ザルティア錠(一般名:タダラフィル)は、2014年から発売されている前立腺肥大症の治療薬です。
PDE5阻害剤という種類に属し、PDE5という酵素のはたらきをブロックする事で前立腺肥大症に伴う諸症状(排尿障害、残尿感、頻尿など)を改善させます。
前立腺肥大症の治療薬にもいくつかの種類がありますが、その中でザルティアはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではザルティアの特徴や効果・副作用について紹介していきたいと思います。
1.ザルティアの特徴
まずはザルティアの特徴をざっくりと紹介します。
ザルティアは、下部尿路系(前立腺、膀胱、尿道など) の血流を増やす事で筋肉を緩め、前立腺肥大症に伴う排尿障害を改善させます。
前立腺は膀胱の下にある臓器で、尿が通る尿道を囲むように位置しています。そのため前立腺が肥大すると尿道が圧迫され、尿が出にくくなります。これを「排尿障害」と言います。
尿が出ないと膀胱に尿がたくさん溜まってしまうので、膀胱が過剰に伸展してしまって膀胱の血流障害の原因となり、排尿障害は更に悪化していきます。
ザルティアは下部尿路の血管を拡張させて血流を増やすことで、この悪循環を改善させる作用があります。また下部尿路の筋肉を緩めることで、尿が排出しやすくするはたらきもあります。
副作用が多いお薬ではありませんが、血管を拡張させて血流を増やす作用がある事から頭痛や顔のほてりといった副作用が生じる事があります。
以上からザルティアの特徴として次のような点が挙げられます。
【ザルティアの特徴】
・下部尿路の血管を拡張させる事で血流を増やす作用がある |
2.ザルティアはどのような疾患に用いるのか
ザルティアはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
前立腺肥大症に伴う排尿障害
前立腺肥大症とは、その名の通り前立腺が肥大する疾患です。
前立腺は前立腺液を作る臓器で、これは精子の一部となる液です。前立腺には他にもはたらきがあるのではと考えられていますが、そのはたらきはまだ分かっていません。男性にしかない臓器であるため、前立腺肥大症は男性特有の疾患になります。
なぜ前立腺が肥大するのかははっきりとは分かっていませんが、加齢や男性ホルモン、高血圧、高脂血症、遺伝などが関係すると言われています。特に加齢の影響は大きく、高齢者では高い確率で前立腺肥大症が認められます。
前立腺は膀胱の下部にある尿道を囲むようにして存在しています。そのため、前立腺が肥大すると尿道が圧迫され尿が出にくくなってしまいます。これを排尿障害といいます。
また尿が出にくくなるため、全ての尿が排出されず、膀胱内に尿が残ってしまうという残尿が生じることもあります。排尿障害とは逆に、膀胱が刺激されることによる頻尿が生じることもあります。
ザルティアは下部尿路(膀胱・前立腺・尿道など)の血管を拡張させ、同部の血流を増やすことで、前立腺肥大症に伴う排尿障害を改善させることができます。またザルティアは下部尿路の筋肉を緩めるはたらきも持ち、これも前立腺肥大症に伴う排尿障害を改善させます。
ではザルティアは前立腺肥大症に伴う排尿障害にどのくらいの効果があるのでしょうか。
前立腺肥大症の方にザルティアを投与した調査では、ザルティア5mg/日を12週間を投与する事によってIPSSが4.7点改善した事が示され、プラセボ(何の成分も入っていない偽薬)と比べて有意に症状を改善させた事が示されています。
IPSS(国際前立腺症状スコア)というのは前立腺肥大症の症状の程度を評価するための方法の1つで、症状を点数化し、0~8点を軽症、9~20点を中等症、20以上を重症と判断します。
3.ザルティアにはどのような作用があるのか
ザルティアはどのような作用機序を持っており、それによってどのような作用が得られるのでしょうか。
ザルティアは「PDE5阻害薬」と呼ばれるお薬になります。PDEは「ホスホジエステラーゼ」の略で、PDE5という酵素のはたらきをブロックすうることがザルティアのはたらきになります。
PDE5は主に下部尿路(膀胱・前立腺・尿道)に多く存在すると言われており、血管や筋肉を収縮させる作用がある事が知られています。ザルティアはPDE5のはたらきをブロックするわけですから、下部尿路の血管を拡張させたり、筋肉を緩めたりすることになります。
この作用によってザルティアは次の3つの作用を発揮してくれます。
Ⅰ.下部尿路(尿道、前立腺、膀胱)の血流増加
ザルティアは主に下部尿路に存在しているPDE5のはたらきをブロックする事で、下部尿路の血管を拡張させ、血流を増やすはたらきがあります。
