トリクロルメチアジドの効果と副作用【降圧剤・利尿剤】

トリクロルメチアジドは、1960年から発売されている「フルイトラン」という降圧剤(血圧を下げるお薬)のジェネリック医薬品になります。

降圧剤の中でも、尿量を増やす事で身体の水分を減らして血圧を下げる「降圧利尿剤」であり、更に降圧利尿剤の中でも「チアジド系(サイアザイド系)」という種類に属します。

高血圧症の患者さんは日本で1000万人以上と言われており、降圧剤は処方される頻度の多いお薬の1つです。

降圧剤にも様々な種類がありますが、その中でトリクロルメチアジドはどのような特徴を持つお薬で、どのような方に向いているお薬なのでしょうか。

ここではトリクロルメチアジドの特徴や効果・副作用についてみていきましょう。

 

1.トリクロルメチアジドの特徴

トリクロルメチアジドはどのような特徴を持つお薬なのでしょうか。

トリクロルメチアジドは利尿剤であり、尿量を増やす事で血圧を下げるはたらきがあります。利尿剤の中でも「チアジド系」という種類に属します。

利尿剤にはチアジド系以外にも「ループ利尿剤」「カリウム保持性利尿剤」などいくつかの種類があります。

まずは利尿剤の中でのチアジド系がどのような特徴を持ったお薬なのかを紹介します。

【チアジド系の特徴】

・尿量を増やす事で血圧を下げる降圧利尿剤である
・利尿作用(水分を尿として排泄する作用)は弱い
・降圧作用(血圧を下げる作用)は利尿剤の中では強い

チアジド系は尿量を増やす事で血圧を下げるお薬です。

このような作用機序を持つ降圧剤は「利尿剤」と呼ばれますが、利尿剤のざっくりとした考え方としては、

『尿量を増やす事で体内の水分量が減る。体内の水分量が減れば水分から出来ている血液の量も減るため、血圧が下がる』

というイメージを持って頂ければよいでしょう。厳密な機序はもう少し複雑ですが、これについては後述しますので現時点ではこのようにイメージしてください。

チアジド系は利尿剤の中では、利尿作用(尿量を増やす作用)は弱めです。利尿作用の強い利尿剤には「ループ利尿剤」がありますが、ループ利尿剤と比べるとチアジド系の利尿作用は力不足な感はあります。

しかしチアジド系はループ利尿剤と比べ、血圧を下げる力が強めです。

そのため、むくみを多少抑えつつ血圧をしっかり下げたいような時には適しています。チアジド系の特徴は、利尿剤ではあるものの、水分を排泄する力(利尿作用)はそこまで強くなく、血圧を下げる力(降圧作用)に優れる点なのです。

チアジド系はNa+(ナトリウムイオン)を尿中に多く排泄させる事で、身体の中のNa+量を減らし、これにより血圧を下げます。Na+が尿中に多く移動すると、浸透圧の関係で水分も尿中に移動します。これによって体内の水分量も減り、血圧が下がるのです。

またそれ以外にもチアジド系は血管平滑筋を弛緩させるはたらきもあり、これによっても血圧を下げてくれます。このような複合的な作用によって血圧を下げてくれるのです。

では次にチアジド系の中でのトリクロルメチアジドの特徴を紹介します。

【チアジド系の中でのトリクロルメチアジドの特徴】

・1日1回の投与で24時間効果が持続する
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

トリクロルメチアジドは作用時間が長く、1日1回の投与で効果が24時間持続するチアジド系になります。

高血圧症の薬物療法は通常長期にわたるため、服用の手間が少ないという事は大切なことで、これは患者さんの飲み忘れの低下にもつながります。

またジェネリック医薬品であるトリクロルメチアジドは、先発品のフルイトランと比べて薬価が安いのもメリットになります。

以上からトリクロルメチアジドの特徴を挙げると次のようになります。

【トリクロルメチアジドの特徴】

・尿量を増やす事で血圧を下げる降圧利尿剤である
・利尿作用(水分を尿として排泄する作用)は弱い
・降圧作用(血圧を下げる作用)は利尿剤の中では強い
・1日1回の投与で24時間効果が持続する
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

 

