ザイヤフレックス(一般名:コラゲナーゼ)は2015年から発売されている注射剤で、「デュピュイトラン拘縮治療薬」という種類のお薬になります。
デュピュイトラン拘縮は、指が曲がったまま固まってしまい、伸びなくなってしまう疾患です。今まではデュピュイトラン拘縮の治療と言えば手術しかありませんでしたが、2015年よりザイヤフレックスを注射する事で治療する事が出来るようになりました。
ザイヤフレックスはどのような特徴のあるお薬なのでしょうか。ここではザイヤフレックスの効果や副作用などを紹介していきます。
目次
1.ザイヤフレックスの特徴
まずはザイヤフレックスの特徴を紹介します。
ザイヤフレックスはデュピュイトラン拘縮の治療に用いられます。コラーゲンの過剰沈着により肥厚した腱膜を、コラーゲンを分解する酵素(コラゲナーゼ)によって、正常に戻すはたらきがあります。
ザイヤフレックスに含まれる成分は「コラゲナーゼ」と呼ばれる酵素で、これはコラーゲンを分解するはたらきを持ちます。
そしてデュピュイトラン拘縮という疾患は、手のひらの皮膚のすぐ下にある「手掌腱膜」という部位にコラーゲンが異常に沈着してしまう疾患です。手掌腱膜にコラーゲンが沈着しすぎると、手掌腱膜が肥厚し、また線維化して縮小し始めます。こうなると手掌腱膜は、指を引っ張ってしまうようになります。すると次第に指が伸ばしにくくなり、ついには曲がったまま固まってしまいます。
ザイヤフレックスは手掌腱膜に沈着したコラーゲンを分解する事で、手掌腱膜の肥厚・縮小を改善してくれるのです。
デュピュイトラン拘縮の治療は、以前は手術しかありませんでした。手のひらを切開し、肥厚した手掌腱膜を切開したり、切除したりすることで治療を行っていました。
現在でも手術は行われていますが、2015年にザイヤフレックスが発売された事により、デュピュイトラン拘縮は手術以外にも「注射で治す」という選択肢が生まれました。
注射ですので痛みを伴いますが、手術と比べれば侵襲度は格段に低い治療法になります。
注意点としてザイヤフレックスは十分な経験と知識を有し、かつ指定の講習を受けた医師しか注射する事はできません。これは十分な知識や経験を有しない医師が誤った部位に注射してしまうと重篤な副作用が生じる可能性があるためです。
以上からザイヤフレックスの特徴として次のような点が挙げられます。
【ザイヤフレックスの特徴】
・デュピュイトラン拘縮の注射治療薬である
・コラーゲンを分解する酵素で、手掌腱膜の過剰なコラーゲンを分解する
・十分な知識・経験を有し、指定の講習を受けた医師しか扱えない
・手術と比べ、侵襲が低い
2.ザイヤフレックスはどんな疾患に用いるのか
ザイヤフレックスはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
デュピュイトラン拘縮
ザイヤフレックスを用いる疾患はデュピュイトラン拘縮のみです。
デュピュイトラン拘縮は、手のひらの皮膚のすぐ下にある「手掌腱膜」にコラーゲンがたくさん沈着してしまい、手掌腱膜の肥厚・縮小が生じる疾患です。
症状が軽度のうちは指が少し伸ばしにくいと感じる程度ですが、次第に指が曲がりはじめ、進行すると指を伸ばす事が出来なくなってしまいます。
デュピュイトラン拘縮の原因は手掌腱膜に過剰に沈着したコラーゲンですので、このコラーゲンを取り除く事が出来れば良いわけです。そのために用いられるのがザイヤフレックスでザイヤクレックスはコラーゲンを分解するコラゲナーゼを主成分としています。
ザイヤフレックスはデュピュイトラン拘縮に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
ザイヤフレックスをデュピュイトラン拘縮に対して用いた調査では、有効率は85.7%と報告されています。部位別にみると、MP関節が93.6%、PIP関節が73.3%と報告されています。
(PIP関節:指先からみて2個目にある関節)
(MP関節:指先からみて3個目にある関節(付け根の関節))
またザイヤフレックスはコラーゲンを分解する作用を持つ成分を体内に注入するわけですから、使用に際していくつかの制限があります。添付文書には次のように記載されています。
1.本剤の投与は、デュピュイトラン拘縮に関する十分な知識と治療経験を有し、講習を受け、本剤の安全性及び有効性を十分理解し、本剤による治療方法に関し精通した医師が行うこと。
2. 本剤による治療は触知可能な拘縮索に対して行うこと。
まずは「十分な知識と経験を有し、かつ講習を受けた医師した使用できない」という点が挙げられます。
ザイヤフレックスは医師であれば誰でも注射できるお薬ではありません。デュピュイトラン拘縮は手掌腱膜に過剰なコラーゲンが沈着してしまう疾患であり、この肥大した手掌腱膜にザイヤフレックスを注入しないといけません。
