パンデル軟膏・パンデルクリーム・パンデルローション(一般名:プロピオン酸ヒドロコルチゾン)は1983年から発売されているステロイド剤になります。
パンデルは皮膚に塗るステロイド薬であり、主に皮膚の炎症を抑える作用に優れます。飲み薬のように全身に作用するわけではないため安全性に優れ、炎症を抑えたい部位にのみ作用させることができます。
塗り薬はたくさんの種類があるため、それぞれがどのような特徴を持つのかは分かりにくいものです。
パンデルはどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここではパンデルの効能や特徴・副作用についてみてみましょう。
目次
1.パンデルの特徴
まずはパンデルの特徴をざっくりと紹介します。
パンデルは皮膚に塗る外用ステロイド薬であり、強力に皮膚の炎症を抑えてくれます。外用ステロイド薬の中での強さは「非常に強力」になります。
全身への副作用が少ない「アンテドラッグ」であることがウリですが、ステロイドである以上副作用が生じないわけではありません。
ステロイド外用剤(塗り薬)の主なはたらきとしては次の3つが挙げられます。
- 炎症反応を抑える
- 免疫反応を抑える
- 皮膚細胞の増殖を抑える
ステロイドは免疫反応(身体がばい菌などの異物と闘う反応)を抑える事で、塗った部位の炎症反応を抑える作用があります。これにより湿疹や皮膚炎を改善させたり、アレルギー症状を和らげたりします。
また皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきがあり、これによって皮膚を薄くする作用も期待できます。
外用ステロイド剤は強さによって5段階に分かれています。
Ⅰ群(最も強力:Strongest):デルモベート、ダイアコートなど
Ⅱ群(非常に強力:Very Strong):アンテベート、ネリゾナ、マイザー、パンデルなど
Ⅲ群(強力:Strong):ボアラ、リドメックスなど
Ⅳ群(中等度:Medium):アルメタ、ロコイド、キンダベートなど
Ⅴ群(弱い:Weak):コートリル、プレドニンなど
この中でパンデルは「Ⅱ群(非常に強力)」に属します。
ステロイドはしっかりとした抗炎症作用(炎症を抑える作用)が得られる一方で、長期使用による副作用の問題などもあるため、皮膚症状に応じて適切に使い分ける事が大切です。
強いステロイドは強力な抗炎症作用がありますが、一方で副作用も生じやすいというリスクもあります。反対に弱いステロイドは抗炎症作用は穏やかですが、副作用も生じにくいのがメリットです。
パンデルは外用ステロイド剤の中でも効きが強力な部類に入るため、しっかりとした効果が期待できる一方で、使い方には注意をしなくてはいけません。
ただしパンデルは「アンテドラッグ」であり、理論上は副作用が少ない機序となっています。アンテドラッグというのは、効かせたい部位(皮膚)では活性を持つのですが、体内に取り込まれると速やかに代謝(≒分解)される特徴を持っています。つまり皮膚ではしっかり効果がありますが、他の部位に流れるとすぐに効果がなくなるため、全身への副作用が少ないというわけです。
しかし実臨床の実感としては、だからといってパンデルはいくら使っても安全だという感じはありません。アンテドラッグではありますが、漫然と使い続けたり不適切に使えばやはり副作用の危険はあります。
全てのステロイドに言えることですが、ステロイドは漫然と長期に分かって使用していると皮膚の細胞増殖を抑制したり、免疫力を低下させたりしてしまいます。これによって皮膚が薄くなってしまったり皮膚が感染しやすくなってしまったりといった副作用が生じる可能性があるのです。
以上からパンデルの特徴として次のような事が挙げられます。
【パンデルの特徴】
・Ⅱ群(非常に強力)に属する外用ステロイド剤である
・炎症を抑える作用、免疫反応を抑える作用、皮膚細胞の増殖を抑える作用がある
・ステロイドの中でもしっかりした効果がある
・足の裏、背中など皮膚が厚い部位でも効果を得やすい
・アンテドラッグであるため全身への副作用が少ない
・ステロイドであるため、長期使用による副作用に注意
2.パンデルはどんな疾患に用いるのか
パンデルはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
○湿疹・皮膚炎群(進行性指掌角皮症、女子顔面黒皮症、ビダール苔癬、放射線皮膚炎、日光皮膚炎を含む)
○乾癬