2.トリクロルメチアジドはどんな疾患に用いるのか

トリクロルメチアジドはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。

【効能又は効果】

〇 高血圧症(本態性、腎性など)、悪性高血圧

〇 心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫

〇 月経前緊張症

トリクロルメチアジドはチアジド系利尿剤に属し、主に尿量を増やす事で血圧を下げるお薬になります。

そのため血圧が高い方(高血圧症)やむくみ(浮腫)のある方に対して用いられます。

本態性高血圧症とは、原因が特定されていない高血圧の事です。いわゆる通常の高血圧の事で、高血圧症の9割は本態性高血圧になります。

本態性でない高血圧は「二次性高血圧」と呼ばれ、これは何らかの原因があって二次的に血圧が上がっているような状態を指します。これにはお薬の副作用による血圧上昇、ホルモン値の異常による高血圧(原発性アルドステロン症など)があります。

本態性高血圧のほとんどは単一の原因ではなく、喫煙や食生活の乱れ、運動習慣の低下などの複数の要因が続く事による全身の血管の動脈硬化によって生じます。

腎性高血圧は二次性高血圧の1つで、何らかの原因で腎臓に障害が生じて血圧が上がってしまう疾患です。例えば糖尿病による腎障害などが原因として挙げられます。腎臓は尿を作る臓器ですので、腎臓に障害が生じると尿を作りにくくなり、身体の水分が過剰となるため血圧が上がります。

悪性高血圧症とは「高血圧緊急症」とも呼ばれ、血圧が顕著に高く、すぐに血圧を下げないと重篤な障害が生じる可能性が高い状態を指します。実際に悪性高血圧症が生じたら、速やかにかつ厳密に血圧を下げていく必要があるため、静脈から点滴するような降圧剤を用います。そのためトリクロルメチアジドが用いられる事はほとんどありませんが、一応保険適応は有しています。

心性浮腫、腎性浮腫、肝性浮腫というのは、それぞれ「心臓が原因で生じる浮腫」「腎臓が原因で生じる浮腫」「肝臓が原因で生じる浮腫」の事です。

心臓は血液を全身に送り出すはたらきをしていますので、心臓のはたらきが弱くなると血液が送り出せない分、心臓の手前の血管(静脈)に血液が溜まっていきます。この状態が続くと血管にたまった水分は次第に血管外に漏れ出していくため、浮腫が生じます。

腎臓は尿を作るはたらきをしていますので、腎臓のはたらきが弱まると尿を作りにくくなり、尿として排泄できない分だけ血管に水分が溜まっていきます。この状態が続くと、同様に血管にたまった水分は次第に血管外に漏れ出していくため、浮腫が生じます。

肝臓は解毒作用をもつ臓器で、全身を巡り終わった血液は門脈という静脈を通じて肝臓に入っていきます。肝臓のはたらきが悪くなり肝硬変になると、門脈から肝臓に血液が入りにくくなります。すると門脈より手前の血管(静脈)に血液が溜まっていき、この状態が続くと血管にたまった水分は次第に血管外に漏れ出していくため、浮腫が生じます。

月経前緊張症(PMS)とは、月経前に女性ホルモンのバランスが崩れる事で様々な症状が生じる状態です。典型的には、気分不安定(イライラ、落ち込み、不安など)、肌荒れ、頭痛、倦怠感などが生じ、むくみが生じる事もあります。

トリクロルメチアジドはこれらの疾患に対してどのくらい効果があるのでしょうか。

トリクロルメチアジドはジェネリック医薬品であるため、有効性の詳しい調査は行われていません。しかし先発品のフルイトランでは行われており、その調査結果が参考になります。

高血圧症患者さんにフルイトランを投与した群と、プラセボ(何の成分も入っていない偽薬)を投与した群を比較した調査では、フルイトラン投与群ではプラセボ投与群と比べて、

  • 収縮期血圧がおおよそ20mmHg低下
  • 拡張期血圧がおおよそ8mmHg低下

した事が示されています。またその効果は5年間維持され続けた事が報告されています。

また心不全、脳出血といった心血管系イベントも、プラセボ投与群に比べてフルイトラン投与群で有意に発症率が低下した事が報告されています。

 

3.トリクロルメチアジドにはどのような作用があるのか

トリクロルメチアジドにはどのような作用があるのでしょうか。トリクロルメチアジドの作用について紹介します。

 

