ペロリックは1982年から発売されている「ナウゼリン」という制吐薬(吐き気止め)のジェネリック医薬品になります。
ペロリックは主に胃腸に作用して胃腸の動きを改善させたり吐き気を抑えたりする作用があります。また脳幹にある嘔吐中枢にはたらく事で吐き気を抑える作用もあります。
ペロリックは中枢(脳)へ入りにくいので副作用も多くはなく、比較的安全に使えるお薬になります。
ペロリックはどんなお薬で、どんな患者さんに向いているのでしょうか。ここではペロリックの効果や特徴・副作用についてみていきましょう。
目次
1.ペロリックの特徴
まずはペロリックの特徴について、かんたんに紹介します。
ペロリックは吐き気止めです。主に胃腸のドーパミンのはたらきをブロックする事で吐き気を抑えます。また嘔吐中枢にはたらきかけることで吐き気を抑える作用も多少あります。脳には比較的入りにくいため、副作用は少なめです。
ペロリックは主に「吐き気」に対して用いられるお薬ですが、吐き気は「中枢性嘔吐」と「末梢性嘔吐」の2種類に分けることが出来ます。
中枢性嘔吐は、脳の延髄にある嘔吐中枢の刺激によって生じる嘔吐です。そして末梢性嘔吐は、胃などの消化管が刺激されることによって生じる嘔吐です。
ペロリックは末梢性嘔吐にはしっかりとした効果を示しますが、中枢性嘔吐に対する効果は弱めです。
しかしこれは悪いことではありません。中枢性嘔吐に対して効果が弱いという事は、脳にあまり届かないお薬だという事です。実際ペロリックは、脳血管関門と呼ばれる脳に入る関所のような部位を通過しにくい事が分かっています。
脳に入りにくいという事は嘔吐中枢には作用しにくいけども、脳に作用してしまう事で生じる副作用も起こりにくいという事です。
例えば中枢性嘔吐にも末梢性嘔吐にもしっかり効くお薬として「プリンペラン(一般名:メトクロプラミド)」があります。プリンペランは吐き気を抑える作用は強いのですが、同時に脳にも達してしまいやすいため副作用も生じる可能性が高まります。
具体的には脳のドーパミンをブロックしすぎてしまう事で、「錐体外路症状」が生じることがあります。これは手足の震えや不随意運動(勝手に動いてしまう)など、困った副作用となります。
以上からペロリックの特徴として次のようなことが挙げられます。
【ペロリックの特徴】
・主に末梢性の吐き気を抑える作用に優れる(中枢性にも多少効く)
・脳にお薬が達しにくいため、錐体外路症状や高プロラクチン血症は少なめ
2.ペロリックはどんな疾患に用いるのか
ペロリックはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
下記疾患および薬剤投与時の消化器症状(悪心、嘔吐、食欲不振、腹部膨満、上腹部不快感、腹痛、胸やけ、噯気)
<成人>
○慢性胃炎、胃下垂症、胃切除後症候群
○抗悪性腫瘍剤またはレボドパ製剤投与時<小児>
○周期性嘔吐症、上気道感染症
○抗悪性腫瘍剤投与時
ペロリックは主に消化管のドーパミン受容体をブロックすることで消化管の運動を活性化させ、吐き気を抑えてくれます。
噯気(おくび)とはいわゆる「げっぷ」の事です。またレボドパというのはパーキンソン病の治療薬で、副作用として吐き気が生じる事があるためペロリックの投与が有効です。
ペロリックはジェネリック医薬品であるため有効率の調査は行われていませんが、先発品の「ナウゼリン」を「消化器疾患に伴う不定愁訴」に用いた際の有効率は、
- 悪心(吐き気)に対する有効率は70.4%
- 嘔吐に対する有効率は74.2%
- 食欲不振に対する有効率は61.6%
- 腹部膨満感に対する有効率は62.1%
- 食後上腹部充満感に対する有効率は64.9%
- 胃部重圧感に対する有効率は55.9%
- 腹痛に対する有効率は59.2%
- 胸やけに対する有効率は61.3%
- 逆流感に対する有効率は61.4%
- 噯気(おくび)に対する有効率は61.4%
と報告されています。同じ主成分から成るペロリックもこれと概ね同様の有効率であると考えられます。
3.ペロリックにはどのような作用があるのか
ペロリックは吐き気を抑える作用がありますが、これはどのような作用機序で得られる効果なのでしょうか。ペロリックの主な作用について紹介します。
Ⅰ.消化管のドーパミン受容体をブロックする
ペロリックは、消化管に存在するドーパミン受容体をブロックするはたらきがあります。
ドーパミン受容体はドーパミンが結合して様々な作用を発揮する部位になります。消化管のドーパミン受容体にドーパミンが結合すると、胃腸の動きが抑えられることが分かっています。
ペロリックがドーパミン受容体をブロックすると、ドーパミンが結合できなくなるため胃腸の動きは活発になります。
