プルゼニド(一般名:センノシド)は下剤であり、主に便秘症の方に用いられているお薬です。1961年発売と非常に古いお薬ですが便秘で困っている患者さんは多いため、現在でも広く用いられています。
プルゼニドは下剤の中でもしっかりとした効果が期待できるお薬です。しかしそうは言っても「プルゼニドを飲んでも効かない!」という方も中にはいらっしゃいます。
プルゼニドが効かない時は、どのような原因が考えられて、どのような対処法を行えばいいのでしょうか。
ここではプルゼニドが効かない時に考えたい原因と対処法について説明させていただきます。
1.プルゼニドの特徴
プルゼニドを服用してもあまり効かない時によくやってしまう間違いは、プルゼニドの量をどんどんと増やしてしまう事です。
もちろん量を増やす事で改善する場合もあります。しかし、安易にどんどんとお薬の量を増やす事はあまり良い方法とは言えません。
大切なのはプルゼニドがどのような便秘に対してどのように効く下剤なのかをしっかりと理解できている事です。
これが分かっていれば、なぜプルゼニドが効かなかったのかも見えやすくなり、適切な対処法も取りやすくなります。
ではプルゼニドはどのような下剤なのでしょうか。
プルゼニドは下剤の中でも「大腸刺激性下剤」という種類に属します。
便秘を改善させるにはいくつかの方法がありますが、下剤の多くは次のどちらかの作用を持ちます。
- 腸内の水分を増やすことで便を柔らかくする
- 大腸を刺激して大腸の動きを活性化させる
前者の作用を持つ下剤は、腸内に水分が不足してしまって便が固くなり便秘になっているような方に適しています。一方で後者の作用を持つ下剤は、寝たきりや運動不足などによって腸管の動きが低下してしまっているような方に適しています。
この中でプルゼニドは大腸を刺激する事で大腸の動きを活性化させ、排便を促すという後者の作用を持ちます。つまり、プルゼニドは大腸の動きが低下して便秘になっている方に向いている下剤だと言う事です。
プルゼニドはセンナという生薬が主成分であり、このセンナが便秘改善に効果を示します。
具体的には、口から入ったプルゼニドはそのまま大腸まで到達し、大腸で腸内細菌に分解され、レインアンスロンという物質を生成します。
レインアンスロンは大腸壁を刺激し、大腸の蠕動運動を亢進させる作用を持ちます。これによって大腸が活発に動くようになると、便がスムーズに大腸から肛門へ輸送されるため、排便が起こりやすくなるというわけです。
大腸を刺激して排便を促すという方法は、強力で確実な効果が期待できる点がメリットです。一方で、この方法を続けていると大腸が次第に刺激に慣れてきてしまい、お薬が段々と効きにくくなっていくというデメリットもあります。
大腸への刺激を慢性的に続けていると、次第に大腸は刺激に反応しなくなり、必要なプルゼニドの量もどんどんと増えてしまいます。このような現象は「耐性」と呼ばれます。
【耐性】
お薬に身体が慣れてきてしまい、お薬の効きが段々悪くなってくること。耐性が生じるとお薬の量を増やさないと効果が得られなくなり、服用量がどんどん増えてしまう危険がある。
以上がプルゼニドの簡単な特徴になります。
まとめるとプルゼニドは、
- 大腸の動きを活性化させる事で排便を促す下剤
- 大腸の動きが低下している方に適している
- 作用は強力で確実
- 漫然と使い続けると耐性が生じる
といった特徴を持つ下剤になります。
2.便秘の原因
次に便秘がどのような原因で生じるのかを見ていきましょう。
プルゼニドは大腸の動きが低下している時に効果的な下剤ですが、便秘はそれ以外の原因で生じる事もあります。
自分の便秘がどのような原因によって生じているのかを再確認しましょう。
Ⅰ.食生活(水分・食物繊維・腸内細菌など)
胃腸は食べ物から必要な栄養を体内に吸収する臓器です。そして、吸収されなかったものは便として排泄されます。
このような役割を持つ臓器ですから、当然食べ物によって便は影響を受けます。つまり便秘は食生活と密接に関わっているという事です。
排便に特に関わっているのが、
- 水分
- 食物繊維
- 善玉菌(乳酸菌などの腸内細菌)
