですので、全身性の副作用のリスクはありますが、皮膚表面以外にも効果が期待できます。具体的には、「関節症性乾癬」と呼ばれる関節炎も併発するタイプの乾癬は、塗り薬だけでは関節内にお薬が届きません。このような場合は飲み薬であるオテズラに分があります。

デメリットとしては、塗り薬と異なりお薬が全身に回るため、どうしても塗り薬の乾癬治療薬と比べると副作用が多くなってしまう点が挙げられます。多い副作用としては「胃腸症状(下痢、腹部違和感、悪心など)」と「感冒症状」があります。

オテズラは免疫細胞に作用するため、ばい菌に対する抵抗力を弱めてしまう事があり、ウイルスや細菌に感染しやすくなってしまう事があるのです。

また薬価も高く、おおよそですが1日2000円ほどするという点もデメリットになります。

以上からオテズラの特徴として、次のようなことが挙げられます。

【オテズラの特徴】

・PDE4という酵素のはたらきを抑える乾癬の治療薬である
・難治性の乾癬や関節症性乾癬にのみ投与できる
・免疫細胞のはたらきを抑える事で表皮の炎症を抑える作用がある
・飲み薬であり、乾癬に伴う関節炎(関節炎性乾癬)にも効果がある
・副作用が多く、消化器系の副作用や感冒症状などが認められる
・薬価が高い

 

2.オテズラはどのような疾患に用いるのか

オテズラはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

〇 局所療法で効果不十分な尋常性乾癬
〇 関節症性乾癬

オテズラの適応疾患は「乾癬」になります。

尋常性乾癬はいわゆる通常の乾癬の事で、角化異常によって表皮の肥厚・増殖や盛り上がり、鱗屑などが生じます。

通常、表皮のケラチノサイト(角化細胞)が基底層で新しく作られて、角質層から「アカ」として剥がれ落ちるまでのサイクルは1~2か月程度になります。しかし乾癬では表皮の炎症によって角化異常が生じているためそのスピードが速まってしまい、短い時間でどんどんと皮膚が作られていきます。すると角質がどんどんと肥厚していってしまいます。

角化異常が生じると、その部位が赤く盛り上がったり、鱗屑(皮膚が剥がれ落ちて白い粉が落ちる)が生じたりします。また見た目的な問題だけでなく、かゆみや痛みが生じる事もあり、患者さんの生活に支障を来たします。

オテズラは免疫細胞のはたらきを抑える事で炎症を抑え、皮膚の角化のスピートを正常化させます。

しかしオテズラは免疫細胞に作用する事でばい菌に対する抵抗性を低下させてしまうリスクのあるお薬ですので、気軽に使えるお薬ではありません。その適応は「局所療法で効果不十分な例」に限られます。

乾癬が生じた時、いきなりオテズラを使用する事は出来ません。まずは一般的な乾癬治療の塗り薬である活性型ビタミンD3やステロイドを用いる必要があります。それでも効果が不十分な例に限り、オテズラの使用が検討されます。

実際、オテズラの「効能・効果に関連する使用上の注意」には、オテズラを使用して良い病態として以下が記載されています。

以下のいずれかを満たす尋常性乾癬又は関節症性乾癬患者に投与すること。

(1)ステロイド外用剤等で十分な効果が得られず、皮疹が体表面積の10%以上に及ぶ患者
(2)難治性の皮疹又は関節症状を有する患者

関節症性乾癬というのは、皮膚の乾癬とともに関節炎(関節の炎症)も生じてしまう疾患です。関節炎も乾癬と同様に免疫細胞の暴走が一因だと考えられています。

関節炎に対しては塗り薬の乾癬治療薬ではお薬が関節内に届かないため、経口薬のオテズラが治療薬として用いられます。

オテズラは上記乾癬に対してどの程度の効果があるのでしょうか。

オテズラは通常の乾癬には用いられず、他の乾癬治療薬で効果不十分であった難治例と関節症状を伴う乾癬にのみ用いられるお薬です。そのため、

  • 中等症~重症の尋常性乾癬(BSA10%以上及びPASI12以上)
  • 関節症性乾癬

を対象に有効性を見た調査があります。

BSAというのは乾癬の重症度評価法の1つで、体表面積の何%に乾癬の皮疹があるかを評価する方法です。BSA10%以上というのは体表面積の10%以上に乾癬の皮疹があるという事です。