Ⅰ.尿中にナトリウムを排泄し、尿量を増やす

トリクロルメチアジドの主な作用は、尿の量を増やす事です。

尿量が増えれば身体の水分の量が減るため、血液の量も減り、血圧が下がるという事です。

トリクロルメチアジドの作用機序を更に深く理解するためには、尿がどのように作られるのかを知る必要があります。

尿は腎臓で作られます。腎臓に流れてきた血液は、糸球体という部位でろ過され、尿細管に移されます。このように尿細管に移された尿の元は、「原尿」と呼ばれます。

糸球体は血液をざっくりとろ過しておおざっぱに原尿を作るだけですので、原尿には身体にとって必要な物質がまだたくさん含まれています。

原尿をそのまま尿として排泄してしまうと、身体に必要な物質がたくさん失われてしまいます。それでは困るため、尿細管には原尿から必要な物質を再吸収する仕組みがあります。

つまり糸球体でざっくりと血液がろ過されて原尿が作られ、尿細管によって原尿から必要な物質が体内に戻され、最終的に排泄される尿が出来上がるわけです。

原尿から必要な物質が再吸収されて最終的に作られた尿は、腎臓から尿管を通り膀胱に達し、そこで一定時間溜められます。膀胱に尿がある程度溜まって膀胱が拡張してくると、その刺激によって尿意をもよおし、排尿が生じます。

これが尿が作られる主な機序になります。

そしてチアジド系は、原尿から必要な物質を「再吸収」する尿細管の仕組みの1つをブロックするお薬です。

尿細管は糸球体に近い方から「近位尿細管」「ヘンレのループ」「遠位尿細管」「集合管」の4つの部位に分けられています。

このうち「遠位尿細管」には「Na+Cl共輸送担体」と呼ばれる仕組みがあります。これは、原尿に含まれるNa+(ナトリウムイオン)とCl-(クロールイオン)を体内に戻す(再吸収する)代わりに、K+(カリウムイオン)を血液から原尿に移動させる仕組みです。

Na+Cl共輸送担体によって血液中のNa+、Cl-が増え、K+が減ります。反対に原尿中のNa+、Cl-は減り、K+が増えます。

ちなみにNa+は一緒に水分も引っ張る性質があります。Na+が増えると、血液の浸透圧が上がるため、水を引っ張るのです。難しい説明はここでは省略しますが、体内では水はNa+と一緒に動く性質があると覚えてください。

トリクロルメチアジドはNa+Cl共輸送担体のはたらきをブロックします。すると原尿からNa+とCl-を再吸収できなくなるため、Na+とCl-はそのまま尿として排泄されやすくなります。

という事はNa+と一緒に動く水分も、そのまま尿として排泄されやすくなるという事です。すると体内のNa+量、水分量が少なくなるため、血圧が下がるというわけです。

これがトリクロルメチアジドをはじめとしたチアジド系の基本的な作用機序になります。

 

Ⅱ.炭酸脱水素酵素の働きをブロックする

上記以外の作用として、トリクロルメチアジドは尿細管のうち、近位尿細管細胞に存在する「炭酸脱水素酵素」という酵素のはたらきをブロックする作用もあります。

炭酸脱水素酵素は「炭酸(H2CO3)」 を分解する酵素で、H2CO3⇒H++HCO3-と、炭酸をH+(水素イオン)とHCO3-(重炭酸イオン)に分解します。

炭酸脱水素酵素によって生成されたH+は、近位尿細管に存在するNa+・H+交換系という仕組みによって原尿中に排泄され、代わりにNa+(ナトリウムイオン)を原尿から体内に再吸収します。

炭酸脱水素酵素のはたらきをブロックすると、H+が生成できなくなるため、Na+・H+交換系がはたらきにくくなり、原尿からNa+を再吸収しにくくなります。

すると体内のNa+量が少なくなるため、これも血圧が下げる方向にはたらいてくれるのです。

トリクロルメチアジドの炭酸脱水素酵素をブロックする作用は弱めだと言われていますが、このような作用も血圧を下げる事に一役買っています。

 

Ⅲ.血管平滑筋を緩める

トリクロルメチアジドの主な作用はⅠ.に挙げたNa+の再吸収を抑える事です。これにより体内のNa+量(及び水分量)が減り、血圧が下がります。

しかしこのような作用は、確かに短期的には血圧を下げるものの、長期的に見ると身体が順応してしまう事でそこまで血圧を下げる効果は得られない事が確認されています。

では長期的な降圧作用はどのようにして得られるのでしょうか。

長期的なチアジド系の降圧機序は明確には解明されていませんが、恐らく体内のNa+濃度を減少させる事により、副次的に細胞内 Ca2+(カルシウムイオン)濃度を低下させるためではないかと考えられています。

