ラコール配合経腸用液は、1999年から発売されている栄養剤です。
いわゆる栄養ジュースのようなもので、食事が十分に摂取できずに栄養状態が不良になっているような方に栄養補助の目的で処方されます。
もちろんただのジュースではありません。出来るだけ多くの栄養を少ない量で効率よく摂取できるように工夫された栄養剤になります。
ラコールは栄養剤の中でも「半消化態栄養剤」という種類になります。
ラコールは栄養ジュースのようなものですが、「処方薬」であり医師によって処方されるものです。そして通常のお薬と同じように保険適応となるため、市販の栄養ジュースよりも安価で入手する事が出来ます。
ここではラコールの特徴や成分、そしてどのような方に向いている栄養剤なのかなど、ラコールについて詳しく説明させて頂きます。
目次
1.ラコールの特徴
まずはラコールの特徴について、かんたんに紹介します。
ラコールは液体の栄養剤で、栄養不足の方に効率よく栄養を摂取してもらうために処方されます。
同種の他の栄養剤と比べて、味に甘ったるさが少ないため、甘さが苦手な方に好まれています。
ラコールは、何らかの理由で食事が十分に取れなくなってしまった方が効率的に栄養補給できるようにと作られた栄養ジュースになります。
少ない量で高いカロリーを摂取することができるように作られており(1mLで1kcal)、またミネラル・ビタミンなどの微量元素もしっかりと摂取することが出来ます。
基本的に食欲が低下している方が服用する事が多いため、飲みやすさも工夫されています。毎日同じ味のジュースばかり飲んでいると飽きてしまうため、
- ミルクフレーバー
- コーヒーフレーバー
- バナナフレーバー
- コーンフレーバー
と4つのフレーバー(味)が用意されています。
他の栄養剤と比べて、甘さが抑えられており、栄養剤独特の甘ったるさが苦手な方にも飲んでいただきやすいのが利点です。
ちなみに栄養ジュースは市販でも売られています。例えば、有名どころとして「メイバランス」や「カロリーメイト」などがあります。これらとラコールはどのような違いがあるのでしょうか。
一番の違いは、ラコールは処方せんによって処方される「お薬」だという事です。
ラコールは医師の診察によって処方される「医薬品」という扱いになります。そのため医師が必要と判断しなければ処方はされませんが、医薬品ですので保険適応となり、薬価の1~3割の価格で処方してもらう事が出来ます。
一方で市販の栄養剤は「食品」という扱いになるため、誰でも自由に購入できますが、当然売値で買わないといけません。
栄養ジュースは決して安くはないため、この価格の差というのは意外と大きいものです。
ラコールのデメリットとしては「重さ」が挙げられます。200kcalのパウチは約200gほどあるため、薬局から持って帰るのは結構大変です。これはみなさん処方されてから気付く、意外な盲点です。
例えば「ラコールを1日800kcal飲みましょう。1か月分出しておきますね」と先生が処方してくれたとしましょう。1日分800kcalで0.8kgですので、30日分で何と24kgです。
歩いて持って帰るのはとても無理ですよね。車で取りにいかないといけないでしょう。
ラコールは「医薬品」の扱いにはなりますが、各製薬会社が発売している市販の栄養ジュースと比べて含有している成分にそこまで大きな差があるわけではありません。お薬というよりは「栄養を効率良く摂取できる飲料」といったものですから、大きな副作用もありません。
ただし浸透圧の関係から下痢や軟便は生じやすいため、ゆっくりと飲んだり、下痢がひどい場合は薄めて飲む必要があります。
以上からラコールの特徴として次のようなことが挙げられます。
【ラコールの特徴】
・食事が十分に摂取できない方に処方される栄養ジュースである |
2.ラコールの適応疾患と有効率
ラコールはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
一般に、手術後患者の栄養保持に用いることができるが、特に長期にわたり、経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給に使用する。
(経口食により十分な栄養摂取が可能となった場合には、速やかに経口食にきりかえること)
