ノイキノン錠・ノイキノン糖衣錠・ノイキノン顆粒(一般名:ユビデカレノン)は1976年から発売されているお薬で、心不全の治療薬となります。
心不全治療薬の中でもノイキノンは「強心薬」と呼ばれ、心臓のはたらきを強めることで心不全を改善します。しかし近年、心不全に対して用いられることは少なくなっています。
心不全に用いるお薬は多くのものがあり、その作用や特徴はそれぞれ違いがあります。その中でノイキノンはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんは使うお薬なのでしょうか。
ノイキノンの効能や特徴を紹介していきたいと思います。
1.ノイキノンの特徴
まずはノイキノンの特徴をざっくりと紹介します。
ノイキノンは「代謝性強心薬」と呼ばれており、心臓のはたらきを強める作用があると考えられています。
具体的に言うと、ノイキノンはATP(アデノシン三リン酸)という生体のエネルギー源が作られやすくするようにはたらきます。ATPが十分あればエネルギーを取り出し心臓をしっかりと動かすことが出来ます。これによって心不全に効果があるというわけです。
実際、心疾患の方はユビデカレノン(ノイキノンの主成分)が欠乏している人が多い事、ノイキノンは心筋(心臓の筋肉)の酸素不足を改善させることが確認されています。また高血圧の方ではユビデカレノンが不足することが確認されており、これによって心不全が起こりやすくなるのではとも考えられています。
このような考えから心不全に対して使われていたノイキノンですが、実は近年では使用されることはあまりありません。その理由はノイキノンの効果が非常に穏やかである事、そして効果が疑問視されていることです。
ノイキノンは確かにATPの産生を促進する作用はあります。しかしノイキノンの主成分であるユビデカレノンは、特殊な物質ではなく、そもそも食事などに普通に含まれている物質であり、普通の生活をしている方であればそこまで極端に欠乏するものではありません。
もしユビデカレノンが欠乏している方であれば、心臓に使われるATPが欠乏している可能性があるため、ノイキノンが効果がある可能性はあります。しかし普通に生活をしていれば十分摂取できるもので、すでに十分なユビデカレノンを持っている方に、更に過剰なユビデカレノンをノイキノンを投与して摂取させても意味がないのではないかという意見もあります。
元々効果も非常に穏やかで弱く、更に「本当に効果があるのか疑問視されている」という事もあり、近年ではあまり使われていません。
以上からノイキノンの特徴として次のような点が挙げられます。
【ノイキノン(ユビデカレノン)の特徴】
・生体のエネルギー源であるATPの産生を促進する
・効果は非常に穏やか
・副作用も非常に少なく安全性は高い
・ATPが欠乏していると思われる心不全には効果が期待できる
・ユビデカレノンが十分に摂取できている人には意味がないとの意見も
2.ノイキノンはどんな疾患に用いるのか
ノイキノンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
基礎治療施行中の軽度及び中等度のうっ血性心不全症状
ノイキノンは非常に穏やかに効くお薬です。
そのため、心不全に対して単独で使うようなお薬ではありません。
「基礎治療施行中の」というのは、「他の主剤によって治療されている」という意味になります。ノイキノンは他のしっかりとしたお薬で治療している上で補助的に使うような位置づけのお薬なのです。
更に適応は軽度及び中等度の心不全に限られ、重症心不全に対しては適応がありません。これもノイキノンは効果が弱いため、重症心不全に投与してもほとんど意味がないためです。
3.ノイキノンにはどのような作用があるのか
ノイキノンはATPという生体にとってのエネルギー源の産生を促進することで、心不全を改善させる作用を発揮します。
ATPが枯渇して心不全症状が出ているのであれば、エネルギーであるATPを増やせば心臓も元気になる、という理屈です。
ノイキノンはATPというエネルギー源を増やすため、その作用は心臓だけにとどまりません。
ノイキノンの主成分であるユビデカレノンは、最近アンチエイジング領域で注目されるようになった「コエンザイムQ10」と同じものです。
抗酸化作用なども注目されています。
ここではノイキノンの作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.ATP産生作用
