スイニー錠(一般名:アナグリプチン)は2012年から発売されている糖尿病の治療薬になります。糖尿病の治療薬の中でも「DPP4阻害薬」という種類に属します。
スイニーはインスリンの分泌量を増やすことで血糖値を下げるお薬になります。しかしSU薬などの古い糖尿病治療薬と異なり、インスリンを過剰に分泌させない工夫がされているため、低血糖のリスクがほとんどなく、安全に血糖を下げることの出来るお薬です。
糖尿病治療薬にもたくさんの種類のお薬があります。これらの中でスイニーはどのような位置付けになるのでしょうか。
スイニーの効果や特徴、どのような方に向いているお薬なのかについてみていきましょう。
目次
1.スイニーの特徴
まずはスイニー錠の特徴について、かんたんに紹介します。
スイニーはインクレチンというホルモンの量を増やすことで、安全に血糖を下げるお薬になります。
インクレチンは血糖を下げる「インスリン」を分泌させるホルモンですが、血糖値に応じて分泌量が変わるという特徴を持っています。
血糖が高い時はインクレチンは多く分泌されるため血糖を下げますが、血糖が低い時はインクレチンは分泌されなくなり血糖は下がりません。インクレチンは血糖値を感知しながら分泌量が変化するホルモンなのです。
そしてここに作用させることで安全に血糖を下げることを可能にしたのがスイニーをはじめとしたDPP4阻害薬です。
スイニーはDPP4という酵素のはたらきを阻害します。DPP4はインクレチンを分解させる酵素なので、DPP4が阻害されるとインクレチンが分解されなくなり、インクレチンの濃度が上がります。スイニーはインクレチンの量を増やすことで安全に血糖を下げることが出来るのです。
DPP4阻害薬にもいくつかのお薬がありますが、その中でのスイニーはどのような位置づけでしょうか。
DPP4阻害薬はどれも大きな差はなく、スイニーは標準的なDPP4阻害薬になります。血糖を下げる強さも平均的な力があります。
ただし多くのDPP4阻害薬は1日1回投与で効果が持ちますが、スイニーは薬効が短く1日2回服用しないといけず、他のDPP4阻害薬よりも服薬にはやや手間がかかります。
以上からスイニー錠の特徴として次のようなことが挙げられます。
【スイニー錠の特徴】
・DPP4阻害薬に属するお薬である
・インクレチンを増やすことで安全に血糖を下げる
・インクレチンに作用するため低血糖が生じにくい
・1日2回服用する必要がある(多くのDPP4阻害薬は1日1回)
2.スイニー錠はどんな疾患に用いるのか
スイニー錠はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
2型糖尿病
スイニー錠は血糖を下げる作用を持つお薬ですから、糖尿病に使われます。
血糖を下げる力がしっかりしている割に低血糖などの重篤な副作用を起こしにくいため、使いやすいお薬になります。実際、糖尿病治療を行う際にまず最初に使われることも多いです。
糖尿病には1型と2型があります。
1型は自己免疫性の疾患で、膵臓に存在するβ細胞と呼ばれるインスリンを分泌する細胞が破壊されてしまっている疾患です。β細胞が破壊されてしまっていればインスリンが分泌できないため、血糖は高くなってしまいます。
2型は一般的な糖尿病で、糖分を摂取しすぎたり肥満などによってインスリンの効きが悪くことで生じてしまうものです。
スイニーは2型糖尿病に対して用いられます。2型糖尿病ではまずはお薬を使う前に食事療法(規則正しくバランスの良い食事を指導する)や運動療法(適度な運動を指導する)が行われます。
これら食事療法や運動療法を行っても改善が得られない時、スイニーのようなお薬が検討されます。
3.スイニーにはどのような作用があるのか
スイニーはインクレチンというホルモンを増やすことで血糖を下げて糖尿病を改善するお薬です。
ここではスイニーの詳しい作用について紹介します。
なお、Ⅱ.Ⅲ.Ⅳ.Ⅴ.の作用については、現時点では「このような作用もある可能性がある」というもので、人間において確実に効果が報告されているものではありません。
Ⅰ.インクレチンの分解を抑える
スイニーはインクレチンというホルモンに作用するお薬ですので、スイニーの作用機序を知るには、インクレチンについてまずは知らなければいけません。
インクレチンというのは、私たちの身体の中に元々あるホルモンで、GLP-1(Glucagon-Like Peptide1)やGIP(Glucose-dependent Insulinotropic Polypeptide)などがあります。
インクレチンはインスリン(血糖を下げるホルモン)を増やしたり、グルカゴン(血糖を上げるホルモン)を減らすことで血糖値を下げるはたらきを持ちます。
