オキシブチニン塩酸塩は、1988年から発売されている「ポラキス」というお薬のジェネリック医薬品になります。
ジェネリック医薬品とは、先発品(ポラキス)の特許が切れた後に他社から発売された同じ成分からなるお薬の事です。お薬の開発・研究費がかかっていない分だけ、先発品よりも薬価が安くなっているというメリットがあります。
オキシブチニンは頻尿・過活動膀胱治療薬になり、膀胱の収縮を抑えることで頻尿を改善します。そのため、膀胱の収縮が過剰になっており、それによる頻尿で困っている方には役立つお薬です。
頻尿を改善するお薬にもいくつかの種類がありますが、オキシブチニンはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではオキシブチニンの特徴や効能・効能・副作用などについて紹介させていただきます。
目次
1.オキシブチニンの特徴
まずはオキシブチニン錠の全体的な特徴を紹介します。
オキシブチニンの最大の特徴は、膀胱のムスカリン受容体のブロックと、カルシウムチャネルのブロックという2つの作用で頻尿を改善させてくれることです。
またジェネリック医薬品ですので先発品と比べて安価で処方してもらえます。
難しい言い方ですが、これは要するに膀胱の過剰な収縮を2つの異なる機序で改善してくれるということです。2か所に作用するため、1か所にしか作用しないお薬よりもしっかりとした効果が期待できますが、副作用も出やすくなる可能性もあり、一長一短の特徴です。
また服薬してから約30分~60分で血中濃度が最大になるため、即効性が期待できるお薬です。しかし半減期が約1時間と非常に短いため、1日1回の服用では不十分で1日3回に分けて服用することになっています。薬効が短いのは、1日に何回も飲まないといけないという手間ではデメリットになりますが、すぐにお薬が身体から抜けるため蓄積しない、細かい用量調整がしやすいという点ではメリットとも捉えることができます。
頻尿・過活動膀胱改善薬の中では古い部類に属するお薬です。新しいお薬(ベシケア、ステーブラ、ウリトスなど)と比べると副作用は多めであり、近年では処方される頻度は徐々に少なくなってきています。
また、オキシブチニンはジェネリック医薬品ですので先発品の「ポラキス」と比べると薬価が安いというのも大きなメリットになります。
以上からオキシブチニンの特徴として次のような点が挙げられます。
【オキシブチニンの特徴】
・ムスカリン受容体とカルシウムチャネルの2つをブロックする事でしっかりと頻尿を改善する |
2.オキシブチニンはどのような疾患に用いられるのか
オキシブチニンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
下記疾患又は状態における頻尿、尿意切迫感、尿失禁
神経因性膀胱
不安定膀胱(無抑制収縮を伴う過緊張性膀胱状態)
難しい専門用語が並んでいますが、ざっくりと言えば「おしっこの回数が多かったり、おしっこが間に合わない人」に対して、尿の回数を減らすことで改善させる効果があるということです。
オキシブチニンは、過活動膀胱という概念が提唱される前に開発されたお薬ですのでこのように書かれていますが、過活動膀胱に伴う頻尿に使用する、という認識で問題ありません。
過活動膀胱(OAB:OverActive Bladder)という疾患は、膀胱の本来のはたらきである「おしっこを溜めるはたらき(蓄尿能)」が低下してしまう状態です。主に高齢者に多く、少し尿が溜まっただけで排尿筋が収縮してしまい、尿意を感じるため頻尿になってしまうのです。
上記に書かれている神経因性膀胱とは、排尿に関係する神経の障害によって生じる疾患であり、神経因性膀胱によって過活動膀胱になることもあります。また不安定膀胱というのは、加齢や前立腺肥大などの神経以外の原因によって尿を十分溜めることが出来なくなる疾患で、不安定膀胱によって過活動膀胱になることもあります。
オキシブチニンは、膀胱の異常な収縮を抑えることで蓄尿能を改善させ、過活動膀胱の頻尿に対して効果を発揮します。
ただし、頻尿であれば何にでも効くわけではありません。あくまでも膀胱の過剰な収縮が生じている過活動膀胱の頻尿を改善させるというはたらきになります。
別の原因で頻尿が生じているのであれば、オキシブチニン以外のお薬の方が適切なことがありますので注意が必要です。
例えば、男性の頻尿であれば過活動膀胱ではなく、前立腺肥大症に伴って生じていることもあります。この場合はオキシブチニンではなく、α1遮断薬と呼ばれる、尿道の拡がりを良くするお薬をまずは使用することが推奨されています。前立腺肥大症で尿道が狭くなっているのに、オキシブチニンで更に排尿しにくくしてしまうと、かえって症状が悪化してしまう可能性もありますので注意が必要です。
また、尿路感染症に伴って頻尿となっているのであれば、治療はオキシブチニンのようなお薬ではなく、抗生物質でばい菌をやっつけたり、水分をたくさん取ってばい菌を洗い流すことになります。この場合、オキシブチニンを使うことによって尿の出を少なくしてしまうと、かえってばい菌が膀胱に留まりやすくなってしまい、病状が悪化してしまうこともあります。