○掌蹠膿疱症
○痒疹群(じん麻疹様苔癬、ストロフルス、固定じん麻疹を含む)
○虫さされ
○扁平紅色苔癬
○慢性円板状エリテマトーデス
難しい専門用語が並んでおり、これだけではどのような皮膚疾患に効果があるのかイメージが沸かないかもしれません。
皮膚の炎症を抑えたり皮膚を薄くする作用を持つのが外用ステロイド剤になりますので、パンデルも皮膚に炎症が生じている時や皮膚が厚くなってしまった時に効果が期待できます。
進行性指掌角皮症とはいわゆる「手荒れ」の事で、水仕事などで手を酷使する事により手の皮膚が傷つき、炎症を起こしてしまいます。
女子顔面黒皮症とは顔に生じる接触性皮膚炎(いわゆる「かぶれ」)の事でメラニンによる色素沈着が生じ、肌に炎症が生じたり黒ずみが出来てしまいます。主に化粧品などが原因となるためほとんどが女性に発症します。
ビダール苔癬とはストレスなどが原因となり皮膚の一部に痒みや苔癬が生じる疾患です。主に首の後ろや大腿部などに生じやすいと言われています。
放射線皮膚炎・日光皮膚炎はその名の通り、放射線や日光に当たる事で皮膚に炎症や色素沈着が生じます。
扁平紅色苔癬はかゆみを伴うたくさんの丘疹(小さな発疹)が融合し、盛り上がってうろこ状になる皮膚疾患です。
これらの疾患はパンデルの炎症を抑えるはたらきが効果を発揮します。
ストロフルスはアレルギー反応の1つで、主に虫に刺された後に生じる皮膚の腫れです。じんま疹もアレルギーの一種です。
掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)とは、自己免疫疾患になります。自己免疫疾患は免疫(ばい菌と闘う力)が何らかの原因によって暴走してしまい、自分自身を攻撃してしまう病気です。掌蹠膿疱症では、免疫の異常によって手足に膿胞(膿が溜まった皮疹)が出来てしまいます。
アレルギー疾患や掌蹠膿疱症のような自己免疫疾患は、免疫が過剰にはたらいてしまっている結果生じているため、パンデルの免疫力を低下させる作用が効果を発揮します。
乾癬(かんせん)とは皮膚の一部の細胞増殖が亢進していしまい、赤く盛り上がってしまう状態です。
乾癬にはパンデルの皮膚細胞増殖を抑制するはたらきが効果を発揮します。
慢性円板状エリテマトーデスは原因は不明ですが、皮膚の露出部(日光が当たる部位)に円板状の紅斑が生じます。慢性円板状エリテマトーデスもステロイドにより症状の改善が得られます。
上記の疾患に対するパンデルの有効率は、
- 湿疹・皮膚炎群の改善度は軟膏93.2%、クリーム91.9%、ローション88.2%
- 乾癬の改善度は軟膏93.4%、クリーム84.6%、ローション69.4%
- 掌蹠膿疱症の改善度は軟膏82.5%、クリーム82.5%、ローション66.0%
- 痒疹群の改善度は軟膏92.3%、クリーム83.8%、ローション77.6%
- 虫刺されの改善度は軟膏100%、クリーム100%、ローション98.3%
- 扁平紅色苔癬の改善度は軟膏90.5%、クリーム90.0%、ローション82.1%
- 慢性円板上エリテマトーデスの改善度は軟膏95.7%、クリーム75.0%、ローション65.2%
と報告されています。
3.パンデルにはどのような作用があるのか
皮膚の炎症を抑えてくれるパンデルですが、具体的にはどのような作用があるのでしょうか。
パンデルの作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.抗炎症作用
パンデルは、ステロイド剤です。
ステロイドには様々な作用がありますが、その1つに免疫を抑制する作用があります。
免疫というのは異物が侵入してきた時に、それを攻撃する生体システムの事です。皮膚からばい菌が侵入してきた時には、ばい菌をやっつける細胞を向かわせることでばい菌の侵入を阻止します。
免疫は身体にとって非常に重要なシステムですが、時にこの免疫反応が過剰となってしまい身体を傷付けることがあります。
代表的なものがアレルギー反応です。アレルギー反応というのは、本来であれば無害の物質を免疫が「敵だ!」と誤認識してしまい、攻撃してしまう事です。
代表的なアレルギー反応として花粉症(アレルギー性鼻炎)がありますが、これは「花粉」という身体にとって無害な物質を免疫が「敵だ!」と認識して攻撃を開始してしまう疾患です。その結果、鼻水・鼻づまり・発熱・くしゃみなどの不快な症状が生じてしまいます。
