リクラスト(一般名:ゾレドロン酸水和物)は2016年から発売されているお薬で、骨粗しょう症の治療薬になります。
骨粗しょう症は加齢などに伴って骨がもろくなってしまう疾患です。骨粗しょう症になると、骨折しやすくなったり、骨の痛みが生じやすくなってしまいます。
リクラストは骨粗しょう症のもろくなった骨を丈夫にする作用を持ちます。飲み薬ではなく「注射」のお薬になるため、使用にはいくつか注意すべき点があります。
骨粗しょう症のお薬にもたくさんの種類があり、それぞれメリット・デメリットがあります。
その中でリクラストはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではリクラストの特徴や効果・副作用などを紹介していきます。
1.リクラストの特徴
まずはリクラストの特徴を紹介します。
リクラストは破骨細胞(骨を壊す細胞)のはたらきを抑える作用を持つお薬です。注射剤であり投与時に痛みを伴いますが、1回の注射で1年間効果が持続します。
リクラストは骨粗しょう症の治療薬で「ビスホスホネート系」という種類に属します。
骨粗しょう症は、加齢などによって骨がもろくなってしまい、小さな刺激でも骨折しやすい状態になってしまう事です。
正常な骨の形成は「骨芽細胞(骨を作る細胞)」と「破骨細胞(骨を壊す細胞)」のバランスで成り立っています。破骨細胞によって古い骨が壊され、骨芽細胞によって新しい骨が作られる事で、骨は常に一定の強度が保たれるようになっているのです。
骨粗しょう症ではこのバランスに崩れが生じ、骨芽細胞のはたらきが低下したり、破骨細胞のはたらきが亢進したりしており、これによって骨がもろくなってしまいます。
リクラストのようなビスホスホネート系は、破骨細胞のはたらきを抑える事で相対的に骨芽細胞のはたらきを高め、骨粗しょう症の改善をはかるお薬になります。
骨の形成を促進するというわけではなく、骨の分解を抑えるという防戦重視のお薬であるためその作用は強力ではありませんが、穏やかに骨粗しょう症を改善させてくれます。
ビスホスホネート系のお薬にもいくつかの種類がありますが、その中でのリクラストの特徴としては、
- 注射製剤である
- 1回注射すると1年間効果が持続する
- 投与後数日は副作用が起こりやすい
といった事が挙げられます。
骨粗しょう症のお薬には飲み薬もありますが、リクラストは注射剤になります。
注射というと痛いイメージがあるため、抵抗を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。確かに針を刺すわけですからある程度の痛みを伴うのは事実ですが、注射剤だからこそのメリットもあります。
ビスホスホネート系の飲み薬は、服用後30分は横になってはいけないという決まりがあります。
これはビスホスホネート系が口腔・食道・胃などの消化管粘膜に刺激性を持つためです。服用後すぐに横になってしまうと、お薬の成分が食道や胃に残留してしまうため、消化管粘膜を傷付けてしまいやすいのです。
しかし骨粗しょう症の治療対象となる方は、体力が低下していて長時間座っていられない高齢者も多くいらっしゃいます。このような方に30分横にならないで我慢してもらうのは結構大変です。
一方でリクラストはビスホスホネート系ですが、注射剤でお薬が消化管を通過しないため、投与中・投与後に横になっても問題ありません。そのため体力が低下して30分も座っていられないような方にも投与する事が出来ます。
またリクラストは作用時間が極めて長いというメリットもあります。投与されたリクラストは長期間にわたり骨組織に沈着し続ける事が確認されており、1回の投与でなんと1年間も効果が持続します。
そのため1年に1回病院にいって注射をしてもらえばいいというお薬になり、手間も少なく治療が行えます。
リクラストは投与後2~3日は副作用が生じやすいというデメリットもあります。特に多いのが風邪のような症状で、発熱、倦怠感、関節痛といった症状が注射後に見られる事があります。
以上からリクラストの特徴として次のような点が挙げられます。
【リクラストの特徴】
・骨の分解を抑制する事により骨を丈夫にする
・骨粗しょう症による骨折を予防したり、痛みの改善が期待できる
