レミッチカプセルの効果と副作用【かゆみ止め】

レミッチカプセル(一般名:ナルフラフィン塩酸塩)は2009年から発売されているお薬で、かゆみ(掻痒)を抑える「掻痒改善剤」になります。

とても強い効果を持つのがレミッチの最大の特徴ですが、誰にでも処方できるお薬ではありません。使用できるのは血液透析中や慢性肝疾患など限られた疾患の方のみになります。

かゆみ止めのお薬というと、抗ヒスタミン薬などが臨床で多く使用されていますが、レミッチはこれらのお薬が効かないようなかゆみにも効果が期待できるお薬です。

レミッチはどのような特徴のあるお薬で、どんな作用を持っているお薬なのでしょうか。

レミッチの特徴や効果・副作用についてみていきましょう。

 

1.レミッチの特徴

まずはレミッチの全体的な特徴についてみてみましょう。

レミッチはオピオイドκ(カッパ)受容体を刺激する事によってかゆみを抑えるお薬になります。

とても強い鎮痒作用(かゆみを抑える作用)がありますが、使える疾患が限られており、また薬価が高いというデメリットがあります。

私たちが「かゆみ」を感じる際、中枢神経(脳神経系)では神経細胞に存在するオピオイド受容体という部位がかゆみを引き起こす一因となっています。

オピオイド受容体は、

  • μ(ミュー)受容体
  • κ(カッパ)受容体
  • δ(デルタ)受容体

の3種類があります。

これらの受容体のうち、μ受容体はかゆみを引き起こし、κ受容体はかゆみを抑える作用を持つと考えられています。

そしてレミッチはオピオイドκ受容体を刺激する作用を持ちます。オピオイドκ受容体が刺激されると、かゆみが抑えられる方向にはたらくため、かゆみを感じにくくなるのです。

レミッチの特徴は、その強力な鎮痒作用(かゆみを抑える作用)にあります。レミッチは中枢神経という、かゆみを感じる中枢に作用するため、しっかりとした効果が得られやすいのです。

かゆみを抑えるお薬には、抗ヒスタミン薬やステロイドなどが一般的には使われます。これらのお薬もかゆみに有効なのは間違いありませんが、これらは中枢に効くわけではなく、末梢(皮膚など)においてかゆみを抑える作用を発揮するため、レミッチほどは強く効きません。

レミッチのデメリットとしては、薬価の高さが挙げられます。通常、かゆみ止めに用いられる抗ヒスタミン薬などは高くても1錠100円前後、安いものだと10円程度になりますが、レミッチはというと1錠1300円ほどと非常に高いお薬になります。

また危険な副作用が生じやすいお薬ではないものの、他のかゆみ止めと比べると副作用の頻度も多いお薬です。

そのため、レミッチは「他のかゆみ止めのお薬が効かなかった時」にのみ検討されるお薬となり、軽いかゆみに対して安易に処方されるお薬ではありません。いわば「かゆみ止めの最後の砦」とでもいうような位置づけでしょうか。

レミッチはまた、使用できる方がかなり限られているのもデメリットの1つです。保険診療で処方できる疾患としては、「血液透析中」「慢性肝疾患」の2つの状態に伴うかゆみに限られ、アトピー性皮膚炎などといった疾患に対するかゆみに処方する事はできません。

以上から、レミッチの特徴として次のようなことが挙げられます。

【レミッチの特徴】

・オピオイドκ受容体を刺激する事でかゆみを抑える
・かゆみを抑える作用はとても強力
・保険診療上は血液透析中の方、慢性肝疾患の方のかゆみにしか使えない
・他のかゆみ止め(抗ヒスタミン薬など)と比べると副作用が多い
・薬価が非常に高い

 

2.レミッチはどのような疾患に用いるのか

レミッチはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)

血液透析患者、慢性肝疾患患者

レミッチは処方できる対象が非常に限られています。

まず疾患としては、

  • 血液透析中の方
  • 慢性肝疾患の方

にしか処方できません。

これに加えて更に、「既存治療で効果不十分」、つまり他のかゆみ止めを使ったけども十分に効かなかった、という状態でなければ適応とならないためまずは他のかゆみ止めを試して、そのかゆみ止めではかゆみが十分抑えられなかったという事を確認した後でないと基本的には使えません。

しかし適応が限られる分、かゆみを抑える作用は強力です。

レミッチはこれらの疾患のかゆみに対してどのくらい効果があるのでしょうか。

「かゆみ」というのは症状の重さを数値化するのが難しいのですが、VAS(Visual Analogue Scale:視覚アナログ尺度)という方法を用いて数値化する方法がよく用いられます。

これはかゆみのない状態を0、考え得る最大のかゆみの状態を100としたとき、今の自分のかゆみの状態はどの程度なのかを記入してもらう方法です。一本の線の両端を0と100とし、その間での自分のかゆみはどのくらいなのかをおおよその目安で記してもらう事で評価します。

このVASを用いた調査で、レミッチはかゆみを抑える作用がしっかりとある事が確認されています。

血液透析の患者さんのうち、他のかゆみ止めのお薬が十分効かなかった方を対象にレミッチを52週間投与した調査では、投与前のVASが75.22点であったのに対し、

  • 投与4週目でVASは47.17点
  • 投与12週目でVASは39.39点
  • 投与52週目でVASは30.87点

と有意なかゆみの低下が得られています。

また慢性肝疾患の患者さんのうち、他のかゆみ止めのお薬が十分効かなかった方を対象にレミッチを52週間投与した調査でも、投与前のVASが78.05点であったのに対し、