ラコールは、何らかの理由で口からご飯を十分に食べれなくなってしまっている方に対して、栄養補助の目的で使用されます。
代表的なケースとしては、
- 手術後
- 加齢に伴う食欲低下
が挙げられます。
術後は体力も消耗しており、また腸管にあまり負担がかかるような食事は好ましくないため、ラコールのように少量で高い栄養が摂取できる栄養剤が用いられる事があります。
またお年寄りの方が老衰によって食欲が落ちてしまっている時などにもよく用いられています。
高齢者は、加齢とともに食欲が落ちていってしまう事があります。そして食事量が低下する事で体力が低下し、更に食欲が低下していくという悪循環に陥ってしまう事が珍しくありません。
このような時、ご飯などの固形物はなかなか食べれないものですが、ジュースのような液体であれば飲みやすいため、摂取してくれる事もあります。
ラコールはこのような時に役立ち、食欲低下によって老衰がどんどんと進行してしまうという悪循環から脱するのを助けてくれます。
では、ラコールは栄養状態をどのくらいの率で改善させる事が出来るのでしょうか。
消化器疾患と食道がん及び胃がん術後患者さんにラコールを投与し、栄養改善が得られた率は、
- 成人の消化器疾患の患者さんで栄養が改善した率は86.5%
- 小児の消化器疾患の患者さんで栄養が改善した率は84.1%
- 成人の食道がん及び胃がん術後患者さんで栄養が改善した率は87.7%
であったと報告されています。
3.ラコールの含有成分やカロリー
ラコールにはどのような成分が含まれているのでしょうか。またどのくらいのカロリーが摂取できて、栄養素の比率はどのくらいなのでしょうか。
ここではラコールの成分について詳しく説明していきます。
Ⅰ.ラコールのカロリー
ラコールのカロリーは、1mlあたり1kcalです。パウチ1パックで200mlですので、1パックで200kcalが摂取できます。
おおよそですが、お年寄りの方が1日に必要なカロリーというのは1,500~2,000kcal程度になります(活動度や身長・体重・性別によって異なりますので、あくまで目安です)。
単純計算ですが、もしラコールだけでカロリーを補うとすれば、1日1,500~2,000mlほど必要になります。
しかし実際はエネルギーの全てをラコールで補う必要はありません。
食事量が不十分ながらも多少は食べれているという場合は、足りない分だけラコールで補えばいいのです。
実際に1日にラコールを2,000mlも飲んでいる方というのはほとんどいません。栄養ジュースだけを毎日飲み続けるというのは、それはそれでつらいものです。
ほとんどの方はラコールを補助的に使っており、1日2~3パック程度飲んでおり、残りの栄養は食事で補っています。
Ⅱ.3大栄養素の比率
ラコールの3大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)の配合比率はどのくらいでしょうか。
ラコール200ml(200kcal)中の栄養素は次のようになっています。
【栄養素】 | 【グラム数】 | 【カロリー】 | 【比率】 |
炭水化物 | 31.24g | 約125kcal | 約62.5% |
たんぱく質 | 8.76g | 約35kcal | 約17.5% |
脂質 | 4.46g | 約40kcal | 約20.0% |
ちなみに理想的な三大栄養素のバランス(PFC比)は、
- 炭水化物:50~70%
- タンパク質:10~25%
- 脂質:15~30%
と言われています。
ラコールは理想的なPFC比に近づけるように考えて作られているのが分かります。
Ⅲ.ミネラル・ビタミン・微量元素
生きていくのに必要なのはカロリーだけではありません。
ミネラル・ビタミンなどの微量元素も必要です。ラコールはこれらもしっかりと配合されています。
ビタミンとしては200ml(200kcal)で、
【ビタミン】 | 【含有量】 |
ビタミンA | 414IU |
ビタミンD | 27.2IU |
ビタミンE | 1300μg |
ビタミンK | 12.56μg |
ビタミンC | 56.2mg |
ビタミンB1 | 0.76mg |
ビタミンB2 | 0.49mg |
ビタミンB3 | 5.00mg |
ビタミンB6 | 0.75mg |
ビタミンB12 | 0.64μg |
パントテン酸 | 1,916μg |
