トラベルミン(一般名:ジフェンヒドラミンサリチル酸塩・ジプロフィリン)は1952年から発売されている抗めまい薬(めまい止めのお薬)になります。
トラベルミンは病気で生じるめまいの他、乗り物酔いなどにも使われるため、現在でも広く用いられています。
乗り物酔いをしやすい方や原因不明のめまいに悩まされている方など、お世話になった事のある方も多いのではないでしょうか。
ここではトラベルミンがどんな特徴のあるお薬でどんな患者さんに向いているお薬なのか、トラベルミンの効能や特徴・副作用について紹介します。
目次
1.トラベルミンの特徴
まずはトラベルミンの特徴をざっくりと紹介します。
トラベルミンはめまい・吐き気を抑えるお薬になります。優れた作用があり副作用も少なめですが、古いお薬であるため眠気や口渇(口の渇き)の副作用には注意が必要です。
トラベルミンは、「配合錠」という名前から分かる通り、複数の成分が配合されています。
具体的には、
- ジフェンヒドラミンサリチル酸塩(抗ヒスタミン薬)
- ジプロフィリン(テオフィリン製剤)
の2つの成分が入っています。
ジフェンヒドラミンサリチル酸塩は抗ヒスタミン薬と呼ばれ、ヒスタミンという物質をブロックするはたらきがあります。
ヒスタミンはアレルギー発症に関係している物質であり、そのため抗ヒスタミン薬は抗アレルギー薬(アレルギーを抑えるお薬)としてよく用いられています。実際トラベルミンとほぼ同成分を持つ「レスタミン(一般名:ジフェンヒドラミン塩酸塩)」も抗アレルギー薬としてアレルギー性鼻炎やじんま疹の治療に使われています。
またヒスタミンはアレルギー以外にも様々な作用に関わっており、
- 眠気
- 体重
- 胃酸分泌
- 吐き気
- めまい
などにも関わっている事が知られています。
抗ヒスタミン薬の中で、トラベルミンのような古い抗ヒスタミン薬を「第1世代抗ヒスタミン薬」と呼びます。第1世代は脂溶性(脂に溶ける性質)であり、脳に移行しやすいという特徴があります。
脳に移行してしまうと、眠気を引き起こしやすくなります。そのため第1世代の抗ヒスタミン薬は睡眠薬として使われる事もあります。また中枢神経にある嘔吐中枢や内耳(平衡感覚を司る部位)に作用して吐き気やめまいを抑えるという作用も得られます。
そのためトラベルミンのような第1世代抗ヒスタミン薬は、めまい止めや制吐剤(吐き気止め)として使えるのです。
もう1つの成分であるジプロフィリンはテオフィリン製剤と呼ばれ、本来であれば気管を拡げる作用を持つお薬で、気管支喘息の治療に使われます。
ジプロフィリンは、それ以外にも内耳の血流を増やす事でめまいを改善させる作用があると考えられています。またジフェンヒドラミンサリチル酸塩と併用する事で、副作用の眠気などを生じにくくさせる作用が確認されています。
このようにトラベルミンは副作用を生じにくくさせる工夫はなされているものの、古いお薬であるため副作用に一定の注意は必要です。具体的には眠気と抗コリン症状(口渇、尿閉など)の副作用には気を付けなくてはいけません。
眠気が起こる可能性を考えれば、トラベルミンの服用後は自動車などの運転はすべきではありません。
またトラベルミンはアセチルコリンという物質のはたらきをブロックすることで口渇(口の渇き)や尿閉などの症状が出ることがあります。このような抗コリン作用のためにトラベルミンは緑内障の方や前立腺肥大症の方に使用してはいけません(禁忌)。
以上からトラベルミンの特徴として次のような事が挙げられます。
【トラベルミン配合錠の特徴】
・めまい止め、吐き気止めの作用を持つ
・副作用の眠気や抗コリン症状(口渇、尿閉など)に注意
・緑内障、前立腺肥大症には禁忌
2.トラベルミンはどんな疾患に用いるのか
トラベルミンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
下記の疾患又は状態に伴う悪心・嘔吐・めまい
動揺病、メニエール症候群
トラベルミンは吐き気の中枢である「嘔吐中枢」、そして平衡感覚を司る「内耳」に作用します。これによりめまいや吐き気に対して効果が期待できます。
めまいや吐き気が生じる病態としては、
- 動揺病:船酔い・車酔いなど
- メニエール症候群(原因不明でめまいや耳鳴りが生じる病態)
などがあります。
トラベルミンの有効率は、
- 動揺病(船酔い・車酔いなど)に対する有効率は91.55%
- メニエール症候群(末梢性眩暈症、メニエール病など)に対する有効率は86.89%
と報告されています。
3.トラベルミンにはどのような作用があるのか
トラベルミンにはどのような作用があるのでしょうか。
トラベルミンの作用について紹介します。
Ⅰ.抗めまい作用
トラベルミンにはジフェンヒドラミンサリチル酸塩という成分が含まれています。これは抗ヒスタミン薬と呼ばれ、ヒスタミンという物質をブロックするはたらきを持ちます。
ジフェンヒドラミンサリチル酸塩は抗ヒスタミン薬の中でも「第1世代抗ヒスタミン薬」に属しこれは古いタイプの抗ヒスタミン薬になります。
