スインプロイクの効果と副作用【下剤・便秘薬】

スインプロイク錠(一般名:ナルデメジントシル酸塩)は2017年に発売された下剤(便秘に用いるお薬)です。

下剤にもいくつかの種類がありますが、スインプロイクは特殊な下剤でオピオイド(麻薬)の副作用で便秘になってしまった方にのみ使える下剤になります。

強いオピオイドは主に癌の痛みに用いられますが、近年では弱いオピオイドも慢性疼痛や抜歯の後の痛みなどに用いられるようになってきました。

オピオイドは痛みを抑える作用に大変優れたお薬ですが、副作用として便秘を引き起こしてしまいやすい事が知られています。せっかくオピオイドで痛みが和らいでも、副作用で別の苦痛が生じてしまう事があるのです。

スインプロイクはこのような場合に役立つお薬です。

スインプロイクはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここではスインプロイクの特徴や効果・副作用についてみていきましょう。

 

1.スインプロイクの特徴

まずはスインプロイクの全体的な特徴について紹介します。

スインプロイクはオピオイド(麻薬)によって生じてしまう便秘を改善させる事に特化した下剤です。逆に言えば、オピオイドの副作用で生じた便秘以外の便秘にはあまり効きません。

スインプロイクは一般的な下剤とは異なり、特殊な状況でのみ用いられる下剤です。

それは「オピオイド」と呼ばれるお薬が処方されて便秘になってしまったという状況です。

悪性腫瘍(いわゆるガン)が進行すると、様々な痛みが生じるようになり患者さんを苦しめる事があります。このような苦しみを緩和するため、しばしばオピオイド(いわゆる麻薬)が用いられます。

また近年では、慢性疼痛や抜歯後の痛みにも使えるような弱いオピオイド(弱オピオイド)もあり、オピオイドは痛みを和らげるお薬としてガンの方のみならず多くの方に利用されています。

「麻薬」というと怖いイメージを持たれるかもしれませんが、優れた鎮痛作用を持つオピオイドはガン末期の患者様に穏やかに日々を過ごして頂くために欠かす事の出来ないお薬です。

しかしオピオイドにも副作用はあります。特に患者様を困らせるのが便秘です。オピオイドを投与した患者様の40~80%に便秘は生じるとも報告されており、せっかくオピオイドで痛みが和らいでも、便秘の副作用によって別の苦しみが生じてしまう患者様も少なくありません。

このような副作用の問題から、オピオイドを増やしたいけどなかなか十分量まで増やせないというケースもあります。

このようなケースに特化したお薬がスインプロイクです。

オピオイドで便秘が生じるのは、オピオイドが腸管に存在するオピオイドμ(ミュー)受容体に結合する事で、消化管の動きを抑制してしまうためだと考えられています。

スインプロイクは腸管のオピオイドμ受容体にフタをして、オピオイドがそこに結合できないようにしてしまう作用があります。これによりオピオイドが腸管のオピオイドμ受容体に結合できなくなるため、便秘が生じにくくなります。

更にスインプロイクは脳内にはほとんど移行しないため、便秘を改善させる作用を持ちながらもオピオイドの鎮痛作用を弱めないという特徴があります(鎮痛作用はオピオイドが脳に作用する事で生じます)。

一般的な下剤は腸管の動きを促したり、便に水を含ませて柔らかくする事で便秘を改善しようとします。それに対してスインプロイクは、オピオイドが便秘を引き起こす原因そのものをブロックするため、しっかりと便秘を改善させてくれる事が期待できます。

デメリットとしては、適応がオピオイドで生じている便秘に限られる点が挙げられます。一般的な便秘にスインプロイクを用いる事は出来ず、また薬理学的に考えても一般的な便秘の方に投与してもそれほど効果は得られない事が予測されます。

以上からスインプロイクの特徴として、次のようなことが挙げられます。

【スインプロイクの特徴】

・オピオイド(麻薬)によって生じた便秘を改善させる
・腸管のオピオイドμ受容体のはたらきをブロックする作用がある
・脳内に移行しにくいため、オピオイドの鎮痛作用は弱めない

 