といったものです。
排便をスムーズにするためには、適度な水分が必要です。身体の水分が不足していると、食べ物中の水分のほとんどを身体が吸収してしまいます。すると便中には水分がほとんどなくなってしまいますので、便はカチカチに硬くなってしまい、詰まりやすくなってしまいます。
また野菜や果物に含まれる食物繊維も排便をスムーズにするためには欠かせません。食物繊維は炭水化物の一種ですが、他の炭水化物と異なり体内にほとんど吸収されません。食物繊維は水分を吸収して膨張する作用があるため、これによって大腸を刺激し、腸の動きを活性化させてくれます。
腸内には腸内細菌が生息しています。腸内細菌には腸内環境を整える善玉菌(乳酸菌や酪酸菌など)と、腸内環境を悪化させる悪玉菌(腐敗菌など)があります。善玉菌の割合が少なくなると腸内環境が悪化し、便秘や下痢などの消化器症状が出現しやすくなります。
またたんぱく質を過剰に摂取してしまうと腸内の腐敗菌が多くなり、便秘の原因になってしまう事もあります。
また他にも、
- オリゴ糖
- マグネシウム
なども排便をスムーズにするために良いと言われています。
オリゴ糖は腸内細菌の栄養になるため、オリゴ糖を十分に摂取すると腸内細菌が活性化しやすくなります。
またマグネシウムは腸において水分が体内に吸収されにくくなるようにはたらいてくれます。体内に水分が吸収されにくいという事は水分は腸管に残りやすいという事ですので、その分便が柔らかくなります。
このような排便に良い成分・栄養素の摂取は十分かどうかを確認してみましょう。
Ⅱ.運動不足
身体を動かすと胃腸も動きます。反対に身体をあまり動かさないと胃腸もあまり動かなくなります。
普段身体を適度に動かしている方でも、何らかの疾患で入院して1日中ベッドで寝たきりになってしまうと途端に便秘になります。これは急に身体を動かさなくなったことで、胃腸も動かなくなってしまったためです。
同じように仕事の多くがデスクワークであったりと、あまり身体を動かさないような生活の方は胃腸の動きも低下しているため便秘になりやすいと言えます。
Ⅲ.生活習慣の不規則さ
生活習慣が不規則だと、便秘になりやすくなります。
これにはいくつかの原因がありますが、1つは自律神経のはたらきが乱れてしまうためです。
自律神経とは私たちの身体の状態を自動で調整してくれる神経です。例えば私たちは自分で意識していなくても、心臓は勝手に動いてくれています。ただ動くだけでなく、必要な血液量が多くなると勝手に心拍数は上がってくれます。これは自律神経が自動で調整してくれているのです。
同じように胃腸も、私たちが特に意識しなくても勝手に動いて食べ物を消化・吸収してくれます。
自律神経には、緊張の神経である「交感神経」と、リラックスの神経である「副交感神経」があります。胃腸は副交感神経が活性化している時に動き、交感神経が活性化している時には動きません。
緊張している状況では食べ物を食べたり、排便したりしている場合ではありませんからね。
この自律神経は通常では日中の活動をしている時は交感神経が優位になっており、夜間などリラックスしている時は副交感神経が優位になっています。
ちゃんと規則正しい生活をしていればこのように交感神経と副交感神経のバランスが取れて排便も適正に行われるのですが、寝不足だったり夜更かしをしたりなど生活習慣が不規則だと、交感神経と副交感神経のバランスが崩れます。
毎日遅くまで仕事をしたり、家に帰っても仕事を持ち帰ったり、ストレスを感じていたりすると常に交感神経が活性化してしまい、便秘になりやすくなってしまいます。
また姿勢も大切です。
「猫背」で過ごす事が多い方は、お腹が慢性的に圧迫されているため、腸管の動きも悪くなりやすく、便秘になりがちです。
Ⅳ.大腸の異常
大腸に何らかの疾患があると、正常に腸管が動かなくなり便秘になりやすくなります。
例えば大腸に癌細胞が出来てしまうと(大腸がん)、癌細胞が腸内で増殖し便の通り道を狭めてしまうため、便秘になりやすくなります。
Ⅴ.薬の副作用
お薬によっては副作用として便秘を引き起こすものもあります。
便秘の副作用が生じうる代表的なお薬としては、