第1世代抗ヒスタミン薬は脂溶性(脂に溶ける性質)があり、脳に移行しやすいという特徴があります(反対に第2世代は脳に移行しにくいという特徴があります)。
脳に移行しやすいという事は、脳においてヒスタミンのはたらきをブロックしやすいという事です。
脳におけるヒスタミンのはたらきにはいくつかありますが、その一つに内耳という平衡感覚を司る部位を刺激してしまう事で、めまいを生じやすくさせてしまうという作用があります。
ジフェンヒドラミンサリチル酸塩は、内耳のヒスタミンのはたらきをブロックする事でめまいを改善させるはたらきが期待できます。
またトラベルミンに含まれるもう1つの成分であるジプロフィリンは、内耳の血流を増やす作用があります。これも内耳のはたらきを改善させる事でめまいの改善につながります。
このような作用によってトラベルミンはめまいを抑えます。
Ⅱ.制吐作用(吐き気を抑える)
嘔吐は、脳の延髄と呼ばれる部位にある「嘔吐中枢」が刺激される事で生じます。
この嘔吐中枢の刺激にもヒスタミンが関わっている事が考えられています。
トラベルミンは脳に移行しやすい抗ヒスタミン薬であるため、延髄の嘔吐中枢にも作用しやすく、これによって制吐作用(吐き気止め)が得られます。
4.トラベルミンの副作用
トラベルミンは安全性は比較的高いお薬になります。しかし古いお薬であるため一定の注意は必要です。
ではトラベルミンではどのような副作用が生じるのでしょうか。
トラベルミンの副作用発生率は8.71%前後と報告されています。
生じうる症状としては、
- 眠気
- 動悸
- 口渇
- 倦怠感
- 頭重感
- めまい
- あくび
- 悪心・嘔吐
- 下痢
- 頭痛
などが報告されています。
この中で特に頻度が多いのが眠気です。
トラベルミンはヒスタミンのはたらきをブロックする抗ヒスタミン薬を含んでいますが、ヒスタミンは脳の覚醒を維持する物質でもあるため、ヒスタミンのはたらきをブロックする抗ヒスタミン薬は眠気が生じる事があります。
そのためトラベルミン服用中の方は自動車の運転など危険を伴う機械の操作は基本的に避ける必要があります。
また抗ヒスタミン薬はアセチルコリン受容体をブロックしてしまう事で、「抗コリン症状」を引き起こす事があります。元々ヒスタミンとアセチルコリンは構造が似ているため、抗ヒスタミン薬は、ヒスタミン受容体だけでなくアセチルコリン受容体にもくっつきやすいのです。
アセチルコリン受容体がブロックされると口渇(口の渇き)、動悸、めまい、嘔吐、頭痛などが生じる事があります。
またトラベルミンは次の患者さんへの使用は禁忌(絶対にダメ)となっていますので注意して下さい。
- 緑内障の方
- 前立腺肥大症の方
トラベルミンがこれらの方に禁忌となっているのは、トラベルミンに含まれるジフェンドラミンによって「抗コリン作用」が生じうるからです。
抗コリン作用は、
- 眼圧を上げてしまう
- 尿道を収縮させてしまう
といった症状も出現するため、元々眼圧が高い緑内障や元々尿道が締まりやすい前立腺肥大症の方に使用する事は危険なのです。
5.トラベルミンの用法・用量と剤形
トラベルミンには、
トラベルミン配合錠
の1剤型のみがあります。
トラベルミンは「配合錠」の名前の通り、複数の成分が配合されています。
具体的にはトラベルミン配合錠1錠中には、
ジフェンヒドラミンサリチル酸塩 40mg
ジプロフィリン 26mg
が含まれています。
トラベルミンの使い方は、
通常成人1回1錠を経口投与する。必要により1日3~4回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
と書かれています。
一日を通して安定して効果を得たい場合には、このように1日3~4回服薬で良いのですが、乗り物酔いに使いたいという一時的な使用の場合には、その時のみ服用するといった頓服的な使い方でも問題ありません。
この場合は、乗り物に乗車する30分ほど前に服用すると良いでしょう。
またトラベルミンは噛みくだいてしまうと苦味を感じます。これにより舌のしびれなどを感じることがあるため、噛まずにそのまま服用するようにして下さい。
6.トラベルミンが向いている人は?
以上から考えて、トラベルミンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
トラベルミンの特徴をおさらいすると、
・めまい止め、吐き気止めの作用を持つ
・副作用の眠気や抗コリン症状(口渇、尿閉など)に注意
・緑内障、前立腺肥大症には禁忌
というものでした。
トラベルミンは緑内障や前立腺肥大症を持っている方は使う事が出来ませんが、基本的には安全性も高く長い歴史と実績のあるお薬であるため、めまいや吐き気を抑えるのに良く使われています。
バスや車・船などといった乗り物に対する「乗り物酔い」として、あるいはメニエール病などめまいを生じる疾患の「めまい止め」として、候補にあがるお薬になります。