リカルボン(一般名:ミノドロン酸水和物)は2009年から発売されている骨粗しょう症の治療薬で「ビスホスホネート系」という種類に属します。
骨粗しょう症とは、加齢などに伴い骨がもろくなってしまう疾患です。高齢化社会によって患者さんの数も増えており、現在日本では約1000万人以上の方が骨粗しょう症になっていると推定されています。
骨粗しょう症になると、些細な刺激でも骨折しやすくなったり、骨や関節に痛みが生じやすくなってしまいます。
リカルボンは、このような方に対して骨を丈夫にする作用を持ちます。全体的に見れば安全性に優れるお薬ですが、使用にはいくつかの注意点が必要なお薬でもあります。
骨粗しょう症のお薬にもいくつかの種類があり、それぞれ特徴が異なります。骨粗しょう症治療薬の中でリカルボンはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではリカルボンの特徴や効果・副作用などを紹介していきます。
1.リカルボンの特徴
まずはリカルボンというお薬の全体的なイメージとその特徴をお話します。
リカルボンは破骨細胞(骨を壊す細胞)のはたらきを抑え、骨が破壊されないようにするお薬です。
食道や胃への刺激性があるため、多くの水で服用したり服用後30分は横になれないなどの服用の制限があります。
リカルボンは骨粗しょう症の治療薬で「ビスホスホネート系」という種類に属します。
骨粗しょう症というのは、主に加齢などが原因で骨がもろくなってしまい、転倒などの軽いダメージで骨折しやすい状態になってしまう事です。
骨の形成には、「骨芽細胞(骨を作る細胞)」と「破骨細胞(骨を壊す細胞)」の2つの細胞が関わっています。破骨細胞によって古い骨が壊され、骨芽細胞によって新しい骨が作られるというサイクルで、私たちの骨は常に強度を保てているのです。
しかし骨粗しょう症では骨芽細胞よりも破骨細胞の活性が高くなってしまっており、骨が作られるよりも破壊されるペースが速くなるため、骨がどんどんともろくなってしまいます。
リカルボンは破骨細胞のはたらきを抑える事で、相対的に骨芽細胞のはたらきを高め、これにより骨粗しょう症の改善をはかるお薬になります。
骨の形成を促進するというわけではなく、骨の分解を抑えるという防戦重視のお薬であるため、その作用は強力とは言えません。しかし服用を続けることで穏やかに骨粗しょう症を改善させてくれます。
リカルボンは毎日服用する1mg錠と、月に1回服用する50mg錠があります。どちらも同じくらいの効果ですが月に1回の方が服用の手間が少ないため、好まれています。
リカルボンのデメリットとしては、食道・胃などへの刺激性が挙げられます。リカルボンは食道や胃粘膜に刺激性があるため、これらの粘膜に炎症を起こしてしまい、食道炎・食道潰瘍などを引き起こす事があります。
そのためリカルボンを服用する際には多くの水(180ml程度)で服用し、服用後になるべく早く胃内に到達させるために30分は横になってはいけない事が求められています。
骨粗しょう症の患者さんは高齢者が多く、お水を一気にたくさん飲めなかったり、体力が落ちていて30分も座っていられないという方もいらっしゃいます。このような方にはリカルボンはあまり向かないお薬になります。
以上からリカルボンの特徴として次のような点が挙げられます。
【リカルボンの特徴】
・骨の分解を抑制する事により骨を丈夫にする
・骨粗しょう症による骨折を予防したり、骨の痛みの改善が期待できる
・服用時は多くの水とともに飲み、服用後は30分は横になってはいけない
・毎日服用する1mg製剤と、月に1回服用する50mg製剤がある
2.リカルボンはどのような疾患に用いるのか
リカルボンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
骨粗鬆症
リカルボンは骨粗しょう症の治療薬になりますので、その適応はもちろん「骨粗しょう症」です。
リカルボンは骨粗しょう症の診断をしっかりと確定させてからでないと服用を開始する事は出来ません。
骨粗しょう症は骨がもろくなってしまう疾患ですが、その診断は、
- 椎体または大腿骨近位部の脆弱性骨折
- その他部位の脆弱性骨折があり骨密度が成人平均値の80%未満
- 骨密度が低く、成人平均値の70%以下または-2.5SD以下
のいずれかを満たす事が必要です。
脆弱性骨折というのは、転倒などの軽い外力によって容易に骨折してしまう事です。
特に椎体(背骨)や大腿骨近位部(足の付け根付近)に脆弱性骨折が生じた場合、それだけで骨粗しょう症と診断が出来ます。転倒による腰椎圧迫骨折や大腿骨頸部骨折というのは、骨粗しょう症の患者さんに非常に多い骨折になります。
それ以外の部位で脆弱性骨折が生じた場合は、骨折に加えて骨密度が成人平均値の80%未満である事を確認する必要があります。