同じく皮膚にアレルギー反応が生じる疾患にアトピー性皮膚炎がありますが、これも皮膚の免疫が誤作動してしまい、本来であれば攻撃する必要のない物質を攻撃してしまい、その結果皮膚が焼け野原のように荒れてしまうのです。
このような状態では、過剰な免疫を抑えてあげると良いことが分かります。
ステロイドは免疫を抑えるはたらきがあります。これによって炎症が抑えられます。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことです。今説明したように感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。皮膚に炎症が起こることを皮膚炎と呼びます。皮膚炎も外傷でも生じるし、ばい菌に感染することでも生じるし、アレルギーでも生じます。
ステロイドは免疫を抑制することで、炎症反応を生じにくくさせてくれるのです。
Ⅱ.免疫抑制作用
上記のようにパンデルをはじめとしたステロイドは免疫力を低下させる作用があります。
パンデルは塗り薬であるため、塗った部位の皮膚の免疫力が低下します。通常はこれはステロイドの副作用となります。
強いステロイドを長期間塗り続けていると免疫力が低下するため、ばい菌(細菌やウイルス、真菌など)に感染しやすくなってしまいます。
しかし反対に免疫が暴走してしまって自分を攻撃してしまうようなアレルギー疾患や自己免疫性疾患に対してはステロイドの免疫力低下作用が利点になる事もあります。
Ⅲ.皮膚細胞の増殖抑制作用
パンデルをはじめとしたステロイド外用剤は、塗った部位の皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきがあります。
これも主に副作用となる事が多く、強いステロイドを長期間塗り続けていると皮膚が薄くなっていき毛細血管が目立って赤みのある皮膚になってしまう事があります。
しかし反対に皮膚が肥厚してしまうような疾患(乾癬や角化症など)においては、ステロイドを使う事で皮膚細胞の増殖を抑え、皮膚の肥厚を改善させることも出来ます。
4.パンデルの副作用
パンデルにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
パンデルの副作用発生率は軟膏で0.54%、クリームで0.84%、ローションで1.22%と報告されており、その頻度は多くはありません。塗り薬で全身に投与するものではないため、副作用は少なくなっています。
またアンテドラッグであるパンデルはその他の同クラス(Ⅱ群:Very Strong)のステロイド外用剤と比べると若干副作用の頻度は少なく報告されています。
しかしステロイド剤ですので、漫然と塗り続けないように注意は必要です。
生じる副作用はほとんどが局所の皮膚症状で、
- 毛嚢炎(毛穴の奥にある毛包の炎症)
- 刺激感
- ステロイドざ瘡(ステロイドによって生じるにきび)
- 皮膚乾燥
などになります。
刺激感や皮膚乾燥はステロイドの皮膚を薄くする作用によるものです。またステロイドは免疫力を低下させるため、皮膚をばい菌に感染しやすい状態にしてしまい皮膚に菌の感染が生じることもあります。
いずれも重篤となることは少ないのですが、長期間使えば使うほど発生する可能性が高くなります。そのためステロイドは漫然と使用する事は避け、必要な期間のみしっかりと使う事が大切です。
また滅多にありませんが、ステロイド外用薬を長期・大量に塗り続けていると全身に作用してしまい、
- 緑内障(眼圧亢進)
- 白内障
などが生じる可能性があると言われています。
ステロイド外用剤の注意点としては、ステロイドは免疫力を低下させるため免疫力が活性化していないとまずい状態での塗布はしてはいけません。具体的にはばい菌感染が生じていて、免疫がばい菌と闘わなくてはいけないときなどが該当します。
このような状態の皮膚にパンデルを塗る事は禁忌(絶対にダメ)となっています。
ちなみに添付文書には次のように記載されています。
【禁忌】
1. 本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者
2. 鼓膜の穿孔のある湿疹性外耳道炎の患者
3. 潰瘍(ベーチェット病は除く)、第2度深在性以上の熱傷・凍傷のある患者【原則禁忌】
細菌・真菌・スピロヘータ・ウイルス皮膚感染症及び動物性皮膚疾患(疥癬、 けじらみ等)のある患者
これらの状態でパンデルが禁忌となっているのは、皮膚の再生を遅らせたり、感染しやすい状態を作る事によって重篤な状態になってしまう恐れがあるためです。
