プラバスタチンは1989年に発売された「メバロチン」というお薬のジェネリック医薬品になります。脂質異常症の治療薬であり、「スタチン系(HMG-CoA還元酵素阻害薬)」という種類に属します。
主に悪玉(LDL)コレステロールを下げる作用に優れ、LDLが高い高コレステロール血症の患者さんに用いられています。また多少ですが善玉(HDL)コレステロールを上げたり中性脂肪(TG)を下げる作用も持ちます。
プラバスタチンはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに使うお薬なのでしょうか。今回はプラバスタチンの特徴や効果・副作用について紹介します。
目次
1.プラバスタチンの特徴
まずはプラバスタチンの全体的な特徴を紹介します。
プラバスタチンはスタチン系と呼ばれる脂質異常症治療薬で、主に悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を下げる作用に優れます。スタチン系の中での強さは中等度で「スタンダートスタチン」に分類されています。
プラバスタチンをはじめとしたスタチン系(HMG-CoA還元酵素阻害薬)は、主に悪玉コレステロールを下げる作用に優れます。
スタチン系にもいくつかお薬はあるのですが、大きく分けると、
- スタンダードスタチン:LDLを下げる力は中等度
- ストロングスタチン:LDLを下げる力が強力
の2種類があります。
このうち、プラバスタチンはスタンダードスタチンに属し、LDLを下げる力としては中等度になります。
またプラバスタチンには多少ですが、善玉コレステロール(HDL)を上げたり、中性脂肪(TG)を下げる作用もあります。しかしこの作用は強くはなく、臨床の実感としてもこの作用は「あるんだかないんだかよく分からない」という程度のものです。
副作用としては、肝臓に作用するお薬であるため肝臓に負担をかけ、肝機能が悪化してしまう事があります。また腎臓が悪い方が使うと、腎臓を更に傷めたり横紋筋融解症という重篤な副作用が出現してしまう可能性が高くなるため、注意が必要です。
プラバスタチンはジェネリック医薬品であり、先発品のメバロチンと比べると薬価が安いというのも特徴の1つです。
以上からプラバスタチンの特徴として次のような点が挙げられます。
【プラバスタチンの特徴】
・スタンダートスタチンであり、効果の強さは中等度
・悪玉コレステロール(LDL)を下げる作用に優れる
・善玉コレステロール(HDL)を多少上げてくれる
・中性脂肪(TG)を多少下げてくれる
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
2.プラバスタチンはどんな疾患に用いるのか
プラバスタチンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
高脂血症
家族性高コレステロール血症
プラバスタチンは主にLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を下げる作用に優れ、高脂血症の患者さんに用いられます。
プラバスタチンは高脂血症に対してどれくらいの効果があるのでしょうか。
プラバスタチンはジェネリック医薬品であるため、有効性に対する詳しい調査は行われておりません。しかし先発品のメバロチンでは行われており、プラバスタチンの有効性はメバロチンと同程度だと考えられますので、メバロチンの有効性の調査を紹介します。
メバロチンを12週間(約3か月)投与した際の、高コレステロール血症に対する有効率は80.0%と報告されています。さらに最長15カ月まで投与を続けた際には、有効率は87.5%まで上昇する事も確認されています。
では具体的にどのくらいコレステロール値が下がったのかというと、1日2回服用を4週間継続した調査では、
- メバロチン5mg/日だと総コレステロールが11%(悪玉コレステロールは17%)低下
- メバロチン20mg/日だと総コレステロールが19%(悪玉コレステロールは29%)低下
- メバロチン40mg/日だと総コレステロールが25%(悪玉コレステロールは39%)低下
であった事が報告されています。
投与量が増えるほど悪玉コレステロールを低下させる力も強くなる事が分かります。
3.プラバスタチンにはどのような作用があるのか
高コレステロール血症の患者さんの血中コレステロールを下げるために投与されるプラバスタチンですが、どのような機序で高コレステロール血症を改善させるのでしょうか。
プラバスタチンは「HMG-CoA還元酵素阻害薬」と呼ばれるお薬で、その名の通りHMG-CoA還元酵素という酵素のはたらきをブロックし、これがコレステロールを下げる作用になります。
プラバスタチンの具体的な作用機序を紹介します。
Ⅰ.悪玉(LDL)コレステロールを下げる
プラバスタチンをはじめとしたスタチン系は、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を下げる作用に優れます。
HMG-CoA還元酵素というのは、どのような酵素なのでしょうか。
ざっくりと言ってしまうと、HMG-CoA還元酵素は肝臓においてコレステロールを合成する酵素になります。
HMG-CoA還元酵素のはたらきがブロックされると、コレステロールが合成されにくくなりますので、コレステロールが下がるというわけです。