2.スインプロイクはどのような疾患に用いるのか

スインプロイクはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

オピオイド誘発性便秘症

オピオイド誘発性便秘症(Opioid-Induced Constipation:OIC)は、その名の通りオピオイドによって引き起こされる便秘の事です。

ちなみにオピオイドって具体的にはどのようなお薬があるのでしょうか。代表的なオピオイドには次のようなものがあります。

【弱オピオイド】
・リン酸コデイン・・・主に咳止めとして用いられる
・トラマール・・・主に慢性疼痛・抜歯後痛に用いられる
・ペンタジン・・・主に癌による疼痛に用いられる

【強オピオイド】
・オキシコンチン・・・主に癌による疼痛に用いられる
・フェントステープ・・・主に癌による疼痛に用いられる

これら「オピオイド」は優れた鎮痛作用(痛みを抑えてくれる作用)を持ちますが、一方で副作用として便秘を生じさせてしまう事があります。そのような時に役立つのがスインプロイクです。

ではスインプロイクはオピオイド誘発性便秘症に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。

オピオイドを投与されており、自発排便回数が1週間に5回以下である患者さんに対してスインプロイクを投与した調査では、

  • スインプロイクの有効率は71.1%
  • プラセボの有効率は34.4%

と報告されています(プラセボは何の成分も入っていない偽薬の事です)。

「有効」と判断する基準としては、

  • 自発排便回数が週3回以上に改善
  • 元々の排便回数から週1回以上増加

の両者を満たした場合としています。

 

3.スインプロイクの作用機序

オピオイドによって生じてしまった便秘を改善させてくれるスインプロイクですが、どのような機序で便秘を改善させているのでしょうか。

これを理解するためには、まずオピオイドで便秘が生じる機序を理解しなければいけません。

オピオイドはいわゆる「麻薬」になりますが、医療現場におけるオピオイドの処方目的は、鎮痛作用(痛みを和らげる作用)になります。

オピオイドには弱オピオイドと強オピオイドがあります。

強いオピオイド(強オピオイド)は、ガン末期など強い痛みで苦しんでいる方に用いられます。一方で、弱いオピオイド(弱オピオイド)は慢性疼痛や抜歯後の疼痛などにも用いられています。

オピオイドはどのような機序によって鎮痛作用を発揮しているのでしょうか。

オピオイドは脳に存在するオピオイドμ(ミュー)受容体という部位に結合する事で鎮痛作用を発揮します。μ受容体が刺激されると痛覚伝達の抑制が起こるため、痛みが生じにくくなるのです。

一方でオピオイドには、副作用もあります。注意すべき副作用には耐性・依存性、眠気や傾眠、尿閉(尿が出にくくなる)、かゆみなどが挙げられますが、オピオイドの副作用で頻度も多く、また患者さんが苦痛を感じるものの1つに「便秘」が挙げられます。

便秘はオピオイドが腸管に存在するオピオイドμ受容体に結合してしまうために生じます。オピオイドがオピオイドμ受容体に結合すると、消化管の蠕動運動が抑制されてしまうのです。

理想的には脳のオピオイドμ受容体にだけ結合して、腸管のμ受容体に結合しないようなオピオイドがあればいいのですが、残念ながらそのようなオピオイドはありません。

そこで開発されたのがスインプロイクです。

スインプロイクは、服用すると腸管でオピオイドμ受容体にフタをしてしまいます。これによってオピオイドが腸管のオピオイドμ受容体に結合できなくなるため、便秘が生じにくくなります。

しかしスインプロイクは、脳に存在するオピオイドμ受容体には作用しません。そのためオピオイドの鎮痛作用を弱める事はないのです。

なぜスインプロイクは、脳のオピオイドμ受容体に作用しないのでしょうか。実はスインプロイクは、「脳血管関門(BBB:Blood Brain Barrier)」を通過できないような構造をしているのです。

脳血管関門とは、血液が脳に入る時に通る関所のようなものです。脳は私たちの身体の中でも特に重要な臓器であるため、脳に入る血液に対して「危険なものが混入していないか」をチェックするシステムがあり、ここを通過できない物質は脳に入れません。

オピオイドは脳血管関門を通過できるため、そのまま脳に入って脳のオピオイドμ受容体に作用しいます。しかしスインプロイクはモルヒナン骨格という脳血管関門を通過できない構造を有しているため、脳内に入る事ができません。

