プロピベリンの効果と副作用【過活動膀胱治療薬】

プロピベリン塩酸塩は、1993年から発売されている「バップフォー」というお薬のジェネリック医薬品になります。

プロピベリンは膀胱の収縮を抑えることで頻尿を改善します。そのため、膀胱の収縮が過剰になっており、それによる頻尿で困っている方(頻尿や過活動膀胱の方)に役立つお薬です。

頻尿を改善するお薬にもいくつかの種類があります。どれも頻尿を改善してくれるものですが、その作用や特徴はそれぞれ多少の違いがあります。

プロピベリンはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。

ここではプロピベリンの特徴や効果・副作用を詳しく説明していきます。

 

1.プロピベリンの特徴

まずはプロピベリンの全体的な特徴を紹介します。

プロピベリンは、膀胱のムスカリン受容体のブロックと、カルシウムチャネルのブロックという2つの作用によって頻尿を改善させてくれるお薬になります。

難しい言い方ですが、これは要するに膀胱の過剰な収縮を2つの異なる機序で改善してくれるということになります。これは1か所にしか作用しないお薬よりもしっかりと効果が期待できますが、一方で副作用も出やすくなる可能性もあります。

デメリットとして、プロピベリンの主成分である「プロピベリン」は頻尿・過活動膀胱改善薬の中では古いお薬になります。新しいお薬(ベシケア、ステーブラ、ウリトスなど)と比べると副作用は多めであり、そのせいもあり近年では処方される頻度は徐々に少なくなってきています。

またプロピベリンはジェネリック医薬品ですので、先発品の「バップフォー」と比べて薬価が安いというメリットもあります。

以上からプロピベリンの特徴として次のような点が挙げられます。

【プロピベリンの特徴】

・ムスカリン受容体とカルシウムチャネルの2つをブロックする事でしっかりと頻尿を改善する
・古いお薬であるため、同系統のお薬に比べて副作用はやや多め
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

 

2.プロピベリンはどのような疾患に用いるのか

プロピベリンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

・下記疾患又は状態における頻尿、尿失禁

神経因性膀胱、神経性頻尿、不安定膀胱、膀胱刺激状態(慢性膀胱炎、慢性前立腺炎)

・過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁

難しい専門用語が並んでいますが、ざっくりと言えば「おしっこの回数が多かったり、おしっこが間に合わない人」に対して、尿の回数を減らすことで改善させる効果があるということです。

過活動膀胱(OAB:OverActive Bladder)という疾患は、膀胱の本来のはたらきである「おしっこを溜めるはたらき(蓄尿能)」が低下してしまう状態です。主に高齢者に多く、少し尿が溜まっただけで排尿筋が収縮してしまい、尿意を感じるため頻尿になってしまうのです。

上記に書かれている神経因性膀胱とは、排尿に関係する神経の障害によって生じる疾患であり、神経因性膀胱によって過活動膀胱になることもあります。

また、不安定膀胱というのは、加齢や前立腺肥大などの神経以外の原因によって尿を十分溜めることが出来なくなる疾患で、不安定膀胱によって過活動膀胱になることもあります。

プロピベリンは、膀胱の異常な収縮を抑えることで蓄尿能を改善させ、過活動膀胱の頻尿に対して効果を発揮します。

ただし、頻尿であれば何にでも使っていいわけではありません。あくまでも膀胱の過剰な収縮が生じている過活動膀胱の頻尿を改善させるというはたらきになります。

別の原因で頻尿が生じているのであれば、プロピベリン以外のお薬の方が適切なことがありますので注意が必要です。

例えば、男性の頻尿であれば過活動膀胱ではなく、前立腺肥大症に伴って生じていることもあります。この場合はまずはプロピベリンではなく、α1遮断薬と呼ばれる、尿道の拡がりを良くするお薬から使用することが推奨されています。前立腺肥大症で尿道が狭くなっているのに、プロピベリンで更に排尿しにくくしてしまうと、かえって症状が悪化してしまう可能性もありますので注意が必要です。

また尿路感染症に伴って頻尿となっているのであれば、治療はプロピベリンのようなお薬ではなく、抗生物質でばい菌をやっつけたり、水分をたくさん取ってばい菌を洗い流すことになります。この場合、プロピベリンを使うことによって尿の出を少なくしてしまうと、かえってばい菌が膀胱に留まりやすくなってしまい、病状が悪化してしまうこともあります。

プロピベリンは過活動膀胱に伴う頻尿には有効なお薬ですが、頻尿全般に使える万能薬ではありません。プロピベリンを使うべき頻尿であるのかどうかは主治医にしっかりと診察してもらい判断してもらいましょう。

ではプロピベリンはこれらの疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。

プロピベリンはジェネリック医薬品ですので有効性に対する詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「バップフォー」では行われており、上記疾患に対する有効率は54.0%と報告されています(有効率:効果を著効、有効、やや有効、不変、悪化の5段階で評価し、有効以上と判定された割合)。

内訳としては、

  • 神経因性膀胱に対する有効率は53.6%
  • 神経性頻尿に対する有効率は52.7%
  • 不安定膀胱に対する有効率は70.0%
  • 刺激膀胱(慢性膀胱炎、慢性前立腺炎)に対する有効率は45.3%

と報告されています。

同じ主成分からなるプロピベリンも同程度の有効率があると考えられます。

 

3.プロピベリンにはどのような作用があるのか

プロピベリンは主に過活動膀胱の症状(頻尿)の改善に用いられます。つまり、尿の回数を少なくする作用があるということです。どのような作用によって尿の回数を少なくしているのでしょうか。

