プロクトセディル軟膏・坐薬は病院で処方される軟膏で、「痔疾患治療薬」という種類のお薬になります。1966年から発売されています。
その名の通り、痔を改善するために用いられており、お尻に塗るお薬になります。
プロクトセディルは様々な効果を持つお薬であり、現在でも良く用いられている痔の治療薬になります。
プロクトセディル軟膏・坐薬はどのような作用を持っていて、どのような効果が期待できるお薬なのでしょうか。
プロクトセディルの効果・効能や特徴、副作用についてみてみましょう。
目次
1.プロクトセディルの特徴
まずはプロクトセディル軟膏・坐薬の特徴をざっくりと紹介します。
プロクトセディルは痔が出来てしまった部位の炎症を抑えます。特に痛みと出血を抑える作用に優れます。またばい菌をやっつける作用も持ち、これも痔を治すことに役立ちます。
プロクトセディルには、
ヒドロコルチゾン 5mg
フラジオマイシン 7.1mg
ジブカイン 5mg
エスクロシド 10mg
が含まれています。
ヒドロコルチゾンはいわゆる「ステロイド」であり、これは炎症を抑えるはたらきがあります。
フラジオマイシンはアミノグリコシド系という種類の抗生物質になります。ばい菌(細菌)をやっつける作用を持ちます。
ジブカインは局所麻酔薬であり痔の痛みを感じにくくさせ、エスクロシドは痔からの出血を抑えるはたらきがあります。
つまり、プロクトセディルは、ステロイドで痔の炎症を抑え、抗生物質でばい菌をやっつけながら痔を治してくれるお薬になります。また補助的に痛みを抑えたり、出血を抑えるはたらきもあります。
注意点としては、プロクトセディルにステロイドが含まれている事が挙げられます。ステロイドは免疫系に作用する事により感染に弱くしてしまうという特徴があるため、肛門部にウイルス、真菌、結核などの感染がある場合は使用を控えるべきお薬になります。
また長期間漫然と使い続けると、皮膚が薄くなったりといったステロイド特有の副作用が出現してしまう事があるため、長期間の使用はあまり推奨されません。
麻酔薬が配合されているため、痛みは治まりやすいお薬ですが、これはあくまでもお薬で痛みを感じにくくさせているだけだという点も注意が必要です。痛みが治まったことだけに満足して治療に適当になってしまうと、いつまで経っても根本の原因が治療できません。
以上からプロクトセディル軟膏・坐薬の特徴を挙げると、次のようなことが挙げられます。
【プロクトセディル軟膏・坐薬の特徴】
・痔を改善させる治療薬
・傷口の炎症を抑え、傷の治りを早める作用がある
・傷口のばい菌をやっつける作用がある
・麻酔作用があり、傷口の痛みを感じにくくなる
・傷口からの出血を抑える作用がある
・ステロイドを含むため、漫然と長期間は使うべきではない
2.プロクトセディルはどのような疾患に用いるのか
プロクトセディルはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
(プロクトセディル坐薬)
・痔核・裂肛の症状(出血、疼痛、腫脹、痒感)の緩解(プロクトセディル軟膏)
・痔核・裂肛の症状(出血、疼痛、腫脹、痒感)の緩解、肛門周囲の湿疹、皮膚炎
難しく書かれていますがプロクトセディル軟膏・坐薬は、主に痔をはじめとした肛門周囲の炎症性疾患に対して処方されるお薬になります。
坐薬は肛門に直接挿入するため、適応は痔核と裂肛のみになっていますが、軟膏はその周囲の湿疹・皮膚炎にも塗る事ができます。
プロクトセディルは痔疾患の治療薬の中でも、抗生物質を含んでいるという特徴があるため、特に感染にリスクが高い痔や、すでに感染している痔に対して良く用いられます。
3.プロクトセディルにはどのような作用があるのか
プロクトセディルは主に痔を治すために使われますが、どのような作用を持っているのでしょうか。
プロクトセディルには、
- ヒドロコルチゾン
