ベシケア錠(一般名:コハク酸ソリフェナシン)は2006年に発売された頻尿・過活動膀胱治療薬です。2011年には口腔内崩壊錠であるベシケアOD錠も発売されました。
ベシケアは膀胱の収縮を抑えることで頻尿を改善します。そのため、膀胱の収縮が過剰になっており、それによる頻尿で困っている方には役立つお薬です。
頻尿を改善するお薬にもいくつかの種類がありますが、その中でベシケアはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではベシケアの特徴や効果・副作用について紹介していきたいと思います。
目次
1.ベシケアの特徴
まずはベシケアの特徴をざっくりと紹介します。
ベシケアの最大の特徴は、ムスカリン3受容体への選択性が高いという事です。また作用時間が長いという特徴もあります。
難しい言い方ですが、これは要するに効いて欲しい部位に集中的に作用するため、その他の余計な部位に作用しにくいという事で、副作用が少ないということになります。詳しくは後述しますが、ベシケアはムスカリン3受容体という部分に選択的に作用する作りになっています。
また半減期が約40時間と長く、1日1回の服用で充分に効果が持続する点もメリットになります。これはベシケアが脂溶性であるためです。作用時間が長いのは良いことでもありますが、一方で身体に蓄積しやすいということでもあります。副作用が出た場合を考えると、長時間副作用が続きやすいという事で、これはデメリットになることもあります。
ベシケアはOD錠(口腔内崩壊錠)という剤型があるのも特徴です。最近ではOD錠があるお薬も増えてきましたが、OD錠は水なしでも服用できるため、出先で服用したい方であったり、飲み込む力が弱い高齢者の方にとって重宝する剤型です。
食後・空腹時どちらでも服用できる点もメリットです。食後に服用しても良いし、寝る前などの眠前に服薬しても問題ありません。お薬の中には食後に飲まないといけないもの、空腹時に飲まないといけないものがあります。この理由は食事との関係で吸収率に差が出てしまうからです。ベシケアはそのような影響を受けず、いつ服用しても安定した効果が得られます。
以上からベシケアの特徴を挙げると次のようになります。
【ベシケアの特徴】
・ムスカリン3受容体への選択性が高く、副作用が少ない |
2.ベシケアはどんな疾患に用いるのか
ベシケアはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁
難しい病名が書かれていますが、ざっくりと言えば「おしっこの回数が多かったり、おしっこが間に合わない人」に対して、尿の回数を減らすことで改善させる効果があるということです。
過活動膀胱(OAB:OverActive Bladder)という疾患は、膀胱の本来のはたらきである「おしっこを溜めるはたらき(蓄尿能)」が低下してしまう病気です。主に高齢者に多く、少し尿が溜まっただけで排尿筋が収縮してしまい、尿意を感じるため頻尿になってしまうのです。
ベシケアは、膀胱の異常な収縮を抑えることで蓄尿能を改善させ、過活動膀胱や頻尿に対して効果を発揮します。
ただし、頻尿であれば何でも効くわけではありません。あくまでも膀胱の過剰な収縮が生じている過活動膀胱の頻尿を改善させるというはたらきになります。
別の原因で頻尿が生じているのであれば、ベシケア以外のお薬の方が適切なことがあります。
例えば、男性の頻尿であれば過活動膀胱ではなく、前立腺肥大症に伴って生じていることもあります。この場合はベシケアではなく、α1遮断薬と呼ばれる、尿道に拡がりを良くするお薬を使用した方が効果が望める場合もあります。
また、尿路感染症に伴って頻尿となっているのであれば、治療はベシケアのようなお薬ではなく、抗生物質でばい菌をやっつけたり、水分をたくさん取ってばい菌を洗い流すことになります。この場合、ベシケアを使うことによって尿の出を少なくしてしまうと、かえってばい菌が膀胱に留まりやすくなってしまい、病状が悪化してしまうこともあります。
ベシケアを使うべき頻尿であるのかどうかは主治医にしっかりと診察してもらい判断してもらいましょう。
3.ベシケアにはどのような作用があるのか
ベシケアは主に頻尿や過活動膀胱の症状の改善に用いられます。つまり、尿の回数を少なくする作用があるということです。どのような作用によって尿の回数を少なくしているのでしょうか。
ベシケアは膀胱の平滑筋という筋肉に存在するムスカリン3受容体(アセチルコリン受容体と呼ばれることもあります)のはたらきをブロックすることが主なはたらきです。そのためベシケアは「抗コリン薬」と呼ばれています。アセチルコリンに拮抗する(=ジャマする)ので「抗コリン薬」です。