また原則禁忌というのは「基本的には禁忌だが、やむを得ない場合は慎重に使用する事が許される」というものになります。
5.パンデルの用法・用量と剤形
パンデルには、
パンデル軟膏 0.1% 5g (チューブ)
パンデル軟膏 0.1% 10g (チューブ)
パンデル軟膏 0.1% 100g (プラスチック容器)
パンデル軟膏 0.1% 500g (プラスチック容器)パンデルクリーム 0.1% 5g (チューブ)
パンデルクリーム 0.1% 10g (チューブ)
パンデルクリーム 0.1% 500g (プラスチック容器)パンデルローション0.1% 10ml
といった剤型があります。
ちなみに塗り薬には「軟膏」「クリーム」「ローション(外用液)」などいくつかの種類がありますが、これらはどのように違うのでしょうか。
軟膏は、ワセリンなどの油が基材となっています。長時間の保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。また皮膚への浸透力も強くはありません。
クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。
ローションは水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。しかし皮膚への浸透力は強く、皮膚が厚い部位などに使われます。
パンデルの使い方は、
通常1日1~数回、適量を患部に塗布する。
と書かれています。実際は皮膚の状態や部位によって回数や量は異なるため、主治医の指示に従いましょう。
6.パンデルの使用期限はどれくらい?
パンデルの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
「家に数年前に処方してもらった塗り薬があるんだけど、これってまだ使えますか?」
このような質問は患者さんから時々頂きます。
これは保存状態によっても異なってきますので、一概に答えることはできませんが、適正な条件で保存されていたという前提(室温保存)だと、
- 軟膏・クリームは4年
- ローションは3年半
が使用期限となります。
7.パンデルが向いている人は?
以上から考えて、パンデルが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
パンデルの特徴をおさらいすると、
・Ⅱ群(非常に強力)に属する外用ステロイド剤である
・炎症を抑える作用、免疫反応を抑える作用、皮膚細胞の増殖を抑える作用がある
・ステロイドの中でもしっかりした効果がある
・足の裏、背中など皮膚が厚い部位でも効果を得やすい
・アンテドラッグであるため全身への副作用が少ない
・ステロイドであるため、長期使用による副作用に注意
というものでした。
ここから、皮膚の免疫反応が過剰となったり、炎症が生じている際に使用する塗り薬だと考えられます。
ステロイドの中では効果は強めであるため、一番最初から用いるというよりは、他の効果が穏やかな外用ステロイドで効果不十分であった時に検討されるお薬になるでしょう。
ただし、
- 炎症や皮膚肥厚の程度が強い場合
- かかとなど、塗り薬が浸透しにくい部位の皮膚疾患
などでは、最初からVery Strong(非常に強い)のステロイドを使うこともあります。
また、これはステロイド全てに言えることですが、ステロイドは漫然と使い続けることは良くありません。必要な時期のみしっかりと使い、必要がなくなったら使うのを止めるという、メリハリを持った使い方が非常に大切です。
でないと皮膚にばい菌が感染してしまったり、皮膚が異常に薄くなってしまうといった副作用が生じてしまう可能性があります。
パンデルはアンテドラッグであるため、効果がしっかりしつつ、全身への副作用が少なくなっています。そのため、止むを得ず長期間強いステロイドを使わないといけない状況に適しています。
しかしアンテドラッグは全身に回りにくいのですが、皮膚局所には強く効きます。そのため、皮膚局所に生じる副作用(皮膚の感染や皮膚が薄くなるなど)の頻度は他のステロイドと比べて同等です。ここからアンテドラッグだからといって副作用が生じないと安易に考えてはいけない事がわかります。
副作用が少ない薬理機序を持っていることは確かですが、他のステロイドと同様に漫然とつ買い続けないように注意し、必要な時にのみ使用するようにしましょう。