エフピーOD錠(一般名:塩酸セレギリン)は1998年から発売されているお薬で、主にパーキンソン病の治療薬として用いられています。
MAO-B阻害薬(B型モノアミン酸化酵素阻害薬)という種類に属し、モノアミンの吸収・分解を防ぐことでモノアミン濃度を高めるはたらきがあります。
パーキンソン病はモノアミンの1つであるドーパミンが減少する事で生じると考えられているため、モノアミン濃度を上げてくれるエフピーはパーキンソン病の治療に効果が期待できるのです。
元々は「エフピー錠」という錠剤として発売されましたが、2007年よりエフピーOD錠に変わりました。
パーキンソン病の治療薬にもたくさんの種類があり、どんなお薬をどんな時に用いるのかというのは分かりにくいものです。
パーキンソン病治療薬の中でエフピーはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではエフピーの特徴や効果・効能、副作用などを紹介していきます。
目次
1.エフピーOD錠の特徴
まずはエフピーというお薬の全体的な特徴を簡単に紹介します。
エフピーの特徴は、神経から分泌されたドーパミンを吸収・分解されないようにすることでドーパミン量を増やすお薬だという事です。
ドーパミンを増やすというよりも、分泌されたドーパミンを減りにくくさせるお薬であるため、ドーパミンがそもそも分泌されない状態には効果がありません。
そのためドーパミン製剤(レボドバ製剤)と併用する事を推奨されており、またドーパミンがほとんど分泌されなくなる重度のパーキンソン病(YahrⅤ)には使用できません。
エフピーは主にパーキンソン病に用いられているお薬ですが、パーキンソン病は脳(脳の中でも特に中脳黒質-線条体)のドーパミン量が減少する事で生じると考えられています。
エフピーはドーパミンの再取り込み(吸収)を抑制することで脳内のドーパミン量を増やし、これによりパーキンソン病症状を改善させます。
またドーパミンは快楽や楽しみといった「気分」にも関係している事が分かっています。興奮している時はドーパミンの分泌量は増え、反対に落ち込んでいる時はドーパミンの分泌量は減ります。
疾患で言えば、うつ病の方の脳内ドーパミン量は減少していると考えられています。そのため日本では適応がありませんが、エフピーのようなモノアミン再取り込み阻害薬がうつ病の治療薬として用いられている国もあります。
エフピーはOD錠(口腔内崩壊錠)であるのも特徴です。OD錠とは「口腔内崩壊錠」の事で、唾液に触れると溶ける剤型の事です。水なしで服用できるため、外出先で服用される方や飲み込む力が弱くなっている高齢者に適した剤型です。
パーキンソン病の方は飲み込む力も弱くなっていることが多いため、水なしでも服薬しやすいOD錠は患者さんにとっても助かります。
エフピーのデメリットとしては、あくまでも分泌されたドーパミンを吸収・分解されるのを抑えるお薬であるため、そもそもドーパミンがほとんど分泌されないほど重症となっているパーキンソン病にはあまり効果が期待できないことです。
以上からエフピーの特徴として次のような点が挙げられます。
【エフピーの特徴】
・神経から分泌されたドーパミンの吸収・分解を抑えることでドーパミン濃度を高める |
2.エフピーOD錠はどのような疾患に用いるのか
エフピーはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
次の疾患に対するレボドパ含有製剤との併用療法
パーキンソン病
(過去のレボドパ含有製剤治療において、十分な効果が得られていないもの:Yahr 重症度ステージI~IV)
エフピーのはたらきは「モノアミンの量を増やす事」です。
モノアミンとはセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの物質の総称で、パーキンソン病ではこのうちドーパミンの量が少なくなっています。
エフピーはドーパミンを含めたモノアミンの量を増やすため、パーキンソン病に効果が期待できます。
ただしエフピーはモノアミンの分泌量を増やすわけではない点は注意が必要です。モノアミンの分泌を増やすのではなく、分泌されたモノアミンが吸収・分解されないようにするお薬なのです。
つまり、そもそもドーパミンがほとんど出ていない重症例などでは十分な効果は期待できないという事です。
エフピーは基本的にはレボドパ製剤(L-Dopa製剤)と併用して使う事が決められています。レボドパというのはドーパミンの前駆体のようなもので、脳に届くとドーパミンに変わるお薬です。
レボドパを使えば、足りていないドーパミン自体をお薬で補充できます。そこで更にエフピーを使えば、レボドパで補充したドーパミンが分解・吸収されにくくなるため、よりよい効果が期待できるというわけです。
Yahr(ヤール)というのは、パーキンソン病の重症度分類です。Ⅰ(最も軽い)からⅤ(最重症)までの5段階があります。エフピーはYahr分類のⅠからⅣまでの重症度のパーキンソン病に使用することができることになっています。YahrⅤになってしまうと、ドーパミンがほとんど分泌されていない事が多いため、エフピーのような作用機序のお薬は効果が期待しにくくなります。
ではパーキンソン病の患者さんに対してエフピーはどのくらいの有効性があるのでしょうか。
レボドパ治療されているパーキンソン病患者さんにエフピーを6カ月間投与したところ、
- 中等度以上に改善した率は49.3%
- 軽度以上に改善した率は85.3%
と報告されています。
また、エフピーの主成分である「セレギリン」はモノアミンを増やすという特徴から、以前はうつ病に対しても適応を持っていました。現在でも海外ではうつ病に対してセレギリンの使用を許可している国もあります。
