ボアラ軟膏・ボアラクリーム(一般名:デキサメタゾン吉草酸エステル)は1986年から発売されているステロイド剤になります。
ボアラは皮膚に塗るタイプのステロイド薬であり、主に皮膚の炎症を抑える作用に優れます。飲み薬のように全身に作用するわけではなく病変がある部位にのみ塗るため、効かせたい部位にしっかりと効き、余計な部位に作用しないというメリットがあります。
塗り薬はたくさんの種類があるため、それぞれがどのような特徴を持つのか一般の方にとっては分かりにくいと思います。
ボアラはどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ボアラの特徴や効果・副作用についてみていきましょう。
目次
1.ボアラの特徴
まずはボアラの特徴をざっくりと紹介します。
ボアラは皮膚に塗る外用ステロイド薬であり、皮膚の炎症を抑えてくれます。外用ステロイド薬の中での強さは5段階中3番目の強さになります。
ステロイド外用剤(塗り薬)の主なはたらきとしては次の3つが挙げられます。
- 炎症反応を抑える
- 免疫反応を抑える
- 皮膚細胞の増殖を抑える
ステロイドは免疫反応(身体がばい菌などの異物と闘う反応)を抑える事で、塗った部位の炎症反応を抑える作用があります。これにより湿疹や皮膚炎を改善させたり、アレルギー症状を和らげたりします。
また皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきがあり、これによって皮膚を薄くする作用も期待できます。
ボアラもステロイド外用剤になりますが、外用ステロイド剤は強さによって5段階に分かれています。
Ⅰ群(最も強力:Strongest):デルモベート、ダイアコートなど
Ⅱ群(非常に強力:Very Strong):マイザー、ネリゾナ、アンテベートなど
Ⅲ群(強力:Strong):ボアラ、リドメックスなど
Ⅳ群(中等度:Medium):アルメタ、ロコイド、キンダベートなど
Ⅴ群(弱い:Weak):コートリル、プレドニンなど
この中でボアラは「Ⅲ群」に属します。表示上は「強い」となっていますが、外用ステロイドの中では中くらいの強さという位置づけです。
ステロイドはしっかりとした抗炎症作用(炎症を抑える作用)が得られる一方で、長期使用による副作用の問題などもあるため、皮膚症状に応じて適切な強さのものを使い分ける事が大切です。
強いステロイドは強力な抗炎症作用がありますが、一方で副作用も生じやすいというリスクもあります。反対に弱いステロイドは抗炎症作用は穏やかですが、副作用も生じにくいのがメリットです。
ボアラは外用ステロイド剤の中での強さは中くらいであるため、成人であれば四肢・体幹に塗るのに適しています。
顔や陰部など皮膚が薄い部位は弱いステロイドを使わないと副作用が出やすいため、ボアラを使用する際は注意が必要です。また頭部や足の裏など皮膚が厚い部位だと力不足となってしまう可能性があります。
ステロイドはどれも長期使用すると、皮膚の細胞増殖を抑制したり、免疫力を低下させたりしてしまいます。これによって皮膚が薄くなってしまったり感染しやすくなってしまったりといった副作用が生じる可能性があります。
ボアラもそういった副作用が生じる可能性はあるため、必要な期間のみ使用し、漫然と塗り続けないことが大切です。
以上からボアラの特徴として次のような事が挙げられます。
【ボアラの特徴】
・Ⅲ群(強い)に属する外用ステロイド剤である
・炎症を抑える作用、免疫反応を抑える作用、皮膚細胞の増殖を抑える作用がある
・ステロイドの中での効果は中等度
・成人の四肢・体幹に使われる事が多い
・ステロイドであるため、長期使用による副作用に注意
2.ボアラはどんな疾患に用いるのか
ボアラはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
湿疹・皮膚炎群(進行性指掌角皮症、ビダール苔癬を含む)、乾癬、痒疹群(蕁麻疹様苔癬、固定蕁麻疹を含む)、掌蹠膿疱症、虫刺症、慢性円板状エリテマトーデス、扁平苔癬
難しい専門用語がたくさん並んでいますが、ステロイドを用いる用途は、
- 炎症を抑える
- 免疫を抑える
- 皮膚の増殖を抑える
の3つであり、これを期待したい時に用いられる塗り薬になります。
進行性指掌角皮症とはいわゆる「手荒れ」の事で、水仕事などで手を酷使する事により手の皮膚が傷つきやすく、炎症を起こしてしまう状態です。
ビダール苔癬とはストレスなどが原因となり皮膚の一部に痒みや苔癬が生じる疾患です。主に首の後ろや大腿部などに生じやすいと言われています。
扁平紅色苔癬はかゆみを伴うたくさんの丘疹(小さな発疹)が融合し、盛り上がってうろこ状になる皮膚疾患です。
これらの疾患はボアラの炎症を抑えるはたらきが効果を発揮します。
掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)は自己免疫疾患です。自己免疫疾患は免疫(ばい菌と闘う力)が何らかの原因によって暴走してしまい、自分自身を攻撃してしまう病気です。掌蹠膿疱症では、免疫の異常によって手足に膿胞(膿が溜まった皮疹)が出来てしまいます。
アレルギー疾患や自己免疫疾患は、免疫が過剰にはたらいてしまっている結果生じているため、ボアラの免疫力を低下させる作用が効果を発揮します。
乾癬(かんせん)とは皮膚の一部の細胞増殖が亢進していしまい、赤く盛り上がってしまう疾患です。
扁平苔癬は表皮の角化が亢進してしまい、皮膚が肥厚してしまう疾患です。
乾癬や扁平苔癬にはボアラの皮膚細胞増殖を抑制するはたらきが効果を発揮します。
慢性円板状エリテマトーデスは原因は不明ですが、皮膚の露出部(日光が当たる部位)に円板状の紅斑が生じます。慢性円板状エリテマトーデスもステロイドにより症状の改善が得られます。
注意点としてステロイドは免疫(身体が異物と闘う力)を抑制するため、ばい菌の感染に弱くなってしまいます。そのため、細菌やウイルスが皮膚に感染しているようなケースでは、そこにステロイドを塗る事は推奨されていません。
上記疾患に対するボアラの有効率(塗布治療により「改善以上」となった率)は、
- 湿疹・皮膚炎群に対する改善率は軟膏で90.7%、クリームで92.1%
- 乾癬に対する改善率は軟膏で80.7%、クリームで73.9%
- 汗疹群に対する改善率は軟膏で81.7%、クリームで76.7%
- 掌蹠膿疱症に対する改善率は軟膏で76.5%、クリームで63.6%
- 虫刺症に対する改善率は軟膏で98.4%、クリームで87.0%
- 慢性円板状エリテマトーデスに対する改善率は軟膏で81.8%、クリームで76.7%
- 扁平(紅色)苔癬に対する改善率は軟膏で86.7%、クリームで92.1%
となっています。
3.ボアラにはどのような作用があるのか
皮膚の炎症を抑えてくれるボアラですが、具体的にはどのような作用があるのでしょうか。
ボアラの作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.免疫抑制作用
ボアラはステロイド剤です。
ステロイドには様々な作用がありますが、その1つに免疫を抑制する作用があります。
免疫というのは異物が侵入してきた時に、それを攻撃する生体システムの事です。皮膚からばい菌が侵入してきた時には、ばい菌をやっつける細胞を向かわせることでばい菌の侵入を阻止します。
免疫は身体にとって非常に重要なシステムですが、時にこの免疫反応が過剰となってしまい身体を傷付けることがあります。
代表的なものがアレルギー反応です。アレルギー反応というのは、本来であれば無害の物質を免疫が「敵だ!」と誤認識してしまい、攻撃してしまう事です。
代表的なアレルギー反応として花粉症(アレルギー性鼻炎)がありますが、これは「花粉」という身体にとって無害な物質を免疫が「敵だ!」と認識して攻撃を開始してしまう疾患です。その結果、鼻水・鼻づまり・発熱・くしゃみなどの不快な症状が生じてしまいます。
同じく皮膚にアレルギー反応が生じる疾患にアトピー性皮膚炎がありますが、これも皮膚の免疫が誤作動してしまい、本来であれば攻撃する必要のない物質を攻撃してしまい、その結果皮膚が焼け野原のように荒れてしまうのです。
このような状態では、過剰な免疫を抑えてあげると良いことが分かります。
ステロイドは免疫を抑えるはたらきがあります。ボアラは塗り薬であるため、塗った部位の皮膚の免疫力が低下します。
Ⅱ.抗炎症作用
上記のようにボアラをはじめとしたステロイドは免疫力を低下させる作用があります。
これによって炎症が抑えられます。
炎症とは、
- 発赤 (赤くなる)
- 熱感 (熱くなる)
- 腫脹(腫れる)
- 疼痛(痛みを感じる)
の4つの徴候を生じる状態のことです。今説明したように感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。皮膚に炎症が起こることを皮膚炎と呼びます。皮膚炎も外傷でも生じるし、ばい菌に感染することでも生じるし、アレルギーでも生じます。
ステロイドは免疫を抑制することで、炎症反応を生じにくくさせてくれるのです。
Ⅲ.皮膚細胞の増殖抑制作用
ボアラをはじめとしたステロイド外用剤は、塗った部位の皮膚細胞の増殖を抑えるはたらきがあります。
これも主に副作用となる事が多く、強いステロイドを長期間塗り続けていると皮膚が薄くなっていき毛細血管が目立って赤みのある皮膚になってしまう事があります。
しかし反対に皮膚が肥厚してしまうような疾患(乾癬や角化症など)においては、ステロイドを使う事で皮膚細胞の増殖を抑え、皮膚の肥厚を改善させることも出来ます。
4.ボアラの副作用
ボアラの副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
ボアラの副作用発生率は軟膏で0.66%、クリームで0.27%と報告されています。
