ランツジールコーワ錠(一般名:アセメタシン)は1992年から発売されているお薬です。非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)と呼ばれ、炎症を抑える事で熱を下げたり痛みを抑えたりする作用を持ちます。
NSAIDsにはたくさんの種類があります。どれも大きな違いはありませんが、細かい特徴や作用には違いがあり、医師は痛みの程度や性状に応じて、その患者さんに一番合いそうな痛み止めを処方しています。
NSAIDsの中でランツジールはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここでは、ランツジールの効能や特徴、副作用などを紹介していきます。
目次
1.ランツジールの特徴
まずはランツジールの特徴を紹介します。
ランツジールは熱を下げたり(解熱)、痛みを抑えたり(鎮痛)する作用を持ちます。効果は強めですが薬効は短めです。またプロドラッグであるため副作用が軽減されています。
ランツジールはNSAIDsに属します。NSAIDsの中でも「アリール酢酸系」という種類に属します。
NSAIDsとは「非ステロイド性消炎鎮痛剤」の事で、ステロイド作用を持たない炎症を抑えるお薬の事です。炎症が抑えられると熱を下げたり、痛みを抑えたりといった効果が期待できるため、臨床では主に熱さまし(解熱剤)・痛み止め(鎮痛剤)として用いられています。
ランツジールは、効果は強いけど副作用も多い「インドメタシン」のプロドラッグになります。
プロドラッグというのは身体に吸収されてすぐには作用を発揮せず、作用を発揮したい部位に達した時に作用を発揮するように工夫されたお薬の事です。
具体的に言うと、ランツジールの主成分であるアセメタシン自体は消炎鎮痛作用のない不活性な物質です。しかし体内でインドメタシンに変化し、消炎鎮痛作用を発揮するようになります。
プロドラッグのメリットは、「効かせたい部位にのみ効き、それ以外に部位ではあまり効かない」という事です。これは必要な効果を維持しつつ余計な副作用が少なくなるというメリットになります。
しかし実際はプロドラッグといえども副作用が生じないわけではありませんので、一定の注意は必要になります。
副作用としては、長期使用による胃腸障害に注意しなければいけません。これはランツジールに限らずほとんどのNSAIDsに言えることですが、NSAIDsは胃腸を痛めてしまうリスクのあるお薬になります。
またNSAIDsは喘息を誘発しやすくすることが知られており、喘息の方にはできる限り用いるべきではありません。
服用してから活性代謝物であるインドメタシンの血中濃度が最大になるまでにかかる時間は1~5時間程度であり、そこまで即効性があるわけではありません。半減期(お薬の血中濃度が半分に下がるまでの時間)は約2時間程度と短く、そのため定期的に服用する場合は1日3~4回の服用が推奨されています。
以上からランツジールの特徴として次のような点が挙げられます。
【ランツジールの特徴】
・解熱作用・鎮痛作用は強め
・プロドラッグであり効果の強さの割には副作用が少ない
・副作用の胃腸障害に注意(他のNSAIDsと同様)
・喘息には使えない(他のNSAIDsと同様)
・薬効が短いため、1日3~4回服用する必要がある
2.ランツジールはどのような疾患に用いるのか
ランツジールはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
〇下記疾患並びに症状の消炎・鎮痛
肩関節周囲炎、腰痛症、頸肩腕症候群、変形性関節症、関節リウマチ
〇手術後及び外傷後の消炎・鎮痛
〇下記疾患の解熱・鎮痛
急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)
ランツジールは解熱鎮痛剤であり、炎症を抑える事で熱を下げたり痛みを和らげる作用があります。
そのため用いる疾患は、発熱を来すようなもの、痛みを来すようなものになります。
難しい病名が書かれていますが、大きな認識としては「痛みや熱などが認められる疾患に対して、その症状の緩和に用いる」という認識で良いでしょう。
ランツジールはこれらの疾患に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
ランツジールの有効率は、
- 肩関節周囲炎に対する有効率は50.8%
- 腰痛症に対する有効率は55.3%
- 頸肩腕症候群に対する有効率は50.6%
- 変形性関節症に対する有効率は55.3%
- 関節リウマチに対する有効率は34.5%
- 手術後及び外傷後の炎症・疼痛に対する有効率は52.9%
- 急性上気道炎の解熱・鎮痛に対する有効率は67.3%
と報告されています。
ランツジールを始めとするNSAIDsを使用する際は、これらは根本を治す治療ではなく、あくまでも対症療法に過ぎないことを忘れてはいけません。
対症療法とは「症状だけを抑えている治療法」の事です。あくまでも表面的な症状を感じにくくさせているだけの治療法で根本を治している治療ではない事を忘れてはいけません。
例えば腰の筋力低下によって腰痛が出現している方に対してランツジールを投与すれば、確かに痛みは軽減します。しかしこれは原因である腰部の筋肉低下を治しているわけではなく、あくまでも発痛を起こしにくくしているだけに過ぎません。
対症療法が悪い治療法だということではありませんが、対症療法だけで終わってしまうのは良い治療とは言えません。対症療法と合わせて、根本を治すような治療も併用することが大切です。
例えば先ほどの腰痛であれば、ランツジールを使用しつつも、
- 適度な運動・リハビリをする
- 栄養をしっかり取る
などの根本的な治療法も併せて行う必要があるでしょう。
3.ランツジールにはどのような作用があるのか
ランツジールは「非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)」という種類に属しますが、NSAIDsの作用は、消炎(炎症を抑える)事によって解熱(熱を下げる)と鎮痛(痛みを抑える)ことになります。