アセチルコリンという物質が膀胱のムスカリン3受容体とくっつくと、膀胱は収縮することが知られています。
ベシケアはムスカリン3受容体にアセチルコリンがくっつくのをジャマします。そうなると、膀胱が収縮しにくくなるため、頻尿が改善されるというわけです。
ちなみにムスカリン受容体は、1から5まであり、それぞれ全身に分布しており作用も異なります。その作用は複雑なのですが、ものすごくざっくりと言うと、
ムスカリン1受容体:主に脳に分布
ムスカリン2受容体:主に心臓に分布
ムスカリン3受容体:主に平滑筋に分布
ムスカリン4受容体:主に脳に分布
ムスカリン5受容体:主に脳に分布
となっています。
ベシケアは他の抗コリン薬と比べてムスカリン3受容体に選択性が高いことが特徴です。そのため、ムスカリン1,2,4,5受容体には作用しにくく、その分だけ副作用が少なくなっています。
ベシケアはよく、同時期に発売されたデトルシトールと比較されますが、それぞれの特徴は次のように異なります。
・ベシケア:脂溶性(長く効くが、蓄積しやすい)、ムスカリン3に選択性が高い
・デトルシトール:水溶性(薬効は短いが、蓄積しない)、ムスカリン3選択性は低いが、膀胱に対する臓器選択性が高い
どちらも一長一短あるため、主治医とよく相談して自分の症状に合った治療薬を選びましょう。
4.ベシケアの副作用
ベシケアにはどんな副作用があるのでしょうか。
先ほど説明した通り、ベシケアというのはムスカリン受容体をブロックするお薬です。ムスカリンの中でもムスカリン3受容体に選択性が高いという特徴がありますが、多少は他のムスカリン受容体にも作用してしまいます。
そのため、時に副作用が生じることがあります。
副作用としてもっとも多いものは、抗コリン作用と呼ばれるものです。抗コリン作用というのは、アセチルコリンをブロックするために生じてしまう作用のことです。ちなみにアセチルコリン受容体にはムスカリン受容体とニコチン受容体の2種類があり、ムスカリン受容体はアセチルコリン受容体の一つになります。
ベシケアがムスカリン受容体のはたらきをブロックしてしまうと、口渇(口腔内乾燥)、便秘、霧視などが生じる可能性があります。頻度は低いですが重篤なものとしては尿閉(尿が出なくなる)や不整脈、麻痺性イレウスが生じることもあります。
また、ベシケアは肝臓や腎臓で代謝されるため、肝障害や腎障害が生じることがあり、それに伴い血液検査で腎臓系酵素や肝臓系酵素の上昇が認められることがあります。BUN、AST、ALTなどの肝臓・腎臓系酵素の上昇が生じることもあることが報告されています。
特に肝障害・腎障害などの疾患が元々ある方は特に注意しなければいけませんので、事前に主治医に自分の病気についてしっかりと伝えておきましょう。
5.ベシケアの用法・用量と剤形
ベシケアは錠剤とOD錠の二つの剤型が発売されています。OD錠とは「口腔内崩壊錠」のことで、口に入れると唾液で溶ける作用を持つ剤型のことです。OD錠は水なしでも飲めることがメリットであり、外出先など水がない状況で服薬したい方や、飲み込みが悪い高齢者などに好まれます。
ベシケア錠は、
ベシケア錠 2.5mg
ベシケア錠 5mg
の2つの剤型が発売されています。
またベシケアOD錠も同様に、
ベシケアOD錠 2.5mg
ベシケアOD錠 5mg
の2つの剤型が発売されています。
ベシケアの使い方は、
通常、成人には5mgを1日1回経口投与する。 なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日最高投与量は10mgまでとする。
と書かれています。まずは5mgより開始し、最大で10mgまで使えるということです。
ベシケアは半減期が約40時間ほどあり、作用時間が非常に長いお薬です。そのため、1日1回服用すれば、1日を通して十分効果は持続します。半減期とは、お薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、そのお薬の作用時間をはかる一つの目安になる数値です。
また、ベシケアは食後に服用しても空腹時に服用しても同じような効果が得られるため、「食後に服用する」「寝る前に服用する」「起床時に服用する」といったいずれの用法でも同じような効果を期待できます。そのため、いつ服用するのかは記載されておらず自由に決めることが出来ます。
(とは言っても、一度服用時間を決めたら毎日同じ時間に飲むようにしましょう。)
実際は、食後に服用するか、夜間の頻尿の改善を期待する場合は眠前(寝る前)に服用することが多いです。
6.ベシケアが向いている人は?