更にコレステロールが少なくなると、コレステロールは重要なエネルギー源でもあるため、身体は「エネルギーが少ないから蓄えなくては!」と考えます。すると肝臓に存在するLDL受容体という悪玉コレステロールを肝臓に取り込む受容体の数を増やし、肝臓に悪玉コレステロール(LDL)をため込もうとします。
これにより血液中の悪玉コレステロールも低下します。
このような機序により、プラバスタチンは悪玉コレステロールを低下させます。
Ⅱ.善玉コレステロールを多少増やす
プラバスタチンはHDLコレステロール、通称「善玉コレステロール」を増やす作用を持ちます。
善玉コレステロールは、動脈硬化を抑えるはたらきを持ちます。具体的には動脈にこびりついてしまっているコレステロールを回収して、肝臓に運ぶはたらきがあるのです。
動脈のコレステロールがこびりついていると、動脈硬化や狭窄の原因になるためHDLコレステロールは高いことが良いと考えられています。
プラバスタチンは善玉コレステロールを増やす作用も報告されています。しかしその程度は弱く、あくまでも補助的な作用にとどまります。
ある調査によるとメバロチン(プラバスタチンの先発品)10mg/日の投与を12週間続けた結果、HDLコレステロールが6%増加した事が報告されています。
Ⅲ.中性脂肪(TG)を多少下げる
プラバスタチンは中性脂肪(TG:トリグリセリド)を多少下げる作用もあります。
これはHMG-CoA還元酵素のはたらきをブロックする事によってコレステロールの合成が低下すると、VLDL(超低密度リポタンパク質)を合成しにくくなくなるためだと考えられています。
VLDLは末梢組織に中性脂肪(TG)を運ぶはたらきがあるため、VLDLが少なくなれば中性脂肪(TG)も少なくなるというわけです。
ある調査によるとメバロチン(プラバスタチンの先発品)10mg/日の投与を12週間続けた結果、TGが6.1%低下した事が報告されています。
Ⅳ.脳梗塞・心筋梗塞のリスクを下げる
高コレステロール血症は、脳梗塞・心筋梗塞といった心血管系イベントの危険因子になります。
これらの疾患はいずれも血管が詰まる事で生じます。脳の血管が詰まれば脳梗塞が生じ、心臓を栄養する冠動脈が詰まれば心筋梗塞が生じます。
血管が詰まる原因はいくつかありますが、その1つとして血管内壁にコレステロールが沈着してしまう事が挙げられます。
コレステロールが沈着すれば、その分だけ血管の内腔が狭くなるため血管が詰まりやすくなってしまうのです。また付着したコレステロールは血栓などを誘発しやすいため、これも血管を詰まらせる原因になります。
プラバスタチンをはじめとしたスタチン系はコレステロールを下げることで、血管内壁にコレステロールが沈着する事も予防してくれます。これにより脳梗塞・心筋梗塞を予防する事ができるのです。
動物実験でウサギにメバロチン(プラバスタチンの先発品)を24週間投与した群と何も投与しなかった群では、前者の方が冠動脈の動脈硬化・狭窄が少なかった事が示されています。
4.プラバスタチンの副作用
プラバスタチンにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
プラバスタチンは複数の製薬会社から発売されているジェネリック医薬品で、そのうちの1つの副作用発生率は2.93%と報告されています。また先発品のメバロチンの副作用発生率は3.09%と報告されており、おおよそ同程度の副作用発生率だと考えられます。
プラバスタチンをはじめとしたスタチン系は副作用は少なく安全性に優れるお薬です。
生じうる副作用としては、
- 発疹
- 胃不快感
- 下痢
などが報告されています。
また検査値の異常として、
- 肝胆道系酵素の上昇(AST、ALT、γ-GTP、ALP上昇)
- CK(CPK)上昇
- 尿酸値上昇
などが報告されています。
プラバスタチンをはじめとしたスタチン系は肝臓に負担をかけてしまうことがあります。また頻度は稀ですが、横紋筋融解症という筋肉を壊してしまう副作用が生じる事もあり、これにより筋肉中のCK(CPK)が血液中に放出され、上昇する事があります。
スタチンを服用中は、定期的に血液検査などで肝臓の数値を確認しておく事が望まれます。特に投与初期は投与開始後3か月前後を目安に必ず確認するようにしましょう。
頻度は稀ですが、注意すべき重篤な副作用として、
- 横紋筋融解症
- 肝障害
- 血小板減少
- 間質性肺炎
- ミオパチー
- 末梢神経障害
- 過敏症状(血管浮腫やアナフィラキシーなど)
などが報告されています。
横紋筋融解症は、筋肉が破壊されて筋肉中の酵素(CK)が腎臓に流れて腎障害を生じる疾患です。特に腎機能が元々悪い方に生じやすいため、腎機能が悪い方は慎重に投与する方が良いでしょう。
プラバスタチンを使ってはいけない患者さん(禁忌)としては、
- プラバスタチンの成分に対し過敏症の既往のある方
- 妊婦さん又は妊娠している可能性のある方
- 授乳婦
が挙げられています。
プラバスタチンは動物実験において出生児数の減少や発育への影響、生存率の低下などが報告されています。人間で同様の副作用が生じるかは不明ですが、このような報告から妊婦さんへの投与は禁忌となっております。
プラバスタチンは乳汁中に移行する事が分かっているため、授乳中の方が服用するとお薬の成分が乳汁を通じて赤ちゃんにまで届いてしまいます。そのためプラバスタチンは授乳婦さんも服用は禁忌となっております。
また原則禁忌(基本的には使ってはいけないが、やむを得ない場合のみ慎重に使用できる)として、
- 腎機能に異常を認める方にプラバスタチンとフィブラート系を併用する事
が挙げられています。