葉酸 | 75μg |
ビオチン | 7.72μg |
が含まれています。
また電解質(ミネラル)としては、
【ミネラル】 | 【含有量】 |
ナトリウム | 147.6mg |
カリウム | 276mg |
塩素 | 234mg |
カルシウム | 88.0mg |
リン | 88.0mg |
マグネシウム | 38.6mg |
マンガン | 266μg |
銅 | 250μg |
亜鉛 | 1,280μg |
鉄 | 1,250μg |
が含まれています。
4.ラコールの副作用
ラコールにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
ラコールの副作用発生率は27.6%と報告されており、数値自体は低くありません。しかし基本的には栄養素が含まれた飲料になりますから、大きく困るような副作用はほとんど生じません。
生じうる副作用としては、
- 下痢
- 腹部膨満感
- 腹痛
- 悪心、嘔吐
など胃腸系の副作用がほとんどになります。中でも下痢が多くを占めます。
ラコールは腸管がびっくりしないように浸透圧がなるべく体液に近くなるように作られています。しかし体液と全く同じではありません。体液の浸透圧はおおよそ280mOsm前後なのに対し、ラコールの浸透圧は約330~360mOsmになります。
浸透圧について難しい事はよく分からないという方は、「水分は浸透圧の低い方から高い方に移動していく」と理解してください。
腸管に浸透圧の高い液体が流れてくると腸管の浸透圧が上がり、体液は浸透圧の低い細胞内から浸透圧の高い腸管に移動します。すると腸管の水分が多くなり下痢が発症してしまうのです。
この浸透圧の差によって下痢が生じてしまうことがあるのです。
下痢を生じさせないためには、ゆっくり少しずつ飲むようにしたり、薄めて飲むようにすることが有用です。
ラコールを使用してはいけない方については、次の方が挙げられます。
- ラコールの成分に対し過敏症の既往歴のある方
- 牛乳タンパクアレルギーを有する方(牛乳由来のタンパク質が含まれているため)
- イレウスのある方
- 腸管の機能が残存していない方
- 高度の肝・腎障害のある方(肝性昏睡、高窒素血症などを起こすおそれがあるため)
- 重症糖尿病などの糖代謝異常のある方(高血糖、高ケトン血症などを起こすおそれがあるため)
- 先天性アミノ酸代謝異常の方(アシドーシス、嘔吐、意識障害などのアミノ酸代謝異常の症状が発現するおそれがあるため)
5.ラコールの用法・用量と剤形
ラコールは、
ラコールNF配合経腸用液 200ml パウチ
ラコールNF配合経腸用液 400ml バッグ
の2剤型があります。
味は、
- ミルクフレーバー
- コーヒーフレーバー
- バナナフレーバー
- コーンフレーバー
と4種類があります。
ラコールの使い方は、
通常、成人標準量として1日1,200~2,000kcal)を経鼻チューブ、胃瘻又は腸瘻より胃、十二指腸又は空腸に1日12~24時間かけて投与する。投与速度は75~125mL/時間とする。
経口摂取可能な場合は1日1回又は数回に分けて経口投与することもできる。
また投与開始時は、通常1日当たり400kcalを水で希釈(0.5kcal/mL程度)して、低速度(約100mL/時間以下)で投与し、臨床症状に注意しながら増量して3~7日で標準量に達するようにする。
なお、年齢、体重、症状により投与量、投与濃度、投与速度を適宜増減する。
となっています。
胃瘻などから注入する場合は、最初はゆっくり、薄めて投与することとなっています。これは下痢などの副作用を生じにくくするためです。
なおラコールの使用期限は製造後12カ月までです。使用期限はパウチやバッグに記載してありますので必ず確認するようにしましょう。
開封した場合は期限はより短くなり、一度開封したら冷蔵庫など冷所に保存しても24時間以内に使い切る事が推奨されています。
6.栄養剤の種類とラコールの位置づけ
栄養剤にはラコール以外にも様々な種類があります。
そのおおまかな違いや位置づけについて紹介します。
Ⅰ.半消化態栄養剤
栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質)をそのままの状態で含んでいる栄養剤で、液体栄養剤のうちでもっとも通常食に近い形になります。