日本では副作用の問題などもあり、現在ではうつ病に対して保険診療上は用いることができません。
3.エフピーOD錠にはどのような作用があるのか
エフピーは、主にパーキンソン病の治療薬として用いられていますが、どのような作用機序を持っているのでしょうか。
エフピーがどのようにパーキンソン病を治療するかというと、脳の黒質-線条体という部位のドーパミンの吸収・分解を抑えることで同部のドーパミン濃度を高めるというはたらきを持ちます。
パーキンソン病は脳の黒質・線条体のドーパミン減少が原因だと考えられているため、同部のドーパミンを増やしてくれるエフピーはパーキンソン病への効果が期待できるのです。
エフピーは、「MAO-B(B型モノアミン酸化酵素)阻害剤」という種類に属し、モノアミン酸化酵素という酵素のはたらきを阻害(ブロック)するはたらきがあります。モノアミン酸化酵素はモノアミンを分解する酵素ですので、モノアミン酸化酵素をブロックすればモノアミンが分解されなくなり、モノアミンの濃度が高まるというわけです。
またモノアミン酸化酵素にはA型とB型がありますが、エフピーはB型を選択的にブロックします。人間の脳に存在するモノアミン酸化酵素は85%がB型であるため、B型を選択的にブロックした方が効率よく効果を発揮できるのです。
ちなみにモノアミンはドーパミンだけではなく、セロトニンやノルアドレナリンなども含まれます。これらモノアミンは、気分にも影響する物質だと考えられており、モノアミンが増えると落ち込みや不安などの気分の改善も得られる可能性があります。実際エフピーのようなお薬をうつ病の治療薬として用いている国もあります。
4.エフピーOD錠の副作用
エフピーにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
エフピーの副作用発生率は36.3%と報告されており、少なくありません。
生じうる副作用としては、
- 悪心・嘔吐
- ジスキネジア
- 幻覚
- 食欲不振
- めまい・ふらつき
- CK上昇、LDH上昇、ALP上昇
などが報告されています。
また頻度は少ないものの重篤な副作用としては、
- 幻覚、妄想、錯乱、せん妄
- 狭心症
- 悪性症候群
- 低血糖
- 胃潰瘍
が報告されています。
エフピーの作用は、モノアミンの分解・吸収を抑える事によって、ドーパミンをはじめとしたモノアミンの濃度を上げることになります。
そのため、ドーパミン量が増えることによる副作用が時に出現します。
・幻覚・妄想・せん妄などの精神症状
・ジスキネジアなどの不随意運動
・悪心・嘔吐、食欲不振などの胃腸症状
などが時々認められます。
脳のドーパミンが増えすぎると興奮から幻覚妄想やせん妄・錯乱などが生じることがあります。
幻覚妄想を生じる代表的な疾患である統合失調症は、脳のドーパミン量が増えすぎて起こっているという仮説もありますし、また覚せい剤などで興奮・錯乱状態になるのもドーパミンが深く関係している事が分かっています。
エフピーも脳のドーパミン量を増やしすぎると、このような精神症状を来たすことがあります。
ジスキネジアは主にドーパミン系に作用するお薬で認められる副作用です。パーキンソン病治療薬の他、ドーパミンをブロックする作用を持つ抗精神病薬(統合失調症の治療薬)や制吐薬で見られることがあります。
これは手足をクネクネ動かしたり、口をモグモグ動かしたりとする不随意運動(自分で意図しないで行われる運動)になります。
また、ドーパミンは胃腸系に作用し、吐き気や食欲不振を来たすことがあります。
その他も頻度は低いのですが、
・めまい、ふらつき
・胃潰瘍や低血糖、狭心症
・悪性症候群(急激にドーパミン量が増減すると生じることがある)
などの報告があります。
5.エフピーの用法・用量と剤形
エフピーには次の剤型が発売されています。
エフピーOD錠 2.5mg
以前はエフピー錠という普通の錠剤だったのですが、2007年よりエフピーOD錠(口腔内崩壊錠)に変更となっています。
エフピーをパーキンソン病に用いる際には、
本剤は、レボドパ含有製剤と併用する。
通常、成人に1日1回2.5mgを朝食後服用から始め、2週ごとに1日量として2.5mgずつ増量し、最適投与量を定めて、維持量とする(標準維持量1日7.5mg)。1日量は5.0mg以上の場合は朝食及び昼食後に分服する。ただし、7.5mgの場合 は朝食後5.0mg及び昼食後2.5mgを服用する。なお、年齢、症状に応じて適宜増減するが1日10mgを超えないこととする。
となっています。
6.エフピーが向いている人は?
エフピーはどのような時に検討されるお薬なのでしょうか。
エフピーの特徴をおさらいすると、
【エフピーの特徴】
・神経から分泌されたドーパミンの吸収・分解を抑えることでドーパミン濃度を高める |
というものでした。
エフピーをパーキンソン病に用いる場合、単独で用いることは少なく、L-Dopa剤などと併用して用いることが一般的です。
その理由として、エフピーは分泌されたドーパミンが吸収・分解されないように留まらせておくはたらきがありますが、パーキンソン病が進行するとドーパミンがほとんど出なくなってしまうためです。ドーパミンがそもそもほとんど分泌されていない状態で、ドーパミンを吸収させないようにしても、あまり意味がありません。
現在のパーキンソン病治療薬の中心となっているのはドーパミンそのものを投与し、脳内のドーパミンを増やす方法です。もちろんドーパミンそのものとは言っても脳に効率的に届くように工夫はされていますが、この方法の方が無理がなくドーパミンを増やしてパーキンソン病を改善させることが出来ます。
そしてこの作用を狙ったお薬が「レボドパ製剤(L-Dopa製剤」」です。
エフピーはL-Dopa剤を使って、それでも効果不十分であったり、他のお薬との併用が望ましいと考えられる時に検討されるお薬になります。