手のひら・手掌腱膜などの構造を熟知していないと、適切な位置に注射する事は出来ません。もし誤った部位にザイヤフレックスを注射してしまえば、正常な腱膜のコラーゲンを分解してしまい、腱断裂や靱帯損傷などといった重大な副作用を起こしてしまいます。
このような事態を起こさないため、一定の知識・経験を持っている事が確認できている医師にのみ使用できるようにしているのです。
また手掌腱膜はレントゲンなどの検査で写るものではないため、診察における触診によってのみ肥厚の具合を判断できます。そのため触知できない拘縮索(肥大した手掌腱膜が索状になっているもの)に対してザイヤフレックスを注射しようとすると勘に頼る事になり大変危険です。
あくまでも触知でき、「ここに肥大した手掌腱膜がある」と確認できる場合のみ、注射をしてよい事となっています。
3.ザイヤフレックスにはどのような作用があるのか
ザイヤフレックスはどのような機序でデュピュイトラン拘縮を改善させているのでしょうか。
ザイヤフレックスの主成分であるコラゲナーゼは、元々は「クロストリジウム ヒストリチクム(Clostridium Histolyticum)」という細菌が産生する酵素で、コラーゲンという腱や軟骨を構成するたんぱく質を分解するはたらきを持ちます。
デュピュイトラン拘縮は、手のひらの皮膚のすぐ下にある「手掌腱膜」という部位にコラーゲンが異常に沈着してしまう疾患です。手掌腱膜にコラーゲンが沈着しすぎると、手掌腱膜が肥厚し、また線維化して縮小し始めます。こうなると手掌腱膜は、指を引っ張ってしまうようになります。すると次第に指が伸ばしにくくなり、ついには曲がったまま固まってしまいます。
ザイヤフレックスを注射すると、手掌腱膜に過剰に沈着したコラーゲンがコラゲナーゼにより分解されるため、肥厚した手掌腱膜を正常レベルに改善させる作用が期待できます。
これがザイヤフレックスの作用機序になります。
4.ザイヤフレックスの副作用
ザイヤフレックスにはどんな副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいでしょうか。
ザイヤフレックスの副作用発生率は98%と報告されています。数値だけ見れば非常に高頻度ですが、そもそも「針を刺す」治療ですので副作用が生じてしまうのは仕方がない面があります。
生じる副作用のほとんどはザイヤフレックスの成分によるものというより、皮膚に針を刺す事によって生じるものです。
具体的には、
- 注射部位の疼痛
- 注射部位の内出血
- 注射部位の腫脹
- 挫傷
といった皮膚の症状が報告されています。
また頻度は稀ですが、重篤な副作用としては、
- 腱断裂
- 靭帯損傷
- 皮膚裂傷
- アナフィラキシー
が報告されています。
腱断裂や靱帯損傷は、不適切な部位にザイヤフレックスを注入し、コラゲナーゼが正常な腱を分解してしまうために生じる副作用です。
アナフィラキシーショックはザイヤフレックス注入によって生じる全身性のアレルギー反応になります。
5.ザイヤフレックスの用法・用量と剤形
ザイヤフレックスは次の剤型が発売されています。
ザイヤフレックス注射用 0.9mg
また、ザイヤフレックスの使い方は、
通常、成人には、0.58mgを中手指節関節(MP関節)又は近位指節間関節(PIP関節)の拘縮索に注射する。
効果が不十分な場合、投与した拘縮索に対する追加投与は1ヵ月間の間隔をあけ、最大3回までとすること。
となっています。
また注射する際は、一か所にお薬をすべて注入するのではなく、投与液量を3分割し、2~3mmの間隔をあけて、3ヵ所に分けて投与することとなっています。
6.ザイヤフレックスが向いている人は?
以上から考えて、ザイヤフレックスが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ザイヤフレックスの特徴をおさらいすると、
・デュピュイトラン拘縮の注射治療薬である
・コラーゲンを分解する酵素で、手掌腱膜の過剰なコラーゲンを分解する
・十分な知識・経験を有し、指定の講習を受けた医師しか扱えない
・手術と比べ、侵襲が低い
などがありました。
デュピュイトラン拘縮の治療法は、ザイヤフレックスによる注射か手術しかありません。
注射は手術よりも侵襲度が低いため、手術よりも先に検討される治療法になります。ザイヤフレックスはまだ発売されて年数が経っていませんが、今後はデュピュイトラン拘縮治療の主流になっていくでしょう。
デュピュイトラン拘縮はあまり症状が進行しすぎてしまうと注射や手術を行っても完全には治らない事もあります。そのため、適切な時期にきちんと治療を行う事が大切です。