栄養素をそのまま取るため、味や風味も栄養剤の中では良好なのですが、消化に負担がかかるため、胃腸の消化能力が低下している方には不向きです。
- エンシュアリキッド
- エンシュア・H
- エネーボ
- ラコール
などがあります。
また市販薬としても、
- アイソカル
- テルミール
- ペムパル
- CZ-Hi
- メイバランス
- メディエフ
など多くの種類が各会社から発売されています。
Ⅱ.消化態栄養剤
消化態栄養剤は、半消化態栄養剤よりも一段階消化しやすく作られています。
栄養素のうち、炭水化物と脂質はそのままの状態で含んでいますが、たんぱく質がある程度分解された「低分子ペプチド」「アミノ酸」で構成されています。
そのため胃腸の消化能力が低下している方でも負担少なく栄養を吸収する事が出来ます。
反面でたんぱく質は分解されてしまっている分、味や風味は悪くなります。
医薬品としては、
- ツインライン
があります。
また市販で購入できる食品としては、
- ハイネイーゲル
- ペプタメン
などがあります。
Ⅲ.成分栄養剤
成分栄養剤は、消化態栄養剤よりも更に消化しやすく作られた栄養剤になります。
栄養素のうち、炭水化物と脂質はそのままの状態で含んでいますが、消化が大変な脂質は少量しか含んでいません。
またたんぱく質は最初から最小単位にまで分解されており、「アミノ酸」として存在しています。
そのため胃腸の消化能力が極めて低下している方でも負担少なく栄養を吸収する事が出来ます。
反面で味や風味は期待できません。口から摂取する際にはフレーバーで味付けをしないと飲むのは難しいでしょう。また浸透圧が高くなるため下痢の副作用も多くなります。
医薬品としては、
- エレンタール
があります。
7.ラコールが向いている人は?
以上から考えて、ラコールが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ラコールの特徴をおさらいすると、
【ラコールの特徴】
・食事が十分に摂取できない方に処方される栄養ジュースである |
というものでした。
臨床でラコールが用いられるのは、
- 手術後や体力消耗後などで食欲が十分にない時
- 高齢者の老衰進行などで食欲が低下している時
などが多くなります。
特にお年寄りの方などで、ご飯が十分に食べれない方などにはよく用いられています。このようなケースでは、ご家族が市販の栄養ジュースを購入される事も多いのですが、お店で購入すると結構高額ですので、なるべく安価にしたいという方にもおすすめできます。
味は好みがあり、中には「まずくて飲めない」という方もいらっしゃいます。しかし反対に気に入ってくれる方もいらっしゃり、ここは本当に好みです。
しかしおおむね皆さん1日2~3パウチくらいであれば大きな苦痛はなく飲んで頂けています。
味は4種類あり飽きがこないように工夫されていますが、そうは言っても長期間飲んでいるとだんだん飽きてしまうようで、これは難しいところです。
ラコールは他の栄養剤(エンシュアやエネーボなど)と比べて、甘ったるさが控えられているのが特徴だと感じます。そのため、あの甘ったるさが苦手だという方には好評です。
特にコーン味は甘さがかなり抑えられているため、男性にも人気のフレーバーになります。
ここからラコールは、
- 出来るだけ少ない量の摂取にしたい方
- なるべく甘さが控えられた栄養剤を使いたい方
などに特に適しています。
8.ラコールの薬価
ラコールの魅力の1つは、保険診療になるため安く入手できるという点ですが、実際ラコールはいくらくらいなのでしょうか。
2017年の薬価基準収載では次のように薬価が設定されています。
ラコール 10ml 7.8円
1パウチは200mlですので、156円になります。この価格だと市販の栄養ジューストの値段と大差ありませんが、エンシュアHは保険適応ですので実際はもっと安くなります。
一般的な保険診療の3割負担だと、1パウチ46.8円です。
後期高齢者医療制度に該当する方(75歳以上、あるいは寝たきり等の場合は65歳以上)は1割負担になりますので、1缶15.6円になります。
なお薬価の改訂は定期的に行われているため、ラコールの薬価も今後変更される可能性がありますことをご了承下さい。最新の薬価は、厚生労働省のサイトや製薬会社のサイトにてご確認下さい。