エブランチルカプセル(一般名:ウラピジル)は1989年に発売されたお薬で主に2つの用途で使われています。
1つは「血圧を下げる事」、そしてもう1つは「尿を出やすくする事」です。エブランチルは一見何の関係もなさそうなこの2つの作用を両方持っているのです。
エブランチルはα1受容体という部位をブロックする事で、平滑筋という筋肉をゆるませるはたらきがあります。血管の平滑筋が緩むと血管が広がって血圧が下がるし、尿道の平滑筋が緩むと尿道が広がって尿が出やすくなるのです。
2つの異なる作用を持つエブランチルは、上手に使えば一石二鳥の効果を期待できるお薬でもありますが、効いてほしくないところにも効いてしまう可能性もあるお薬でもあります。
エブランチルはどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ここではエブランチルの効能や特徴を紹介していきたいと思います。
目次
1.エブランチルカプセルの特徴
まずはエブランチルの特徴をざっくりと紹介します。
エブランチルの特徴は、血圧を下げることと尿を出やすくすることの2つの作用が1剤で得られる事です。また女性の排尿障害に使える数少ないお薬である事も大きな利点です。
エブランチルは最初は、「降圧剤(血圧を下げるお薬)」という事で発売されました。血管の平滑筋にあるα(アドレナリン)1受容体をブロックする事から、「α遮断薬」という種類に属します。α1遮断薬としての降圧剤には他にも
・カルデナリン(一般名ドキサゾシン)
・ミニプレス(一般名ブラゾシン)
などがあります。
発売後、エブランチルは血圧を下げるだけでなく、前立腺や膀胱の平滑筋を緩めることによって排尿障害(尿が出にくい状態)も改善させる作用がある事が分かり、その後は排尿障害改善薬としても用いられるようになったのです。
α1受容体をブロックすることで排尿障害を改善させるお薬には他にも
・ハルナール(一般名タムスロシン)
・フリバス(一般名ナフトピジル)
・ユリーフ(一般名シロドシン)
などがあります。これらはおおまかな作用はエブランチルと同じなのですが、適応が「前立腺肥大症に伴う排尿障害」となっています。そのため、前立腺のない女性には保険適応上は用いることができません。
その点、エブランチルは適応に「神経因性膀胱に伴う排尿障害」という記載があり、保険適応上女性にも用いることができるのです。これは大きな利点で、
- 女性で排尿障害がある方
- 明らかに前立腺肥大症がない方で排尿障害がある方
にもエブランチルは用いる事ができるのです(あくまでも保険適応上の話です)。
作用時間は長くはないため、1日1回の服用では効果は十分持続せず、1日2回に分けて服用することとなっています。1日に2回服薬しないといけないのは手間ですが、お薬が身体に蓄積しにくいという意味ではメリットだと考えることもできます。
また、血管と尿道のどちらにも作用するというのはメリットでもある一方で、「複数の部位に作用してしまうお薬」だと考えると一概に良い特徴とは言えません。これは余計なところにも効いてしまうという事は、副作用のリスクになるからです。
以上からエブランチルの特徴として次のような点が挙げられます。
【エブランチルの特徴】
・1剤で血圧を下げる作用と、排尿障害を改善する作用という2つの作用が得られる
・複数の部位に作用するため、余計な作用(副作用)に注意
・排尿障害で女性に使える数少ないお薬
・1日2回に分けて服薬する必要がある
・カプセル剤であり、用量の細かい調整がしにくい
2.エブランチルカプセルはどんな疾患に用いるのか
エブランチルはどのような疾患に用いられるのでしょうか。エブランチルの添付文書には、次のように記載されています(2015年7月現在)。
【効能又は効果】
本態性高血圧症、腎性高血圧症、褐色細胞腫による高血圧症
前立腺肥大症に伴う排尿障害
神経因性膀胱に伴う排尿障害
エブランチルが用いられる疾患は主に二つで、
- 高血圧症
- 排尿障害
になります。
高血圧症に対しては、現在ではエブランチルのようなα遮断薬は最初から用いる事はありません。2014年度の高血圧症治療ガイドラインにおいても、
高血圧に対する第一選択薬は、
カルシウム拮抗薬
ARB(アンジオテンシンII 受容体拮抗薬)
ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
利尿薬の4種類
となっています。α遮断薬は、これら第一選択のお薬と比べて心血管系イベントを抑制する効果が低いという研究結果があり、そういったものが理由となっていると思われます。
そのため、現在では上記の第一選択薬を使っても十分に血圧が下がらない場合に検討される降圧剤、という位置づけになっています。
ただし高血圧症の中でも褐色細胞腫にはα遮断薬は積極的に用いられます。褐色細胞腫は、副腎という臓器にアドレナリンを過剰分泌してしまう腫瘍が出来てしまう病気で、それによって血圧が異常に上昇してしまう病気です。腫瘍を手術で摘出するのが原則ですが、それまでの間はお薬で血圧を下げる必要があります。これはアドレナリンの上昇が血圧上昇の原因になっていますので、α(アドレナリン)遮断薬が良く効き、積極的な適応となります。
前立腺肥大症とは、その名の通り前立腺が肥大する疾患です。前立腺は前立腺液を作る臓器で、これは精子の一部となる液です。男性にしかない臓器であるため、前立腺肥大症は男性特有の疾患になります。
なぜ前立腺が肥大するのかははっきりとは分かっていませんが、加齢や高血圧、高脂血症、遺伝などが関係すると言われています。特に加齢の影響は大きく、高齢者では高い確率で前立腺肥大症が認められます。
前立腺は膀胱の下部にある尿道を囲むようにして存在しています。そのため、前立腺が肥大すると尿道が圧迫され尿が出にくくなってしまいます。エブランチルは尿道を広げることで前立腺肥大症による排尿障害(尿が出にくくなる状態)に効果があります。
神経因性膀胱とは、排尿に関係する神経の障害によって生じる疾患であり、神経因性膀胱によって排尿障害(尿が出にくくなる)になることもあります。神経因性膀胱は様々な原因で生じますが、一例として加齢や脳梗塞、糖尿病などがあります。この場合もエブランチルで尿道を広げてあげることによって排尿障害に効果を認めます。
3.エブランチルカプセルにはどのような作用があるのか
エブランチルは主に
- 高血圧症
- 排尿障害(尿が出にくい症状)
に対して用いられます。
どちらもα1受容体という部位をブロックすることで作用を発揮します。
α1受容体がブロックされると、平滑筋という筋肉の収縮が抑制され、平滑筋が緩むことが知られています。血管の平滑筋が緩めば血管が広がって血圧が下がる、尿道の平滑筋が緩めば尿道が広がって尿が出やすくなる、という事です。
1つの薬で血圧も下げてくれて、尿も出やすくしてくれる、というのは大変ありがたいことですが、これは逆に言えば「選択性が低い」という事でもあります。
例えば、同じα遮断薬でも
・カルデナリン(一般名:ドキサゾシン)
は高血圧症にしか適応がありません。また、
・ハルナール(一般名:タムスロシン)
・フリバス(一般名:ナフトピジル)
・ユリーフ(一般名:シロドシン)
もα1遮断薬ですが、こちらは「排尿障害」にしか適応がありません。
これらは一つのお薬で一つの作用しかありませんが、これは逆に言えば、「血管に選択的に効く」「膀胱・前立腺に選択的に効く」という意味でもあり、狙った場所以外には作用しにくいという事でもあります。
選択性が高いお薬と選択性が低いお薬、これはどちらがいいのかは一概にはいえず、症状によって異なります。主治医に自分の症状をよく相談して、自分にとって最適なお薬を選択してもらいましょう。
4.エブランチルカプセルの副作用
エブランチルにはどんな副作用があるのでしょうか。
エブランチルはα1受容体をブロックするはたらきがあるため、時にこれが副作用として出現します。エブランチルは血管と前立腺・尿道の2か所に作用しやすいように作られているため、このうちどちらか1つの作用しか狙っていなかった場合は、もう1つの作用が副作用となってしまうこともあります。
例えば排尿障害に対して用いた時に、血管平滑筋に存在するα1受容体にも作用してしまうため、血管が拡張して血圧低下、めまい、ふらつき、頭痛などが生じることがあります。ひどい場合だと稀に失神や意識障害などが生じることもあります。
反対に高血圧に対して用いた時にも、前立腺や尿道のα1受容体に作用してしまうため、尿道が広がってしまって尿失禁などを生じることもあります。