インクレチンは、ただ血糖を下げる指令を出すだけではありません。インクレチンのすごいところは血糖が下がりすぎないような仕組みを持っていることです。インクレチンは血糖が高い時だけ分泌され、血糖が低い時には分泌されないという仕組みを持っており、これによって血糖が高い時のみ血糖を下げ、血糖が低い時はそれ以上血糖を下げないのです。
糖尿病治療を行う際、SU薬などのお薬はインスリンそのものの分泌量を増やします。これはしっかりと血糖を下がりますが、血糖が低い時も更に下げてしまうため、低血糖が生じる可能性があります。低血糖は意識レベルが低下し、最悪の場合は命にも関わるような重篤な副作用です。
これに対してスイニーをはじめとしたDPP4阻害薬は、インスリンそのものを増やすのではなく、このインクレチンを増やします。インクレチンが増えれば必要な時だけインスリンの分泌量が増え、血糖が低い時にはそれ以上血糖を下げないという事が可能になります。
DPP4阻害薬は、DPP4という酵素のはたらきをブロックするお薬になります。DPP4はインクレチンを分解する酵素になります。そのため、DPP4を阻害するとインクレチンが分解されにくくなり、インクレチンの量が増えます。
インクレチンの量が増えれば、血糖が高い時にはよりしっかりと血糖を下げてくれつつ、血糖が低くなってしまったときには血糖を下げすぎない、という理想的な治療が可能になります。
Ⅱ.膵臓のβ細胞を保護する
スイニーをはじめとしたDPP4阻害薬は、膵臓のβ細胞を保護する作用があるのではないかと推測されています。
膵臓β細胞はインスリンという血糖を下げるホルモンを作る細胞ですので、β細胞が保護されればインスリンの分泌がスムーズに行えるようになり、血糖も上昇しにくくなります。
実際、動物実験にてDPP4阻害薬が膵臓β細胞を増殖されるという報告がされています。ヒトでも同じような効果がある可能性は十分にあり、今後の報告が待たれるところです。
糖尿病治療薬の中には、このβ細胞を傷付けてしまうものもあります。例えばβ細胞を直接刺激してインスリンを分泌させるお薬にSU薬(スルホニルウレア薬)があります。
SU薬は血糖を下げる力は強力で頼れるお薬なのですが、β細胞から無理矢理インスリンを「絞り出す」ような作用のため、長期的に見るとβ細胞が傷ついてしまいます。実際、長期間SU薬を使用していると、だんだんと効きが悪くなることが知られており、これを二次無効と呼びます。
二次無効は、SU薬によってβ細胞がダメージを受けすぎた結果生じるものです。
これに対してDPP4阻害薬は、β細胞を傷付けるのではなく、反対に保護するような作用があることが推測されています。
実際スイニーは、インスリン分泌能の指標であるHOMAβ値を上昇させ、糖尿病が悪化すると上昇するプロインスリン/インスリン比を低下させることが確認されています。
実は、「スイニー」と言う名前も「膵に良い」から来ているそうです。
Ⅲ.インスリンの効きを良くする
DPP4阻害薬は、インスリンの量を増やして血糖を下げるだけでなく、インスリンの効きを良くすることでインスリンが効率よくはたらけるようにする作用もあります。
これを「インスリン抵抗性の改善」と呼びます。
インスリンは血液中の糖分を筋肉や脂肪組織などの末梢組織に取り込ませるはたらきがあります。そして末梢組織は、この取り込んだ糖分を元に生命活動などの必要な活動を行います。
DPP4阻害薬は、インスリンが末梢組織に取り込まれやすいようにしてくれるという作用があります。このような作用からもDPP4阻害薬はしっかりと血糖を下げてくれるのだと考えられています。
Ⅳ.食欲抑制作用
DPP4阻害薬はインクレチンの分解を抑えることで、インクレチンの量を増やすはたらきがあります。
インクレチンの中のGLP-1は食欲中枢にはたらきかけ、食欲を抑えるはたらきがあることが報告されています。
となると、GLP-1を増やす作用があるスイニーにもこの作用があることが推測されます。
Ⅴ.心保護作用
同じくインクレチンの中のGLP-1は、ナトリウムの排泄を促進することで血圧を下げたり、心筋(心臓の筋肉)を保護する作用があり、これにより心保護作用を持つ可能性が報告されています。
となると、GLP-1を増やす作用があるスイニーにも心保護作用があることが推測されます。
4.スイニーの副作用
スイニーにはどのような副作用があるのでしょうか。スイニーをはじめとしたDPP4阻害薬は安全性が高いお薬になります。
副作用の発生率としては23.9%前後と報告されています。
生じる副作用としては、
- 便秘
などが報告されています。症状がひどい場合は減量あるいは中止となりますが、症状が軽度であればそのまま様子をみることもあります。
また検査値の異常としては、
- 肝臓系酵素の上昇(AST、ALT、ɤGTPなど)