・飲み薬のビスホスホネートと異なり、投与中・投与後に横になっても良い
・注射剤であり、投与時に痛みを伴う
・1回の注射で1年間効果が持続する
・投与後数日は風邪症状のような副作用が生じやすい
2.リクラストはどのような疾患に用いるのか
リクラストはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
骨粗鬆症
リクラストは骨粗しょう症の治療薬になりますので、その適応はもちろん「骨粗しょう症」です。投与にあたっては骨粗しょう症の診断をしっかりと確定させてから開始する必要があります。
リクラストは骨粗しょう症をどのくらい改善させてくれるのでしょうか。
骨粗しょう症の患者さんに対してリクラストまたはプラセボ(何の成分も入っていない偽薬)をそれぞれ2年間投与した調査では、
- 新規椎体骨折の発生率はリクラストで3.3%に対して、プラセボで9.7%
- 非椎体骨折の発生率はリクラストで6.9%に対して、プラセボで12.3%
と、リクラストはプラセボに対して有意に骨折の発症を抑制した事が確認されています。
また同様に骨粗しょう症の患者さんに対してリクラストまたはプラセボをそれぞれ2年間投与した調査では、
- 腰椎の骨密度はリクラストで8.60%増加、プラセボで0.58%増加
- 大腿骨近位部の骨密度はリクラストで3.30%増加、プラセボで0.73%減少
- 大腿骨頸部の骨密度はリクラストで3.63%増加、プラセボで0.44%減少
とリクラストはプラセボに対して有意に骨密度を増加させる事も確認されています。
3.リクラストにはどのような作用があるのか
リクラストはどのような機序によって骨粗しょう症を改善させているのでしょうか。
骨粗しょう症は加齢などによって骨がもろくなってしまい、骨折しやすくなってしまう疾患ですが、骨粗しょう症の治療薬は大きく分けると2つの種類があります。
- 骨形成促進薬:骨の形成を促進する事で骨を強くする
- 骨吸収抑制薬:骨が分解されるのを抑える事で骨が弱くならないようにする
このうち、リクラストは後者の「骨吸収抑制薬」になります。
リクラストは注射として静脈から投与された後、全身の骨組織に沈着します。骨は作られてから一定期間経つと破骨細胞によって壊されてしまうのですが、リクラストが沈着した骨組織を破骨細胞が壊そうとした際、リクラストは壊される骨と共に破骨細胞内に取り込まれます。
破骨細胞内に取り込まれると、リクラストはFPPS(ファルネシルピロリン酸合成酵素)という酵素のはたらきをブロックする作用を発揮します。
FPPSは破骨細胞の細胞骨格を作るのに必要な酵素です。そのため、これがブロックされると破骨細胞は細胞骨格を維持できなくなり、アポトーシス(細胞死)が引き起こされます。
またFPPSは破骨細胞内での情報伝達の役割も持つため、ブロックされると「骨を破壊しなさい」という破骨細胞の主な機能の情報伝達がうまく行えなくなります。これによって破骨細胞の機能が低下します。
このように破骨細胞の機能が低下し、また破骨細胞のアポトーシス(細胞死)が誘導されると、骨が壊されるよりも、骨が作られる率の方が高くなります。
このような機序によって骨がもろくなるのを防ぐのがリクラストです。
4.リクラストの副作用
リクラストにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
リクラストの副作用発生率は59.2%と報告されており、副作用はまずまず多いお薬になります。
生じる主な副作用としては、
- 発熱
- 関節痛
- 筋肉痛
- 倦怠感
- インフルエンザ様疾患
- 血中カルシウム減少
- 頭痛
などが報告されています。
これらの副作用の多くは風邪のような症状です。実際、リクラスト投与後の数日、風邪っぽくなったと訴える方は少なくありません。
これは実際は風邪ではなくリクラストの副作用なのです。多くのケースでは数日経つと自然と改善していきます。
またリクラストは破骨細胞のはたらきを抑えますので、これにより低カルシウム血症が生じる事があります。
破骨細胞は骨を破壊しますので、破骨細胞が活動していると骨に含まれるカルシウムが血中に遊離し、血中カルシウム濃度は増える方向となります。しかしリクラストによって破骨細胞のはたらきが抑えられると、骨に含まれるカルシウムが血中に遊離しにくくなりますので、その分カルシウムが下がりやすくなるのです。
