プラザキサカプセル(一般名:ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩)は2011年に発売された抗凝固薬で、「直接トロンビン阻害薬」という種類に属します。
抗凝固薬というのは、血液の「凝固(固まること)」を抑えるお薬です。血液は必要な時に固まる事で、身体の外に血液が出血しすぎないように抑えてくれるはたらきを持っています。しかしこの作用が血管の中で生じてしまうと血栓となり、血管を詰まらせてしまいます。
これを抑えるのが抗凝固薬です。抗凝固薬は血管内で血栓が出来ないように役立ちますが、反対に傷からの出血が止まりにくくなってしまうというデメリットもあります。
以前は抗凝固薬と言うと「ワーファリン」というお薬しかありませんでしたが、最近では「新規経口抗凝固薬(NovelOralAntiCoagulants:NOAC)」と呼ばれる新しい抗凝固薬が次々と発売され、プラザキサもその1つとなります。
血液を固まりにくくするお薬にも、「抗血小板薬」「抗凝固薬」などいくつかの種類があります。また抗凝固薬にも何種類かのお薬があります。
この中でプラザキサはどんな特徴のある抗凝固薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのでしょうか。プラザキサ錠の効果・特徴や副作用についてみていきましょう。
目次
1.プラザキサの特徴
まずはプラザキサというお薬の特徴についてみてみましょう。
プラザキサは、「新規経口抗凝固薬(NovelOralAntiCoagulants:NOAC)」と呼ばれる、新しいタイプの抗凝固薬になります。
以前は、抗凝固薬には「ワーファリン」というお薬しかありませんでした。ワーファリンは良いお薬ですが、
- 納豆・クロレラなど相互作用する食品が多い
- 頻回に血液検査をして効き具合を確認しないといけない
- 効きすぎて反対に出血がを生じてしまうことがある
などといった問題点がありました。これらを改善するために開発されたのがNOACです。NOACにはプラザキサ(ダビガトラン)の他、
- エリキュース(一般名:アピキサバン)
- イグザレルト(一般名:リバーロキサバン)
- リクシアナ(一般名:エドキサバン)
などがあります。
NOACは、ワーファリンと比べて、
- 納豆・クロレラなどを食べても大丈夫
- 定期的に血液検査で効きを確認する必要がない
というメリットがあり、またワーファリンよりもピンポイントで血液を固まらせる因子をブロックするため、出血の副作用も少なめになっています(起こさないわけではありません)。
しかし、デメリットとしては
- ワーファリンと比べて薬価が高い
- 血液検査で効きを測れない
という事が挙げられます。
プラザキサはNOACの中でも一番最初に発売されたお薬で、
- 一番初めに発売されたNOAC
- カプセル剤であること
- 1日2回の服用が必要である事
といった特徴があります。
プラザキサは2011年に発売されました。ワーファリンが発売されたのが1962年ですから約50年ぶりの新しい抗凝固薬として発売時は大きな注目を浴びました。
プラザキサはカプセル剤になります。カプセル剤は人によっては特にデメリットにはなりませんが、錠剤と比べて飲みにくいと感じる方もいらっしゃいます。また錠剤のように割ったりすることが出来ないという特徴があります。
抗凝固薬の中には1日1回の服用で良いものもありますが、プラザキサは1日2回の服用が必要で、やや手間となります。
以上からプラザキサの特徴として次のような事が挙げられます。
【プラザキサ(ダビガトラン)の特徴】
・心房細動で血栓ができるのを抑えてくれる
・(ワーファリンと比べて)食事制限がない
・(ワーファリンと比べて)血液検査を頻回にする必要がない
・(ワーファリンと比べて)値段が高い
・1日2回の服用が必要
2.プラザキサはどんな疾患に用いるのか
プラザキサはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
