スローケー錠(一般名:塩化カリウム)は1976年から発売されているお薬になります。
「カリウム」は生体にとって必須の元素の1つです。血中のカリウムイオンの濃度が低くなると、意識が落ちたり不整脈が出たり、力が入りにくかったりと様々な問題が出ます。
スローケーは身体のカリウムイオンが少なくなってしまった時に、カリウムを補うために用いるお薬になります。
スローケー錠の効果や特徴、どのような注意点があってどのような方に向いているお薬なのかについてお話させて頂きます。
目次
1.スローケー錠の特徴
まずはスローケー錠の特徴について、かんたんに紹介します。
スローケー錠はゆっくりと身体に吸収されるカリウム製剤で、足りなくなったカリウムを補ってくれます。
スローケー錠の主成分は塩化カリウム(KCl)とよばれる物質で、これは体内でカリウムイオン(K+)とクロールイオン(Cl-)になり、体内で不足しているカリウムを補ってくれます。
更にスローケーは「スロー(slow)」という名前からも分かるように、ゆっくりと体内に吸収されるような構造のお薬になっています。このようなお薬は「徐放製剤」と呼ばれ、他のカリウム製剤との大きな違いになります。
カリウム不足の時は体内にカリウムを補充する必要があります。しかし、そうはいってもいきなり高濃度のカリウムを入れてしまうと身体はびっくりしてしまいます。特に高濃度のカリウムは胃腸などの消化管を刺激してしまう事が知られています。
胃腸を刺激して胃痛や吐き気を起こしたり、ひどい場合は胃潰瘍を作ったり消化管の動きを悪くしてしまう事もあります。
スローケーはこのような副作用を減らすため、数時間にわたって徐々に塩化カリウムが放出されるような工夫(Wax Matrix構造)が施されています。これにより、このような胃腸系の副作用が少なくなっているという特徴があります。
スローケーのようなカリウム製剤は「低カリウム血症」に用いられます。これは何らかの原因で体内のカリウムが低下してしまう状態の事です。体内のカリウムが低下しすぎると、疲れやすくなったり、脱力が生じたり、不整脈が出たりと様々な症状が出ます。
これらの症状を改善するためにカリウムを補充することは大切ですが、それで満足してはいけません。必ず「カリウムが減少した原因は何か?」と調べ、根本の解決を目指さなくてはいけません。でないと、表面上の低カリウムという問題だけ解決して、重大な原因を見逃してしまう事になるからです。
またカリウム製剤は投与量を慎重に決めるようにしましょう。カリウムは少なくても問題ですが、多くなり過ぎても問題です。高カリウム血症になると重篤な不整脈が生じたり、脱力、しびれなどの神経症状が生じることがあります。
以上からスローケー錠の特徴として次のようなことが挙げられます。
【スローケー錠(塩化カリウム)の特徴】
・低カリウム血症の時に、カリウムを補充してくれるお薬
・ゆっくり吸収される徐放製剤であり、副作用が少ない
・カリウムが低下している根本の原因を調べることを忘れずに
・高カリウム血症に注意
2.スローケー錠はどんな疾患に用いるのか
スローケー錠はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
低カリウム血症の改善
スローケー錠はカリウム製剤ですので、体内のカリウム値が低くなった時に用います。まぁ、当然ですね。
具体的にはカリウム値は血液検査にて判断します。血清カリウムは通常3.5~5.0mEq/Lが正常値です。そのため、この正常値より低く、お薬によるカリウムの補給が必要と判断される場合に投与が検討されます。
実際は3.0mEq/L未満になった時に使われる事が多いと思われます。
具体的な低カリウム血症になる原因としては様々なものがあります。代表的なものを挙げると、
- 頻回の下痢、嘔吐
- カリウムの摂取不足
- お薬の副作用
- 原発性アルドステロン症
などがあります。
意外とあるのが、カリウムの摂取不足です。これは病気ではありませんが、カリウムは野菜や果物に多く含まれているため、これらをほとんど摂取しない場合は低カリウム血症が認められることがあります。
またお薬によっては低カリウム血症を来たすものがありますので注意が必要です。例えば、利尿剤(尿を出すお薬)やステロイド、漢方薬などでは低カリウム血症が副作用として出ることがあります。
原発性アルドステロン症は、アルドステロンというホルモンの分泌が過剰になってしまう疾患です。非常にざっくりというとアルドステロンはナトリウムを吸収し、カリウムを排出するはたらきがあるため、アルドステロンが過剰になるとカリウムが低下してしまうのです。
ちなみにスローケーは用法通りの使い方だと、1日4錠使います。1錠中のカリウムは8mEqですので、1日32mEqがスローケーから補えることになります。
一方で一日に必要なカリウム量は20~40mEqと言われています。
3.スローケー錠にはどのような作用があるのか