ボアラは塗り薬で全身に投与するものではないため、副作用が多いお薬ではありません。ステロイド剤ですので、漫然と塗り続けないように注意は必要ですが、正しく用いれば安全に使う事は十分に可能です。
生じる副作用としては
- 毛嚢炎・癤(おでき)
- ざ瘡様疹
- 掻痒感(かゆみ)
- 刺激感
- 膿疱
- カンジダ症
などになります。
ステロイドは免疫を低下させてしまうため、ばい菌に感染しやすくなって毛嚢炎や膿疱、カンジダ症(真菌感染)を起こしてしまうリスクがあります。
またステロイドの長期塗布は皮膚を薄くしてしまうため、ざ瘡様疹、刺激感などが生じる事があります。
いずれも長期間使えば使うほど発生する可能性が高くなるため、ステロイドは漫然と使用する事は避け、必要な期間のみしっかりと使う事が大切です。
また滅多にありませんが、ステロイド外用薬を眼瞼の皮膚に使用する事で、
- 緑内障(眼圧亢進)
- 白内障
などが生じる可能性があると言われています。
ステロイド外用剤の注意点としては、ステロイドは免疫力を低下させるため免疫力が活性化していないとまずい状態での塗布はしてはいけません。具体的にはばい菌感染が生じていて、免疫がばい菌と闘わなくてはいけないときなどが該当します。
このような状態の皮膚にボアラを塗る事は禁忌(絶対にダメ)となっています。
ちなみに添付文書には次のように記載されています。
【禁忌】
(1)細菌・真菌・ウイルス皮膚感染症
(2)本剤に対して過敏症の既往歴のある患者
(3)鼓膜に穿孔のある湿疹性外耳道炎
(4)潰瘍、第2度深在性以上の熱傷・凍傷
これらの状態でボアラが禁忌となっているのは、皮膚の再生を遅らせたり、感染しやすい状態を作る事によって重篤な状態になってしまう恐れがあるためです。
5.ボアラの用法・用量と剤形
ボアラには、
ボアラ軟膏 0.12% 5g (チューブ)
ボアラ軟膏 0.12% 10g (チューブ)
ボアラ軟膏 0.12% 100g (ポリ容器)ボアラクリーム 0.12% 5g (チューブ)
ボアラクリーム 0.12% 10g (チューブ)
といった剤型があります。
ちなみに塗り薬には「軟膏」「クリーム」「ローション(外用液)」などいくつかの種類がありますが、これらはどのように違うのでしょうか。
軟膏は、ワセリンなどの油が基材となっています。長時間の保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。また皮膚への浸透力も強くはありません。
クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。
ローションは水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。しかし皮膚への浸透力は強く、皮膚が厚い部位などに使われます。
ボアラの使い方は、
通常1日1~数回適量を患部に塗布する。なお、症状により適宜増減する。
と書かれています。実際は皮膚の状態や場所によって回数や量は異なるため、主治医の指示に従いましょう。
6.ボアラの使用期限はどれくらい?
ボアラの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
「家に数年前に処方してもらった塗り薬があるんだけど、これってまだ使えますか?」
このような質問は患者さんから時々頂きます。
これは保存状態によっても異なってきますので、一概に答えることはできませんが、適正な条件(遮光・気密容器・室温保存)で保存されていたという前提だと、3年が使用期限となります。
7.ボアラが向いている人は?
以上から考えて、ボアラが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ボアラの特徴をおさらいすると、
・Ⅲ群(強い)に属する外用ステロイド剤である
・炎症を抑える作用、免疫反応を抑える作用、皮膚細胞の増殖を抑える作用がある
・ステロイドの中での効果は中等度
・成人の四肢・体幹に使われる事が多い
・ステロイドであるため、長期使用による副作用に注意
というものでした。
ここから、皮膚の免疫反応が過剰となり、炎症が生じている際に使用する塗り薬だと考えられます。
ステロイドの中での効果は中くらいであり、主に成人の四肢・体幹に生じた皮膚疾患に対して用いられます。
子供の皮膚や成人の顔・陰部などは皮膚が薄く敏感であるため、ボアラを用いる際は注意が必要で、一般的にはより弱い外用ステロイドから始めます。
また頭部が足の裏などの皮膚が厚い部位は、ボアラだと力不足となってしまう事もあり、場合によってはより強い外用ステロイドを用いる事もあります。
また、これはステロイド全てに言えることですが、ステロイドは漫然と使い続けることは良くありません。副作用をなるべく起こさないためには、必要な時期のみしっかりと使い、必要がなくなったら使うのを止めるという、メリハリを持った使い方が非常に大切です。