シムビコートタービュヘイラー(一般名:ブデソニド/ホルモテロールフマル酸塩水和物)は2010年から発売されているお薬で、気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の治療薬として用いられている吸入剤です。
口から吸入することで直接気管に作用し、気管の炎症を抑えたり気管を拡げることで息苦しさなどの症状をやらわげてくれます。
吸入剤には多くの種類があり、配合されている成分も異なっているため一般の方にとってはどの吸入薬にどんな作用があって、どの吸入剤が自分に適しているのかというのはなかなか分かりにくいところだと思います。
吸入剤の中でシムビコートはどのような特徴のあるお薬で、どんな作用を持っているお薬なのでしょうか。
シムビコートの効果や特徴・副作用についてみていきましょう。
目次
1.シムビコートの特徴
まずはシムビコートの特徴についてみてみましょう。
シムビコートの最大の特徴は、急性期と慢性期の両方をこの1本でまかなえる吸入剤だという点です。
通常、吸入剤というのは2つの用途があります。
1つ目が発作が生じた時、今生じている発作を取り敢えず抑えるために用いる「発作止め」です。これには「メプチン」「サルタノール」などがあり、効果は長くは続かないものの即効性があります。主に即効性のβ2刺激薬が用いられます。
【β2刺激薬】
アドレナリンβ2受容体を刺激するお薬。気管の平滑筋をゆるめることで気管を拡げるはたらきを持つ
2つ目がこれからの発作を起きないようにするための「予防薬」です。多くの吸入剤はこれに属し、ステロイド剤、ステロイドとβ2刺激薬が混ざったもの、抗コリン薬などがあります。即効性はありませんが、長時間作用し続け、発作が起きないように気管を守ってくれます。
通常この2つは別のお薬になるため、基本的には予防薬を毎日吸入し、それでも発作が起きてしまう時には緊急的に発作止めも使うという方法を取ります。そのため発作が起きやすい方は予防薬と緊急薬の2本持っておく必要があります。
シムビコートは基本的には「予防薬」になるのですが、配合されているβ2刺激薬(ホルモテロール)には即効性もあるため、発作が生じた時に発作止めとしても用いることが出来るのです。
1剤で両方の用途に対応している吸入剤というのは珍しく、その意味でシムビコートは使い勝手の良い吸入剤となります。
シムビコートは、ステロイド(ブデソニド)とβ2刺激薬(ホルモテロール)という2つの成分が配合されているお薬です。
ステロイド(ブデソニド)は炎症を抑えるはたらきがあります。喘息やCOPDでは、気管に炎症が生じていることが症状を引き起こす原因になっているため、炎症を抑えると呼吸苦・咳・痰などの症状を和らげることが出来ます。
【喘息】
アレルギー反応によって気管支が収縮してしまい、呼吸苦などの症状が生じる疾患。
【COPD】
慢性閉塞性肺疾患。以前は「肺気腫」と呼ばれていた。タバコによって肺胞が破れたり気管支が炎症によって狭くなり、呼吸苦などが生じる疾患。
β2刺激薬(ホルモテロール)は気管を拡げる作用があります。喘息ではアレルギー症状によって気管が狭くなってしまうことで呼吸苦が生じます。またCOPDでも慢性的な気管の炎症により気管は狭くなっています。これを拡げてあげると、症状は楽になります。
シムビコートはこの2つの成分によって喘息発作が起きないように、そしてCOPDによる呼吸苦が生じないように気管をしっかりと守ってくれます。
吸入剤は副作用が少ないというのも大きなメリットです。吸入したシムビコートは、効かせたい気管にのみ塗布されるため、全身に回りにくく、余計な部位に作用しにくいのです。ステロイドは通常の飲み薬であれば長期間投与すると副作用も心配ですが、吸入によって気管にのみ作用させる吸入剤はその心配も大分少なくなります。
デメリットとしては、「吸った感じがないこと」「薬価が高いこと」が挙げられます。
シムビコートは少量のお薬で効果が得られるため、一回の吸入でちょっとのお薬しか出てきません。これは良いことでもあるのですが、患者さんによっては「吸った気がしない」「吸えているのかどうかよく分からない」と言われることがあります。