また脆弱性骨折が生じていない状態では、骨密度が成人平均値の70%以下であるか、-2.5SD以下であれば診断できます。
ちなみに骨密度はレントゲン撮影やエコー検査などで測定する事が出来ます。
骨粗しょう症に対してリカルボンはどのくらいの効果があるのでしょうか。
骨粗しょう症の患者さんにリカルボンを48週間服用してもらった調査では、
- 腰椎の骨密度が約6.0%増加
- 大腿骨近位部の骨密度が約3.6%増加
した事が報告されています。腰椎も大腿骨近位部も骨粗しょう症の方が良く骨折する部位ですので、これらの部位でしっかりと骨密度の上昇が得られたという事は、骨折リスクを減らす事が出来る事を示しています。
実際、骨粗しょう症患者さんをリカルボンを服用している群とプラセボ(何の成分も入っていない偽薬)を服用している群に分け、それぞれを2年間観察したところ、
- リカルボン服用群の椎体骨折累積発生率は10.4%
- プラセボ服用群の椎体骨折累積発生率は24.0%
とリカルボン服用群で有意に骨折が防止されている事が確認されています。
ちなみに1mg錠の1日1回服用でも、50mg錠の4週に1回服用でもどちらでもほぼ同等の効果が得られる事も確認されています。
3.リカルボンにはどのような作用があるのか
リカルボンはどのような機序によって骨粗しょう症を改善させるのでしょうか。
骨粗しょう症は加齢などによって骨がもろくなってしまい、骨折しやすくなってしまう疾患ですが、骨粗しょう症の治療薬は大きく分けると2つの種類があります。
- 骨形成促進薬:骨の形成を促進する事で骨を強くする
- 骨吸収抑制薬:骨が分解されるのを抑える事で骨が弱くならないようにする
このうち、リカルボンは後者の「骨吸収抑制薬」になります。
リカルボンは服用後、全身の骨組織に沈着します。骨は古くなってくると破骨細胞によって壊されてしまうのですが、破骨細胞がリカルボンの沈着した骨組織を壊す際に、リカルボンは破骨細胞内に取り込まれます。
破骨細胞内に取り込まれると、リカルボンはFPPS(ファルネシルピロリン酸合成酵素)という酵素のはたらきをブロックする作用を発揮します。
FPPSは破骨細胞の細胞骨格を作るのに必要な酵素です。そのため、これがブロックされると破骨細胞は細胞骨格を維持できなくなり、アポトーシス(細胞死)が引き起こされます。
またFPPSは破骨細胞内での情報伝達の役割も持つため、ブロックされると「骨を破壊しなさい」という破骨細胞の主な機能の情報伝達がうまく行えなくなります。これによって破骨細胞の機能が低下します。
このように破骨細胞の機能が低下し、また破骨細胞のアポトーシス(細胞死)が誘導されると、骨が壊されるよりも、骨が作られる率の方が高くなります。
このような機序によって骨がもろくなるのを防ぐのがリカルボンです。
実際、リカルボンを投与すると、骨が破壊されると上昇する尿中NTX、尿中総DPDという検査値が低下する事が確認されています。
4.リカルボンの副作用
リカルボンにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
リカルボンの副作用は、
- 1mg錠で18.6%
- 50mg錠で13.2%
と報告されています。
リカルボンで生じる主な副作用としては、
- 胃・腹部不快感
- 腹痛
- 血中カルシウム減少
- 胃炎
などで、多くは胃腸系の副作用になります。
これはリカルボンが、口腔・食道・胃などの消化管粘膜に刺激性を持つためです。そのため、時にこれらの粘膜を傷付けてしまう事があり、これにより上記の副作用が生じてしまいます。
このような副作用をなるべく生じさせないように、リカルボンは多くの水とともに服用する必要があり、また服用後30分は横になってはいけないという決まりがあります。
またリカルボンは破骨細胞のはたらきを抑えますので、これにより低カルシウム血症が生じる事があります。
破骨細胞は骨を破壊しますので、破骨細胞が活動していると骨に含まれるカルシウムが血中に遊離し、血中カルシウム濃度は増える方向となります。しかしリカルボンによって破骨細胞のはたらきが抑えられると、骨に含まれるカルシウムが血中に遊離しにくくなりますので、その分カルシウムが下がりやすくなるのです。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- 十二指腸潰瘍、胃潰瘍等の上部消化管障害
- 顎骨壊死・顎骨骨髄炎
- 外耳道骨壊死
- 大腿骨転子下及び近位大腿骨骨幹部の非定型骨折
- 肝機能障害、黄疸
- 低カルシウム血症
が報告されています。
リカルボンをはじめとしたビスホスホネート系のお薬には、前述の消化管粘膜に対する刺激性の他に、もう1つ注意すべき副作用があります。