以上から考えて、ベシケアが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ベシケアの特徴をおさらいすると、
【ベシケアの特徴】
・ムスカリン3受容体への選択性が高く、副作用が少ない |
ここから、過活動膀胱と診断された方であって、
・なるべく副作用を少なくしたい方
・OD錠を使いたい方
・1日に何回も服薬したくない方
・眠前、食後など服用時間が変わる可能性のある方
などにとっては向いているお薬かもしれません。
7.市販で買える頻尿・過活動膀胱治療薬について
頻尿・過活動膀胱でお悩みの方は、出来れば一度病院を受診し、医師の診察を受けて適切な治療薬を処方して頂きたいと考えております。
しかしどうしてもすぐには受診できないような場合、市販薬でも頻尿や過活動膀胱にある程度効果が期待できるものもあります。
ここでは頻尿・過活動膀胱に有効な市販薬をいくつか紹介します。
Ⅰ.レディガードコーワ
レディガードコーワは病院で処方される頻尿治療薬である「ブラダロン」と同じ成分(フラボキサート)を含む頻尿治療薬であり、薬効がしっかりと確認されている市販薬の1つです。
フラボキサートはカルシウム拮抗薬と呼ばれ、膀胱の平滑筋に存在するカルシウムチャネルという穴をふさぐ事によって膀胱が収縮できないようにするお薬です。
病院で処方されるお薬の中では効果が弱いお薬なのですが、市販薬の中では一番しっかりと効果が確認できているお薬だと言ってもよいでしょう。
基本的には女性にしか使えません。薬理的には男性にも効果があるのですが、男性に使う場合は「前立腺肥大症による頻尿」でない事を確認しないといけないためで、これは病院を受診しないと分からないため、市販薬としては女性にしか使えない事となっています。
Ⅱ.八味地黄丸
漢方薬である「八味地黄丸(はちみじおうがん)」も、病院でも頻尿に処方される事のあるお薬です。八味地黄丸は体力低下に伴う泌尿器機能の衰えに対して効果が期待できると考えられています。つまりこのような原因によって頻尿になっている方には向いています。
実際は高齢者などに用いられる事が多いお薬です。
Ⅲ.サプリメント
医学的にしっかりと効果が調査されていないものもありますが、
- ノコギリヤシ
- カボチャ種子
- イソサミジン
は頻尿に効果があると言われています。
ノコギリヤシはα受容体をブロックする作用によって「前立腺肥大に伴う」頻尿に効果があるため、過活動膀胱などの頻尿には効果はあまり期待できません。特に女性には効果は期待できないでしょう。
いくつかの調査では病院で処方されるα遮断薬と同等に効果があると報告しているものもありますが、一方で効果がないと結論付けているものもあり、医学的には効果はまだ確立していないところがあります。
カボチャ種子には様々な作用が報告されていますが、女性ホルモンのバランスを整えたり、炎症を抑えたり、前立腺の肥大を抑制したりといった作用で頻尿を抑えると考えられています。男性・女性両方に効果が期待できます。
イソサミジンは、セリ科の植物である「ボタンボウフウ」に含まれる成分で、過活動膀胱への効果が期待されています。
医師としては薬効がしっかりと確認できていない以上、積極的にお勧めは出来ないのですが、上記のお薬で効果が得られない時は検討しても良いかもしれません。