以上から、シムビコートの特徴として次のようなことが挙げられます。
【シムビコートの特徴】
・喘息やCOPDなどの呼吸器疾患に用いられる
・呼吸苦・咳・痰などを改善させてくれる
・ステロイドとβ2刺激薬が配合されている
・1剤で発作止めとしても使えるし、予防薬としても使える
・気管にのみ作用するため、全身への副作用が少ない
・1吸入で少量の薬剤しか出ないため、吸った感覚が乏しい
2.シムビコートはどのような疾患に用いるのか
シムビコートはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
・気管支喘息 (吸入ステロイド剤及び長時間作動型吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)・慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)の諸症状の緩解(吸入ステロイド剤及び長時間作動型吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)
シムビコートは気管の炎症を抑え、気管を拡げる作用を持つお薬であるため、気管に炎症が生じている疾患、気管が狭くなってしまう疾患に対して用いられます。
具体的には「気管支喘息」と「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」になります。
気管支喘息においては、吸入ステロイドとβ2刺激薬は初期から推奨される治療法になるため、シムビコートは初期から検討されるお薬になります。
一方COPDにおいては、まずは抗コリン薬などの気管支拡張剤が選択されることが多く、シムビコートはそれでも効果がない場合に検討されるお薬になります。
【抗コリン薬】
副交感神経から分泌されるアセチルコリンのはたらきをブロックするお薬。気管では副交感神経は気管を収縮させるはたらきを持つため、これをブロックすると気管は拡がる
同じ呼吸器の疾患でも、喘息とCOPDでは、治療法が異なり、シムビコートの位置づけも異なるのです。
3.シムビコートはどのような作用があるのか
シムビコートはどのような作用機序によって、喘息やCOPDの症状を改善させてくれるのでしょうか。
シムビコートの気管への作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.抗炎症作用
シムビコートには「ブデソニド」というステロイドが配合されています。ステロイドには「抗炎症作用」があり、ブデソニドもこの作用を狙って配合されています。
ステロイドには飲み薬や塗り薬などもありますが、これらも同じ作用があります。飲み薬のステロイドは全身の炎症を抑えるために用いられ、関節リウマチなどの自己免疫性疾患や重症の感染症などに用いられることがあります。
塗り薬のステロイドは皮膚の炎症を抑えるために用いられ、主に皮膚炎(アレルギー性皮膚炎など)に用いられます。
同じようにシムビコートに含まれる「ブデソニド」は、気管の炎症を抑えるために用いられます。
喘息では、気管にアレルギーが生じてしまい、それにより気管に炎症が生じます。炎症が生じると気管が腫れるため、気管が狭くなり、呼吸苦や咳・痰などが生じます。COPDでも、タバコなどによって気管や肺が慢性的にダメージを受けており、慢性炎症のような状態になっています。
このような状態の気管にステロイドを使用すると、気管の炎症が軽減します。すると気道の腫れが和らぐため、呼吸苦・咳・痰の改善が得られるのです。
ちなみに「ブデソニド」のみを主成分とした吸入薬には「パルミコートタービュヘイラー」があります。
ブデソニドは気管において一部が脂肪酸エステルという形で保たれます。この脂肪酸エステルは、リパーゼという酵素によって徐々にブデソニドになります。これによってブデソニドは気管において長時間作用してくれるのです。
Ⅱ.アドレナリンβ2刺激作用
シムビコートには「ホルモテロール」というβ2刺激薬が含まれています。
アドレナリンという物質が作用する部位をアドレナリン受容体と呼びますが、アドレナリン受容体には、α受容体とβ受容体があることが知られています。
