スピリーバの効果と副作用【COPD治療薬】

スピリーバ(一般名:チオトロピウム臭化物水和物)は2004年から発売されているお薬です。

「薬」といっても飲み薬ではなく、口から吸う(吸入する)ことでお薬の成分を直接気管に作用させる吸入剤になります。

スピリーバは「抗コリン薬」という種類に属します。抗コリン薬は気管を広げる作用を持ち、これにより呼吸のしにくさや咳・痰などの症状を改善させてくれます。

吸入剤にも多くの種類があり、それぞれで配合されている成分も異なっています。各吸入薬にどのような作用があって、どの吸入剤が自分に適しているのかというのはなかなか分かりにくいものです。

吸入剤の中でスピリーバはどのような特徴のあるお薬で、どのような作用を持っているお薬なのでしょうか。

スピリーバの特徴や効果・副作用についてみていきましょう。

 

1.スピリーバの特徴

まずはスピリーバの特徴をざっくりと紹介します。

スピリーバは気管を広げる作用を持つお薬で、主に慢性閉塞性肺疾患(肺気腫など)の治療に用いられます。

作用時間が長く、1日1回の収入で24時間以上効果が持続します。

スピリーバは気管を広げる作用を持つため、主に慢性閉塞性肺疾患に治療に用いられます。

慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)というのは有害物質(主にタバコなど)を長い間吸い続けることで、肺に慢性的な炎症が生じてしまっている疾患の総称です。以前は「肺気腫」や「慢性気管支炎」などとも呼ばれていました。

難しく書きましたが、要するに「タバコで肺が痛んでいる」状態の事です。

慢性閉塞性肺疾患では、タバコに含まれる有害物質が長期間にわたって肺や気管支を傷付けるため、肺・気管支に炎症が生じてしまいます。すると気管支が腫れて内腔が狭くなり、十分に酸素を吸えなくなってしまいます。

また有害物質は肺胞(肺の先端にある小さな袋)を徐々に破壊します。タバコによって肺胞が壊れてしまうと、それは二度と元には戻らないため、これによっても十分に酸素を体内に取り込めなくなってしまいます。

そのためCOPDの治療で出来る事は、炎症によって狭くなった気管支を広げてあげる事になります。

スピリーバは抗コリン薬という種類のお薬で、アセチルコリンという物質のはたらきをブロックするはたらきがあります。

アセチルコリンは気管支を収縮させる作用があるため、これをブロックすると気管支は収縮できなくなり、広がりやすくなります。すると気管支の中を空気が通りやすくなるため、呼吸苦が改善されるというわけです。

またスピリーバは気管支喘息に使われる事もあります。喘息はアレルギー反応によって気管支が収縮してしまい、息がしずらくなる疾患ですので気管支を広げる作用を持つスピリーバは効果が期待できます。

ただし気管支喘息にはスピリーバのような抗コリン薬よりも、β刺激薬やステロイド吸入薬などが用いられる事が多いため、抗コリン薬は気管支喘息にはそこまで多く用いられる事はありません。

スピリーバのような吸入剤は飲み薬と比べて副作用が少ないというのが大きなメリットです。吸入したスピリーバはほぼ気管のみに塗布されます。飲み薬のように全身にお薬が回りにくいため、全身性の副作用が生じにくいのです。

スピリーバも全身性の副作用はほとんどありません。ただし口の中でアセチルコリンのはたらきをブロックする事で生じる口喝(口の渇き)は多く認められ、注意が必要です。

ちなみにCOPD・気管支喘息に用いる吸入剤には、スピリーバのような抗コリン薬の他、

  • β2刺激薬
  • ステロイド吸入薬

などもあります。

これらはどのように使い分けられるのでしょうか。

簡単にいうと、抗コリン薬は即効性はないものの、ゆっくり長く気管支を広げる力に優れます。COPDは発作的に気管支が狭くなるわけではなく、タバコによって徐々に狭くなるため、抗コリン薬がもっとも気管支拡張作用に優れます。そのため、抗コリン薬がCOPDではまず用いられるのが一般的です。

β刺激薬は抗コリン薬と比べると即効性に優れますが、COPDに対する気管支拡張作用は抗コリン薬よりも劣ります。そのためCOPDよりも気管支喘息で主に用いられます。

ステロイド吸入薬も、COPDよりも主に気管支喘息で用いられる吸入薬になります。ステロイドは炎症を抑える作用があるため、タバコによる気管の慢性炎症が生じているCOPDでも効果は期待できます。

しかしステロイドは感染しやすい状態を作ってしまうというデメリットがあります。COPDの方の気管支・肺は弱っておりただでさえ感染に弱い状態にあるため、ステロイドで更に感染させやすい状態を作ってしまう事は危険もあります。