スローケー錠はどのような作用があるのでしょうか。
スローケーの作用というのは非常に単純です。
スローケーは「塩化カリウム(KCl)」であり、吸収されると体内ではカリウムイオン(K+)とクロールイオン(Cl-)に分かれます。
カリウムは細胞内に多く含まれるイオンであり、浸透圧の調整や、筋肉・神経の活動に深くかかわっています。
そのため、カリウムが低下すると、
- 脱力
- 倦怠感
- 不整脈
などが出現します。
また塩化カリウムを摂取すると、カリウムだけでなく、クロールも補充できることが分かります。そのため、クロールも低下しているような症例ではより適しています。
具体的には、利尿剤やステロイドの副作用による低カリウム血症は、クロールも同時に低下しているため、塩化カリウムの投与が適しています。
4.スローケー錠の副作用
スローケー錠は本来体内にある「カリウム」を補充するお薬になります。異物を投与するわけではありませんので、副作用は多くはありません。スローケー錠の副作用発生率は2.5%前後と報告されています。
生じうる副作用としては、
- 胃部不快感
- 腹痛
などの胃腸系の副作用がほとんどです。
稀ですが重篤な副作用としては、
- 消化管の閉塞、潰瘍または穿孔
- 心臓伝導障害
などがあります。カリウムは大量に投与すると胃腸系に負担をかけます。これがひどくなると、消化管に潰瘍を作ったり、消化管を破ったりしてしまう事がありうるのです。そのため、スローケーは消化管に通過障害がある方には「禁忌(使っては絶対にダメ)」となっています。
同じくカリウムを大量に摂取すると、高カリウム血症となり重篤な不整脈が生じやすくなります。こちらも注意が必要です。
また体内のカリウムというのは少ないのも問題ですが、逆に多いのも問題です。血中のカリウム濃度値が高くなりすぎると、重篤な不整脈が出現したりすることもあります。
そのため、カリウムを補充する時は、適正な量の補充となるよう医師の指示にしっかりと従うことが大切です。
特に腎臓の機能が悪い方は、カリウムを排出する力が落ちているため、投与量はより慎重に判断して下さい。
また当たり前ですが、カリウム値が高い方やカリウムが高くなる症状を持つ疾患の方にスローケーは絶対に投与してはいけません。
お薬としてはセララ(エプレレノン)を服薬している方はカリウム製剤を併用してはいけません。セララは「カリウム保持性利尿剤」と呼ばれ、カリウムを上昇させるはたらきがあるためです。
副作用ではありませんが、スローケーは徐放製剤という特殊な構造を持ったお薬ですので、稀に有効成分が全部出切ったお薬の「抜け殻」のようなものが便と一緒に排泄されることがあります。患者さんはびっくりされますが、成分はちゃんと体内に吸収されてますので心配しないで大丈夫です。
5.スローケーの用法・用量と剤形
スローケーは、
スローケー錠(塩化カリウム) 600mg
の1剤型のみあります。
スローケー1錠中にはカリウムが8mEq含まれています。
スローケーの使い方は、
通常成人には1回2錠を1日2回、食後経口投与する。年齢、症状により適宜増減する。
となっています。
6.スローケー錠が向いている人は?
以上から考えて、スローケー錠が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
スローケー錠の特徴をおさらいすると、
・低カリウム血症の時に、カリウムを補充してくれるお薬
・ゆっくり吸収される徐放製剤であり、副作用が少ない
・カリウムが低下している根本の原因を調べることを忘れずに
・高カリウム血症に注意
というものでした。
血清カリウム濃度が低い時、それを補正する時に用いられるお薬です。スローケーはカリウム製剤の中でもゆっくり吸収され、副作用が少ないため安全に用いることができます。
カリウム製剤を用いる時、決して忘れてはいけないのが、根本の原因を探すことです。
大抵の場合、血清カリウム値が低下しているのには理由があります。それはお薬の副作用だったり、病気の症状であったり様々です。低カリウム血症を来たすと、様々な症状が出ますから、一時的にカリウム製剤でカリウム値を上げることはもちろん必要な事ですが、一方でカリウム製剤は、「取りあえずお薬でカリウムを上げているだけ」です。
スローケーを使いながらも、根本の原因が何なのかを突き止めることを忘れてはいけません。
お薬の副作用でカリウムが低下しているのであれば、そのお薬を中止すべきでしょう。病気の症状でカリウムが低下しているのであれば、漫然とスローケーを投与し続けるのではなく、その根本の病気の治療を行わなくてはいけません。
スローケーで取り合えずカリウム値を上げると、数値はカリウムは正常化します。しかし根本に対してアプローチをすべきで、表面的な治療を漫然と続けることは良い医療とは言えません。
また投与量は慎重に判断すべきで、逆に高カリウム血症になってしまわないように量を気を付けて投与しなくてはいけません。