トフラニール(一般名:イミプラミン)は1959年に発売された抗うつ剤で、主にうつ病や不安障害、強迫性障害の方に用いられています。
抗うつ剤の中でも「三環系抗うつ剤」という種類であり、これは一番古く開発された抗うつ剤になります。
強力な効果を持つのが三環系のメリットですが、副作用も強力であるため、現在では難治性など限られた方にのみ用いられるお薬です。
抗うつ剤にはたくさんの種類があり、それぞれのメリット・デメリットや特徴などは分かりにくいものです。
トフラニールはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここではトフラニールの効能や特徴、副作用などを紹介していきたいと思います。
目次
1.トフラニール錠の特徴
まずはトフラニールの特徴を紹介します。
トフラニールは三環系抗うつ剤に属し、強い抗うつ・抗不安作用を持ちます。しかしその分、副作用も多めです。
トフラニールのような三環系抗うつ剤は一番最初に開発された抗うつ剤であり、効果はしっかりしているものの安全性は高くはなく、気軽に処方できるものではありません。稀ながら中には悪性症候群や重篤な不整脈、イレウスや尿閉といった緊急を要する副作用が生じてしまうこともあります。
そのため現在は、他の安全性の高い抗うつ剤(SSRIなど)を使っても効果が得られない時などに限って使用を検討するというお薬になっています。
三環系抗うつ剤にもいくつかの種類がありますが、その中でトフラニールは「ノルアドレナリンとセロトニンをバランス良く増やす抗うつ剤になります(若干ノルアドレナリンを優位に増やします)。
セロトニンは「落ち込み」や「不安」に関係していると考えられており、ノルアドレナリンは「意欲」や「気力」に関係していると考えられています。どちらもうつ病で低下していると言われており、トフラニールはうつ病の諸症状をバランスよく改善させる事が期待できます。
臨床的な印象としては、やはりノルアドレナリンを優位に増やすトフラニールは意欲・気力低下に対する切り札として、頼れるお薬です。副作用の問題のため気軽に使う事はできませんが、どうしても他の抗うつ剤では効かないうつ病でもトフラニールだけは効いたという事はしばしばあります。
古くて危険性もあるお薬なのにも関わらず、現在でも一定頻度で処方されているのはこのような理由があるのです。
以上からトフラニールの特徴として次のような点が挙げられます。
【トフラニールの特徴】
・強い抗うつ・抗不安作用
・セロトニンとノルアドレナリンをバランス良く増やす
・副作用も多め。重篤な副作用も起こりうる
2.トフラニール錠はどんな疾患に用いるのか
トフラニールはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
・精神科領域におけるうつ病・うつ状態
・遺尿症
実際の臨床では、うつ病・うつ状態をはじめ、不安障害圏の疾患(パニック障害、社交不安障害、全般性不安障害など)、強迫性障害などに用いられます。
トフラニールは、セロトニンという物質を増やしてくれます。セロトニンは落ち込みや不安を和らげるために重要な物質だと考えられており、上記疾患に対して効果が期待できます。
ただしトフラニールをはじめとした三環系抗うつ剤は副作用が多く、時に重篤な副作用も生じるため現在では難治性などやむを得ない場合に限り用いられます。
また、トフラニールの【効果又は効能】には但し書きとして次のようにも書かれています。
【効能・効果に関連する使用上の注意】
抗うつ剤の投与により、24歳以下の患者で、自殺念慮、自殺企図のリスクが増加するとの報告があるため、本剤の投与にあたっては、リスクとベネフィットを考慮すること。
これはトフラニールに限った注意事項ではなく、抗うつ剤全般に共通する注意事項になります。
抗うつ剤は未成年や若年者への投与は十分な効果が得られないという報告があり、とりわけ安易に用いるべきではありません。未成年や若年者へ抗うつ剤を使ってはいけないわけではありませんし、実際は使わざるを得ないケースもあるのですが、どうしても必要な時に限って使ってくださいということです。
ちなみにトフラニールはうつ病・うつ状態以外にも「遺尿症」にも適応を持っています。これらに使用する頻度は多くはありませんが、簡単に説明します。
遺尿症というのは、いわゆる「おねしょ」の事です。三環系抗うつ剤は、
・抗コリン作用(おしっこを出にくくする)
・尿意覚醒を促進する作用(夜に尿意を感じて起きやすくする作用)
・尿量減少作用
などが報告されており、このため遺尿症の治療に用いられます。ただし上記副作用の問題もあるため、できる限り少量で用いるべきです。
またセロトニンやノルアドレナリン(特にノルアドレナリン)は痛みにも関係していると考えられているため、神経性・心因性の疼痛にトフラニールが用いられる事もあります(適応外使用)。
トフラニールの有効率については、
- うつ病・うつ状態に対する有効率は64.2%
- 遺尿症に対する有効率は84.2%
と報告されています。
3.トフラニール錠にはどのような作用があるのか
トフラニールは、主にうつ病や不安障害の治療薬として用いられています。
