ノルバデックス錠(一般名:タモキシフェン)は、1981年から発売されている乳がんの治療薬です。
ノルバデックスは、女性ホルモンであるエストロゲンのはたらきを抑えるはたらきを持ち、これにより乳がんの進行を抑えます。
乳がんはエストロゲンが多いと増大しやすい性質があります。ここに着目し、エストロゲンを抑える事で乳がんの進行を抑えるお薬として開発されたのがノルバデックスです。
分類上は「抗がん剤」になりますが、癌を攻撃するような機序のお薬ではなく、ホルモンを介して癌を縮小させるお薬であるため、一般的な抗がん剤と比べると安全性に優れ、副作用が少ないというメリットがあります。そのため、現在でも乳がんの治療によく用いられています。
ノルバデックスはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではノルバデックスの特徴や効果・副作用を紹介させて頂きます。
目次
1.ノルバデックスの特徴
まずはノルバデックスの全体的な特徴をかんたんに紹介します。
ノルバデックスは、エストロゲンのはたらきをブロックする事で、乳がんの進行を抑えてくれるお薬になります。
具体的には、エストロゲンがくっつく部位であるエストロゲン受容体に蓋をしてしまう事で、エストロゲンがエストロゲン受容体にくっつけなくなるようにします。
乳がんの中には、エストロゲン受容体を持ち、そこにエストロゲンがくっつく事でどんどん成長してしまう女性ホルモン受容体陽性の乳がんがある事が分かっており、ノルバデックスはこのようなタイプの乳がんに対して特に効果を発揮します。
ノルバデックスは主に乳がんの治療薬として用いられるため「抗がん剤」の一種になりますが、ホルモン剤であるため一般的な抗がん剤と比べると副作用が少なくなります。
一般的な抗がん剤というのは、がん細胞を攻撃するお薬が多いため、副作用も強力です。がん細胞だけを選択的にやっつける事は難しく、実際はある程度自分の細胞もやっつけてしまうからです。これを「細胞毒作用」と呼びます。
しかしノルバデックスは女性ホルモンの作用を介してがん細胞の進行を抑えるため、一般的な抗がん剤のように細胞毒作用がなく、安全性に優れます。
またホルモン剤というのはステロイド構造を持ち、ステロイド様の作用を持っているものが多いのですが、ノルバデックスはステロイド性ではない(非ステロイド性)ということも利点の1つです。
ステロイド性のお薬はステロイドならではの副作用が出現する可能性があります。ステロイドの副作用は多岐に渡りますが、例えばばい菌に感染しやすくなってしまったり、血糖値が上がりやすくなったり、骨を脆くしたり、精神的に不安定にしたりなどが認められる事があります。
ノルバデックスは非ステロイド性のため、このようなステロイド性の副作用は生じません。
以上からノルバデックスの特徴として次のような点が挙げられます。
【ノルバデックスの特徴】
・エストロゲンのはたらきブロックすることで、乳がんの進行を抑える |
2.ノルバデックスはどのような疾患に用いるのか
ノルバデックスはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
乳癌
ノルバデックスは乳がんの治療に用いられるお薬になります。
乳がんはエストロゲンという女性ホルモンが多いと増大しやすい傾向がありますが、ノルバデックスはエストロゲンのはたらきをブロックする作用を持ちます。
乳がんの中でも特に女性ホルモン受容体陽性の乳がんに対して良い効果を発揮します。
ではノルバデックスは乳がんに対してどのくらいの有効性を持っているのでしょうか。
再発乳がん患者さんにノルバデックスを投与した試験では、
- 完全効果と判定された率は9.0%
- 部分効果と判定された率は21.3%
と報告されています。
3.ノルバデックスにはどのような作用があるのか
ノルバデックスはどのような作用機序によって乳がんに効果を発揮するのでしょうか。
ノルバデックスの主なはたらきは、抗エストロゲン作用になります。
これはエストロゲンのはたらきをブロックする作用という事です。
ホルモンは、「受容体」と呼ばれる部位にくっつく事で作用を発揮します。エストロゲンも同様で、エストロゲン受容体に結合する事で様々な作用を発揮します。
ノルバデックスは、エストロゲン受容体にくっついて蓋をしてしまう事で、エストロゲンがエストロゲン受容体にくっつけなくなるようにします。
これによってエストロゲンが作用を発揮できなくなるのです。
エストロゲンは女性ホルモンとして生体内で大切な役割を担っていますが、一方で乳がんを増大させてしまう事も知られています。そのため乳がん患者さんにおいてはエストロゲンのはたらきは低下させた方が総合的には良いのです。
乳がんにはエストロゲン受容体を発現しているものがあり、これを「女性ホルモン受容体陽性乳がん」と呼びます。ノルバデックスは乳がんの中でも特に女性ホルモン受容体陽性乳がんに対して高い効果を発揮します。
4.ノルバデックスの副作用
ノルバデックスにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
ノルバデックスの副作用発生率は、8.29%と報告されています。
生じうる副作用としては、
- 無月経、月経異常
- 悪心、嘔吐、食欲不振
- ほてり、のぼせ、多汗
などが報告されています。
ノルバデックスはホルモン剤であり、主に女性ホルモンであるエストロゲンのはたらきをブロックします。
乳がんに発現しているエストロゲン受容体だけをブロックしてくれればいいのですが、自分の体内に発現しているエストロゲン受容体もブロックしてしまうため、月経リズムを崩したり、更年期様の症状を来す事があります。
また胃腸系に作用する事で、吐き気やおう吐などをきたす事もあります。
頻度は稀ですが、重大な副作用としては
・無顆粒球症、白血球減少
・貧血(赤血球減少)
・血小板減少
・視力異常、視覚障害
・血栓塞栓症
・劇症肝炎
などが報告されています。
・子宮体癌、子宮内膜症
も稀に生じることがあります。これはノルバデックスが子宮に対しては受容体を刺激する方向ではたらくためではないかと考えられています。
5.ノルバデックスの用法・用量と剤形
ノルバデックスは次の剤型が発売されています。
ノルバデックス錠 10mg
ノルバデックス錠 20mg
また、ノルバデックスの使い方は、
通常成人には1日20mgを1~2回に分割経口投与する。なお、症状により適宜増量できるが、1日最高量は40mgまでとする。
となっています。
ノルバデックスは半減期が約15~33時間と長いのお薬です。半減期とは、お薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、そのお薬の作用時間の一つの目安になる数値です。半減期が長いため、1日1回の服薬では十分効果が持続すると考えられています。
また食事の影響をほとんど受けないため、そのため、食後・空腹時問わずに服薬することが可能です。
6.ノルバデックスが向いている人は
以上から考えてノルバデックスはどのような方に向いているお薬なのでしょうか。
ノルバデックスの特徴をおさらいすると、
【ノルバデックスの特徴】
・エストロゲンのはたらきブロックすることで、乳がんの進行を抑える |
というものでした。
ここから、
- 女性ホルモン受容体陽性の乳がん
に対して特に積極的に検討されるお薬になります。
またこれ以外にも副作用の少なさから、乳がんに対して抗がん剤を用いる時に標準的に検討される他、手術後の補助治療としても用いられる事があります。