血管の周りは「平滑筋」という筋肉で覆われています。平滑筋が収縮すると血管が締め付けられるため血圧が上がり、平滑筋が弛緩すると血管が広がるため血圧は下がります。

この平滑筋の収縮は、平滑筋細胞内に Ca2+が流入する事が刺激になって生じます。

という事はトリクロルメチアジドによってCa2+濃度が減少すれば、平滑筋が収縮しにくくなるため、血圧は上がりにくくなるはずです。

これがトリクロルメチアジドの長期的な降圧作用の機序だと考えられています。

 

Ⅳ.尿路結石の再発防止・骨粗しょう症の予防

トリクロルメチアジドには上記以外にも副次的な作用があります。

トリクロルメチアジドは、Ca2+の尿中の排泄を低下させる作用があります。そのため、尿管結石の発症を抑える作用が期待できるのです。また骨粗しょう症を予防する作用も報告されています。

尿管結石はその名の通り、尿管に石が出来てしまい、それが尿管を詰まらせる事で腰背部の激痛が生じる疾患です。

尿管結石は尿酸やリン酸、カルシウムなど様々な成分が原因で生じますが、このうちカルシウム結石は尿中のカルシウムイオンの濃度が高いほど生じやすくなります。

そのためCa2+の尿中の排泄を低下させるトリクロルメチアジドは、カルシウム結石が尿中で生成されるのを防止する作用があるのです。

また骨粗しょう症は骨がもろくなってしまう疾患です。骨の構成成分の1つにカルシウムがありますので、体内のカルシウム量が多いほど、骨がもろくなりにくくなります。

トリクロルメチアジドは、Ca2+の尿中の排泄を低下させるため体内のCa2+の量を増やしますので、骨粗しょう症を予防する作用が期待できるのです。

 

4.トリクロルメチアジドの副作用

トリクロルメチアジドにはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用はどのくらいの頻度で生じるのでしょうか。

トリクロルメチアジドはジェネリック医薬品であるため、副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし先発品の「フルイトラン」では行われており、副作用発生率は6.9%と報告されています。同じ主成分からなるトリクロルメチアジドもこれと同程度の副作用発生率だと考えてよいでしょう。

生じうる副作用としては、

  • 発疹
  • 顔面潮紅
  • めまい
  • 頭痛
  • 嘔気、腹部違和感
  • 便秘
  • 倦怠感
  • 脂質増加
  • 血糖上昇
  • 高カルシウム血症

などが報告されています。

発疹や顔面潮紅は、トリクロルメチアジドによって生じる過敏症反応(急性のアレルギー反応)です。過敏症はトリクロルメチアジドに限らずあらゆるお薬で生じる可能性があります。程度が軽ければ様子をみても構いませんが、程度が重ければトリクロルメチアジドを中止した方が良いでしょう。

頭痛やめまいはトリクロルメチアジドによって血圧が下がりすぎる事で生じると考えられます。

また高カルシウム血症は、作用機序で説明したトリクロルメチアジドが尿中のカルシウムイオンの量を減らすはたらきに関係します。尿中にカルシウムイオンを排泄しにくくなるという事は、体内のカルシウムイオンが多くなりやすいという事であり、高カルシウム血症を起こしやすくなるという事になります。

また機序は不明ですがトリクロルメチアジドをはじめとしたチアジド系は血糖や脂質、尿酸値を上昇させてしまう事があります。

このような副作用の可能性から、トリクロルメチアジドを長期にわたって服用する際は定期的に血液検査を行う事が望ましいでしょう。

頻度は稀ですが、トリクロルメチアジドで生じうる重篤な副作用としては、

  • 再生不良性貧血
  • 低ナトリウム血症(倦怠感、食欲不振、嘔気、嘔吐、痙攣、意識障害など)
  • 低カリウム血症(倦怠感、脱力感、不整脈など)
  • 間質性肺炎、肺水腫

が報告されています。

どれも頻度が多い副作用ではありませんが、特に注意すべきは低ナトリウム血症です。トリクロルメチアジドは作用機序上、ナトリウムイオンをたくさん尿に出す事で血圧を下げるため、体内のナトリウムイオンの量は少なくなります。

ナトリウムイオンがあまりに少なくなると、倦怠感、食欲不振、嘔気、嘔吐、痙攣、意識障害などといった症状が出現します。トリクロルメチアジドを長期にわたって使用する際は定期的に血液検査でナトリウムなどの電解質をチェックする必要があります。

