レパーサ(一般名:エボロクマブ)は2016年から発売されているお薬で「PCSK9阻害薬」という種類に属します。
レパーサはLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)を下げる作用に非常に優れるお薬です。そのため、他のお薬では十分にLDLが下がらないような重症例の高コレステロール血症の患者さんに用いられています。
レパーサはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに使うお薬なのでしょうか。ここではレパーサの特徴や効果・副作用について紹介していきます。
1.レパーサの特徴
まずはレパーサの特徴を紹介します。
レパーサはPCSK9阻害薬と呼ばれるお薬で、LDLコレステロールを強力に下げる作用があります。そのため、家族性高コレステロール血症や、重度の高コレステロール血症の方に切り札として使えるお薬になります。
デメリットとしては「注射剤である事」「薬価が高い事」などが挙げられます。
レパーサはPCSK9というたんぱく質のはたらきをブロックする事で、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)を強力に下げます。
LDLコレステロールを下げるお薬というとHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系)が有名ですが、レパーサはスタチン系よりもはるかに強力なLDLコレステロール低下作用があります。
また安全性にも優れ、副作用も多くはありません。
ここまで聞くと素晴らしいお薬のように感じますが、レパーサには注意点もいくつかあります。
まずは注射剤である事が挙げられます。注射ですので飲み薬と違い、投与する時に痛みがあります。
また2週間あるいは4週間に1回打つお薬ですので、定期的に病院に行き、注射してもらわないといけません。将来的にはインスリンのように自宅で自己注射できるようになるかもしれませんが、現時点では病院にいかないと注射してもらう事は出来ません。
薬価が極めて高価なのも大きなデメリットです。2016年現在、レパーサ140mgの薬価は約23,000円です。用法としては140mgを2週間に1回あるいは420mgを4週間に1回が一般的ですので、月に46,000~69,000円かかるという事になります(実際は3割負担の方はこの3割相当の薬価になります)。
比較として高コレステロール血症治療薬のスタチン系は量や種類によっても異なりますが、おおよそ1日数十円から100円程度です。1か月でも3,000円程度ですので、薬価が大きく違ってくる事が分かります。
また、レパーサはスタチン系というお薬と必ず併用しなければいけないという決まりがあります。スタチン系を使ってもなおLDLコレステロールが高い方が、スタチン系に加えて使うお薬であり、単独では使用する事はできません。
以上からレパーサの特徴として次のような点が挙げられます。
【レパーサの特徴】
・皮下に注射するお薬である
・2週間に1回、あるいは4週間に1回注射する
・LDLコレステロールを強力に下げる
・HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系)と併用する必要がある
・薬価が非常に高い
2.レパーサはどんな疾患に用いるのか
レパーサはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
家族性高コレステロール血症
高コレステロール血症(ただし、心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分な場合に限る)
レパーサは主にLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を下げる作用に優れ、高コレステロール血症の患者さんに用いられます。
しかし高コレステロール血症の方であれば誰でも使えるわけではなく、
- 心血管イベントの発現リスクが高い方
- HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン系)で効果不十分な方
のみが適応になります。
レパーサは使用に制限がある分、高コレステロール血症に対する効果は極めて強力です。
レパーサ140mgを2週間に1回、あるいは420mgを4週間に1回投与した調査では、
- LDLコレステロールが71%低下(140mgを2週間に1回)
- LDLコレステロールが63.54%低下(420mgを4週間に1回)
という結果が出ています。極めて強力なLDLコレステロール作用を持っている事が分かります。
3.レパーサにはどのような作用があるのか
高コレステロール血症の患者さんの血中コレステロールを下げるために投与されるレパーサですが、どのような機序で高コレステロール血症を改善させるのでしょうか。
レパーサは「PCSK9阻害薬」と呼ばれるお薬で、その名の通りPCSK9(プロ蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)というたんぱく質のはたらきをブロックします。これにより血中コレステロールの低下が得られるのです。
レパーサの具体的な作用機序を紹介します。
Ⅰ.悪玉(LDL)コレステロールを強力に下げる
レパーサはPCSK9のはたらきをブロックするお薬ですが、そもそもPCSK9とは何でしょうか。
PCSK9は肝臓で作られているたんぱく質で、正確な名称としては「プロ蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型」と呼ばれます。
肝臓には「LDL受容体」というLDLコレステロールが結合できる部位があります。LDL受容体にLDLコレステロールがくっつくと、LDLコレステロールは血液中から肝臓内に取り込まれます。
つまりLDL受容体がたくさん肝臓に発現していると、血中のLDLコレステロールがどんどん肝臓内に取り込まれるため、血液中のLDLコレステロールは少なくなるという事です。
このLDL受容体のはたらきに関係するたんぱく質がPCSK9になります。
PCSK9は、LDL受容体を分解するはたらきがあります。つまり、PCSK9があるとLDL受容体が分解されて少なくなってしまい、血液中から肝臓にLDLコレステロールを取り込めなくなってしまうのです。その結果血液中のLDLコレステロールは増加します。
