タケキャブ錠(ボノプラザン)の効果と副作用【胃薬】

タケキャブ錠(一般名:ボノプラザンフマル酸塩)は2015年から発売されているお薬になります。

胃酸の分泌を抑えるお薬で、いわゆる「胃薬」という分類になります。胃薬の中でもプロトンポンプ阻害薬(PPI)というお薬に位置付けられます。胃炎・胃潰瘍の治療に使われる他、ピロリ菌(H.pylori)の除菌にも役立ちます。

タケキャブ錠は従来のPPIとやや異なった作用機序を持つ胃薬で、PPIの持ついくつかの欠点を補っているお薬になります。

タケキャブはどのようなお薬で、どんな患者さんに向いているのでしょうか。タケキャブの効果や特徴についてみていきましょう。

 

1.タケキャブ錠の特徴

まずはタケキャブ錠の特徴について、かんたんに紹介します。

タケキャブは 胃酸の分泌を強力・持続的に抑えるお薬になります。

タケキャブは 胃酸を分泌する「プロトンポンプ」のはたらきをブロックする作用を持つため、「プロトンポンプ阻害薬」とも呼ばれています。

従来、プロトンポンプ阻害薬には

・オメプラール(オメプラゾール)
・タケプロン(ランソプラゾール)
・ネキシウム(エソメプラゾール)
・パリエット(ラベプラゾール)

などがあり、これらは胃炎・胃潰瘍治療によく用いられています。タケキャブもこれらと同じ系統のお薬なのですが、これらの従来のPPIの欠点を補ったお薬だと言えます。

非常にざっくりした言い方ですが、タケプロンなどのPPIの改良型が「タケキャブ」だと思って頂いて良いでしょう。どのように弱点が改良されているのかは詳しくは後述しますが、従来のPPIよりも即効性に優れ、効きの個人差が少なく、持続性があるという特徴があります。

副作用の頻度自体は少なくありませんが、ほとんどが便秘などの軽めの副作用であり、安全性も高いと考えられます。

以上からタケキャブの特徴として次のようなことが挙げられます。

【タケキャブ錠(ボノプラザン)の特徴】

・強力な胃酸分泌抑制効果
・従来のPPIより即効性に優れる
・従来のPPIよりも効きの個人差が少ない
・従来のPPIよりも1日通してしっかりと効果が持続する

 

2.タケキャブ錠はどんな疾患に用いるのか

タケキャブ錠はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】

○ 胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制、非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制

○下記におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助
胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎

タケキャブ錠を用いるのは、主に胃潰瘍の治療になります。

胃に潰瘍が生じていると、本来であれば胃に入ってきたばい菌をやっつけるために分泌されている胃酸が、潰瘍部を刺激してしまい、傷の治りが遅くなってしまうからです。

このような場合は、胃酸の分泌を弱めてあげた方が潰瘍は早く治ります。

また、胃潰瘍を生じる可能性がある薬物(アスピリン、NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)など)を長期服用している方が、胃潰瘍を起こさないために予防的に投与することもあります。

タケキャブのような胃酸の分泌を抑えるようなお薬は、ピロリ菌の除菌に用いられることもあります。タケキャブは胃酸の分泌を抑えるだけでピロリ菌をやっつける作用はないため、通常はタケキャブと抗生物質を併用した治療が行われます。

タケキャブは胃内の酸性度を下げることによって、抗生物質がよりしっかりと胃内でピロリ菌に対する殺菌効果を発揮できるように補助するはたらきがあると考えられています。

 

3.タケキャブ錠にはどのような作用があるのか

タケキャブ錠は主に胃酸の分泌を抑えることで胃を守る作用があります。これはどのような作用機序になっているのでしょうか。タケキャブ錠の主な作用について詳しく紹介します。

 

Ⅰ.胃酸の分泌抑制作用

タケキャブはプロトンポンプ阻害薬に属してはいますが、その詳しい作用機序は「カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)」と呼ばれています。

とても難しい用語ですが、これは従来のPPIにはない作用機序になります。

従来のPPIは、胃内にあるプロトンポンプに結合し、ここでプロトンポンプをはたらかせる酵素である「H+,K+-ATPase」の作用をブロックすることで胃酸を分泌させないようにします。

実はプロトンポンプはただ酸を出すだけのポンプではありません。酵素の名前からも分かるように、H+(酸)を出す代わりにK+(カリウム)を取り込むというはたらきを持っているのです。

ここに注目して作られたのがタケキャブです。タケキャブはカリウムイオンに競合することでプロトンポンプがカリウムイオンを取り込めないようにするのです。

カリウムイオンが取り込めなければプロトンポンプは酸を分泌することが出来ません。

従来のPPIと同じくプロトンポンプを阻害しているためタケキャブもPPIにはなりますが、このようにプロトンポンプの阻害の仕方が異なるのです。

 

4.タケキャブ錠の副作用

タケキャブ錠の副作用発生率は8.2~17.0%前後と報告されています。

副作用の発生率だけを見ると多く感じられますが、生じうる副作用の多くは、

  • 便秘
  • 下痢

など、重篤なものではありません。全体的な安全性は高いと考えてよいでしょう。

また検査値異常として、

  • 肝機能障害(AST、ALT、ɤGTP等の上昇)