トリクロルメチアジドを投与してはいけない方(禁忌)としては、

  • 無尿の方
  • 急性腎不全の方
  • 体液中のナトリウム・カリウムが明らかに減少している方
  • チアジド系薬剤又はその類似化合物に対する過敏症の既往歴のある方

が挙げられています。

トリクロルメチアジドは尿の排泄を増やす事で血圧を下げるお薬ですので、尿が出ない状態にある方(無尿)に投与しても意味がありません。

また腎臓に作用するお薬であるため、腎機能が急激に悪化している急性腎不全の方に投与すると腎機能を更に悪化させてしまう危険があります。

トリクロルメチアジドはナトリウム、カリウムといった電解質の排泄をお薬によってコントロールするお薬ですので、低ナトリウム血症、低カリウム血症など、元々電解質に異常がある方が服用すると更に電解質の異常を悪化させてしまう危険があります。

 

5.トリクロルメチアジドの用法・用量と剤形

トリクロルメチアジドは、

トリクロルメチアジド錠 1mg
トリクロルメチアジド錠 2mg

の2剤形があります。

トリクロルメチアジドの使い方は、

通常、成人には1日2~8mgを1~2回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

ただし、高血圧症に用いる場合には少量から投与を開始して徐々に増量すること。また、悪性高血圧に用いる場合には、通常、他の降圧剤と併用すること。

となっています。

トリクロルメチアジドをはじめとしたチアジド系は、血圧を下げる作用については用量依存性がないと言われています。用量依存性というのは「量を増やしたら増やしただけ効果が強くなる」という性質の事です。

トリクロルメチアジドは量を増やしたからといって血圧を下げる力が強くなるわけではないため、血圧を下げたい場合は効きが不十分であるからといってトリクロルメチアジドの量をどんどん増やしても、どんどん効果が強くなるわけではありません。

むしろ安易に量だけ増やしてしまうと、降圧作用は変わらず、副作用だけが生じやすくなってしまいます。

そうならないため、高血圧症に用いる場合には少量から開始する事で、本当に必要な量を確認していく事が推奨されています。

反対に尿を出す作用(利尿作用)については用量依存性が認められます。そのため、むくみを改善させたいという用途で使用する場合は、効きが不十分であった場合は量を増やせば更なる効果が期待できます。

しかし量を増やせば副作用の程度も強くなるため、増量は慎重に判断しなくてはいけない事は言うまでもありません。

またトリクロルメチアジドは腎臓で作用するため、腎機能が悪い方に使用しても効果はほとんどありません。具体的にはCr≧2.0mg/dL以上の方は使用すべきではないでしょう。

ちなみに服用する時間帯は決められていませんが、昼や夕方、眠前に投与してしまうと夜間寝ている時に排尿が生じやすくなりますので、夜のトイレを増やしたくない場合は午前中に服用するのが良いでしょう。

 

6.トリクロルメチアジドが向いている人は

以上から考えて、トリクロルメチアジドが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

トリクロルメチアジドの特徴をおさらいすると、

【トリクロルメチアジドの特徴】

・尿量を増やす事で血圧を下げる降圧利尿剤である
・利尿作用(水分を尿として排泄する作用)は弱い
・降圧作用(血圧を下げる作用)は利尿剤の中では強い
・1日1回の投与で24時間効果が持続する
・ジェネリック医薬品であり薬価が安い

というものでした。

チアジド系降圧利尿剤であるトリクロルメチアジドは、

  • 主に血圧を下げたい
  • むくみも多少改善させたい

というケースにおいて有用です。

利尿剤としての作用も穏やかにありつつ、血圧を下げる作用が比較的しっかりしているため、高血圧症に加えてむくみが生じている患者さんは良い適応になります。

1日1回の服用で良い点も特徴で、服用の手間をなるべく減らしたい方にも向いています。

また副次的な作用として、

  • 尿路結石(カルシウム結石)を予防する作用
  • 骨粗しょう症を予防する作用

があります。これらの作用はあくまでも副次的なものですので強くはありませんが、尿路結石の既往がある方や骨粗しょう症を合併している方にとっては1剤で複数の効果を期待できるため良い選択肢となります。

またジェネリック医薬品であるトリクロルメチアジドは、先発品のフルイトランと比べて薬価が安いのもメリットです。高血圧のお薬は長期間服用する事が多いため、薬価が安いという事は重要で、なるべく経済的負担を少なくしたい方にもお勧めしやすいものとなります。