それは「骨の壊死」が生じるリスクが稀ながらあるという事です。特に顎骨壊死には注意が必要で、これは顎の骨が壊死してしまう(死んでしまう)副作用で、特に抜歯などの歯科治療をした際に生じやすい事が知られています。
リカルボンを服用している方で歯科治療をする際は、必ず歯科医にリカルボンを服用している事を伝える必要があります。また現在歯科治療中の方は、可能であればリカルボンの服用は歯科治療が終了してから開始するのが無難でしょう。
リカルボンは次のような方には禁忌(絶対に使ってはダメ)となっていますので注意しましょう。
- 食道狭窄又はアカラシア(食道弛緩不能症)等の食道通過を遅延させる障害のある方
- 服用時に上体を30分以上起こしていることのできない方
- リカルボンの成分または他のビスホスホネート系薬剤に対し過敏症の既往歴のある方
- 低カルシウム血症の患者
- 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
リカルボンは消化管粘膜(特に食道)に対して刺激性がありますので、元々食道の通りが悪くなるような疾患を持っている方は服用する事が出来ません。
食道狭窄症とは文字通り食道が狭窄している疾患です。またアカラシアというのは、食道と胃の堺にある下部食道括約筋という筋肉が緩みにくく、食道から胃に食べ物が移動しにくくなっている疾患です。
またリカルボンは破骨細胞のはたらきを抑える事で血中カルシウムを低下させるリスクがありますので、元々血中カルシウム値が低い低カルシウム血症の方はリカルボンを使用する事は出来ません。
リカルボンは妊娠中ラットにおける動物実験で、胎児出生率の低下や母動物の死亡が報告されています。人でも同様の事が生じる可能性があるため、妊娠中の方への投与も禁忌となっています。
5.リカルボンの用法・用量と剤形
リカルボンは次の剤型が発売されています。
リカルボン錠 1mg
リカルボン錠 50mg
リカルボンの使い方は、
【1mg錠】
通常、成人には1mgを1日に1回、起床時に十分量(約180mL)の水(又はぬるま湯)とともに経口投与する。なお、服用後少なくとも30分は横にならず、飲食(水を除く)並びに他の薬剤の経口摂取も避けること。
【50mg錠】
通常、成人には50mgを4週に1回、起床時に十分量(約180mL)の水(又はぬるま湯)とともに経口投与する。なお、服用後少なくとも30分は横にならず、飲食(水を除く)並びに他の薬剤の経口摂取も避けること。
と書かれています。
リカルボン1mgは毎日服用する必要がありますが、リカルボン50mg錠は月に1回の服用になります。リカルボンは服用後30分は横になれないため、毎日の服用は手間に感じる方も多く、月に1回の50mg製剤の方が人気があります。
リカルボンは服用時に注意点があります。
それは、
- 起床時(朝食の30分以上前)に服用する必要がある
- 180ml程度の水分とともに服用する
- 服用後少なくとも30分は横にならず、他のお薬や食べ物を食べない
という制限がある点です。
リカルボンは口腔内や食道、胃に長く停滞していると口腔潰瘍や食道潰瘍などを生じさせてしまうリスクがあります。そのため、なるべくたくさんの水分と一緒に摂取し、服用後は速やかに消化吸収させるために横にならない事が推奨されています。
またリカルボンは電解質を含んだ食事や飲料と一緒に服用してしまうと、吸収率が低下する可能性があります。そのため何も食べていない状態で服用する事が望ましく、添付文書では起床時の服用が勧められています。
6.リカルボンが向いている人は?
リカルボンはどのような方に向いているお薬なのでしょうか。
リカルボンの特徴をおさらいすると、
・骨の分解を抑制する事により骨を丈夫にする
・骨粗しょう症による骨折を予防したり、骨の痛みの改善が期待できる
・服用時は多くの水とともに飲み、服用後は30分は横になってはいけない
・毎日服用する1mg製剤と、月に1回服用する50mg製剤がある
といった特徴がありました。
リカルボンは全体的に見れば安全性の高いお薬になりますが、服用に当たっていくつかのルールがあるお薬です。
- 起床時(朝食の30分以上前)に服用する必要がある
- 180ml程度の水分とともに服用する
- 服用後少なくとも30分は横にならず、他のお薬や食べ物を食べない
この3つを守れる方でなければ使用するのは難しいでしょう。
例えば水を一気にたくさんは飲めない、30分も座っておく事が出来ない、という場合はリカルボン以外のお薬を選ぶ必要があります。
また毎日服用する1mg製剤と、月に1回の服用である50mg製剤がありますが、現在用いられているのはほとんどが50mg製剤です。
どちらも効果はほとんど同じで、50mg製剤の方が服用の手間が各段に少なくなりますから、メリットが大きいためです。
ただし月に1回だと「飲み忘れてしまう」という方もいらっしゃり、そのような場合には1mg製剤を服用してもらう事もあります。