これにより胃腸から食べ物が腸に排出されやすくしたり、腸管の動きの活性化が得られます。
これにより吐き気が改善されます。
Ⅱ.脳の嘔吐中枢のはたらきを抑える
ペロリックは、脳幹(延髄)に存在する嘔吐中枢のはたらきを抑える作用もあります。この効果も脳のドーパミン受容体をブロックする事で得られると考えられています。
ペロリックは基本的には末梢性嘔吐に効くお薬ですので、このような中枢作用は弱めなのですが、多少はこの作用も有しています。
中枢性嘔吐への作用が弱いという事は、吐き気を抑える作用としてはマイナスですが、脳への副作用が生じにくいというプラスの面にもなります。
4.ペロリックの副作用
ペロリックにはどのような副作用が生じるのでしょうか。また、副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
ペロリックはジェネリック医薬品であり、副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「ナウゼリン」においては副作用発生率は0.9%(小児は0.5%)と報告されています。
生じうる副作用としては、
- 下痢、便秘
- 胸やけ
- 嘔吐
- 乳汁分泌、女性化乳房
- 錐体外路障害
- 眠気
- 発疹
などがあります。
ペロリックは脳に達しにくいお薬であるため、中枢神経系の副作用が生じにくく、多くは消化器系の副作用(下痢、便秘、胸やけ、嘔吐など)になります。
しかし中枢神経系の副作用が全く生じないわけではなく、頻度は低いものの生じる可能性はあります。
特に注意すべき中枢系の副作用としては、「錐体外路症状」「高プロラクチン血症」が挙げられます。
錐体外路症状というのは
- 四肢のふるえ
- 不随意運動(勝手に動いてしまう)
などの症状のことで、これは脳のドーパミンがブロックされすぎることで生じます。ペロリックの主なはたらきは消化管のドーパミンのブロックですが、一部脳のドーパミンもブロックしてしまうのです。
脳のドーパミンが少なくなりすぎてしまう疾患に「パーキンソン病」がありますが、ペロリックも脳のドーパミンをブロックする事で人工的にパーキンソン病のような状態を作ってしまう事があるのです。これを薬剤性パーキンソニズムと呼び、「錐体外路症状」と呼ばれることもあります。
錐体外路症状は命に直結する副作用ではないものの、患者さんの生活に大きな苦痛が生じるものであり、その発症はできる限り避けなくてはいけません。
また錐体外路症状によっては一度出てしまうとお薬を中止しても消えないものもあります。そのため、これから長い人生がある小児の方には特に起こさないようにすべき副作用になります。
実際ペロリックは「小児では錐体外路症状が発現しやすいため、過量投与にならないよう注意すること」と使用上の注意が書かれています。
高プロラクチン血症というのは、プロラクチンというホルモンが増えてしまう副作用で、これもドーパミンがブロックされるために生じます。
プロラクチンは乳汁を出すホルモンで、本来であれば出産後に上昇するホルモンです。高プロラクチン血症が生じると男性でも胸が張り、乳汁が出てくるようになります。それだけでなく、乳がんや骨粗しょう症のリスクにもなる事が指摘されています。
またペロリックで生じる重篤な副作用としては
- ショック、アナフィラキシー様症状
- 錐体外路症状(後屈頸、眼球側方発作、上肢の伸展、振戦、筋硬直等)
- 意識障害
- 痙攣
- 肝機能障害、黄疸
などがあります。これらは頻度は稀ではありますが注意が必要な副作用になります。
最後にペロリックは
- 妊娠または妊娠している可能性のある方
- 消化管出血・機械的イレウス・消化管穿孔の方
- プロラクチノーマの方
への使用は「禁忌(絶対にダメ)」となっています。
ペロリックは動物実験にて骨格・内臓異常などの催奇形性(赤ちゃんに奇形が生じる現象)が報告されています。そのためヒトにおいても妊娠中は服用する事が出来ません。
また消化管を活発に動かす作用があるため、消化管から出血している方、消化管に腫瘍などのできものが出来てしまい通過障害が生じている方(機械的イレウス)、消化管の壁が破れてしまっている方(穿孔)に用いる事は極めて危険です。
またプロラクチノーマというのは、プロラクチンというホルモンを産生する腫瘍ですが、プロラクチンはドーパミンのはたらきをブロックする事で分泌されやすくなる事が知られています。
という事はドーパミンをブロックするペロリックは、プロラクチンの分泌を更に増やしてしまうリスクがあるため、プロラクチノーマの方は使用する事が出来ません。
5.ペロリックの用法・用量と剤形
ペロリックには、
ペロリック錠 5mg
ペロリック錠 10mg
といった剤形があります。
