スチブロン(一般名:ジフルプレドナート)は「ステロイド」に属するお薬で、1986年から発売されている「マイザー」というお薬のジェネリック医薬品になります。
ステロイドは幅広い疾患に有効なお薬ですが、「水虫」への効果はあるのでしょうか。
ステロイドは強い作用を持つため、適切に用いれば皮膚の異常をしっかりと治してくれます。しかし一方で、「皮膚に異常が生じたらとりあえずステロイドを塗ればいいだろう」という安易な使用も時に見受けられます。
スチブロンが水虫に効くのかを、ここではスチブロンの作用機序や水虫の病態を理解していきながら考えてみましょう。
1.スチブロンはどのようなお薬なのか
スチブロンが水虫に効くのかどうかを知るためには、
- スチブロンがどのような作用機序を持つお薬なのか
- 水虫とはどのような疾患なのか
を理解する必要があります。
ここでは、まずスチブロンがどのようなお薬なのかをみていきましょう。
スチブロンはいわゆる「ステロイド」になります。ステロイド、という言葉は皆さん聞いたことがあると思いますが、どのような作用を持つお薬なのかをご存知でしょうか。
ステロイドの基本的な作用は、「免疫を抑制する」というものです。
免疫とは私たちの身体に備わっている防御システムで、体内に異物が侵入してきたときにそれを感知し、やっつけようとする仕組みになります。
例えば風邪をひいたときの事を思い出してみて下さい。
風邪(急性上気道炎)は空気中のウイルスが鼻や口から体内に侵入し、咽頭や喉頭(上気道)の細胞に感染し、増殖していく疾患です。
細胞内でウイルスが増殖していくと、私たちの細胞は破壊されていきます。
細胞がどんどん破壊されると、私たちは生命活動を維持できなくなりますので、そうならないようにウイルスをやっつける必要があります。これを担っているのが免疫です。
免疫系は体内にウイルスが侵入した事を感知すると、ウイルスを攻撃する免疫細胞を感染部位に向かわせます。
そしてウイルスに感染した細胞を攻撃することで、細胞ごとウイルスをやっつけようとします(ウイルスは細胞内で増殖しているため、ウイルスだけをやっつけるという事はできません)。
免疫はウイルスを攻撃してやっつけてくれるのですが、その過程で私たちの細胞も巻き添えを受けるため、喉が腫れたり痛くなったりするのです。ちなみにこのように細胞がダメージを受ける事で生じる反応を「炎症」といいます。
ステロイドは、このような免疫のはたらきを抑える作用を持ちます。
つまりステロイドを塗ると、その部位に異物が侵入しても、免疫系がその異物を攻撃しにくくなるのです。
これがステロイドの基本的な作用です。
しかしここまで理解できた方は、
「身体を異物から守ってくれる免疫のはたらきを抑えてしまったらむしろ困るんじゃないの?」
「そんな作用を持つお薬が、どうして疾患の治療に役立つの?」
と不思議に思われるかもしれません。
確かに、正常にはたらいている免疫を抑えてしまうメリットはほとんどありません。しかし免疫反応が過剰になっていたり、暴走してしまっているような場合には、免疫を抑えてあげた方がいい場合もあります。
例えば、風邪の治りかけの時期で、もう細胞内にちょっとしかウイルスがいないのに、免疫が細胞への攻撃を続けていたら、これはウイルスをやっつけるというメリットよりも、自分の細胞が破壊されてしまうというデメリットの方が大きくなってきます。
このような場合はステロイドで免疫を抑えてあげた方が良いでしょう。
また本来は攻撃する必要のない異物や自分の身体に対して、免疫が「これは敵だ!」と誤って認識してしまって攻撃を始めてしまう場合も、免疫を抑えてあげる必要があります。
前者のような病態は「アレルギー」と呼ばれます。また後者のような病態は「自己免疫疾患」と呼ばれます。
例えば代表的なアレルギー疾患である花粉症は、「花粉」という本来私たちの体にとって無害なものに対して「これは敵だ!」と誤認識して攻撃を開始してしまう疾患です。こうなると鼻や目に入ってきた花粉を免疫が攻撃するため、充血やくしゃみ、鼻水といった症状が生じます。
また代表的な自己免疫疾患である関節リウマチは、関節という自分たちの身体の一部に対して免疫が「これは敵だ!」と誤認識して攻撃を開始してしまいます。こうなると、関節の痛みや腫れ、変形などが生じるようになります。
このような病態では、免疫を抑えてあげる必要があり、ステロイドが役に立つのです。
スチブロンはステロイドの中でも、外用剤(いわゆる塗り薬)であるため、免疫が過剰になっていたり・あるいは暴走してしまって皮膚に過度に炎症が生じている時に、それを抑える作用が期待できます。
例えば、
- そこに異物はないのに、免疫が皮膚細胞を攻撃し続けているような病態(手荒れや乾燥など)
- 免疫が皮膚細胞を敵だと誤認識して攻撃しているような病態(アトピー性皮膚炎)
などに効果が期待できるのです。
しかし一方で、スチブロンを塗った部位は免疫の力が落ちているため、そこにばい菌などの異物が感染しやすくなっていることも忘れてはいけません。
2.水虫はどのような疾患なのか
では次に水虫がどのような疾患なのかを見ていきましょう。
水虫は正確には「足白癬(あしはくせん)」と呼ばれます。
白癬菌と呼ばれる真菌(カビ)が、足の皮膚に感染し、増殖している病態が足白癬です。
白癬菌の感染は、足以外にも生じますが、生じる部位によって、
- 足に生じたものは足白癬
- 爪に生じたものは爪白癬
- 体幹に生じたものは体部白癬
- 股関節に生じたものは股部白癬
などと呼ばれます。
白癬菌は人のみならず動物にも感染しますので、動物の皮膚を通じて感染することもあります。また多湿環境を好むため、蒸れやすい季節(夏)や、蒸れやすい環境(ブーツなど)で増殖・悪化しやすい傾向があります。
白癬菌は表皮細胞に存在する「ケラチン」というたんぱく質を食べる性質があります。そのため皮膚に感染すると、表皮がむけたり(表皮剥離)、かゆみが生じたりするのです。
3.スチブロンは水虫の治療に使えるのか
ではスチブロンは水虫の治療に有効なのでしょうか。
スチブロンの作用機序、そして水虫の病態を理解すれば、「有効ではない」ことが分かります。
スチブロンは水虫に有効ではないどころか、むしろ水虫を悪化させる可能性もあり、原則として塗ってはいけません。
ステロイドであるスチブロンは免疫のはたらきを抑える作用がある事を学びました。これは皮膚にばい菌などの異物が感染しやすくなるということです。
一方で水虫は「白癬菌」という真菌の感染が原因であり、感染症の1つになります。
白癬菌が感染している部位に、免疫を抑えるステロイドであるスチブロンを塗れば、本来であれば白癬菌をやっつけてくれるはずの免疫のはたらきが抑えられてしまうわけですから、水虫は治らないどころか、むしろ悪化していく可能性が高くなります。
水虫の治療に用いられるのはスチブロンのようなステロイドではなく、「抗真菌薬」と呼ばれる、真菌をやっつける作用を持つお薬になります。
そのため、皮膚の荒れやかゆみが生じ、それが水虫である可能性があるときには安易にステロイドを塗る事は避けるべきです。それがただの荒れであればステロイドで改善する可能性もありますが、水虫であった場合はむしろ悪化します。
このように判断に迷う場合は、皮膚科を受診して原因を特定してもらい、適切な加療を行うようにしましょう。