とても難しい用語が並んでいますね。
プラザキサは基本的には「心房細動」という疾患の方に用いられます。非弁膜症性というのは、大動脈弁狭窄症などの弁膜疾患が原因でない心房細動ということで、要するに「弁に原因があるわけではない普通の心房細動」ということです。
心房細動という疾患は、心臓にある部屋の1つである「心房」が不規則に収縮してしまう疾患です。心臓は本来、洞結節という部位から信号が発信され、規則的に収縮するのですが、心房細動では心房が勝手に収縮してしまうため、規則的な収縮が行われません。
不規則に収縮するため、心臓の中で乱流が生まれてしまい、乱流によって血栓(血の塊)が作られやすくなります。これが心臓から全身に飛んでしまうと大きな問題を起こします。
血栓が脳に飛んでしまうと脳梗塞(虚血性脳卒中)が起こりますし、心臓を栄養する冠動脈に飛べば心筋梗塞を起こします。
心房細動の方が脳梗塞を起こす頻度は、心房細動のない方の約5倍とも言われています。
プラザキサは血液を固まりにくくすることで、心房内に乱流が起こっていても血栓が出来ないようにします。すると、脳梗塞などを起こしにくくなるというわけです。
プラザキサは古くからある代表的な抗凝固薬であるワーファリンと比べて、血栓を抑制する効果が劣っていない(非劣性)が確認されています。
非弁膜症性心房細動の患者さんに抗凝固薬を使用し、脳卒中などの塞栓症の発症率を調べた試験では、
- プラザキサ110mg1日2回投与では、塞栓症の発症率は1.53%
- プラザキサ150mg1日2回投与では、塞栓症の発症率は1.10%
- ワーファリン投与では、塞栓症の発症率は1.68%
と報告されており、ワーファリンと比べてもその効果は劣っていません。
3.プラザキサの作用機序
プラザキサはどのような機序で血液を固まりにくくしているのでしょうか。
血液が固まるためには、血液凝固因子という物質が関わっており、これらが複雑に作用して血液の凝固が生じます(これを凝固カスケードと呼びます)。
凝固カスケードの詳細な機序はここでは省略しますが、その凝固因子の1つである「第Ⅱ因子(トロンビン)」のはたらきをブロックするのがプラザキサのはたらきです。
第Ⅱ因子(トロンビン)はフィブリノゲンという物質をフィブリンに変換するはたらきがあります。フィブリンは繊維状タンパク質で、血餅を作り血液を固めるために役立ちます。
プラザキサによって第Ⅱ因子のはたらきがブロックされると、フィブリンが作れなくなります。すると血餅を作れなくなり、血液が固まりにくくなるというわけです。
4.プラザキサの副作用
プラザキサにはどのような副作用があるのでしょうか。
プラザキサの副作用発生率は21.4%と報告されています。
プラザキサは血液を固まりにくくすることで、血栓を防ぐ作用を持っており、これが時に副作用としてはたらいてしまいます。
具体的には「出血」が主な副作用になります。血液が固まりにくくなれば、血栓は出来なくなりますが、出血はしやすくなります。
そのため、元々問題となるような出血傾向のある方や、出血リスクの高い方はプラザキサの使用は推奨されないこともあります。
具体的な出血の副作用としては、
- 鼻出血
- 血尿
- 血腫
- 貧血
- 皮下出血
- 結膜出血
などが報告されています。これらの副作用が生じた場合は、プラザキサが効きすぎている可能性もありますので、主治医に速やかに報告する必要があります。
その他の副作用としては、
- 消化不良
- 下痢
- 上腹部通
- 悪心
- 胸痛
などが報告されています。
このように胃腸系の副作用が時に生じますが、これらは胃腸といった消化管からの出血に伴って生じている可能性もあるため、これらの副作用が続く場合は消化管出血が生じていないか確認する必要もあります。
また、頻度は少ないですが重篤な副作用として
- 頭蓋内出血(脳内で出血してしまう)
- 消化管出血(胃や腸管から出血してしまう)
- 間質性肺疾患
- アナフィラキシー(蕁麻疹,顔面腫脹,呼吸困難など)
などが報告されています。