プラバスタチンをはじめとしたスタチン系とフィブラートはともに横紋筋融解症を稀ながら生じるリスクがあるお薬です(フィブラート系も脂質異常症の治療薬です)。
両者を併用する事で横紋筋融解症のリスクが高まる可能性があり、また腎機能が悪いとお薬が身体から抜けにくいため、よりリスクが高まる可能性があるため、原則として腎機能が悪い方に両者を併用する事は出来ません。
しかし最近の研究では両者を併用しても横紋筋融解症の発症リスクは上がらないという報告もあり、必要な症例においては両者を慎重に併用することもあります。
5.プラバスタチンの用法・用量と剤形
プラバスタチンには、
プラバスタチン錠 5mg
プラバスタチン錠 10mg
といった剤型が発売されています。
プラバスタチンの使い方は、
通常、成人には1日10mgを1回又は2回に分け経口投与する。なお、年齢・症状により適宜増減するが、重症の場合は1日20mgまで増量できる。
と書かれています。
プラバスタチンのようなスタチン系は原則として夕方の服用が推奨されています。
この理由はコレステロールの合成は主に夜間に行われるためです。夕方に投与した方が夜間にしっかりと効かせる事が出来るため、コレステロールの合成を効率よく抑える事が出来るのです。
またプラバスタチンは食事の影響をほとんど受けないため、食前・食後のいずれに服用しても問題ありません。
6.プラバスタチンが向いている人は?
以上から考えて、プラバスタチンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
プラバスタチンの特徴をおさらいすると、
・スタンダートスタチンであり、効果の強さは中等度
・悪玉コレステロール(LDL)を下げる作用に優れる
・善玉コレステロール(HDL)を多少上げてくれる
・中性脂肪(TG)を多少下げてくれる
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い
などがありました。
ここから、
・特に悪玉(LDL)コレステロールが高い方
に向いているお薬になります。
更に脳梗塞・心筋梗塞といった心血管イベントを抑えてくれる作用がありますので、脳梗塞や心筋梗塞の既往があり、悪玉コレステロールも高値である方は服用が強く望まれます。
プラバスタチンはジェネリックであり薬価が安いというメリットもありますので、経済的な負担を少なくさせたい方にもおすすめしやすいお薬になります。
ちなみに脂質というと、血液検査で中性脂肪(TG:トリグリセリド)とコレステロール(Chol)の2つがありますが、この2つはどう違うのでしょうか。
中性脂肪は、俗に言う「体脂肪」の脂肪分が血液中に流れているもので、これはエネルギー源として使われます。中性脂肪は体脂肪として貯蔵される事で、いざという時に活動するためのエネルギーになるのです。
一方コレステロールはというと「身体を作るための材料」として使われています。コレステロールは細胞を構成する材料となったり、体内で様々なはたらきをしているホルモンを作る材料となったり、胆汁酸やビタミンの材料となったりします。
中性脂肪もコレステロールも、どちらも身体にとって必要なものですが、過剰になりすぎれば害となります。
7.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?
プラバスタチンは「メバロチン」というお薬のジェネリック医薬品になります。
ジェネリックは薬価も安く、患者さんにとってメリットが多いように見えます。
しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。
ジェネリックは、先発品と比べて本当に遜色はないのでしょうか。
結論から言ってしまうと、先発品とジェネリックはほぼ同じ効果・効能だと考えて問題ありません。
ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。
発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、
ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。
しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば使い心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。
これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。この多少の違いが人によっては大きく感じられることもあるため、ジェネリックに変えてから調子が悪いという方は先発品に戻すのも1つの方法になります。
では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。
先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。
しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。
先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてそれが薬価の差になっているのです。
つまりジェネリック医薬品の薬価は莫大な研究開発費がかかっていない分が差し引かれており先発品よりも安くなっているということで、決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。