β受容体は、心臓の収縮力を強めたり脈拍を早める作用(強心作用)や、気管にある平滑筋という筋肉を緩めて気管を拡げたり、また血管の平滑筋を緩めることで血圧を下げるることで気管を拡げる作用があります。
そして、β受容体にもいくつか種類があります。
主に心臓に存在し、心臓の収縮力を強めたり脈拍を早めるのがβ1受容体になります。また主に気管や血管に存在し、気管や血管を拡げるのがβ2受容体になります。
(それ以外にもβ3受容体もありますが、今回はあまり関係ないので省略します)
気管支喘息・COPDに対して効いて欲しいのは主にβ2受容体になります。
シムビコートに含まれるホルモテロールはβ受容体の中でもβ2受容体に対して選択性が高く、気管を拡げる作用のみにはたらき、心臓などには作用しにくい特徴を持っています。このため、ホルモテロールは「β2刺激薬」と呼ばれています。
また吸入することにより局所にのみ塗布されるため、全身の血圧を下げるといった副作用も生じにくくなっています。
ちなみにホルモテロールのみからなる吸入薬には「オーキシスタービュヘイラー」があります。オーキシスは主にCOPDの治療に対して用いられます(β2刺激薬は単独では気管支喘息には用いられません)。
喘息・COPD治療薬に使われるβ2刺激薬には
- SABA(吸入短時間作用性β2刺激薬)
- LABA(吸入長時間作用性β2刺激薬)
の2種類があります。
SABAは即効性がありますが、効果は長くは続きません。そのため喘息発作が起きた時に抑える「発作止め」になります。
LABAは即効性はありませんが、効果が長く続きます。そのため、発作をすぐに抑えることは出来ませんが、発作が起きないように「予防する」お薬になります。
シムビコートに含まれるホルモテロールはLABAに属し、基本的には長時間効くようなお薬になります。しかしLABAでありながら即効性も有するため、発作が起きた時にすぐに効果も期待できるお薬だという特徴があります。吸入後約1分後には効果が発現すると報告されています。
そのためシムビコートは「予防薬」としても使えるし、「発作止め」としても使えるのです。
ホルモテロールは中程度の脂溶性というほど良い性質を持っています。一般的に脂溶性の強いお薬ほど作用が遅く、作用時間は長いと考えられています。
ホルモテロールはほど良く脂溶性であり、即効性もありながら長時間作用するという特徴を有しています。
4.シムビコートの副作用
シムビコートにはどんな副作用があるのでしょうか。
シムビコートの副作用は用途によっても異なりますが、4.2~18.5%前後と報告されています。
主な副作用としては、
- 嗄声
- 筋痙攣、振戦
- 動悸
- 咽喉頭疼痛
- 口腔カンジダ症
- 肺炎
- 低カリウム血症
などが報告されています。シムビコートは、ステロイドとβ2刺激薬の配合剤ですので、それぞれの副作用が生じます。
ステロイドは炎症を抑えてくれる効果が期待できる反面で、「感染に弱くなってしまう」というリスクがあります。それにより嗄声や口腔カンジダ症、肺炎などが生じやすくなってしまいます。
またβ2刺激薬は気管の平滑筋を緩めることで気管を拡げる作用があります。これにより喉が痛くなったり、筋痙攣が生じることがあります。
またβ2刺激薬も多少はアドレナリンβ1受容体に作用してしまうため、これにより動悸などが生じることもあります。
低カリウム血症はシムビコートに含まれるホルモテロールの作用によるものです。ホルモテロールは「Na+/K+ ATPase」という酵素を活性化します。この酵素は血液中のカリウムを細胞内に取り込み、代わりにナトリウムを血液中に放出します。
この酵素のはたらきが強まりすぎると血液中のカリウムが低くなってしまうのです。
また、稀ながら重篤な副作用としては、
- アナフィラキシー
- 重篤な血清カリウム値の低下
が報告されています。
このためシムビコートを長期間吸入する場合は、定期的に血液検査などをしておくことが望ましいでしょう。
ちなみにシムビコートは
- 有効な抗菌剤の存在しない感染症
- 深在性真菌症
の患者様には投与禁忌になっています。