- 便潜血陽性
などが報告されています。スイニー服用中は定期的に血液検査などの検査を行うことが望ましいでしょう。
稀ですが重大な副作用として、
- 低血糖症
- 腸閉塞
などが報告されています。
糖尿病治療薬の中には体重増加をきたすものが少なくありませんが、スイニーをはじめとしたDPP4阻害薬は体重増加をほとんどきたしません。
また下記に該当する方は、スイニーで治療するのではなくよりインスリン製剤による厳格な治療が必要になり、スイニーを使用することは出来ません。
- 重症感染症、手術前後、重篤な外傷のある患者さん
- 重症ケトーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡、1 型糖尿病の患者さん
5.スイニーの用法・用量と剤形
スイニーは、
スイニー錠 100mg
の1剤型のみがあります。
スイニーの使い方は、
通常、成人には1回100mgを1日2回朝夕に経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら1回量を200mgまで増量することができる。
となっています。
スイニーは血糖の平均値であるHba1cをおおよそ0.6~0.8前後下げると報告されています(200mg/日の服用を一定期間続けた場合)(個人差はあります)。
スイニーは腎機能が悪い方は投与量を減らす必要があります。腎機能障害のある方は主治医に服薬量を調整してもらいましょう。
6.スイニー錠が向いている人は?
以上から考えて、スイニー錠が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
スイニー錠の特徴をおさらいすると、
・DPP4阻害薬に属するお薬である
・インクレチンを増やすことで安全に血糖を下げる
・インクレチンに作用するため低血糖が生じにくい
・1日2回服用する必要がある(多くのDPP4阻害薬は1日1回)
というものでした。
スイニーをはじめとしたDPP4阻害薬は、効果がしっかりある割に安全性が高いため、使い勝手の良いお薬になります。そのため、糖尿病治療を考えたときにまず最初に用いられることの多いお薬です。
また体重増加を比較的きたしにくいことも利点でしょう。
スイニーは標準的なDPP4阻害薬ですが、1日2回服用というのはやや手間になります。1日1回の服用が良いということであれば、別のDPP4阻害薬の方が良いかもしれません。
DPP4阻害薬の意外なデメリットとしては薬価の高さが挙げられます。新薬というのはどうしても薬価が高くなりがちです。DPP4阻害薬も日本では2009年から発売が始まった新しいお薬であるため、他の糖尿病治療薬と比べると値段は高めなのです。
糖尿病のお薬にはいくつか種類がありますが、大きく分けると3種類に分けられます。
1つ目が、血糖を下げるホルモンである「インスリン」の分泌を促すことで血糖を下げようとするお薬です。これには「スルホニル尿素(SU)薬」「グリニド系(速効型インスリン分泌促進薬)」「DPP4阻害薬」「GLP1作動薬」などがあります。
2つ目は、インスリン自体を分泌させるのではなく、インスリンの効きを高めることで血糖を下げるお薬です。これには「ビグアナイド(BG)剤」「チアゾリジン誘導体」などがあります。インスリンの作用は血液中の糖分を筋肉や脂肪などに取り込ませることですが、同じように血液中の糖分を筋肉や脂肪に取り込ませやすくするのがこれらのお薬の主な作用になります。
最後が、糖分を吸収しにくくしたり排泄しやすくするお薬です。血糖の吸収を穏やかにする「αグルコシダーゼ阻害剤」や、尿から糖をたくさん出すようにする「SGLT2阻害薬」などがあります。
この中でDPP4阻害薬であるスイニーは1つ目のインスリンの分泌を促すお薬になります。
7.お薬以外の糖尿病の治療法
お薬は疾患を治療するために重要な方法の1つです。
しかし糖尿病をはじめとした生活習慣病は、お薬だけでなく日々の生活を工夫する事も大切です。むしろこのような生活習慣の改善が主であり、お薬は補助的な役割だと考えるべきです。
実際に、糖尿病治療薬の添付文書には次のように書かれています。
本剤の適用はあらかじめ糖尿病治療の基本である食事療法、運動療法を十分に行った上で効果が不十分な場合に限り考慮すること。
「まずは食事・運動療法を行って、それでも効果が不十分な時のみお薬は使ってね」という事です。
では糖尿病を改善させるためには、どのように食生活・運動習慣を気を付けていけばいいのでしょうか。大切なポイントをお話します。
Ⅰ.規則正しく・バランスの良い食事を
食事は規則正しく食べる事が大切です。朝食・昼食・夕食と1日3食規則正しく食べましょう。
「1日1食しか食べない」
