ペルジピン(一般名:ニカルジピン塩酸塩)は1981年から発売されている降圧剤(血圧を下げるお薬)で、カルシウム拮抗薬という種類に属します。
高血圧症の患者さんは日本で1000万人以上と言われており、降圧剤は処方される頻度の多いお薬の1つです。
降圧剤にも様々な種類がありますが、その中でペルジピンはどのような特徴を持つお薬で、どのような方に向いているお薬なのでしょうか。
ここではペルジピンの特徴や効果・副作用についてみていきましょう。
1.ペルジピンの特徴
ペルジピンはどのような特徴を持つお薬なのでしょうか。
ペルジピンはカルシウム拮抗薬という種類の降圧剤になります。まずはカルシウム拮抗薬の主な特徴を紹介しましょう。
・血圧を下げる力(降圧力)が確実
・ダイレクトに血管を広げる作用であるため、その他の余計な作用が少ない
・安い
カルシウム拮抗薬の一番の特徴は、血圧を下げる力がしっかりとしている点です。単純に血圧を下げる力だけを見れば、降圧剤の中で一番でしょう。カルシウム拮抗薬の他にも、ARB、ACE阻害剤、利尿剤など降圧剤はたくさんありますが、単純な降圧力だけでみれば、カルシウム拮抗薬にかなうお薬はありません。
また、詳しくは後述しますがカルシウム拮抗薬は血管に存在する筋肉を拡張させるはたらきを持ち、血管にダイレクトに作用して血圧を下げるお薬です。血管に直接作用するため、その他の余計なはたらきが少ないお薬なのです。
これは他の作用がないというデメリットでもあり、余計な作用がないというメリットでもあります。
カルシウム拮抗薬は、価格が安いものが多いのも大きな特徴です。これも詳しくは後述しますが、血圧を下げるコストパフォーマンスで言えば、かなり優れたお薬になります。
では次にカルシウム拮抗薬の中でのペルジピンの特徴を紹介します。
・即効性に優れ、作用時間が短い
・血管選択性が高く、脳血管・冠動脈を広げる作用に優れる
カルシウム拮抗薬は血圧を下げる力がしっかりしているお薬ですが、ペルジピンも他のカルシウム拮抗薬と同様にしっかりと血圧を下げてくれます。
ペルジピンは降圧剤の中でも即効性に優れますが、作用時間が短いお薬になります。服用してからお薬の血中濃度が最大になるまでにかかる時間は約30~60分と短く、効果は服用後早期に認められます。
しかし半減期(お薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間)は約90分と短く、このため1日を通して効果を得るためには1日3回服用しないといけません。
このように即効性に優れて作用時間も短いお薬というのは、お薬を細かく調整したい時に適しています。
例えば高血圧緊急症や、心不全の急性期など、血圧を厳密にコントロールしたい時は、即効性があって半減期の短い降圧剤の方が量を細かく調整できます。
ペルジピンは脳血管や冠動脈(心臓を栄養している動脈)などへの血管選択性も高いため、脳血管障害や冠動脈疾患に適しています。
しかしこのようなケースとなると、持続点滴(ペルジピン注)によって調整が行われる事がほとんどですので、飲み薬のペルジピンはあまり使われていないのが実情です。
通常の高血圧(いわゆる本態性高血圧)は、血圧を急激に下げる必要はなく、ゆっくり長く血圧を安定させる事が望まれますので、即効性があり作用時間の短いペルジピンというのはあまり適していません。
そのため、ペルジピンは本態性高血圧の治療薬としてはあまり用いられていないのが現状です。
以上からペルジピンの特徴を挙げると次のようになります。
【ペルジピンの特徴】
・カルシウム拮抗薬であり降圧作用はしっかりしている
・即効性はあるが作用時間が短く、1日3回の服用が必要
・他の降圧剤と比べて薬価が安い
2.ペルジピンはどんな疾患に用いるのか
ペルジピンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
本態性高血圧症
ペルジピンはカルシウム拮抗薬に属しますが、カルシウム拮抗薬は血管を拡張させることで血圧を下げます。
本態性高血圧というのは一般的な高血圧の事で、何らかの原疾患が原因で血圧が高くなっているわけではなく、動脈硬化によって血圧が上がってしまっている高血圧の事です。
ちなみに本態性高血圧以外の高血圧は、二次性高血圧と呼ばれます。腎臓に原因があって血圧が上がったり、甲状腺などのホルモンに原因があって血圧が上がるような状態がこれに該当します。
ペルジピンは本態性高血圧に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
本態性高血圧症にペルジピンを使用して「有効」と判定された率は、69.3%と報告されています。
3.ペルジピンはどのような作用があるのか
血圧を下げるはたらきを持つペルジピンですが、どのような機序で血圧を下げているのでしょうか。
血圧を下げるお薬にはいくつかの種類がありますが、そのうちペルジピンは「カルシウム拮抗薬」という種類に分類されます。カルシウム拮抗薬は、血管の平滑筋という筋肉に存在しているカルシウムチャネルのはたらきをブロックするというのが主なはたらきです。
チャネルという用語が出てきましたが、これはかんたんに言うと、イオンが通る穴だと思ってください。つまりカルシウムチャネルは、カルシウムイオンが通ることが出来る穴です。