オキシブチニンは過活動膀胱に伴う頻尿には有効なお薬ですが、頻尿全般に使える万能薬ではありません。オキシブチニンを使うべき頻尿であるのかどうかは主治医にしっかりと診察してもらい判断してもらいましょう。
ではオキシブチニンはこれらの疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
オキシブチニンはジェネリック医薬品ですので有効性に関する詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「ポラキス」では行われており、その結果が参考になります。
ポラキスの有効性を評価した調査では、
- 神経因性膀胱に対する有効率は56.7%
- 不安定膀胱に対する有効率は57.1%
と報告されています。
同じ主成分からなるオキシブチニンもこれと同程度の有効率があると考えられます。
3.オキシブチニンにはどのような作用があるのか
オキシブチニンは主に過活動膀胱の症状(頻尿)の改善に用いられます。つまり、尿の回数を少なくする作用があるということです。どのような作用によって尿の回数を少なくしているのでしょうか。
オキシブチニンのはたらきは主に二つあります。
一つ目は膀胱の平滑筋という筋肉に存在するムスカリン受容体(アセチルコリン受容体と呼ばれることもあります)のはたらきをブロックするはたらきがあります。アセチルコリンという物質が膀胱のムスカリン受容体とくっつくと、膀胱は収縮することが知られています。オキシブチニンはムスカリン受容体にアセチルコリンがくっつくのをジャマします。そうなると、膀胱が収縮しにくくなるため、頻尿が改善されるというわけです。
また、二つ目が、膀胱の平滑筋という筋肉に存在するカルシウムチャネルのはたらきをブロックすることです。カルシウムチャネルはカルシウムイオンが通る穴のようなものなのですが、カルシウムチャネルを通ってカルシウムイオンが細胞内に流入すると平滑筋は収縮することが知られています。オキシブチニンはこれを阻害することで、膀胱の平滑筋の収縮をブロックするのです。
この異なる2つの機序で膀胱の収縮を抑制することで、オキシブチニンは頻尿に対して効果を発揮します。
ちなみにムスカリン受容体は、1から5まであり、それぞれ全身に分布しており作用も異なります。オキシブチニンは主に膀胱に存在するムスカリン受容体に作用するお薬ですが、その他の臓器に存在するムスカリン受容体にも多少作用してしまいます。そのため、多くの受容体に作用する分だけ副作用も多くなってしまう可能性もあります。
4.オキシブチニンの副作用
オキシブチニンにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
オキシブチニンはジェネリック医薬品ですので、副作用発生率の詳しい調査は行われていません。先発品の「ポラキス」では行われており、副作用発生率は13.86%と報告されています。
同じ主成分からなるオキシブチニンも副作用発生率もこれと同程度であると考えられます。
生じうる副作用としては、
- 口渇
- 排尿困難
- 便秘
- 胃部不快感
などが報告されています。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- 血小板減少
- 麻痺性イレウス
- 尿閉
が報告されています。
先ほど説明した通り、オキシブチニンはムスカリン受容体をブロックするお薬です。ムスカリンの中でも膀胱に存在するムスカリン受容体に作用しやすく作られていますが、多少は他の部位に存在するムスカリン受容体にも作用してしまいます。
そのため、時に副作用が生じることがあります。
副作用としてもっとも多いものは、抗コリン作用と呼ばれるものです。抗コリン作用というのは、アセチルコリンをブロックするために生じてしまう作用のことです。ちなみにアセチルコリン受容体にはムスカリン受容体とニコチン受容体の2種類があり、ムスカリン受容体はアセチルコリン受容体の一つになります。
オキシブチニンがムスカリン受容体のはたらきをブロックしてしまうと、口渇(口腔内乾燥)、便秘、霧視などが生じる可能性があります。頻度は低いですが重篤なものとしては尿閉(尿が出なくなる)や不整脈、麻痺性イレウス(腸が麻痺して動かなくなってしまう病気)が生じることもあります。
また、オキシブチニンは主に肝臓で代謝されるため、肝障害が生じることがあり、それに伴い血液検査で肝臓系酵素の上昇が認められることがあります。AST、ALTなどの肝臓系酵素の上昇が生じることもあることが報告されています。
特に肝障害や肝疾患が元々ある方は特に注意しなければいけませんので、事前に主治医に自分の病気についてしっかりと伝えておきましょう。
また、オキシブチニンはカルシウムチャネルをブロックすることにより平滑筋の収縮を抑えるはたらきがあるため、これも副作用となることがあります。具体的には血管の平滑筋の収縮を抑えるため、血圧が下がったり、それに伴い眠気やめまいが生じることがあります。