  • 投与4週目でVASは50.09点
  • 投与12週目でVASは42.88点
  • 投与52週目でVASは27.77点

とこちらも有意なかゆみの低下が認められています。

他のかゆみ止めが効かないような「治りにくいかゆみ」に対してこの結果ですから、レミッチの効果は非常に高いと言っても良いでしょう。

ちなみにレミッチは上記疾患の方にしか保険適応はありませんが、薬理学的に考えれば上記疾患以外の疾患(例えばアトピー性皮膚炎など)で生じるかゆみにも効果は期待できます。

 

3.レミッチはどのような作用があるのか

レミッチはどのような作用機序によって、アレルギー症状を抑えてくれるのでしょうか。

レミッチの作用について詳しく紹介させて頂きます。

 

Ⅰ.オピオイドκ受容体の刺激

レミッチは中枢神経(脳神経)に存在するオピオイドκ受容体という部位を刺激します。

オピオイドκ受容体は、オピオイドμ受容体のはたらきを抑える作用があります。オピオイドμ受容体はかゆみを引き起こす作用があるため、それを抑えるオピオイドκ受容体が刺激されるとかゆみを感じにくくなるというわけです。

 

レミッチは「オピオイド受容体」という部位に作用し、他のかゆみ止めと異なる作用機序を持つため、他のかゆみ止めが効かないような方にも効果が期待できるのです。

ちなみに「オピオイド」というと「麻薬」をイメージされて怖いと感じる方もいらっしゃるかもしれません。

オピオイド受容体に作用して痛みを抑えたり(鎮痛)、気持ちを落ち着ける(鎮静)ようなお薬は「オピオイド」と呼ばれ、これはいわゆる「麻薬」になります。

オピオイドも確かにオピオイド受容体(主にオピオイドμ受容体)に作用する事で、これらの鎮痛・鎮静作用を発揮します。

しかしレミッチは麻薬のように鎮痛・鎮静の作用はありません。またオピオイド(麻薬)には依存性がありますが、レミッチには明らかな依存性は確認されていません。

 

4.レミッチの副作用

レミッチにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどれくらいなのでしょうか。

レミッチの副作用発生率は、

  • 血液透析患者さんへの投与の場合で39.7%
  • 慢性肝疾患患者さんへの投与の場合で61.4%

と報告されています。

生じうる副作用としては、

  • 不眠
  • 便秘
  • 眠気
  • プロラクチン上昇
  • 頻尿・夜間頻尿
  • 抗利尿ホルモン上昇

などが報告されています。

多いのが、眠りに対する作用(不眠・眠気)と、胃腸の動きを低下させる作用(便秘)になります。

またプロラクチンや抗利尿ホルモン(ADH)といった脳で分泌されるホルモンのバランスを崩してしまう可能性があるため、レミッチの服用が長期に渡る場合は、定期的に血液検査等を行う必要があるでしょう。

頻度は稀ですが、重大な副作用として、

  • 肝機能障害、黄疸

が報告されています。

レミッチは肝臓に負担をかける事があり、これによって肝機能障害を来たす事があります。特に元々肝臓が痛んでいる方は注意が必要です。

このようにレミッチは副作用が生じる頻度は決して少なくありません。しかし重篤な副作用を起こす事は少なく、とりわけ安全性が低いお薬だというわけではありません。

 

5.レミッチの用法・用量と剤形

レミッチは、

レミッチカプセル 2.5μg

の1剤形のみがあります。

レミッチカプセルは剤型的にはカプセル剤ですが、軟カプセル剤といって、継ぎ目のないカプセルになります。

レミッチの使い方は、

通常、成人には、1日1回2.5μgを夕食後又は就寝前に経口投与する。なお、症状に応じて増量することができるが、1日1回5μgを限度とする。

となっています。

服用時間が夕食後または就寝前に服用となっているのは、レミッチは時に眠気やめまいなどが副作用として生じる事があるためで、日中にこれらの副作用が出てしまうと事故につながる可能性もあるためです。

またもう1つの理由として、かゆみが特に困るのは日中よりも夜間の睡眠時である事が多いためという事もあります。かゆみで十分な眠りが取れなくなってしまえば、ただでさえかゆみで低下している本人の生活の質を更に低下させてしまう事になりますので、日中よりも夜間によりしっかりと効かせてあげた方が良いのです。

ちなみにレミッチは食事の影響は受けないため、食前・食後のどちらに服用しても問題ありません。

血液透析中の方が使用する場合は、レミッチは血液透析をすると体外に成分が除去されてしまうため、レミッチの投与から血液透析までの期間を十分に開ける事が推奨されています。

 

6.レミッチが向いている人は?

以上から考えて、レミッチが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

レミッチの特徴をおさらいすると、

・オピオイドκ受容体を刺激する事でかゆみを抑える
・かゆみを抑える効果はとても強力
・保険診療上は血液透析中の方、慢性肝疾患の方のかゆみにしか使えない
・他のかゆみ止め(抗ヒスタミン薬など)と比べると副作用が多い
・薬価が非常に高い

といったものがありました。

レミッチはかゆみ止めですが、その作用は非常に高く、頼れるお薬です。ただし薬価も高く、また処方できる条件も限られているため、誰にでも簡単に処方できるようなお薬ではありません。

そのため、抗ヒスタミン薬などの一般的なかゆみ止めを使ってもどうしてもかゆみが治まらず、それによって生活に大きな支障が生じている方に「最後の切り札」として使うお薬になります。