これはシムビコートがステロイドを含有しているためです。ステロイドは炎症を抑えてくれる効果がある反面で、免疫力を下げてしまう作用があります。免疫力とは病原菌に対して抵抗する力のことで、これが弱まるとばい菌に感染しやすくなってしまいます。
元々、難治性の感染症にかかっている方にステロイドを使用してしまうと、更にばい菌が悪さをしてしまう環境になるため、このような方への投与は認められていません。
5.シムビコートの用法・用量と剤形
シムビコートにはどのような剤型があるのでしょうか。
シムビコートは、
シムビコートタービュヘイラー 30吸入
シムビコートタービュヘイラー 60吸入
の2剤形があります。
ちなみにシムビコートの後についている「タービュヘイラー」とはどういう意味なのでしょうか。
「タービュヘイラー」はシムビコートが入っている吸入容器の事です。この容器は特殊な構造で作られています。マウスピースの部分がらせん状になっており、吸入器からシムビコートが放出される時、Turbulence (乱気流)が作られるようになっています。
乱気流を作ることで薬剤が微粒子化され、肺内に到達しやすくなるのです。
この「Turbulence」に「Inhaler(吸入器)」を合体させた用語が「Turbuhaler(タービュヘイラー)」ということです。
シムビコートの使い方としては、
<気管支喘息>
通常成人には、維持療法として1回1吸入を1日2回吸入投与する。なお、症状に応じて増減するが、維持療法としての1日の最高量は1回4吸入1日2回(合計8吸入)までとする。維持療法として1回1吸入あるいは2吸入を1日2回投与している患者は、発作発現時に本剤の頓用吸入を追加で行うことができる。本剤を維持療法に加えて頓用吸入する場合は、発作発現時に1吸入する。数分経過しても発作が持続する場合には、さらに追加で1吸入する。必要に応じてこれを繰り返すが、1回の発作発現につき、最大6吸入までとする。
維持療法と頓用吸入を合計した本剤の1日の最高量は、通常8吸入までとするが、一時的に1日合計12吸入まで増量可能である。
<COPD>
通常成人には、1回2吸入を1日2回吸入投与する。
と書かれています。
喘息に用いる場合は、予防薬としては1日8吸入までになります。加えて発作止めとして用いることもでき、これは1回の発作で最大6吸入まで使えます。
ただし予防薬+発作止めとして合計で最大1日12吸入まで使えます。
COPDに用いる場合は、予防薬としての吸入のみで発作止めとしては使えません。
なお、シムビコートは1吸入中には
ブデソニド 160μg
ホルモテロールフマル酸塩水和物 4.5μg
が含有されています。
シムビコートのようなステロイド吸入剤は吸入後にうがい・口すすぎをすることが推奨されています。ステロイドは免疫力を弱めてばい菌が感染しやすい環境にしてしまうためです。
うがいをして口の中のステロイドを洗い流すことにより、口腔内にばい菌が繁殖するのを防げます。
6.シムビコートが向いている人は?
以上から考えて、シムビコートが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
シムビコートの特徴をおさらいすると、
・喘息やCOPDなどの呼吸器疾患に用いられる
・呼吸苦・咳・痰などを改善させてくれる
・ステロイドとβ2刺激薬が配合されている
・1剤で発作止めとしても使えるし、予防薬としても使える
・気管にのみ作用するため、全身への副作用が少ない
・1吸入で少量の薬剤しか出ないため、吸った感覚が乏しい
といったものでした。
シムビコートは喘息で使用することの多い吸入剤になりますが、その最大の特徴は1剤で発作止めと予防薬の両方のはたらきをすることです。
そのため、「発作止め」「予防薬」と複数持つことが面倒な方や1剤で済ませたい方にはオススメしやすいお薬になります。
注意点としては、他の吸入剤と比べて少量しか噴霧されないため、「吸った感じがしにくい」点があります。そのため、ちゃんと吸入できるように吸入の仕方をしっかりと学んでおく必要があります。
そんなに難しいことではなく、噴霧時にしっかりと息を吸えばいいだけなのですが、心配な方は主治医や薬剤師にやり方を聞きましょう。またネットなどでもやり方を見ることも可能です。