ノイキノンの主成分であるユビデカレノン(コエンザイムQ10)は、1957年にウシの心筋(心臓の筋肉)から発見され、心臓を動かすエネルギーを作り出すはたらきを持っていることが確認されました。
ここから、ユビデカレノンを投与すれば心不全に効果があるのではないかと考えられ、心不全治療薬として使われるようになりました。
細胞内のミトコンドリアという小器官で、ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー源が作られるのですが、ノイキノンはこれを助けるはたらきがあり、ATPの産生を促進させます。
このため、エネルギー不足(ATPが十分に作らない)によって心不全症状が出現している場合、ノイキノンを投与することで改善が得られる可能性があります。
しかし先ほども説明したように、ノイキノンの主成分であるコエンザイムQ10は食べ物などにも含まれている成分です。元々体内に十分なコエンザイムQ10がある方であれば、更にノイキノンを投与しても効果は得られない可能性もあります。
Ⅱ.抗酸化作用
ノイキノンの主成分であるユビデカレノンは、別名「コエンザイムQ10」と呼ばれています。
コエンザイムQ10は近年、アンチエイジングの物質として注目されるようになりました。みなさんもCMなどで「コエンザイムQ10配合!」と謳われている健康食品を見たことがあるかもしれません。
ユビデカレノンには抗酸化作用があり、これはアンチエイジングに役立つと考えられているのでしょう。
テレビなどでは「コエンザイムQ10」を最近発見された物質のように扱い注目されていますが、実はこのようにコエンザイムQ10というのは1957年に発見された古い物質であり、特に新しい物質ではありません。
確かにエネルギー源であるATPが作られやすくなるため、皮膚なども老化しにくくなることは考えられます。また抗酸化作用によって細胞の老化を防ぐというのもある程度は期待できます。
しかしユビデカレノンのアンチエイジング作用についてしっかりと検証した研究は乏しく、その効果に疑問を持つ専門家も少なくありません。
摂取して悪いものではありませんが、「これを摂取すれば間違いなくアンチエイジングになる!」というものではないでしょう。
Ⅲ.ナトリウム排出作用
ノイキノンはアルドステロンというホルモンの分泌を抑制する作用があります。
アルドステロンはナトリウムを尿から体内に再吸収する物質で、かんたんに言うと、身体のナトリウムを増やす物質です。
ナトリウムは身体にとって必要な電解質ではありますが、過剰になれば血圧を上げすぎてしまう作用があります。血圧が上がりすぎれば当然心臓にも負担がかかります。
ノイキノンはアルドステロンの分泌を抑えることによって身体のナトリウム濃度を下げ、血圧を下げるはたらきが多少あります。
4.ノイキノンの副作用
ノイキノンにはどんな副作用があるのでしょうか。
ノイキノンは効果も弱い分、副作用もほとんどないお薬です。近年健康食品として薬局などで普通に販売されている事からも分かるように、安全性は高いお薬です。
副作用発生率は、1.46%前後と報告されています。重篤なものはなく、
- 胃部不快感
- 食欲減退
- 吐き気
- 下痢
- 発疹
など主に消化器系の副作用が認められることがあります。
5.ノイキノン錠の用法・用量と剤形
ノイキノンは次の剤型が発売されています。
ノイキノン錠(ユビデカレノン) 5mg
ノイキノン錠(ユビデカレノン) 10mg
ノイキノン糖衣錠(ユビデカレノン) 10mg
ノイキノン顆粒(ユビデカレノン) 1%
の計4剤型が発売されています。
ノイキノンの使い方は、
通常成人は1回10㎎を1日3回食後に経口投与する
と書かれています。
6.ノイキノンが向いている人は?
以上から考えて、ノイキノンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ノイキノンの特徴をおさらいすると、
・生体のエネルギー源であるATPの産生を促進する
・効果は非常に穏やか
・副作用も非常に少なく安全性は高い
・ATPが欠乏していると思われる心不全には効果が期待できる
・ユビデカレノンが十分に摂取できている人には意味がないとの意見も
などがありました。
基本的に現在心不全治療に使われることはほとんどないお薬になります。
しかし安全性は高いため、
- 他の心不全治療薬で治療をしている方で
- 軽症~中等症の心不全であって
- ユビデカレノンの欠乏が疑われるような方
では検討しても良いかもしれません。
しかし劇的な効果を期待できるお薬ではなく、あくまでも補助的な位置づけのお薬になります。