そのため、ステロイドは積極的にはCOPDには用いられていません。

以上から、スピリーバの特徴として次のようなことが挙げられます。

【スピリーバの特徴】

・主に慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療薬として用いられる
・アセチルコリンのはたらきをブロックし、気管を広げる
・即効性はなく、今すぐに苦しさを取るお薬ではない
・持続性に優れ、1回の吸入で24時間以上効果が持続する
・気管にのみ作用するため、全身への副作用が少ない
・副作用の口渇に注意

 

2.スピリーバはどのような疾患に用いるのか

スピリーバはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】
下記疾患の気道閉塞性障害に基づく諸症状の緩解

慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎、肺気腫)
気管支喘息(レスピマットのみ)

スピリーバは気管を広げる作用を持ち、その主な適応は「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」になります。

慢性閉塞性肺疾患は、タバコなどの有害物質を長期間に吸入することで、肺に慢性的な炎症が生じてしまっている疾患の事です。

慢性閉塞性肺疾患において、スピリーバのような抗コリン薬はまず最初に推奨されるお薬(第一選択薬)になります。

また気管支喘息にも適応がありますが、これはレスピマットという剤型のみになります。レスピマットの中でも1.25μg製剤のみが気管支喘息に適応があります。気管支喘息にスピリーバを用いるのは、他の吸入薬(β刺激薬やステロイド)では効果が不十分であった場合などで、最初から用いられる事はあまりありません。

スピリーバは慢性閉塞性肺疾患に対してどのくらい有効なのでしょうか。

気管支の狭窄の程度を反映する呼吸機能検査値として「1秒率」があります。これは息を思いっきり吐いてもらった時の最初の1秒に吐き出された息の量になり、この数値が下がっていれば下がっているほど、気管支の狭窄の程度は大きいと推定できます。

スピリーバはCOPD患者さんの1秒率を有意に改善させる事が報告されています。

また患者さんが自覚症状として感じる呼吸困難感や患者さんの生活の質(QOL)についても有意な改善が得られる事が報告されています。

 

3.スピリーバはどのような作用があるのか

スピリーバはどのような機序によって、気管を広げてくれるのでしょうか。

スピリーバの気管への作用について詳しく紹介します。

 

Ⅰ.気管支を広げる

スピリーバの主成分であるチオトロピウム臭化物水和物は「抗コリン薬】と呼ばれ、アセチルコリンという物質のはたらきをブロックする作用を持ちます。

アセチルコリンは体内で様々なはたらきをしている物質なのですが、気管においては気管を収縮させる作用がある事が知られています。

気管にはムスカリン3(M3)受容体というものがあり、ここにアセチルコリンがくっつくと気管が収縮するのです。

この作用をブロックするのがスピリーバのはたらきになります。

口から吸入されたスピリーバは気管にたどり着くと、アセチルコリンがM3受容体にくっつこうとするのをブロックします。

具体的には、アセチルコリンよりも先にM3受容体にくっついてしまい、M3受容体に蓋をしてしまうのです。するとアセチルコリンはM3受容体にくっつけなくなってしまいます。

これにより気管支が収縮できなくなるため、気管支は広がりやすくなります。

気管支が広がると、たくさんの空気を肺に送りやすくなるため、呼吸がしやすくなるというわけです。

ちなみにアセチルコリンがくっつく部位であるムスカリン受容体というのはM1~M5までありますが、そのうち特に気管の収縮に関係しているのがM3受容体です。

スピリーバはM1~M5のすべてのムスカリン受容体にくっつくのですが、特にM3受容体には長くくっつくという特徴があるため、気管支を広げるのに適したお薬なのです。

 

4.スピリーバの副作用

スピリーバにはどんな副作用があるのでしょうか。

スピリーバは吸入剤であり飲み薬と違って全身にほとんど作用しません。そのため安全性は高いお薬だと言って良いでしょう。

ただし吸入することで口腔内や咽喉頭、気管にはお薬が塗布されるため、これらの部位に副作用が生じることはあります。

スピリーバの副作用発生率は吸入カプセル剤で19.77%、レスピマットで2.72~7.14%と報告されています。

生じる副作用としては、

  • 口渇(口の渇き)
  • 便秘、消化不良

などがあります。

特に頻度が多いのが口渇で、上記のうち口渇の頻度が多くを占めます。

これはスピリーバの持つ「抗コリン作用」が原因です。抗コリン作用とはアセチルコリンのはたらきをブロックする作用なのですが、気管支においては気管支を広げる作用となるものの、別の臓器では全く異なる作用を発揮してしまいます。

口腔内では、唾液の分泌を減らす作用になるため、これにより口渇が生じます。また消化管においては消化管の動きを低下させる作用となるため、これにより便秘や消化不良が生じます。

スピリーバは吸入薬ですので、気管にのみ塗布され、体内にはあまり吸収されません。そのため、便秘や消化不良といった消化器系の副作用の頻度は多くはないのですが、吸入する過程で口腔内にはどうしてもある程度塗布されてしまうため、口渇は高い頻度で生じてしまいます。