プラザキサは古い抗凝固剤であるワーファリンと異なり、定期的に血液検査をしてお薬の効きを確認することをする必要がなく、これは手間を少なく出来るというメリットになります。
しかし逆に言うと、ワーファリンはプロトロンビン時間(PT)値を見て、効きを判断できますが、プラザキサは効きを確実に判断できる数値がないため、臨床所見から慎重に判断しないといけません。
プラザキサを使用してはいけない方(禁忌)としては、
- プラザキサの成分に対し過敏症の既往歴のある方
- 透析患者を含む高度の腎障害の方
- 出血症状のある方、出血性素因のある方、止血障害のある方
- 臨床的に問題となる出血リスクのある器質的病変(6ヶ月以内の出血性脳卒中を含む)の方
- 脊椎・硬膜外カテーテルを留置している方及び抜去後1時間以内の方
- イトラコナゾール(経口剤)を投与中の方
が挙げられています。
プラザキサは主に腎臓から排泄されるため、腎臓の機能が極めて悪い方は排泄されにくく、プラザキサの血中濃度が上がりすぎてしまう事があります。血中濃度が上がりすぎれば出血リスクも上がるという事で危険になります。
そのため、高度の腎障害の方(クレアチニンクリアランス30mL/min未満の方)はプラザキサを使う事は出来ません。
またプラザキサは血栓を防ぐと同時に、出血リスクを高めるお薬であるため、元々出血リスクの高い方は服用する事ができません。
脊髄・硬膜外カテーテルの留置中の方も脊髄血腫や硬膜外血腫といった重篤な出血のリスクを高めてしまうためプラザキサは使用できません。
イトラコナゾール(商品名:イトリゾール)はプラザキサと相互作用し、血中濃度を高めてしまう作用がある事が確認されています。これもプラザキサの出血リスクを高めてしまうため両者を併用する事は出来ません。
5.プラザキサの用法・用量と剤形
プラザキサは、
プラザキサカプセル 75mg
プラザキサカプセル 110mg
の2剤形があります。
またプラザキサの用法・用量は次のようになります。
通常、成人には1回150mgを1日2回経口投与する。なお、必要に応じて、1回110mgを1日2回投与へ減量すること
具体的に、用量の減量をすべきケースには以下が該当します。
・中等度の腎障害(クレアチニンクリアランス30~50mL/min)のある患者
・P糖蛋白阻害剤(経口剤)を併用している患者
・70歳以上の患者
・消化管出血の既往を有する患者
先ほども説明した通り、プラザキサはほとんどが腎臓から排泄されるため、腎臓の機能が悪い方ではプラザキサの血中濃度が上がってしまう可能性があります。そのため、そのような方ではプラザキサは減量して投与する必要があるのです
P糖蛋白阻害剤というお薬は、プラザキサと相互作用する事でプラザキサの血中濃度を上げてしまう事が報告されており、このようなお薬と併用する際もプラザキサを減量する必要があります。
代表的なP糖蛋白阻害剤には、
- ワソラン(一般名:ベラパミル)
- ジゴキシン(一般名:ジギタリス)
- アンカロン(一般名:アミオダロン塩酸塩)
- キニジン(一般名:キニジン硫酸塩)
- プログラフ(一般名:タクロリムス)
- ネオーラル(一般名:シクロスポリン)
- ノービア(一般名:リトナビル)
- ビラセプト(一般名:ネルフィナビル)
- インビラーゼ(一般名:サキナビル)
- クラリス(一般名:クラリスロマイシン)
などがあります。
6.プラザキサを休薬する際の休薬期間
プラザキサのような出血しやすくなるお薬は、手術などを行う前には休薬(お薬を中止する事)する必要があります。
手術はただでさえ出血量が問題となりますので、プラザキサを服用したまま手術をしてしまうと出血多量になってしまうリスクが高まり、危険だからです。
手術前にプラザキサを中止する場合、どのくらい前から中止すればいいのでしょうか。
詳細な指示は主治医から受けるべきですが、一般的な回答としては、
- 一般的な手術であれば、1日(24時間)前から
- 重大な手術であれば2日前から
中止します。
7.ワーファリンとNOACの比較
