シーブリ吸入用カプセル(一般名:グリコピロニウム臭化物)は2012年から発売されているお薬です。
「お薬」といっても飲み薬ではありません。口から吸う(吸入する)ことでお薬の成分を直接気管に作用させる吸入剤になります。
シーブリは「抗コリン薬」という種類に属します。抗コリン薬は気管を広げる作用を持ち、これにより呼吸のしにくさや咳・痰などの症状を改善させてくれます。
吸入剤にも多くの種類があり、それぞれで配合されている成分も異なっています。各吸入薬にどのような作用があって、どの吸入剤が自分に適しているのかというのはなかなか分かりにくいものです。
吸入剤の中でシーブリはどのような特徴のあるお薬で、どのような作用を持っているお薬なのでしょうか。
シーブリの特徴や効果・副作用についてみていきましょう。
1.シーブリの特徴
まずはシーブリの特徴をざっくりと紹介します。
シーブリは気管を広げる作用を持つお薬で、主に慢性閉塞性肺疾患(肺気腫など)の治療に用いられます。
作用時間が長く、1日1回の収入で24時間以上効果が持続します。また抗コリン吸入薬の中では即効性にも優れています。
シーブリは気管を広げる作用を持つため、主に慢性閉塞性肺疾患に治療に用いられます。
慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)というのは有害物質(主にタバコなど)を長い間吸い続けることで、肺に慢性的な炎症が生じてしまっている疾患の総称です。以前は「肺気腫」や「慢性気管支炎」などとも呼ばれていました。
難しく書きましたが、COPDを簡単に言えば「タバコで肺が痛んでいる」状態の事です。
慢性閉塞性肺疾患では、タバコに含まれる有害物質が長期間にわたって肺や気管支を傷付けるため、肺・気管支に炎症が生じてしまいます。すると気管支が腫れて内腔が狭くなり、十分に酸素を吸えなくなってしまいます。
また有害物質は肺胞(肺の先端にある小さな袋)を徐々に破壊します。一度肺胞が壊れてしまうと、それは二度と元には戻らないため、これによっても十分に酸素を体内に取り込めなくなっていきます。
そのためCOPDの治療で出来る事は、炎症によって狭くなった気管支を広げてあげる事になります。
シーブリは抗コリン薬という種類のお薬で、アセチルコリンという物質のはたらきをブロックするはたらきがあります。
アセチルコリンは気管支を収縮させる作用があるため、これをブロックすると気管支は収縮できなくなり、広がりやすくなります。すると気管支の中を空気が通りやすくなるため、呼吸苦が改善されるというわけです。
シーブリのような吸入剤は飲み薬と比べて副作用が少ないというのが大きなメリットです。吸入したシーブリはほぼ気管のみに塗布されます。飲み薬のように全身にお薬が回りにくいため、全身性の副作用が生じにくいのです。
シーブリも全身性の副作用はほとんどありません。ただしどうしても「吸入する」という特性上、口の中でアセチルコリンのはたらきをブロックする事で生じる口内乾燥(口の渇き)は一定の頻度で認められます。
抗コリン吸入薬の中でのシーブリの特徴は、即効性・持続性に優れるところです。
抗コリン吸入薬は即効性に乏しいものが多いのですが、シーブリは吸入してから約5分ほどで血中濃度が最大になり、抗コリン吸入薬の中では即効性に優れます。
ただしCOPDはタバコによって徐々に肺が痛んでいく疾患ですので、即効性を求めて治療するものではありません。そのためシーブリは即効性には優れるものの、この目的で投与される事はあまりありません。
またシーブリは持続力もあり、1日1回の吸入で24時間以上効果が持続する事が確認されています。
ちなみにCOPD・気管支喘息に用いる吸入剤には、シーブリのような抗コリン薬の他、
- β2刺激薬
- ステロイド吸入薬
などもあります。
これらはどのように使い分けられるのでしょうか。
簡単にいうと、抗コリン薬は即効性はないものの、ゆっくり長く気管支を広げる事に優れます。COPDは発作的に気管支が狭くなるわけではなく、タバコによって徐々に狭くなるため、抗コリン薬がもっとも気管支拡張作用に優れます。そのため、抗コリン薬がCOPDではまず用いられるのが一般的です。
β刺激薬は抗コリン薬と比べると即効性に優れますが、COPDに対する気管支拡張作用は抗コリン薬よりも劣ります。そのためCOPDよりも気管支喘息などで用いられています。