また頻度は稀ながら重篤な副作用としては、

  • 心不全
  • 心房細動
  • 期外収縮
  • イレウス
  • 閉塞隅角緑内障
  • アナフィラキシー

が報告されています。

これらの副作用も抗コリン作用によるものです。

抗コリン作用は心臓においては心拍数を上げ、心臓の負担を高める方向に作用します。これにより心臓系の副作用が認められる事があります。

また胃腸の動きを低下させたり、眼圧を上げてしまう作用もあるため、イレウス(胃腸が動かない状態になってしまう事)や閉塞隅角緑内障(眼圧が上がってしまう疾患)が生じるリスクがあります。

スピリーバを使用してはいけない方(禁忌)としては、

  • 閉塞隅角緑内障の方(眼内圧を高め、症状を悪化させるおそれがある)
  • 前立腺肥大等による排尿障害のある方(更に尿を出にくくすることがある)
  • アトロピン及びその類縁物質あるいは本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある方

アトロピンは代表的な抗コリン薬です。アトロピンに対して過敏症がある場合、同じ抗コリン薬であるスピリーバも身体に合わない可能性が高いため、このように記載されています。

 

5.スピリーバの用法・用量と剤形

スピリーバにはどのような剤型があるのでしょうか。

スピリーバには、

スピリーバ吸入用カプセル 18μg

スピリーバ2.5μgレスピマット 60吸入 150μg
スピリーバ1.25μgレスピマット 60吸入 75μg

といった剤形があります。

スピリーバ吸入カプセルはカプセル剤ですが、これはそのまま飲むものではありません。専用の吸入器がありますので、それにスピリーバカプセルをセットし、吸入器がカプセルに穴をあける事でカプセル内の粉末を吸入して体内に取り込むお薬になります。

ちなみにスピリーバカプセルをそのまま飲んでも、気管支を広げる効果はほとんど得られませんので、気を付けてください。

スピリーバ吸入カプセルはこのようにカプセルを毎回吸入器にセットしなくてはいけないため、これがやや手間になります。

そのため最近では「スピリーバレスピマット」という最初から吸入器にスピリーバの成分が入っている剤型も発売されています。レスピマットは毎回スピリーバを吸入器にセットする手間が省けるため、より簡便に使用する事が出来ます。

更にレスピマットでは、吸入カプセル剤よりも効率よく成分を吸入する事が出来るため、少量のスピリーバで良く、吸入カプセルの18μgがレスピマットの5μgと同等になります。

スピリーバの使い方としては、

<スピリーバ吸入カプセル>
【慢性閉塞性肺疾患】
通常、成人には1回1カプセルを1日1回本剤専用の吸入用器具(ハンディヘラー)を用いて吸入する。

<スピリーバレスピマット>
【慢性閉塞性肺疾患】
通常、成人には1回5μgを1日1回吸入投与する。

【気管支喘息】
通常、成人には1回2.5μgを1日1回吸入投与する。なお、症状・重症度に応じて、1回5μgを1日1回吸入投与する。

と書かれています。

スピリーバは作用時間が長い事が利点です。一度気管のムスカリン3受容体にくっつくと長時間(24時間以上)くっつき続けます。そのため1日1回の使用で効果が持続します。

注意点としてスピリーバは、慢性閉塞性肺疾患で生じている呼吸苦を速やかに改善させるお薬ではありません。ゆっくりと長く効くお薬であり、今起こっている呼吸苦をすぐに治す力は弱く、今後の呼吸苦が生じないように「予防」するような目的で使用するお薬になります。

 

6.スピリーバが向いている人は?

以上から考えて、スピリーバが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

スピリーバの特徴をおさらいすると、

・主に慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療薬として用いられる
・アセチルコリンのはたらきをブロックし、気管を広げる
・即効性はなく、今すぐに苦しさを取るお薬ではない
・持続性に優れ、1回の吸入で24時間以上効果が持続する
・気管にのみ作用するため、全身への副作用が少ない
・副作用の口渇に注意

といったものでした。

スピリーバは長時間作用型の抗コリン薬になります。これを専門的にはLAMA(Long Acting Muscarinic Antagonist)と呼ばれます。

LAMAは即効性はないものの、慢性閉塞性肺疾患の方の気管支を広げるのに最も優れるお薬になります。更にスピリーバは1日1回で24時間以上効果が持続します。

抗コリン薬の中では古いお薬になりますが、それだけ長い間使われてきたという事で実績もあるお薬になります。

そのため、慢性閉塞性肺疾患の方がまず用いるお薬として向いていると言えるでしょう。

また吸入剤というのは、しっかりと気管や肺に届くまで吸い込まないと効果が得られません。正しい吸入法が出来るように医師や薬剤師からしっかりと指導を受けるようにしましょう。ネットでも吸入法の動画なども製薬会社から配布されていますので、ぜひご覧になってください。