セルベックスカプセル・細粒の効果と副作用【胃薬】

セルベックスカプセル・セルベックス顆粒(一般名:テプレノン)は1984年から発売されている胃薬になります。

セルベックスは胃を守る物質(防御因子)を増やしてくれる作用を持ちます。効果は穏やかですが安全性に非常に優れるセルベックスは現在でも多く処方されている胃薬です。

胃薬にはたくさんの種類のお薬があります。これらの中でセルベックスはどのような位置付けになるのでしょうか。

セルベックスの効果や特徴・副作用、どのような作用機序を持つお薬でどのような方に向いているお薬なのかについてみていきましょう。

 

1.セルベックスの効果・特徴

まずはセルベックスの特徴について、かんたんに紹介します。

セルベックスは、効果は穏やかですが副作用が非常に少なく、安全性に非常に優れる胃薬です。注意点としては食後に服用しないと効果が非常に落ちてしまいます。

セルベックスの効果・作用は穏やかで、劇的に胃腸症状(胃痛や嘔吐など)を治してくれるものではありません。そのため程度の重い胃炎・胃潰瘍に対して用いるとなれば力不足となる事が多く、ある程度進行した胃炎・胃潰瘍に対して主剤として用いられる事はまずありません。

しかし胃の防御因子を増やしたり、胃を攻撃する悪い因子を減らしたりする作用により、穏やかに胃炎や胃潰瘍を改善させる事が確認されています。

その作用は様々な機序があり、胃粘液や胃への血流を増やしたり、プロスタグランジンや重炭酸イオンといった胃を守る物質を増やしたりする作用があります。

注意点としては、セルベックスは空腹時(食前や寝る前など)に服用すると、体内に吸収される割合が極端に下がってしまうため、必ず食後に服用しなくてはいけません。

つまり空腹時に胃が痛むからといって、ポンと頓服的に飲んでも効果は乏しく、食後に定期的に服用するという使い方が向いているお薬になります。

セルベックスは効果が穏やかな分、副作用も極めて少なく、ここは大きな利点です。臨床的な感覚としては「副作用はほぼ生じない」と考えても良いくらいで、この理由から多くの患者さんに処方されています。

「効果は弱いけども、非常に安全なお薬」というのが、多少乱暴な言い方になりますが、おおまかなセルベックスの位置づけとなります。

以上からセルベックスの特徴として次のようなことが挙げられます。

【セルベックスの特徴】

・効果は穏やか
・胃粘液やプロスタグランジン、重炭酸イオンなどを増やすことで胃を守る
・副作用は極めて少ない
・食事に飲むお薬で、空腹時に飲むと効果が非常に落ちる

 

2.セルベックスはどんな疾患に用いるのか

セルベックスはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】

○下記疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善
急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期

○胃潰瘍

セルベックスは、穏やかに胃を保護してくれるため、主に軽症例の胃炎や胃潰瘍の治療に用いられます。

セルベックスの有効率(中等度以上改善した率)は、

  • 胃潰瘍への有効率は81%
  • 急性胃炎・慢性胃炎の急性増悪期への有効率は68.6%

と報告されています。

 

3.セルベックスにはどのような効果・作用があるのか

セルベックスは胃炎や胃潰瘍といった胃疾患に対して効果を発揮するお薬ですが、具体的にはどのような作用機序で胃疾患を改善させているのでしょうか。

セルベックスの主な効果・作用について詳しく紹介します。

 

Ⅰ.胃粘膜を防御する因子を増やす

セルベックスの作用の1つは、胃粘膜を防御する因子を増やすことで、これがセルベックスの主要な作用になります。

具体的には、

  • 胃粘液の分泌を増やす
  • プロスタグランジンを増やす
  • 重炭酸イオンの分泌を促す
  • 胃粘膜の血流を増やす

などの作用が確認されています。効果が報告されています。

胃粘液というのは胃の表面を覆っている粘液で、ヘキソサミンやムチンというたんぱく質などが成分となっています。ヘキソサミンはアルカリ性の物質であり胃酸を中和してくれるため、胃酸から胃壁を守るはたらきがあります。ムチンは粘性のある糖タンパクで、その粘性によって胃壁を保護してくれます。

セルベックスは胃粘液を増やす作用が確認されており、動物実験において胃粘膜を修復したり、防御するために重要な物質である高分子糖タンパクやリン脂質の合成を増やすことも確認されています。

またセルベックスは「プロスタグランジン(PG)」という物質を増やす効果があります。プロスタグランジンも胃粘液の分泌を増やす作用があるため、これも胃の防御力を上げるはたらきとなります。