ステロイド吸入薬も、COPDよりも主に気管支喘息で用いられる吸入薬になります。ステロイドは炎症を抑える作用があるため、タバコによる気管の慢性炎症が生じているCOPDでも効果は期待できます。
しかしステロイドは感染しやすい状態を作ってしまうというデメリットがあります。COPDの方の気管支・肺は弱っており、ただでさえ感染に弱い状態にあるため、ステロイドで更に感染させやすい状態を作ってしまう事は好ましくありません。
そのため、ステロイドは積極的にはCOPDには用いられていません。
以上から、シーブリの特徴として次のようなことが挙げられます。
【シーブリの特徴】
・主に慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療薬として用いられる
・アセチルコリンのはたらきをブロックし、気管を広げる
・即効性にも優れるが、今すぐに苦しさを取るために用いられる事は少なく、予防的な目的で投与される
・持続性に優れ、1回の吸入で24時間以上効果が持続する
・気管にのみ作用するため、全身への副作用が少ない
・副作用の口渇に注意
2.シーブリはどのような疾患に用いるのか
シーブリはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎、肺気腫)の気道閉塞性障害に基づく諸症状の緩解
シーブリは気管を広げる作用を持ち、その主な適応は「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」になります。
慢性閉塞性肺疾患は、タバコなどの有害物質を長期間に吸入することで、肺に慢性的な炎症が生じてしまっている疾患の事です。
慢性閉塞性肺疾患において、シーブリのような抗コリン薬はまず最初に推奨されるお薬(第一選択薬)になります。
また適応はないものの、気管支喘息に用いられる事もありますが、これは他の吸入薬(β刺激薬やステロイド)では効果が不十分であった場合などに限られ、最初から用いられる事はあまりありません。
シーブリは慢性閉塞性肺疾患に対してどのくらい有効なのでしょうか。
気管支の狭窄の程度を反映する呼吸機能検査値として「1秒率」があります。これは息を思いっきり吐いてもらった時の最初の1秒に吐き出された息の量になり、この数値が下がっていれば下がっているほど、気管支の狭窄の程度は大きいと推定できます。
シーブリはCOPD患者さんの1秒率を有意に改善させる事が報告されています。
また患者さんが自覚症状として感じる呼吸困難感や患者さんの生活の質(QOL)についても有意な改善が得られる事が報告されています。
3.シーブリはどのような作用があるのか
シーブリはどのような機序によって、気管を広げてくれるのでしょうか。
シーブリの気管への作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.気管支を広げる
シーブリの主成分であるグリコピロニウム臭化物は「抗コリン薬」と呼ばれ、アセチルコリンという物質のはたらきをブロックする作用を持ちます。
アセチルコリンは体内で様々なはたらきをしている物質なのですが、気管においては気管を収縮させる作用がある事が知られています。
気管にはムスカリン3(M3)受容体というものがあり、ここにアセチルコリンがくっつくと気管が収縮するのです。
この作用をブロックするのがシーブリのはたらきになります。
口から吸入されたシーブリは気管にたどり着くと、アセチルコリンがM3受容体にくっつこうとするのをブロックします。
具体的には、アセチルコリンよりも先にM3受容体にくっついてしまい、M3受容体に蓋をしてしまうのです。するとアセチルコリンはM3受容体にくっつけなくなってしまいます。
これにより気管支が収縮できなくなるため、気管支は広がりやすくなります。
気管支が広がると、たくさんの空気を肺に送りやすくなるため、呼吸がしやすくなるというわけです。
ちなみにアセチルコリンがくっつく部位であるムスカリン受容体というのはM1~M5までありますが、そのうち特に気管の収縮に関係しているのがM3受容体です。
シーブリはM1~M5のすべてのムスカリン受容体にくっつくのですが、特にM3受容体に選択性が比較的高く、またM3受容体には長くくっつくという特徴があるため、気管支を広げるのに適したお薬なのです。
4.シーブリの副作用
シーブリにはどんな副作用があるのでしょうか。
シーブリは吸入剤であり飲み薬と違って全身にほとんど作用しません。そのため安全性は高いお薬だと言って良いでしょう。