ワーファリンは1962年に発売された抗凝固薬です。対してNOACは2011年から発売されるようになった比較的新しい抗凝固薬です。
実は2011年に初のNOACであるプラザキサ(一般名:ダビガトラン)が発売されるまで約50年間、飲み薬の抗凝固薬にはワーファリンしかありませんでした。
ちなみにNOACには、
- プラザキサ(一般名:タビガトラン)
- エリキュース(一般名:アピキサバン)
- イグザレルト(一般名:リバーロキサバン)
- リクシアナ(一般名:エドキサバン)
などがあります。
ではワーファリンとNOACはそれぞれどのような特徴があるのでしょうか。
それぞれの特徴を紹介します。
【ワーファリン】
・50年以上の歴史があるお薬
・血液検査で定期的にPTを測定しないといけない
・納豆・青汁・クロレラなどビタミンKを多く含む食べ物は食べてはいけない
・薬価が安い
【NOAC】
・お薬としての歴史はまだ浅い
・血液検査で効きを測定する必要がない
・ビタミンKを含む食べ物を食べてもいい
・ワーファリンよりも出血リスクは全体的に低い
・薬価は高い
簡単に言えば、手間はかかし制約も多いけどお薬代が安いのがワーファリンです。反対に血液検査などの手間がかからず、食べ物の制約などもないけどお薬代が高いのがNOACです。
8.プラザキサが向いている人は?
以上から考えて、プラザキサが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
プラザキサの特徴をおさらいすると、
・心房細動で血栓ができるのを抑えてくれる
・(ワーファリンと比べて)食事制限がない
・(ワーファリンと比べて)血液検査を頻回にする必要がない
・(ワーファリンと比べて)値段が高い
・1日2回の服用が必要
というものでした。
プラザキサは心房細動の患者さんの血栓が出来るのを防ぐお薬になるため、基本的には心房細動の患者さんに使われるお薬になります。
古い抗凝固薬であるワーファリンと比べると、薬価は高いものの全体的な性能は高くなっているため、薬価が高くても良い方はプラザキサなどのNOACから始めるのも良いでしょう。
また、
・納豆・クロレラなどの食事制限をしたくない
・頻回(数か月に1回程度)に採血をしたくない
という方もプラザキサのようなNOACが向いているかもしれません。
NOACは2011年にプラザキサ(ダビガトラン)が発売されたのが最初で、まだ数年の歴史しかないお薬です。徐々にエビデンスも蓄積されてはいますが、1962年より発売されているワーファリンと比べるとエビデンスが少ない点は否めません。
全体的にみてNOACが徐々に主流となってきてはいますが、エビデンスが豊富なお薬を使いたいという事であれば、ワーファリンを選択するのも方法の1つです。
NOACの中でプラザキサは、
- カプセル剤である事
- 1日2回の服用が必要である事
といったデメリットがあります。一番初めに発売されたNOACであるため実績は一番長いのですが、このような使い勝手の悪さから、NOACの中での処方数は多くはありません。
ちなみに血液を固まりにくくするお薬には、「抗凝固薬」と「抗血小板薬」がありますが、これらはどのように異なるのでしょうか。
血液が固まる仕組みには大きく分けて、「一次止血」と「二次止血」があります。一次止血は、血管の傷ついた部位に血小板が集まり、凝集することで行われる止血です。二次止血とは、一次止血が行われた後、よりしっかりと止血するためにフィブリンという物質を作りそれが血餅を作ることで行われる止血です。
ざっくり言えば、一次止血を起こしにくくするのが抗血小板剤で、二次止血を起こしにくくするのが抗凝固剤になります。
原則としては、抗凝固薬は静脈や肺動脈の血栓に用います。抗血小板薬は動脈の血栓に用います。
動脈などの血流が速い部位で生じる血栓というのは血小板が活性化してできることが多いため、抗血小板薬を用いた方が効果が高く、静脈などの血流が遅い部位で生じる血栓はフィブリンによって形成されることが多いため、抗凝固薬を用いた方が効果が高いからです。