そのためスインプロイクは、オピオイドの脳における鎮痛作用を減弱させず、オピオイドによって生じる胃腸の便秘症状を改善してくれるのです。

 

4.スインプロイクの副作用

スインプロイクにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。

スインプロイクの副作用発生率は30.3%と報告されています。数値だけ見ると副作用の多いお薬に見えるかもしれません。

しかし、報告されている副作用の多くは、

  • 下痢
  • 腹痛

など消化器系の症状になります。

スインプロイクは下剤になりますので、効きすぎれば便が柔らかくなり、このような副作用が生じてしまうのはある程度は仕方ないところがあります。このような症状は下剤の作用でもあるからです。

ただしあまりに程度が強い場合はスインプロイクを中止する必要があります。

頻度は稀ですが重篤な副作用としても、

  • 重度の下痢

が報告されています。

下痢も重度になると脱水や電解質異常、それに伴う意識障害などを来たす事もあるため、下痢の程度がひどい場合には早急にスインプロイクの中止を検討しなければいけません。

また、スインプロイクを使用してはいけない方(禁忌)としては、

  • スインプロイクの成分に対し過敏症の既往歴のある方
  • 消化管閉塞もしくはその疑いのある方、又は消化管閉塞の既往歴を有し再発のおそれの高い方

が挙げられています。

スインプロイクは便を出しやすくする作用があるため、何らかの理由で(癌など)消化管が詰まってしまっている方はスインプロイクを使えません。このような状態でスインプロイクを使うと、腸管の内圧がどんどんと高まってしまい、嘔吐や腹痛が生じ、ひどい場合は腸管が穿孔(穴が開いてしまう)してしまう事もあるためです。

また当然ですがスインプロイクが身体に合わず、服用によって過敏反応が出てしまう方はスインプロイクは使えません。

 

5.スインプロイクの用法・用量と剤形

スインプロイクは、

スインプロイク錠 0.2mg

の1剤形のみが発売されています。

スインプロイクの使い方は、

通常、成人には1回0.2mgを1日1回経口投与する。

と記載されています。

スインプロイクは、1日1回の服用で効果が持続します。スインプロイクを服用するような方は強い痛みに苦しんでいる事が多いため、服用の手間も少ないに越したことはありません。服用回数が少なくて済むのもスインプロイクのメリットの1つです。

ちなみに食事の影響はあまり受けないため、スインプロイクは食前・食後に関わらず服用する事が出来ます。

 

6.スインプロイクは服用してどれくらいで効くのか

スインプロイクは服用してどのくらいで効果が得られるのでしょうか。

調査によると、スインプロイクを服用して最初に自発排便が得られるまでの時間は4.68時間(中央値)になります。

ここから考えると、個人差はありますが服用後おおむね5時間前後で効果が得られる事が多いと言えます。

服用してすぐに効くような即効性のある下剤ではありませんが、効果が出るまでに何日も待たないといけないような下剤ではなさそうです。

 

7.スインプロイクが向いている人は?

以上から考えて、スインプロイクが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

スインプロイクの特徴をおさらいすると、

【スインプロイクの特徴】

・オピオイド(麻薬)によって生じた便秘を改善させる
・腸管のオピオイドμ受容体のはたらきをブロックする作用がある
・脳内に移行しにくいため、オピオイドの鎮痛作用は弱めない

というものでした。

スインプロイクは適応が非常に特化しており、オピオイドの副作用によって生じた便秘にのみ効果が期待できるお薬になります。

一般的な下剤でもオピオイドによる便秘には一定の効果が期待できますが、スインプロイクは作用機序から考えてもオピオイドによる便秘に対して効率的に症状を改善させる事が出来るお薬です。

特に末期がんの患者様においては、患者様の苦しみを出来るだけ緩和してあげる事は生活の質を高めるためにとても大切です。

せっかくオピオイドを使用して痛みが落ち着いたのに、便秘によって新たな苦しみが生じてしまっていては、患者様が穏やかに過ごせているとは言えません。

このような状態になってしまっている方にとっては、スインプロイクは良い適応になっていくと考えられます。