頻度は稀ですが重篤な副作用としては、
- 急性腎不全、間質性腎炎、ファンコニー症候群
- 低カルシウム血症
- 顎骨壊死、顎骨骨髄炎
- 外耳道骨壊死
- 大腿骨転子下及び近位大腿骨骨幹部の非定型骨折
- アナフィラキシー
が報告されています。
リクラストは腎臓に負担をかけてしまうリスクがあるお薬です。そのため、時に急性腎不全や間質性腎炎といった重篤な腎障害を起こす事があります。
もう1つ注意すべき点として、これはリクラストに限らずビスホスホネート系すべてのお薬に共通する事なのですが、ビスホスホネート系は骨の壊死(組織が死んでしまう事)を引き起こす事があります。
特に注意すべきなのが顎骨壊死で、これは顎の骨が壊死してしまう(死んでしまう)副作用で、特に抜歯などの歯科治療をした際に生じやすい事が知られています。
リクラストを投与中の方で歯科治療をする際は、必ず歯科医にリクラストを投与されている事を伝える必要があります。また現在歯科治療中の方は、可能であればリクラストは歯科治療が終了してから開始するのが無難でしょう。
またリクラストは次のような方には禁忌(絶対に使ってはダメ)となっていますので注意しましょう。
- リクラストの成分又は他のビスホスホネート製剤に対し、過敏症の既往歴のある方
- 重度の腎障害(Ccr>35mL/min未満)の方
- 脱水状態(高熱、高度な下痢及び嘔吐等)の方
- 低カルシウム血症の患者
- 妊婦又は妊娠している可能性のある方
リクラストは腎臓に負担をかける可能性がありますので、元々腎機能が悪い方は投与する事は出来ません。腎機能を測る指標としてクレアチニン・クリアランス(Ccr)がありますが、Ccrが35未満である場合はリクラストは禁忌となっています。
また脱水状態だと、急性腎不全を起こしやすいため、脱水状態の時にリクラストを投与する事も同様に禁忌となっています。
先ほど説明したようにリクラストは破骨細胞のはたらきを抑える事で血中カルシウムを低下させるリスクがありますので、元々血中カルシウム値が低い低カルシウム血症の方はリクラストを使用する事は出来ません。
リクラストは妊娠中ラットにおける動物実験で、催奇形性(赤ちゃんに奇形が生じやすくなる)、妊娠後期・分娩期の母動物の死亡が報告されています。人でも同様の事が生じる可能性があるため、妊娠中の方への投与も禁忌となっています。
5.リクラストの用法・用量と剤形
リクラストは次の剤型が発売されています。
リクラスト点滴静注液 5mg
またリクラストの使い方は、
通常、成人には1年に1回5mgを15分以上かけて点滴静脈内投与する。
と書かれています。
リクラストは腎臓に負担をかける可能性があるため、必ず15分以上かけて投与しないといけません。急速に投与すると急性腎不全が生じやすくなる事が知られています。
また、投与前には必ず腎機能に問題がないか、脱水がないかを確認する必要があり、投与後も脱水にならないように十分に水分を摂取したり、定期的に腎機能を確認する必要があります。
6.リクラストが向いている人は?
リクラストはどのような方に向いているお薬なのでしょうか。
リクラストの特徴をおさらいすると、
・骨の分解を抑制する事により骨を丈夫にする
・骨粗しょう症による骨折を予防したり、痛みの改善が期待できる
・飲み薬のビスホスホネートと異なり、投与後に横になっても良い
・注射剤であり、投与時に痛みを伴う
・1回の注射で1年間効果が持続する
・投与後数日は風邪症状のような副作用が生じやすい
といった特徴がありました。
リクラストを使用する際のポイントは、
- 注射剤であり、飲み薬と異なり投与後に30分座位を保つ必要がない
- 1年に1回の投与で良い
- 副作用は多めで、投与後数日は風邪症状が生じやすい
- 腎臓に負担がかかりやすい
といった点を知っておく必要があります。
ここから、
- なるべく投与回数を少なくしたい方
- お薬を服用後に30分、座位を保てない方
には向いているお薬になります。
一方で、
- 腎機能が悪い方
- 水分摂取量が少なく脱水になりやすい方
- 歯科治療中の方
などにはあまり向きません。