ただし吸入することで口腔内や咽喉頭、気管にはお薬が塗布される可能性があるため、これらの部位に副作用が生じることはあります。
シーブリの副作用発生率は6.3%と報告されています。
生じる副作用としては、
- 口内乾燥
- 排尿困難
などがあります。
口中乾燥はシーブリの持つ「抗コリン作用」が原因です。抗コリン作用とはアセチルコリンのはたらきをブロックする作用なのですが、口腔内では唾液の分泌を減らす作用になるため、これにより口の中の乾燥が生じてしまいます。
また抗コリン作用は尿道を収縮させてしまうはたらきもあるため、これによって尿が出にくくなる事もありますが、頻度は多くありません。
また頻度は稀ながら重篤な副作用としては、
- 心房細動
が報告されています。
この副作用も抗コリン作用によるものです。
抗コリン作用は心臓においては心拍数を上げ、心臓の負担を高める方向に作用します。これにより心臓系の副作用が認められる事があります。
シーブリを使用してはいけない方(禁忌)としては、
- 閉塞隅角緑内障の方(眼内圧を高め、症状を悪化させるおそれがある)
- 前立腺肥大等による排尿障害のある方(更に尿を出にくくすることがある)
- シーブリの成分に対し過敏症の既往歴のある方
が挙げられています。
抗コリン作用は眼圧を上げる作用があるため、元々眼圧が高い緑内障の方は用いてはいけません。
また前立腺肥大症の方は前立腺が大きくなって尿道を圧迫しているため、尿が出にくい状態になっています。シーブリはその状態で更に抗コリン作用で尿道を収縮させてしまう可能性があるため、前立腺肥大症の方にも用いてはいけません。
5.シーブリの用法・用量と剤形
シーブリにはどのような剤型があるのでしょうか。
シーブリには、
シーブリ吸入用カプセル 50μg
の1剤形のみがあります。
シーブリ吸入カプセルはカプセル剤ですが、これはそのまま服用するものではありません。専用の吸入器(ブリーズヘラー)がありますので、これにシーブリカプセルをセットし、吸入器がカプセルに穴をあける事でカプセル内の粉末を吸入して体内に取り込むお薬になります。
シーブリ吸入カプセルはこのようにカプセルを毎回吸入器にセットしなくてはいけないため、これがやや手間になります。
シーブリの使い方としては、
通常、成人には1回1カプセルを1日1回本剤専用の吸入用器具を用いて吸入する。
と書かれています。
シーブリは作用時間が長い事が利点です。一度気管のムスカリン3受容体にくっつくと長時間(24時間以上)くっつき続けます。そのため1日1回の使用で効果が持続します。
注意点としてシーブリは、慢性閉塞性肺疾患で生じている呼吸苦を速やかに改善させる作用はあるものの、このような目的で投与されるお薬ではありません。
今起こっている呼吸苦をすぐに治す「一時しのぎ」の使い方ではなく、今後の呼吸苦が生じないように「長期に渡って予防」するような目的で使用するお薬になります。
6.シーブリが向いている人は?
以上から考えて、シーブリが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
シーブリの特徴をおさらいすると、
・主に慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療薬として用いられる
・アセチルコリンのはたらきをブロックし、気管を広げる
・即効性にも優れるが、今すぐに苦しさを取るために用いられる事は少なく、予防的な目的で投与される
・持続性に優れ、1回の吸入で24時間以上効果が持続する
・気管にのみ作用するため、全身への副作用が少ない
・副作用の口渇に注意
といったものでした。
シーブリは長時間作用型の抗コリン薬になります。これを専門的にはLAMA(Long Acting Muscarinic Antagonist)と呼ばれます。
LAMAは即効性はないものの、慢性閉塞性肺疾患の方の気管支を広げるのに最も優れるお薬になります。
シーブリはLAMAの中でも即効性に優れ、かつ1日1回で24時間以上効果が持続します。
即効性・持続性のバランスに優れるため、慢性閉塞性肺疾患の方がまず用いるお薬として向いていると言えるでしょう。
また吸入剤というのは、しっかりと気管や肺に届くまで吸い込まないと効果が得られません。正しい吸入法が出来るように医師や薬剤師からしっかりと指導を受けるようにしましょう。ネットでも吸入法の動画なども製薬会社から配布されていますので、ぜひご覧になってください。