吐き気は老若男女問わず出現する症状です。小さいお子様やお年寄りが使う事もあるため、多くの剤型が用意されており、どんな方であっても服用できるように工夫されています。
ペロリックの使い方は、
<成人>
通常、1回10mgを1日3回食前に経口投与する。ただし、レボドパ製剤投与時には1回5~10mgを1日3回食前に経口投与する。なお、年令、症状により適宣増減する。<小児>
通常、1日1.0~2.0mg/kgを1日3回食前に分けて経口投与する。なお、年令、体重、症状により適宜増減する。ただし、1日投与量は30mgを超えないこと。また、6才以上の場合は1日最高用量は1.0mg/kgを限度とすること。
となっています。
ペロリックは基本的に食前に投与することが推奨されています。
その理由は食べ物を食べる前に吐き気を抑えてあげた方がいいからと、空腹時に服薬した方が効きに即効性があるからです。
動物実験でペロリックを空腹時(食前)に投与すると、急速に吸収され約15分で血中濃度が最大になる事が示されています。一方で食後にペロリックを投与すると、血中濃度が最大になるまでは30分かかります。
このように食前に服用した方が素早く効果が得られるのです。また食前に服用した方が、その後に食べる食事を嘔吐してしまうというリスクがなくなります。
ただし臨床的には食前に服薬というのは忘れてしまう事も多いため、食後に服用する事も少なくありません。
6.ペロリック錠が向いている人は?
以上から考えて、ペロリックが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ペロリックの特徴をおさらいすると、
・主に末梢性の吐き気を抑える作用に優れる(中枢性にも多少効く)
・脳にお薬が達しにくいため、錐体外路症状や高プロラクチン血症は少なめ
というものでした。
ペロリックは吐き気止めの中でも主に末梢性嘔吐に効果を示す吐き気止めです。そのため安全性を重視して吐き気を抑えたい方にはオススメ出来るお薬になります。
しかし中枢神経への副作用の頻度は多くはないものの、生じないわけではありません。特に長期間服用していたり、高用量を服用しているとこれらの副作用が生じやすくなります。
このような副作用を起こさないためにも、ペロリックは吐き気がある時のみ服用することとして、漫然と長期間服用を続けないように気を付けましょう。
7.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?
ペロリックは「ナウゼリン」というお薬のジェネリック医薬品になります。
ジェネリックは薬価も安く、患者さんにとってメリットが多いように見えます。
しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。
ジェネリックは、先発品と比べて本当に遜色はないのでしょうか。
結論から言ってしまうと、先発品とジェネリックはほぼ同じ効果・効能だと考えて問題ありません。
ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。
発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、
ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。
しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば飲み心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。
これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。この多少の違いが人によっては大きく感じられることもあるため、ジェネリックに変えてから調子が悪いという方は先発品に戻すのも1つの方法になります。
では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。
先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。
しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。
先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてそれが薬価の差になっているのです。
つまりジェネリック医薬品の薬価は莫大な研究開発費がかかっていない分が差し引かれており先発品よりも安くなっているということで、決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。