ランツジールも他のNSAIDsと同様に鎮痛作用と解熱作用を有しています。その作用機序について説明します。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことで、感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。
ランツジールは、炎症の原因が何であれ、炎症そのものを抑える作用を持ちます。つまり、発赤・熱感・腫脹・疼痛を和らげてくれるという事です。
具体的にどのように作用するのかというと、ランツジールなどのNSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)という物質のはたらきをブロックするはたらきがあります。
COXは、プロスタグランジン(PG)が作られる時に必要な物質であるため、COXがブロックされるとプロスタグランジンが作られにくくなります。
プロスタグランジンは炎症や痛み、発熱を誘発する物質です。そのため、ランツジールがCOXをブロックすると炎症や痛み、発熱が生じにくくなるのです。
4.ランツジールの副作用
ランツジールにはどんな副作用があるのでしょうか。またどの頻度はどのくらいなのでしょうか。
ランツジールの副作用発生率は1.83%と報告されています。
生じうる副作用としては、
- 消化器症状(胃痛、胃部不快感、悪心・嘔吐、下痢など)
- 頭痛
- 浮腫
などが報告されています。
ランツジールをはじめとしたNSAIDsには共通する副作用があります。
もっとも注意すべきなのが「消化管の障害」です。これはNSAIDsがプロスタグランジンの生成を抑制するために生じます。
プロスタグランジンは、胃などの腸管粘膜を保護するはたらきを持っているため、NSAIDsによってこれが抑制されると胃腸が荒れやすくなってしまうのです。これにより、腹痛・吐き気・下痢などが生じる事があります。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- ショック、アナフィラキシー様症状
- 消化管穿孔、消化管出血、消化管潰瘍、腸管の狭窄・閉塞、潰瘍性大腸炎
- 再生不良性貧血、溶結性貧血、骨髄抑制、無顆粒球症
- 中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)、剥離性皮膚炎
- 喘息発作(アスピリン喘息)
- 急性腎不全、間質性自腎炎、ネフローゼ症候群
- 痙攣、昏睡、錯乱
- 性器出血
- うっ血性心不全、肺水腫
- 血管浮腫
- 肝機能障害、黄疸
などが報告されています。これらの副作用は滅多に生じるものではありませんが、報告がないわけではありませんので一応の注意が必要です。
またランツジールは次のような患者さんには投与する事が出来ません(禁忌)。
- 消化性潰瘍のある方(胃潰瘍・十二指腸潰瘍などをより悪化させる)
- 重篤な血液の異常のある方(血液異常を更に悪化させる)
- 重篤な肝障害のある方(肝障害をより悪化させる)
- 重篤な腎障害のある方(腎障害をより悪化させる)
- 重篤な心機能不全のある方(心機能をより悪化させる)
- 重篤な高血圧症の方(高血圧を更に悪化させる)
- 重篤な膵炎の方(膵炎を増悪させる可能性がある)
- ランツジールの成分、インドメタシンまたはサリチル酸系化合物に対して過敏症の既往歴のある方
- アスピリン喘息またはその既往歴のある方(重症喘息発作を誘発する)
- 妊婦又は妊娠している可能性のある方
- トリアムテレン(商品名トリテレン)を投与中の方(腎障害を発症する可能性がある)
また原則禁忌(基本的には使用する事が出来ないが、やむを得ない時のみ慎重に使用して良い)として、
- 小児
が挙げられています。
胃を荒らす可能性のあるお薬ですので、胃腸に潰瘍がある方はそれを更に増悪させる可能性があり用いてはいけません。
また心臓、肝臓、腎臓といった臓器にダメージを与える可能性がありますので、これらの臓器に重篤な機能不全がある場合もランツジールは用いてはいけません。
ランツジールを妊娠後期に投与すると、胎児動脈管収縮、脳内出血、壊死性腸炎、腎機能障害、心室性期外収縮、低血糖などが報告されており、妊娠中は服用してはいけません。
また、NSAIDsは喘息を誘発する危険があるため、できる限り喘息の患者さんには投与しない方が良いでしょう。
5.ランツジールの用法・用量と剤形
ランツジールは次の剤型が発売されています。
ランツジール錠 30mg
また、ランツジールの使い方は使用する疾患によって異なります。
〇下記疾患並びに症状の消炎・鎮痛
肩関節周囲炎、腰痛症、頸肩腕症候群、変形性関節症、関節リウマチ
〇手術後及び外傷後の消炎・鎮痛
に対しては、
通常、成人には1回30mgを1日3~4回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日最高用量は180mgとする。
という使い方です。
また、
〇下記疾患の解熱・鎮痛
急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)
に対しては、
通常、成人には1回量30mgを頓用する。なお、年齢、症状により適宜増減する。ただし、原則として1日2回までとし、1日最大90mgを限度とする。また、空腹時の投与は避けさせることが望ましい。
という使い方になっています。
ランツジールに限らずNSAIDsは空腹時に服用すると胃腸に負担がかかり、胃腸系の副作用(胃痛や胃潰瘍など)が生じやすくなるため、食後の服用が推奨されています。
6.ランツジールが向いている人は?
ランツジールはどのような方に向いているお薬なのでしょうか。
ランツジールの特徴をおさらいすると、
・解熱作用・鎮痛作用は強め
・プロドラッグであり効果の強さの割には副作用が少ない
・副作用の胃腸障害に注意(他のNSAIDsと同様)
・喘息には使えない(他のNSAIDsと同様)
・薬効が短いため、1日3回服用する必要がある
といった特徴がありました。
基本的にNSAIDsは、どれも大きな差はないため、処方する医師が使い慣れているものを処方されることも多々あります。
ランツジールはプロドラッグであり、効果が強い割には副作用が少ないというメリットがあります。しかし薬効が短いため、1日を通して痛みが続くような方には1日3~4回と頻回に服用しなくてはいけず、手間になります。