これらの疾患の原因には、脳内の「モノアミン」という気分に影響する神経伝達物質が関わっているとされています(モノアミン:セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)。
トフラニールはモノアミンの中でも「セロトニン」「ノルアドレナリン」の濃度をバランス良く増やすことで、これらの疾患を改善させます。
神経と神経の間には神経間隙という隙間があり、この間を神経伝達物質が通ることで、神経の刺激は伝達されていきます。モノアミンは主に感情に関係する神経の神経伝達物質であり、主に
・セロトニンは落ち込みや不安に関係
・ノルアドレナリンは意欲や気力に関係
・ドーパミンは快楽・楽しみに関係
すると考えられています。
トフラニールは、神経間隙に分泌されたモノアミンが吸収されてしまうのを防ぎます。これを「再取り込み阻害」と言い、これにより神経間隙のモノアミン濃度が増えるため、気分の改善が得られるのです。
トフラニールは、モノアミンの中でも特にセロトニンとノルアドレナリンをバランス良く増やす作用に優れるという特徴があります。
4.トフラニール錠の副作用
トフラニールにはどんな副作用があるのでしょうか。
トフラニールをはじめとした三環系抗うつ剤の特徴として、
・副作用が多い
・時に重篤な副作用が起こり得る
という2点は覚えておかないといけません。
この理由から、現在では三環系抗うつ剤はやむを得ない症例以外では用いられないようになっています。
トフラニールをうつ病・うつ状態に使用した際の副作用発生率は67.6%(遺尿症では17.0%)と報告されています。
トフラニールの副作用として、頻度の多いものとしては、
・抗コリン作用(口渇、便秘、排尿困難など)
・吐き気
・眠気
・めまい、ふらつき、立ちくらみ
などがあります。
抗コリン作用というのは、抗うつ剤がアセチルコリンという物質のはたらきをジャマしてしまうために生じる副作用で、
・口渇(口が渇く)
・便秘
・排尿困難(おしっこがでにくくなる)
などが生じます。ひどい場合だと尿閉(おしっこが全くでなくなる)が生じることもあります。
・食欲低下
・吐き気
といった胃腸系の副作用が生じることもあります。これは胃腸に存在するセロトニン受容体に抗うつ剤が作用してしまうためです。
・眠気
・ふらつき
といった副作用は、抗うつ剤の持つ抗ヒスタミン作用によるものです。
トフラニールなどの三環系抗うつ剤では大量に服薬していると重篤な副作用が生じることがあります。注意すべき重大な副作用としては、
・悪性症候群
・重篤な不整脈(心室頻拍、心室細動)
・セロトニン症候群
・てんかん発作
・麻痺性イレウス
・無顆粒球症
・間質性肺炎、好酸球性肺炎
・心不全
・抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)
・肝機能障害、黄疸
などがあります。
これらの副作用のリスクから、トフラニールは下記のような状態の方では使用することができません。
・緑内障の方(抗コリン作用で眼圧が上がるため)
・心筋梗塞の回復初期の方(重篤な不整脈が起こりやすくなるため)
・尿閉の方(抗コリン作用で尿閉が強まるため)
・QT 延長症候群の方(重篤な不整脈が起こりやすくなるため)
・MAO-B阻害薬(エフピー)服用中の方、服用注し2週間以内の方
5.トフラニール錠の用法・用量と剤形
トフラニールは次の剤型が発売されています。
トフラニール錠 10mg
トフラニール錠 25mg
といった剤型が販売されています。
トフラニールの使い方は、
【うつ病・うつ状態】
通常成人1日25~75mgを初期用量とし、1日200mgまで漸増し、分割経口投与する。まれに 300mgまで増量することもある。なお、年齢、症状により適宜減量する。【遺尿症】
通常幼児は1日量25mgを1回、学童は1日量25~50mgを1~2回経口投与する。ただし、症状および年齢に応じ適宜増減する。
となっています。
6.トフラニールが向いている人は?
トフラニールはどのような時に検討されるお薬なのでしょうか。
トフラニールの特徴をおさらいすると、
・強い抗うつ・抗不安作用
・セロトニンとノルアドレナリンをバランス良く増やす
・副作用も多め。重篤な副作用も起こりうる
現在、うつ病や不安障害の治療には、
・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
・SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
・NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)
といった安全性の高い抗うつ剤から用いられることが推奨されています。
トフラニールのような三環系抗うつ剤は、安全性がこれらの抗うつ剤よりはるかに劣るため、最初から用いられることはありません。
トフラニールが検討されるのは、
・SSRI、SNRI、NaSSAなどでは十分な改善が得られない場合
・SSRI、SNRI、NaSSAなどがやむを得ない事情で使えない場合
などに限られます。
安全性の高い抗うつ剤では効果不十分であり、かつセロトニンとノルアドレナリンをバランス良く増やしてあげた方が良いような状態の時、トフラニールが検討されることがあります。