オキシブチニンを使用してはいけない方(禁忌)は、
- 明らかな下部尿路閉塞症状である排尿困難・尿閉などを有する方
- 緑内障の方
- 重篤な心疾患のある方
- 麻痺性イレウスのある方
- 衰弱患者または高齢者の腸アトニー、重症筋無力症の方
- 授乳婦
- オキシブチニンの成分に対し過敏症の既往歴のある方
ウリトスの抗コリン作用で症状が悪化する可能性が高いような状態の方には用いる事が出来ません。
抗コリン作用は眼圧を上げてしまう可能性がありますので、緑内障(眼圧が上がってしまって眼痛、視力異常などが生じる疾患)には使えません。
同様に抗コリン作用は尿を出にくくしてしまうため、尿閉(尿が出にくくなる、出なくなる)がある方に使用する事も危険です。
またウリトスは不整脈を引き起こす事が多少あるため、元々心臓が悪い方は用いてはいけません。
5.オキシブチニンの用法・用量と剤形
オキシブチニンは次の剤型が発売されています。
オキシブチニン錠 1mg
オキシブチニン錠 2mg
オキシブチニン錠 3mg
の3剤型が発売されています。
オキシブチニンの使い方は、
通常成人1回として2~3mgを1日3回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
と書かれています。
オキシブチニンは半減期が約1時間ほどであり、作用時間が非常に短いお薬です。そのため、1日1回の服用では効果は1日間持続せず、1日複数回副作用する必要があります。添付文書的には1日3回の服用が指示されています。ちなみ半減期とは、お薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、そのお薬の作用時間の一つの目安になる数値です。
6.オキシブチニンが向いている人は?
以上から考えて、オキシブチニンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
オキシブチニンの特徴をおさらいすると、
【オキシブチニンの特徴】
・ムスカリン受容体とカルシウムチャネルの2つをブロックする事でしっかりと頻尿を改善する |
ここから、過活動膀胱と診断された方であって、
・他の過活動膀胱治療薬が効かなかった方
・なるべく薬価を安くしたい方
などに現状では用いられることのあるお薬となっています。
7.市販で買える頻尿・過活動膀胱治療薬について
頻尿・過活動膀胱でお悩みの方は、出来れば一度病院を受診し、医師の診察を受けて適切な治療薬を処方して頂きたいと考えております。
しかしどうしてもすぐには受診できないような場合、市販薬でも頻尿や過活動膀胱にある程度効果が期待できるものもあります。
ここでは頻尿・過活動膀胱に有効な市販薬をいくつか紹介します。
Ⅰ.レディガードコーワ
レディガードコーワは病院で処方される頻尿治療薬である「ブラダロン」と同じ成分(フラボキサート)を含む頻尿治療薬であり、薬効がしっかりと確認されている市販薬の1つです。
フラボキサートはカルシウム拮抗薬と呼ばれ、膀胱の平滑筋に存在するカルシウムチャネルという穴をふさぐ事によって膀胱が収縮できないようにするお薬です。
病院で処方されるお薬の中では効果が弱いお薬なのですが、市販薬の中では一番しっかりと効果が確認できているお薬だと言ってもよいでしょう。
基本的には女性にしか使えません。薬理的には男性にも効果があるのですが、男性に使う場合は「前立腺肥大症による頻尿」でない事を確認しないといけないためで、これは病院を受診しないと分からないため、市販薬としては女性にしか使えない事となっています。
Ⅱ.八味地黄丸
漢方薬である「八味地黄丸(はちみじおうがん)」も、病院でも頻尿に処方される事のあるお薬です。八味地黄丸は体力低下に伴う泌尿器機能の衰えに対して効果が期待できると考えられています。つまりこのような原因によって頻尿になっている方には向いています。
実際は高齢者などに用いられる事が多いお薬です。
Ⅲ.サプリメント
医学的にしっかりと効果が調査されていないものもありますが、
- ノコギリヤシ
- カボチャ種子
- イソサミジン
は頻尿に効果があると言われています。
ノコギリヤシはα受容体をブロックする作用によって「前立腺肥大に伴う」頻尿に効果があるため、過活動膀胱などの頻尿には効果はあまり期待できません。特に女性には効果は期待できないでしょう。
いくつかの調査では病院で処方されるα遮断薬と同等に効果があると報告しているものもありますが、一方で効果がないと結論付けているものもあり、医学的には効果はまだ確立していないところがあります。
カボチャ種子には様々な作用が報告されていますが、女性ホルモンのバランスを整えたり、炎症を抑えたり、前立腺の肥大を抑制したりといった作用で頻尿を抑えると考えられています。男性・女性両方に効果が期待できます。
イソサミジンは、セリ科の植物である「ボタンボウフウ」に含まれる成分で、過活動膀胱への効果が期待されています。
医師としては薬効がしっかりと確認できていない以上、積極的にお勧めは出来ないのですが、上記のお薬で効果が得られない時は検討しても良いかもしれません。