PASIも乾癬の重症度評価法の1つです。PASIはより細かく評価となり、頭部、体幹、上肢、下肢にそれぞれ乾癬の所見(紅斑、浸潤、落屑)がどのくらいあるか、そしてそれぞれの病巣の面積がどのくらいかを評価し点数化します。72点満点で評価され、数字が高いほど重症になります。

オテズラを16週間投与した調査では、PASI-75(PASIが75%低下)を達成した率は、

  • プラセボ(何の成分も入ってない偽薬)でのPASI-75達成率は7.1%
  • オテズラ60mg/日でのPASI-75達成率は28.2%

とオテズラ投与によって乾癬が有意に改善される事が報告されています。

他の乾癬治療薬が効かなかったような難治性の乾癬に対しても、オテズラはしっかりと効果を発揮してくれる事が分かります。

 

3.オテズラはどのような作用機序を持つのか

乾癬の治療薬として用いられるオテズラですが、どのような作用機序を有しているのでしょうか。

乾癬は皮膚の表面にある角質が過剰に増殖してしまう事で、皮膚表面が赤く盛り上がったり、皮膚が剥がれたり、かゆみが生じたりする疾患です。このような角質に異常が生じる疾患は「角化症」と呼ばれます。

乾癬も角化症の1つで、その原因の1つとして免疫細胞が暴走してしまい表皮を攻撃するため、表皮に炎症が生じてその刺激で角質が増殖してしまうのだと考えられています。そのため乾癬は「炎症性角化症」とも呼ばれます。

このような乾癬の治療には、まず活性型ビタミンD3の塗り薬が用いられます。

活性型ビタミンD3は角化異常が生じている表皮の角化細胞にあるビタミンD受容体にくっつくことで、細胞の増殖を抑える作用があります。

また角質の炎症を抑えるという目的で、消炎作用(炎症を抑える作用)を持つステロイド外用剤が用いられる事もあります。

いずれも乾癬に対して有効な治療法ではありますが、一方でオテズラはこれらの乾癬治療薬とは全く異なる作用機序を持つお薬になります。

オテズラはPDE4(ホスホジエステラーゼ4)阻害薬と呼ばれるお薬です。

PDEというのは酵素の一種で、主に細胞内で情報伝達を行っている物質(cAMPなど)を分解する作用を持ち、細胞内情報伝達物質の濃度を調整するはたらきを持ちます。

PDEは1から11までのタイプがある事が報告されており、それぞれはたらきが異なります。

例えばPDE3は主に心臓や血管に存在しており、これらの部位の細胞内で情報伝達を行っています。そのためPDE3阻害薬は心不全の治療薬として使われる事があります(商品名:コアテック、アカルディなど)。

またPDE5は陰茎や前立腺に存在し、これらの部位の細胞内で情報伝達を行っています。そのためPDE5阻害薬はED(勃起不全)治療薬や前立腺肥大症の治療薬として用いられる事があります(商品名:バイアグラ、シアリス、ザルティアなど)。

同じようにPDE4は、免疫細胞や免疫細胞が分泌する炎症性物質に関係しています。PDE4阻害薬であるオテズラは、免疫細胞や炎症性物質(インターロイキン、TNF-αなど)を抑えるはたらきがあり、これにより炎症が起こりにくい状態を作ってくれます。

乾癬は前述の通り角化異常が原因ですが、その一因として免疫細胞が暴走してしまい、角質を攻撃してしまう事で角質に炎症が生じ、その刺激で角質が肥厚するのだと考えられています。

PGE4阻害薬であるオテズラは、暴走した免疫細胞のはたらきを抑えてくれます。これにより免疫細胞は角質を攻撃しなくなるため、角質に炎症が生じにくくなります。

すると角質への刺激がなくなるため、角化異常が生じにくくなるというわけです。

 