「朝食を抜いている」
このような不規則な食生活をすると糖尿病をむしろ悪化させる事もあります。
1日に食べる量が同じでも、3食に分けて少しずつ食べるのと、1食でドカッと食べるのとでは血糖値の上がり方が異なります。一気に大量に食べると血糖値が急激に上昇するため、全身の臓器も痛みやすくなります。
また食事回数が少ないと、間食で補ってしまう事が多々あります。アメやチョコレート、スナックなど、間食には糖質を多く含むものが多く、これも糖尿病をかえって悪化させます。
食事は、よく噛んでゆっくり食べる事も大切です。ゆっくり食べればゆっくり血糖値が上昇していきますので、急いで食べるよりも臓器への負担も少なくなります。
また食事内容のバランスも大切です。
近年は糖質制限などがもてはやされていますが、糖質はエネルギーとしてある程度は必要になります。極端な偏食をするのではなく、バランス良く摂取するようにしましょう。
推奨されているバランスは、
炭水化物:たんぱく質:脂質=45~60%:10~20%:25~35%
程度と言われています。
一人暮らしなどで食事バランスを十分に考えられないという方は、配食を利用するのも手です。近年はバランスが考えられた食事を冷凍で自宅まで送ってくれる業者もあります。
▽ ウエルネスダイニング【低糖質・低カロリーご飯を配食してくれます】
ウエルネスダイニングでは、低糖質のご飯を配送してくれます。普通の米飯は1膳で250kcal(糖質55g)ほどありますが、こちらの米飯は1膳192kcal(糖質43.2g)に抑えられています。1日(3食)で考えれば約180kcalほど違ってきます。
彩ダイニングでは、糖尿病の方に向けた副食(おかず)を配送してくれます。1食240kcalに抑えて作られており、炭水化物・タンパク質・脂質も理想的なバランスになるよう考えられています。
種類もたくさんあるため、飽きずに続ける事が出来ます。
Ⅱ.野菜を先に食べよう
食事を食べる際に、普通に食べるのと、野菜を先に食べて糖質を後で食べるのとでは後者の方が糖尿病が改善しやすいという報告があります。
これは野菜を先に食べる事で血糖値の上昇が緩やかになるためだと考えられています。
食事は野菜から先に食べるようにしましょう。
生活習慣上なかなか野菜を先に食べれないという方は、サプリメントを利用するという方法もあります。
ベジファスは野菜に含まれる食物繊維を多く含んだゼリーで食事前に簡単に服用する事できます。ベジファスを最初に取る事で、血糖値の上昇を抑え、糖尿病を改善させやすくします。
Ⅲ.カロリー制限を
自分が1日に摂取してよいカロリーの上限を意識しておきましょう。
成人であればおおよそ1200~2000kcal/日になりますが、どのくらいのカロリーを摂取して良いかはその人の身長や活動量によって異なります。
摂取カロリーの決め方は「BMI×身体活動量」で簡易的に計算できます。
BMIは身長によって設定されている標準体重(理想的な体重)の事で、「BMI=身長(m)×身長(m)×22」で計算できます。
身体活動量は、日常で身体をどれくらい動かしているかで、
・軽労作:デスクワークが主・主婦など:25~30kcal
・中等度労作:立ち仕事が多い:30~35kcal
・重労作:力仕事が多い:35kcal~
と分けられます。
下表で自動で計算できますので、自分の1日摂取カロリーの上限を計算してみましょう。
[CP_CALCULATED_FIELDS id=”6″] |
どうしても甘いものや炭水化物食を食べてしまうという方は、最近はカロリーゼロスイーツや低糖質食など工夫された食事もありますので、無理な制限をするのではなく、このような食べ物を上手に利用するのも手です。
糖尿病で食事制限をしているけど、ラーメンが食べたい、という時にお勧めです。一般的なとんこつラーメンは800kcal程度ありますが、このラーメンは糖質を極限までカットしており麺とスープを合わせても約300kcalと超低カロリーになっています。
味は、やはり一般的なラーメンと比べるとやや物足りなさを感じる方もいらっしゃいますが、アンケートでも高い満足度が得られています。
くずもち、わらびもち、あんみつ、ようかん、おしるこなど、年配の方が好まれる和菓子を超低カロリーで作っています。
Ⅳ.適度な運動を
血糖値を下げるためには適度な運動も必要です。
理想は毎日ですが、毎日まで行かなくても週3回以上、1回30分以上の運動習慣を目指しましょう。
無理な運動習慣は長続きしませんので、無理なく続けられる程度の運動を設定する事が大切です。
- 毎日公園を散歩する
- プールでゆっくり泳ぐ
- ゆっくりジョギングやサイクリングする
などの負荷の低い運動でも十分に効果があります。日々続けていく事が何よりも大切です。