などが報告されています。長期的にタケキャブを使用する場合は、定期的に血液検査等を行うのが望ましいと言えます。

稀ですが重篤な副作用の報告もあり、

  • 重篤な大腸炎

がピロリ菌除菌において報告されていますので、除菌療法中に腹痛、ひどい下痢等が生じた場合はただちに主治医に相談する必要があります。

 

5.タケキャブの用法・用量と剤形

タケキャブは、

タケキャブ錠(ボノプラザン) 10mg
タケキャブ錠(ボノプラザン) 20mg

の2種類のお薬があります。

タケキャブの使い方は、用いる疾患によって異なってきます。

【胃潰瘍、十二指腸潰瘍】
通常成人には1回20mgを1日1回経口投与する。なお、通常、胃潰瘍では8週間まで、十二指腸潰瘍では6週間までの投与とする。

逆流性食道炎】
通常成人には1回20mgを1日1回経口投与する。なお、通常4週間までの投与とし、効果不十分の場合は8週間まで投与することができる。さらに、再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法においては、1回10mgを1日1回経口投与するが、効果不十分の場合は、1回20mgを1日1回経口投与することができる。

低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制】
通常成人には1回10mgを1日1回経口投与する。

非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制】
通常、成人には1回10mgを1日1回経口投与する。

ヘリコバクター・ピロリの除菌の補助】
通常成人にはボノプラザン(タケキャブ)1回20mg、アモキシシリン水和物として1回750mg(力価)及びクラリスロマイシンとして1回200mg(力価)の3剤を同時に1日2回、7日間経口投与する。なお、クラリスロマイシンは、必要に応じて適宜増量することができる。ただし、1回400mg(力価)1日2回を上限とする。
プロトンポンプインヒビター、アモキシシリン水和物及びクラリスロマイシンの3剤投与によるヘリコバクター・ピロリの除菌治療が不成功の場合は、これに代わる治療として、通常成人にはボノプラザン(タケキャブ)1回20mg、アモキシシリン水和物として1回750mg(力価)及びメトロニダゾールとして1回250mgの3剤を同時に1日2回、7日間経口投与する。

となっています。

他のPPIでも同じですが、投与日数に上限がある使い方が多いため、注意が必要です。

 

6.タケキャブと既存PPIとの違いは?

タケキャブはPPI(プロトンポンプ阻害薬)には属しますが、従来のPPIとはプロトンポンプへの作用の仕方が異なります。

これによってどのような違いが出るのでしょうか。従来のPPIとタケキャブの違いを紹介します。

 

Ⅰ.即効性

タケキャブの方が従来のPPIよりも即効性があります。

従来のPPIは、即効性があまりないというデメリットがありました。即効性に欠けるのは従来のPPIのデメリットの1つです。

しかしタケキャブは、カリウムイオンに競合して直接プロトンポンプを阻害するため、従来のPPIよりも早く効果が得られます。

 

Ⅱ.効きの個人差が少ない

従来のPPIは「CYP2C19」という酵素によって代謝(分解)されていました。

この「CYP2C19」の強さには体質や個人差が大きい事が指摘されています。つまり、人によってPPIの効きが大きく異なってしまう可能性があるということです。

CYP2C19のはたらきがとても強い方であれば、PPIがすぐに分解されてしまい、良い効果が得られない可能性があります。

対してタケキャブは主にCYP3A4で代謝され、CYP2C19の影響を受けにくいお薬であり、体質による薬の効きの差が小さくなることが期待できます。

 

Ⅲ.1日を通して作用が続く

従来のPPIは主に日中の胃酸分泌を抑制する効果は優れるけども、夜間はその作用は弱くなると報告されていました。

夜間の胃酸分泌の抑制だけを見れば、H2ブロッカーと呼ばれる胃酸分泌抑制薬の方が優れるとする意見も多く、「夜間の胃酸分泌に十分対応できない」という事はPPIの弱点の1つでした。

しかし強力な酸である胃酸の中においてもしっかりと効果が持続します。その理由はタケキャブは塩基性(アルカリ性)が強く、酸性環境化においても安定して存在できる特徴を有しているためです。そのため24時間にわたってしっかりと胃酸分泌を抑えてくれるため、昼夜問わず効果が持続します。

 

7.タケキャブ錠が向いている人は?

以上から考えて、タケキャブ錠が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

タケキャブ錠の特徴をおさらいすると、

・強力な胃酸分泌抑制効果
・従来のPPIより即効性に優れる
・従来のPPIよりも効きの個人差が少ない
・従来のPPIよりも1日通してしっかりと効果が持続する

というものでした。

タケキャブは従来のPPIの弱点を補ったPPIだという事が出来ます。今のところ他のPPIと比べて同等の効果が示されることが確認されていますし、大きなデメリットは指摘されていません。臨床現場での評判も上々です。

まだ発売してから日が浅いため今後の実績にもよりますが、これから胃潰瘍治療の主役となる可能性を秘めた胃薬でしょう。