プロピベリンのはたらきは主に二つあります。

一つ目は膀胱の平滑筋という筋肉に存在するムスカリン受容体(アセチルコリン受容体と呼ばれることもあります)のはたらきをブロックするはたらきがあります。

アセチルコリンという物質が膀胱のムスカリン受容体とくっつくと、膀胱は収縮することが知られています。プロピベリンはムスカリン受容体にアセチルコリンがくっつくのをジャマします。そうなると、膀胱が収縮しにくくなるため、頻尿が改善されるというわけです。

また二つ目は、膀胱の平滑筋という筋肉に存在するカルシウムチャネルのはたらきをブロックすることです。

カルシウムチャネルはカルシウムイオンが通る穴のようなものなのですが、カルシウムチャネルを通ってカルシウムイオンが細胞内に流入すると平滑筋は収縮することが知られています。プロピベリンはこれを阻害することで、膀胱の平滑筋の収縮をブロックするのです。

この異なる2つの機序でそれぞれ膀胱の収縮を抑えることで、プロピベリンは頻尿に対して効果を発揮します。

ちなみにムスカリン受容体は、1から5まであり、それぞれ全身に分布しており作用も異なります。

その作用は複雑なのですが、ものすごくざっくりと言うと、

ムスカリン1受容体:主に脳に分布
ムスカリン2受容体:主に心臓に分布
ムスカリン3受容体:主に平滑筋に分布
ムスカリン4受容体:主に脳に分布
ムスカリン5受容体:主に脳に分布

となっています。

プロピベリンは主に膀胱平滑筋に存在するムスカリン3受容体に作用するお薬ですが、その他の臓器に存在するムスカリン受容体にも多少作用してしまいます。そのため、多くの受容体に作用する分だけ副作用も多くなってしまう可能性もあります。

 

4.プロピベリンの副作用

プロピベリンにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。

プロピベリンはジェネリック医薬品ですので副作用に対する詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「バップフォー」では行われており、副作用発生率は9.9%と報告されています。

同じ主成分からなるプロピベリンもこれと同程度の副作用発生率だと考えられます。

先ほど説明した通り、プロピベリンはムスカリン受容体をブロックするお薬です。ムスカリンの中でも膀胱に存在するムスカリン3受容体に作用しやすく作られていますが、多少は他の部位に存在するムスカリン受容体にも作用してしまいます。

そのため、時に副作用が生じることがあります。

報告されている副作用としては、

  • 口渇(口の渇き)
  • 便秘
  • 腹痛
  • 排尿困難
  • 尿閉
  • 眼調節障害
  • 肝機能障害(AST、ALT上昇)

などが挙げられます。

副作用としてもっとも多いものは、抗コリン作用と呼ばれるものです。抗コリン作用というのは、アセチルコリンをブロックするために生じてしまう作用のことです。ちなみにアセチルコリン受容体にはムスカリン受容体とニコチン受容体の2種類があり、ムスカリン受容体はアセチルコリン受容体の一つになります。

プロピベリンがムスカリン受容体のはたらきをブロックしてしまうと、口渇(口の渇き)、便秘、霧視(眼のピントが調節しにくくなる)などが生じる可能性があります。

頻度は低いですが重篤なものとしては尿閉(尿が出なくなる)や不整脈、麻痺性イレウス(腸が麻痺して動かなくなってしまう病気)が生じることもあります。

またバップフォ-は肝臓と一部腎臓で代謝されるため、肝障害・腎障害が生じることがあり、それに伴い血液検査で肝臓系酵素や腎臓系酵素の上昇が認められることがあります。AST、ALTなどの肝臓系酵素やBUN、Crなどの腎臓系酵素の上昇が生じることもあることが報告されています。

特に肝障害や腎障害が元々ある方は特に注意しなければいけませんので、事前に主治医に自分の病気についてしっかりと伝えておきましょう。

また、プロピベリンはカルシウムチャネルをブロックすることにより平滑筋の収縮を抑えるはたらきがあるため、これも副作用となることがあります。具体的には血管の平滑筋の収縮を抑えるため、血圧が下がったり、それに伴い眠気やめまいが生じることもあります。

 

5.プロピベリンの用法・用量と剤形

プロピベリンは次の剤型が発売されています。

プロピベリン錠 10mg
プロピベリン錠 20mg

またプロピベリンの使い方は、

通常成人には20mgを1回1回食後経口投与する。年齢、症状により適宜増減するが、効果不十分の場合は、20mgを1日2回まで増量できる。

と書かれています。

プロピベリンは半減期が約15時間ほどです。そのため、1日1回の服用では効果が不十分の場合は、1日2回に分けて服薬することで効果がより持続することが期待できます。ちなみ半減期とは、お薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、そのお薬の作用時間の一つの目安になる数値です。

また、プロピベリンは食事の影響を受けないことが報告されていますので、添付文書上は食後の服薬が指示されていますが、空腹時(例えば寝る前など)に服薬しても同様の効果が得られます。

 

6.プロピベリンが向いている人は?

以上から考えて、プロピベリンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

プロピベリンの特徴をおさらいすると、

【プロピベリンの特徴】

・ムスカリン受容体とカルシウムチャネルの2つをブロックする事でしっかりと頻尿を改善する
・古いお薬であるため、同系統のお薬に比べて副作用はやや多め
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

などがありました。現在ではより新しい過活動膀胱治療薬が充実してきていますので、まずは新しいお薬から使われることが多くなってきています。新しいお薬の方が副作用が比較的少ないからです。

プロピベリンが検討されるのは、過活動膀胱と診断された方であって、

・他の過活動膀胱治療薬が効かなかった方
・なるべく薬価を安くしたい方

などに対しては良い効果が期待できる可能性があります。