更にセルベックスは胃内に重炭酸イオンを分泌する作用があることも確認されています。重炭酸イオンはアルカリ性のイオンであるため、胃酸を中和するはたらきがあります。これにより、胃酸の力を弱め、胃酸によって胃壁が傷付くのを防ぐことができます。

セルベックスは胃粘膜の血流を増やす作用もあります。血流が増えればそこに栄養分が届きやすくなるため、粘液を作りやすくなったり細胞の合成・修復もしやすくなります。

 

Ⅱ.ヒートショックプロテインを活性化する

セルベックスはヒートショックプロテイン(HSP)と呼ばれる物質を活性化させるはたらきがあり、これも胃の保護に役立ちます。

ヒートショックプロテインというのは、熱によってダメージを受けたタンパク質を修復するはたらきを持つタンパク質の事です。

私達の身体においてタンパク質というのは非常に重要な役割をしています。タンパク質によって筋肉や臓器などが作られており、これがダメージを受ければ身体に大きな問題が生じることは明らかです。

タンパク質は「熱に弱い」という弱点があります。みなさんも経験があると思いますが、肉をフライパンで熱すると固くなってしまい、二度と元の柔らかさには戻りませんよね。

肉は主にタンパク質からなっていますが、この現象はタンパク質が熱に弱い事を表しています。高熱を加えるとタンパク質はその立体構造が変化してしまい(これを変性と呼びます)、二度と元の柔軟性のある状態には戻りません。

このタンパク質の弱点を補ってくれるのがHSPです。HSPは熱によってダメージを受け、変性しかけているタンパク質を元の状態に修復する作用を持ちます。

HSPが活性化すると、体内の傷付いた細胞が修復されます。胃内においても同様の作用が得られるため、胃壁細胞を修復する作用が期待できます。

 

4.セルベックスの副作用

セルベックスは非常に多く処方されている胃薬です。その一番の理由はセルベックスの安全性の高さにあります。これは言い換えれば「副作用が少ない」という事です。

セルベックスは副作用が非常に少ないお薬です。セルベックスの副作用発生率は0.48%と報告されており、副作用1%以下という高い安全性を有しています。

生じうる副作用としては、

  • 便秘、下痢
  • 吐き気
  • 腹痛
  • 発疹
  • 口の渇き

などが報告されています。ほとんどが軽症にとどまり様子を見れる程度のものも少なくありません。

非常に稀ですが重篤な副作用としては、

  • 肝機能障害・黄疸

などが報告されています。

しかしこのような副作用は適正に使用していればあまり見かけることはありません。

 

5.セルベックスの用法・用量と剤形

セルベックスは、

セルベックスカプセル 50mg
セルベックス顆粒 10% 0.5g分包

の2剤型があります。

セルベックスの使い方は、

通常成人には150mgを1日3回に分けて食後に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

となっています。

だいたい1日3回(50mg×3回)服薬するという飲み方をします。カプセルであれば朝・昼・夕食後に1カプセルずつ、細粒であれば500mgずつ(計1.5g)となります。

注意点として、セルベックスは空腹時(食前や寝る前など)に服薬すると体内への吸収率がきわめて低下することが分かっています。しっかりとした効果を得るためにも、必ず食後に服薬するようにしましょう。

 

6.セルベックスが向いている人は?

以上から考えて、セルベックスが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

セルベックスの特徴をおさらいすると、

・効果は穏やか
・胃粘液やプロスタグランジン、重炭酸イオンなどを増やすことで胃を守る
・副作用は極めて少ない
・食事に飲むお薬で、空腹時に飲むと効果が非常に落ちる

というものでした。

ここから、主に軽症の胃腸症状の方に向いているお薬になります。

またNSAIDsの副作用予防として使用することも可能です。

NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤、いわゆる「痛み止め」)は、プロスタグランジンのはたらきをブロックすることで消炎(炎症を抑える)、鎮痛(痛みを抑える)作用を発揮しますが、胃のプロスタグランジンも減らしてしまうため、胃腸障害の副作用が生じることがあります。

この場合、胃のプロスタグランジンを増やす作用を持つセルベックスを併用することでNSAIDsの副作用の胃腸障害を予防することが出来ます。

(NSAIDs・・・ロキソニン、ボルタレン、セレコックスなど)

ただしセルベックスは空腹時に服用すると効果が非常に落ちるため、NSAIDsと一緒にセルベックスを頓服(調子が悪い時だけ飲む)という方法に服用することは推奨されません。

最大の効果を得るためにも、必ず食後に服用するようにしましょう。

セルベックスは安全なお薬であるため患者さんが胃薬を希望された時に処方しやすいお薬ですが、一方で本格的な胃炎・胃潰瘍には力不足なのも事実です。程度の重い胃腸障害の場合は、セルベックス以外の強力な効果を持つ胃薬が用いられます。