- フラジオマイシン
- ジブカイン
- エスクロシド
の4つの成分が含まれています。そしてこの4つの成分がそれぞれ痔を改善させる作用を持っています。
具体的なプロクトセディルの作用について紹介します。
Ⅰ.抗炎症作用
プロクトセディルにはヒドロコルチゾンが含まれており、これはステロイドになります。ステロイドは傷口の炎症を抑える作用があります。
炎症とは、
- 発赤(赤くなる)
- 熱感(熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛くなる)
といった症状を認める状態で、プロクトセディルはこれを軽減してくれます。
つまり熱感や痛み、腫れを和らげることで痔による不快な症状を軽減してくれるのです。
ただしステロイドは炎症などの症状は抑えてくれますが、身体の免疫力を抑制するため傷の治り自体は遅くしてしまう傾向があります。
炎症症状が強い場合には使うメリットの方が高いため、使うこともありますが、傷に対してどんな時でも万能というお薬ではありませんので、使用すべきかは医師にしっかりと判断してもらう必要があります。
Ⅱ.抗菌作用
プロクトセディルに含まれるフラジオマイシンは、アミノグリコシド系抗生物質です。
フラジオマイシンは「ネオマイシン」とも呼ばれ、抗生物質としてグラム陽性菌・グラム陰性菌に対して幅広く効果を発揮します。
抗生物質には静菌作用(細菌の増殖を抑える)を持つものと、殺菌作用(細菌を殺す)を持つものがありますが、フラジオマイシンは殺菌作用を持つ抗生剤になります。ばい菌の細胞を作る蛋白質の合成をブロックすることによって、ばい菌をやっつけます。
肛門周囲の感染というのは、腸管の菌(大腸菌などのグラム陰性菌)と皮膚の菌(表皮ブドウ球菌などのグラム陽性菌)の両方が原因となる可能性があるため、どちらにも効くフラジオマイシンは同部に適した抗生物質だと言えます。
痔の悪化にばい菌の感染が影響している場合や、治療に当たってばい菌に感染する危険が高そうな方(免疫力が低い高齢者、感染に弱い糖尿病患者さん、免疫抑制剤を使っている方)などでは抗生物質を併用して痔の治療を行った方が良い場合もあり、その場合はフラジオマイシンを含有しているプロクトセディルが役に立ちます。
Ⅲ.麻酔作用
プロクトセディルに含まれる、ジブカインは「局所麻酔薬」になります。
歯医者さんなどで抜歯をするときに「キシロカイン(一般名:リドカイン)」で麻酔をしますが、ジブカインもそれと同系統の局所麻酔薬になります。
痔の症状の1つに「痛み」があり、これはしばしば患者さんを苦しめます。
プロクトセディルはジブカインによる麻酔作用があるため、痛みを軽減してくれます。
ただし、あくまでもお薬によって痛みを感じないようにしているだけで、痛みの原因そのものを治しているわけではありません。
痛みが治まったからとそれだけで安心してしまうのではなく、根本の原因も合わせてしっかりと治すようにしなくてはいけません。
Ⅳ.出血の抑制
痔がひどくなると、傷口から出血してしまう事があります。
プロクトセディルに含まれるエスクロシドは、血管壁を強化し、毛細血管の透過性を低下させる事で出血を抑制する作用があります。
4.プロクトセディルの副作用
プロクトセディル軟膏・坐薬は全身に投与するものではないのでその副作用も局所に留まる事がほとんどです。そのためプロクトセディルの副作用は多くはありません。
しかし多くの成分を配合しているお薬であり、またステロイドも配合しているため一定の注意は必要です。
注意すべき副作用としては、「感作」があります。
感作とは「身体がその物質をアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)だと身体が判断してしまう」ことです。
プロクトセディルに対して感作が生じると、プロクトセディルを塗布した時にアレルギー症状が生じるようになる可能性があります。