- 抗うつ剤
- 抗コリン薬
- 抗ヒスタミン薬
- オピオイド(麻薬)
などが挙げられます。
これらのお薬を服用して便秘が生じている場合は、もちろんプルゼニドのような下剤も有効なのですが、お薬の量を調整したり、他のお薬に変更したりする事で便秘の改善が得られる事もあります。
Ⅵ.便秘を引き起こす疾患
疾患によっては症状として便秘が認められるものもあります。
例えば、
- パーキンソン病
- 甲状腺機能低下症
- 糖尿病
- 脊椎損傷
などが挙げられます。
これらの疾患で便秘が生じている場合は、もちろんプルゼニドのような下剤も有効なのですが、原疾患の治療を行う事で便秘の改善が得られる事もあります。
3.プルゼニドが効かない時の対処法
プルゼニドの作用機序と、一般的な便秘の原因についてみてきました。
以上を踏まえて最後に、便秘に対してプルゼニドが効かない時の対処法について考えてみましょう。
Ⅰ.自分の便秘の原因を再確認しよう
何の原因もなく便秘になる事はありません。
便秘になっているには何らかの原因があるはずであり、その原因によって適した治療法も異なってきます。
- 食生活に問題はないか
- 運動不足はないか
- 生活習慣に不規則さはないか
- 大腸に便秘になるような疾患はないか
- お薬で便秘の副作用が生じるものはないか
- 基礎疾患として便秘の症状が出るものはないか
という事を改めて見直してみましょう。
4~6については、自分だけでは分からない事もあると思いますので、医師に相談しても良いと思います。
自分の便秘の主な原因はどこにあるのかを出来るだけ正確に見極めるようにしましょう。その上で以下の対処法のうち、自分にとって適切なものを選んでいきます。
Ⅱ.食生活・生活習慣の改善
食生活や生活習慣に問題はありませんか。
食事をバランスよく食べる事は排便をスムーズにするためには必須です。
- 水分
- 食物繊維
- 善玉菌(乳酸菌などの腸内細菌)
- オリゴ糖
- マグネシウム
などを積極的に摂取するようにしましょう。ただし腎機能が悪い方はマグネシウムの取り過ぎには注意が必要です。
過度にたんぱく質を摂取しない事も大切です。たんぱく質の過度な摂取は腸管に負担をかけ、下痢や便秘などの腸管異常を引き起こします。
また、生活習慣の改善も大切です。
- 適度に身体を動かす
- 姿勢にも注意
- 生活リズムを規則正しく
といった事を意識しましょう。
Ⅲ.便秘になるお薬の調整・疾患の治療
服用しているお薬で便秘を引き起こすものはないでしょうか。
特に、
- 抗うつ剤
- 抗コリン薬
- 抗ヒスタミン薬
- オピオイド(麻薬)
などは便秘を引き起こしやすい事が知られています。
これらのお薬を服用している場合は、主治医に減薬やお薬を変えるなどの対処が出来ないかを相談してみましょう。
また、
- パーキンソン病
- 甲状腺機能低下症
- 糖尿病
- 脊椎損傷
- 大腸疾患(大腸がんなど)
などの疾患を持っていると、この疾患が便秘を引き起こす事があります。このような場合は、各疾患の治療をしっかり行う事で便秘が改善される事がありますので、やはり主治医とよく相談してみましょう。
Ⅳ.下剤の量の再調整
以上の対処法を行っても改善が得られない場合は、下剤の量の再調整も検討されます。
プルゼニドが多少でも効いていて、大腸の動きが低下している事による便秘である可能性が高い場合はプルゼニドの増薬を検討してみるのも手です。
プルゼニドは1錠12mgですが、まずは1日12~24mg(1~2錠)から開始するのが一般的です。高度の便秘である場合は、最大で1日48mg(4錠)まで増やす事ができます。
またプルゼニドがほとんど効いておらず、大腸の動きが低下している事による便秘でなさそうな場合は他の下剤に変更するのも手になります。
下剤は、
- 腸内の水分を増やすことで便を柔らかくする
- 大腸を刺激して大腸の動きを活性化させる
といういずれかの作用を持つものがあるとお話しましたが、プルゼニドは後者です。
前者に該当する下剤としては、
- マグミット(一般名:酸化マグネシウム)
- アミティーザ(一般名:ルビプロストン)
などがあります。