前立腺肥大症で尿がでにくくなると、膀胱内に尿が溜まりやすくなり、また膀胱ががんばって尿を出そうとするため、膀胱は過伸展してしまい膀胱の血流障害・組織障害が生じやすくなります。
ザルティアによって下部尿路の血流が増えると、これらの血流障害・組織障害が生じにくくなります。
Ⅱ.下部尿路(尿道、前立腺、膀胱)の筋肉を緩める
ザルティアは主に下部尿路に存在しているPDE5のはたらきをブロックすることで、下部尿路の筋肉をゆるめるはたらきもあります。
下部尿路には一酸化窒素合成酵素(NOS:Nitric Oxide Synthase)という酵素が存在し、これが一酸化窒素(NO:Nitric Oxide)を作ります。一酸化窒素はcGMPと呼ばれる物質の濃度を上げ、これは下部尿道の筋肉を緩めるはたらきをもちます。この作用がうまくはたらく事で私たちは普段、必要な時にスムーズに排尿が出来るのです。
加齢や動脈硬化などがあるとNOSのはたらきが悪くなってcGMPが減少することが知られており、これによって排尿障害が生じやすくなります。
ザルティアはPDE5のはたらきをブロックしますが、PDE5をブロックするとcGMPが分解されにくくなり濃度が上がるため、下部尿路の筋肉が緩まります。
すると尿が通りやすくなるため、前立腺肥大症による排尿障害の改善が期待できるのです。
Ⅲ.排尿刺激の抑制
ザルティアは膀胱から中枢(脳)へ向かう神経の活動を抑えるはたらきがあります。
膀胱から中枢へ向かう神経を「求心性神経」と呼びますが、これは膀胱に尿が溜まったのを中枢に伝えるはたらきがあります。前立腺肥大症では膀胱への刺激が多くなっているため、求心性神経が過敏になっており、これが頻尿の原因になります。
ザルティアは、この過敏になっている求心性神経の活動を抑えるため、前立腺肥大症に伴う頻尿を和らげることもできるのです。
4.ザルティアの副作用
ザルティアにはどのような副作用があるのでしょうか。またその頻度はどのくらいなのでしょうか。
ザルティアの副作用発生率は11.0%と報告されています。
ザルティアに比較的認められる副作用には、
・痛み(頭痛、筋肉痛、背部痛、四肢痛など)
・消化器症状(消化不良など)
があります。
ザルティアはPDE5をブロックすることで血管を拡張させますが、下部尿路の血管以外も拡張させてしまう事があります。
これにより
・血圧低下とそれによるふらつき、めまい
・顔のほてり(顔面の血管の拡張)
が生じる事もあります。
またザルティアは陰部の血流を増やす事で、
・持続勃起
が出現する可能性があります。
これは勃起不全(ED)の方にとっては治療薬となるため、ザルティアの主成分である「タダラフィル」はED治療薬としても用いられていま宇S。
また頻度は稀になりまずがPDE5阻害薬で生じる重篤な副作用としては、
・視力低下
・聴力低下
・けいれん
・Stevens-Johnson症候群
などの報告があります。
5.ザルティアの用法・用量と剤形
ザルティアは次の剤型が発売されています。
ザルティア錠 2.5mg
ザルティア錠 5mg
また、ザルティアの使い方は、
通常成人には1日1回5mgを経口投与する。
となっています。
ザルティアは半減期が約15~33時間と長いお薬です。半減期とは、お薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、そのお薬の作用時間の一つの目安になる数値です。半減期が長いため、1日1回の服薬では十分効果が持続すると考えられています。
また食事の影響をほとんど受けないため、食後・空腹時問わずに服薬することが可能です。
6.ザルティアが向いている人は?
以上から考えて、ザルティアが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ザルティアの特徴をおさらいすると、
【ザルティアの特徴】
・下部尿路の血管を拡張させる事で血流を増やす作用がある |
といったものでした。
ザルティアは他の前立腺肥大症治療薬(α阻害薬や5α還元酵素阻害薬など)と異なる作用を持つため、他のお薬で効果がなかった前立腺肥大症の方にも、試す価値があるお薬になります。
ちなみにザルティアは、ED治療薬であるシアリス(一般名:タダラフィル)と同じ主成分のお薬であるため、前立腺肥大ではなくEDの治療目的で処方を希望される患者さんがいます。
しかし保険診療上ザルティアの処方が認められているのは前立腺肥大症であり、EDへの処方は認められていません。
保険診療においてEDの症状に対してザルティアを処方することはできません。この場合はシアリスを自費診療で処方してもらう必要があります。