また口渇(口が渇く)や吐き気・悪心などの消化器症状の報告もあります。
エブランチルは主に肝臓で代謝されるため、肝障害が生じることがあり、それに伴い血液検査で肝臓系酵素の上昇が認められることがあります。AST、ALTなどの肝臓系酵素の上昇が生じることもあることが報告されています。
特に肝障害が元々ある方は特に注意しなければいけませんので、事前に主治医に自分の病気についてしっかりと伝えておきましょう。
5.エブランチルカプセルの用法・用量と剤形
エブランチルは次の剤型が発売されています。
エブランチルカプセル(ウラピジル) 15mg
エブランチルカプセル(ウラピジル) 30mg
の2剤型が発売されています。
剤型はカプセル剤のみです。カプセルは錠剤と違って割ったり砕いたりすることができないため、細かい調整がしにくいという点ではデメリットになります。
また、エブランチルの使い方は使用する疾患によって異なります。
高血圧症に用いる場合は、
通常成人には1回30mg(1回15mg1日2回)より投与を開始し、効果が不十分な場合は1~2週間の間隔をおいて1日120mgまで漸増し、1日2回に分割し朝夕食後経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
と書かれています。
前立腺肥大症に伴う排尿障害に用いる場合は、
通常成人には1回30mg(1回15mg1日2回)より投与を開始し、効果が不十分な場合は1~2週間の間隔をおいて1日60~90mgまで漸増し、1日2回に分割し朝夕食後経口投与する。なお、症状により適宜増減するが、1日最高投与量は90mgまでとする。
と書かれており、高血圧症と比べると少なめの量で使用する事が分かります。
神経因性膀胱に伴う排尿障害でも同様で、
通常成人には1回30mg(1回15mg1日2回)より投与を開始し、1~2週間の間隔をおいて1日60mgまで漸増し、1日2回に分割し朝夕食後経口投与する。なお、症状により適宜増減するが、1日最高投与量は90mgまでとする。
と書かれており、こちらは効果不十分例に限らず基本的には60mgまで増薬するようにとされています。
エブランチルは半減期が約3~4時間ほどと短いお薬です。ただしエブランチルは徐放製剤のため、ゆっくりと効くため血中濃度が上がるまでにも時間がかかりますので、実際の薬効は3~4時間よりは長くなります。そのため、1日2回の服用となっています。ちなみ半減期とは、お薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、そのお薬の作用時間の一つの目安になる数値です。
6.エブランチルが向いている人は?
以上から考えて、エブランチルが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
エブランチルの特徴をおさらいすると、
・1剤で血圧を下げる作用と、排尿障害を改善する作用という2つの作用が得られる
・複数の部位に作用するため、余計な作用(副作用)に注意
・排尿障害で女性に使える数少ないお薬
・1日2回に分けて服薬する必要がある
・カプセル剤であり、用量の細かい調整がしにくい
などがありました。
臨床で特に重宝するのは、前立腺肥大症以外で生じた排尿障害に用いることができる点です。
・女性の排尿障害
・前立腺肥大症がない方に生じた排尿障害
などでは、使えるお薬は限られてしまいます。排尿障害に用いるエブランチル以外のα遮断薬は、「前立腺肥大症に伴う排尿障害」しか適応がないため、前立腺肥大症がないと保険診療上、処方することができないからです。
また、高血圧症と排尿障害の両方の疾患がある方にも向いているお薬かもしれません。
7.エブランチルカプセルの薬価
エブランチルの薬価はどれくらいなのでしょうか。
薬価は2年に1回改訂されますが、2015年5月の薬価基準収載では次のように薬価が設定されています。
エブランチルカプセル(ウラピジル) 15mg 18.2円
エブランチルカプセル(ウラピジル) 30mg 33.0円
(2015年7月現在)
なお薬価の改訂は定期的に行われているため、エブランチルの薬価も今後、変更される可能性がありますことをご了承下さい。最新の薬価は、厚生労働省のサイトや製薬会社のサイトにてご確認下さい。