それならばPCSK9のはたらきをブロックすればLDL受容体の数が増えますので血中コレステロールが少なくなるのではないか、という考えで開発されたのがPCSK9阻害薬なのです。
レパーサは遺伝子組み換えにより作られた、PCSK9のはたらきをブロックするお薬になります。
実際、突然変異によってPCSK9が発現していない方の血中LDLコレステロール値は、極めて低くなる事が知られています。
Ⅱ.脳梗塞・心筋梗塞のリスクを下げる
血液中のLDLコレステロールが高いと、脳梗塞・心筋梗塞といった血管系イベントが生じやすくなる事が知られています。
これらの疾患はいずれも血管が詰まる事で生じます。脳の血管が詰まれば脳梗塞が生じ、心臓を栄養する冠動脈が詰まれば心筋梗塞が生じます。
血管が詰まる原因はいくつかありますが、その1つとして血管内壁にコレステロールが沈着してしまう事が挙げられます。
コレステロールが沈着すれば、その分だけ血管の内腔が狭くなるため血管が詰まりやすくなってしまうのです。また付着したコレステロールは血栓などを誘発しやすいため、これも血管を詰まらせる原因になります。
レパーサは血液中のLDLコレステロールを下げることで、血管内壁にコレステロールが沈着する事を予防してくれます。これにより脳梗塞・心筋梗塞を予防する事ができるのです。
4.レパーサの副作用
レパーサにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
レパーサの副作用発生率は9.9%と報告されています。まだ発売されて浅いお薬ですが、今のところは副作用は多くはなさそうな印象です。
生じうる副作用としては検査値の異常が多く、
- 血糖上昇
- 肝酵素異常
- CK上昇
などが報告されています。
また、
- 注射部位の反応(腫れや熱感、かゆみなど)
- 頚動脈内膜中膜肥厚度増加
- 筋肉痛
なども報告されています。
5.レパーサの用法・用量と剤形
レパーサには、
レパーサ皮下注シリンジ 140mg
レパーサ皮下注ペン 140mg
の2種類が発売されています。
レパーサの使い方は、
<家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体及び高コレステロール血症>
通常、成人には140mgを2週間に1回又は420mgを4週間に1回皮下投与する。
<家族性高コレステロール血症ホモ接合体>
通常、成人には420mgを4週間に1回皮下投与する。効果不十分な場合には 420mgを2週間に1回皮下投与できる。なお、LDLアフェレーシスの補助として本剤を使用する場合は、開始用量として420mgを2週間に1回皮下投与することができる。
と書かれています。
「ホモ接合体」「ヘテロ接合体」という難しい言葉が出てきましたが、非常にざっくりというとより重症なのがホモ接合体で、ホモ接合体と比べると比較的軽症なのがヘテロ接合体です。
家族制高コレステロール血症は遺伝で発症する疾患であり、発症にはある原因遺伝子が関係しています。人は染色体が2倍体ですので、同じ系統の遺伝子を2つ持っています。
ホモ接合体というのは、遺伝子2つの両方に疾患の原因遺伝子がある人で、ヘテロ接合体は2つのうち1つだけに原因遺伝子がある人を指します。
2つ両方に原因遺伝子があるホモ接合体の方が症状が重く出やすく、重症になります。
またLDLアフェレーシスというのは家族性高コレステロール血症の方に行われる治療法で、透析のように血管から管を通じて血液を体外に流し、LDLコレステロールを除去する装置を回して血液中からLDLコレステロールを取り除き、再び体内に血液を戻す治療法です。
レパーサを使用する際の「用法・用量に関連する使用上の注意」として、
HMG-CoA還元酵素阻害剤と併用すること。
(日本人における本剤単独投与での有効性及び安全性は確立していない。)
という事が記載されています。
HMG-CoA還元酵素阻害剤というのは「スタチン系」と呼ばれるお薬の事で、高LDL血症の治療薬です。
- ローコール(一般名:フルバスタチン)
- メバロチン(一般名:プラバスタチン)
- リポバス(一般名:シンバスタチン)
- リバロ(一般名:ピタバスタチン)
- リピトール(一般名:アトルバスタチン)
- クレストール(一般名:ロスバスタチン)
などがあります。
レパーサは原則としてこれらスタチン系と併用する必要があり、単独で用いる事は出来ません。
またレパーサは注射するお薬になり、皮下に注射します。注射できる部位としては上腕部や腹部、大腿部などがあります。毎回同じ部位に打つのではなく適宜場所を変えて打つように推奨されています。
6.レパーサが向いている人は?
以上から考えて、レパーサが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
レパーサの特徴をおさらいすると、
・皮下に注射するお薬である
・2週間に1回、あるいは4週間に1回注射する
・LDLコレステロールを強力に下げる
・HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系)と併用する必要がある
・薬価が非常に高い
などがありました。
ここから、
・悪玉(LDL)コレステロールが極めて高い方
であり、かつ
・HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系)では効果不十分の方
・心血管イベントの発現リスクが高いと医師に判断される方
が使用すべきお薬になります。
レパーサのLDLコレステロールを下げる作用は高コレステロール血症のお薬の中でも最強になりますが、薬価も高く誰でも安易に使えるお薬ではありません。
基準を満たした方のみが用いるべきお薬になります。
ちなみに脂質というと、血液検査で中性脂肪(TG:トリグリセリド)とコレステロール(Chol)の2つがありますが、この2つはどう違うのでしょうか。
中性脂肪は、俗に言う「体脂肪」の脂肪分が血液中に流れているもので、これはエネルギー源として使われます。中性脂肪は体脂肪として貯蔵される事で、いざという時に活動するためのエネルギーになるのです。
一方コレステロールはというと「身体を作るための材料」として使われています。コレステロールは細胞を構成する材料となったり、体内で様々なはたらきをしているホルモンを作る材料となったり、胆汁酸やビタミンの材料となったりします。
中性脂肪もコレステロールも、どちらも身体にとって必要なものですが、過剰になりすぎれば害となります。