カルシウムチャネルは、カルシウムイオンを通すことにより、筋肉を収縮させるはたらきがあります。これをブロックするのがペルジピンです。ペルジピンの作用で、カルシウムイオンが流入できなくなると、筋肉が収縮できなくなるため拡張します。これによって血管が拡張する(広がる)と、血圧が下がるというわけです。
ちなみにカルシウムチャネルにはL型、T型、N型の3種類があることが知られています。このうち、平滑筋に存在しているカルシウムチャネルはほとんどがL型です。
L型カルシウムチャネル:主に血管平滑筋・心筋に存在し、カルシウムが流入すると筋肉を収縮させる。ブロックすると血管が拡張し、血圧が下がる
T型カルシウムチャネル:主に心臓の洞結節に存在し、規則正しい心拍を作る。また脳神経にも存在し神経細胞の発火に関係している
N型カルシウムチャネル:主にノルアドレナリンなど興奮性の神経伝達物質を放出する。
ペルジピンはL型カルシウムチャネルに選択性が高いため、しっかりと血管を広げる作用を持ちますが、その他のチャネルにはあまり影響しません。
4.ペルジピンの副作用
ペルジピンにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。
ペルジピンの副作用発生率は2.60%と報告されています。
生じうる副作用としては、
- 熱感
- のぼせ
- 顔面潮紅
- 動悸
などが報告されています。
のぼせや顔面潮紅は顔面の血管が拡張することで生じると考えられます。またペルジピンは主にL型のカルシウムチャネルに作用しますが、一部T型に作用してしまうと心臓に作用し、動悸を引き起こす事があります。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- 血小板減少
- 肝機能障害、黄疸
が報告されています。
ペルジピンの服用が長期にわたっている際は、定期的に血液検査を行い、このような副作用が生じていないか確認する事が望まれます。
ペルジピンを投与してはいけない方(禁忌)としては、
- 頭蓋内出血で止血が完成していないと推定される方
- 脳卒中急性期で頭蓋内圧が亢進している方
- 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
が挙げられます。
ペルジピンは血管を広げる作用がありますので、血管が切れて脳に出血している方に投与すると更に出血を増やしてしまう危険があるため使えません。
また同様の理由で頭蓋内圧が亢進している方にも用いる事はできません。
動物実験で妊娠動物にペルジピンを投与したところ、出生児の体重増加の抑制が報告されています。ヒトにおいても同じ事が生じる可能性を考え、このような方にはペルジピンの使用は禁忌となっています。
5.ペルジピンの用法・用量と剤形
ペルジピンは、
ペルジピン錠 10mg
ペルジピン錠 20mgペルジピン散 10%
の3剤形があります。
ペルジピンは他にも
- ペルジピンLA
- ペルジピン注
といった剤型もあります。
ペルジピンLAは「Long Acting」の略でペルジピンの短所である作用時間の短さを改善し、より長い時間効き続けるように改良された剤型の事です。
ペルジピン注は注射剤で、高血圧緊急症や脳血管障害や心血管イベントの急性期など緊急で血圧を下げる必要がある時に用いられる事があります。
ペルジピンの使い方は、
通常成人には1回10~20mgを1日3回経口投与する。
となっています。
ペルジピンは服用してから30~60分で血中濃度が最大となり、半減期(お薬の血中濃度が半分に下がるまでの時間)は約90分と報告されています。
即効性はあるものの作用時間は長くはないため、1日3回服用しなければいけません。
6.ペルジピン錠が向いている人は?
以上から考えて、ペルジピンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ペルジピンの特徴をおさらいすると、
・カルシウム拮抗薬であり降圧作用はしっかりしている
・即効性はあるが作用時間が短く、1日3回の服用が必要
・他の降圧剤と比べて薬価が安い
というものがありました。
カルシウム拮抗薬全体にいえることですが、血管の平滑筋にダイレクトに作用するカルシウム拮抗薬は、単純に血圧を下げたい時に有用です。
他の代表的な降圧剤として、ACE阻害剤やARBなどがあります。これらももちろん優れたお薬で、腎臓を保護したり、血糖にも影響したりと様々な付加効果があります。これらはうまく利用すれば、1剤で様々な効果が得られる利点になりますが、「単純に血圧だけを下げたい」という場合には、カルシウム拮抗薬の方が適しています。
ペルジピンは血圧を下げる力はしっかりしていますが、作用時間が短いため、本態性高血圧に対して日々服用するには正直言うと不向きなお薬です。
血圧は1日を通してしっかりと下げてあげる事が重要であるため、作用時間が長いものが好まれます。また服用して急に血圧が下がるのはデメリットもあるため、血圧の日常的な管理としては即効性は必要ありません。
緊急時にはペルジピンの即効性や作用時間の短さが役立つ事もあります。すぐに効き、すぐに効果が切れるお薬というのは細かい調整がしやすいためです。
しかしこのような場合はもはや飲み薬ではなく、注射(点滴)を使いますので、飲み薬のペルジピンは臨床的にはあまり出番のないお薬というのが実情です。
ペルジピンの作用時間の短さを改良した「ペルジピンLA」という剤型があり、こちらの方が日々の血圧管理には適しているでしょう。