4.オテズラの副作用

オテズラにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。

オテズラの副作用発生率は29.5%と報告されており、その頻度は少なくありません。

生じうる副作用には、

  • 下痢、軟便
  • 腹部不快感
  • 鼻咽頭炎、上気道感染
  • 乾癬
  • 悪心
  • 頭痛

などが報告されています。

見ての通り、もっとも多いのは消化器系の副作用になります。この副作用はオテズラの量を急激に増やすと特に生じやすい事が知られています。

そのためオテズラは少しずつ増量していく事が推奨されており、実際にオテズラはそのような飲み方をするように厳密に増薬の手順が決められています。

また消化器系以外の副作用としては風邪症状などがあり、これは「ウイルスや細菌に感染しやすくなる」という副作用になります。

これは本来ばい菌をやっつける免疫細胞のはたらきがオテズラの作用によって抑えられてしまっているため、ばい菌に対する抵抗力が弱くなってしまうために生じます。

また頻度は稀ですが重篤な副作用として、

  • 重篤な感染症
  • 重篤な過敏症

が報告されています。

上記のようにオテズラはばい菌に対する抵抗力を下げてしまうリスクがありますので、稀に重篤な感染症を引き起こしてしまう事があります。

オテズラを投与してはいけない人(禁忌)としては、

  • オテズラの成分に対し過敏症の既往歴のある方
  • 妊婦又は妊娠している可能性のある女性

が挙げられています。

オテズラは動物実験で胎児毒性(赤ちゃんにとって害がある事)が確認されています。

具体的にはオテズラの妊娠動物への投与によって、早期吸収胚数の増加、着床後胚損失率の増加、胎児の体重減少、胎児の骨化遅延、流産などが報告されています。

ヒトでも同様の危険がある可能性が考えられるため、妊婦さんへの投与は禁止されています。

 

5.オテズラの用量・用法と剤型

オテズラには、

オテズラ錠 10mg
オテズラ錠 20mg
オテズラ錠 30mg

の3剤型があります。

しかしこの3つの剤型をどのように使うかは、添付文書によって明確に決められています。

オテズラの使い方は、

通常、成人には以下のとおり経口投与し、6日目以降は1回30mgを1日2回、朝夕に経口投与する。

1日目:朝10mg、夕なし
2日目:朝10mg、夕10mg
3日目:朝10mg、夕20mg
4日目:朝20mg、夕20mg
5日目:朝20mg、夕30mg
6日目~:朝30mg、夕30mg

と書かれています。

このように少しずつお薬の量を増やすような飲み方になっているのは、いきなり高用量の服用をすると、下痢や嘔吐、悪心といった消化器系の副作用が高頻度で生じるためです。

ゆっくり増やす事で身体が徐々に慣れていき、副作用が生じる頻度を減らす事が出来ます。

飲み始めは飲み方が複雑になっていますが、飲み間違えないように「スターターパック」というものが用意されています。これは1日目、2日目・・・と毎日の飲む分があらかじめセットされているパックで、これを利用する事によって飲み間違いを減らす事ができます。

オテズラは食前・食後のどちらに服用しても問題ありません。食前・食後いずれに服用しても効果に大きな差はない事が確認されています。

またオテズラの効果は一般的には使用開始してから24週間以内に得られます。24週間経過しても効果が得られない場合は、治療薬の変更などを検討する必要があり、効果がないのに漫然とオテズラを継続する事は推奨されていません。

 

6.オテズラが向いている人は?

以上から考えて、オテズラが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

オテズラの特徴をおさらいすると、

・PDE4という酵素のはたらきを抑える乾癬の治療薬である
・難治性の乾癬や関節症性乾癬にのみ投与できる
・免疫細胞のはたらきを抑える事で表皮の炎症を抑える作用がある
・飲み薬であり、乾癬に伴う関節炎(関節炎性乾癬)にも効果がある
・副作用が多く、消化器系の副作用や感冒症状などが認められる
・薬価が高い

というものでした。

オテズラは、

・他の乾癬治療薬(活性型ビタミンD3、ステロイドなど)で効果が不十分な方
・関節症性乾癬の方

のみ使用できるお薬になります。

使用にあたっては、用法通りゆっくり増やしていく必要があります。でないと副作用が生じやすくなります。また服用中はばい菌に対する抵抗力が低下する可能性があるため、感染予防に注意して生活する必要があります。

効果は通常24週間以内に現れるため、24週間服用しても効果がない場合は、それ以上漫然と続けてはいけません。