具体的な症状としては、
- そう痒
- 発赤
- 腫脹
- 丘疹
- 小水疱
などがあり、プロクトセディルを塗る事でこれらの皮膚症状が生じた場合、感作が生じている可能性がありますので、中止して主治医に相談するようにして下さい。
またプロクトセディルはステロイドを含んでいるため、長期間・大量使用を続けているとホルモンバランスが崩れたり、皮膚の菲薄化(薄くなる事)などが生じる可能性があります。そのため必要な期間のみ使用し、漫然と長期間使用し続けないように気を付けましょう。
更にステロイドは免疫力を抑制するため、感染に弱くなってしまうというデメリットもあります。
フラジオマイシン(抗生物質)を含んでいるため細菌の感染には対応できますが、フラジオマイシンが効かない菌(結核菌など)やウイルス、真菌(カビ)の感染がある場合は、プロクトセディルは用いるべきではありません(禁忌)。
5.プロクトセディルの用量・用法と剤型
プロクトセディルは、
プロクトセディル坐薬 1.84g/個
プロクトセディル軟膏 2g
プロクトセディル軟膏 15g
の2つの剤型があり、軟膏は2gと15gの規格があります。
2gは1回使い切りタイプになり、30gは何回か使えるタイプになります。
プロクトセディルの使い方は、
(坐薬)
通常成人1日1個を1~3回肛門内に挿入する(軟膏)
通常1日1~3回適量を患部に塗布または注入する
と書かれています。
坐薬はそのまま肛門に挿入するだけです。
軟膏は肛門内の痔に対して用いる際は、2gの使い切りタイプの場合、先端が細くなっていますので先端を肛門内に入れてから軟膏を出します。肛門に挿入する前にちょっとだけ軟膏を出しておくと、それが滑りを良くしてくれ、肛門を刺激せずに済みます。
15gのタイプもチューブの先端にアダプターを装着できますので、それを付けてから肛門にアダプター先端を入れて軟膏を出します。15gの場合は何回か使いますので、アダプターが清潔に保てるように気を付けましょう。
肛門外に使う場合は、そのまま軟膏を塗るか、ガーゼなどに軟膏を出してから患部に当てましょう。
6.プロクトセディルが向いている人は?
以上から考えて、プロクトセディルが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
プロクトセディルの特徴をおさらいすると、
・痔を改善させる治療薬
・傷口の炎症を抑え、傷の治りを早める作用がある
・傷口のばい菌をやっつける作用がある
・麻酔作用があり、傷口の痛みを感じにくくなる
・傷口からの出血を抑える作用がある
・ステロイドを含むため、漫然と長期間は使うべきではない
というものでした。
痔は軽度のものであればお薬で創部を治すことで改善しますが、ある程度進行しているものだと手術を行う必要があります。
そのため、基本的にはプロクトセディルをはじめとしたお薬による痔の治療は、軽度の痔疾患が対象となります。
プロクトセディルはステロイドを含んでいるため、特に長期間漫然と使用を続けることは避けるべきで、プロクトセディルを塗っても改善がない場合は、医師の指示をあおぎ、手術なども検討する必要があります。
プロクトセディルの特徴としては抗生物質(フラジオマイシン)を含有しているという点が挙げられるため、
- 感染が疑われる痔疾患
- 感染のリスクが高い痔疾患
に対しては向いているお薬になります。
また、症状の中でも特に痛みを抑える作用と出血を抑える作用に優れることから
- 痛みが強い痔疾患
- 出血が多い痔疾患
に対しても良いお薬になります。
痔の治療はお薬だけでなく生活習慣の改善が一番大切です。
- 座る時間を減らす
- 食事を規則正しく、バランス良く
- 飲酒やタバコを控える
- しっかりと睡眠を取る
- 刺激物(からいものなど)の摂取を控える
など、生活習慣の改善も忘れないようにしましょう。