亜鉛華軟膏は病院で処方される塗り薬の1つで、皮膚トラブルに対して用いられます。
主に軽症の皮膚トラブルを中心に用いられており、その安全性の高さから赤ちゃんからお年寄りまで幅広く使われています。
亜鉛華軟膏は古くから使用されているお薬ですが、どのような作用を持っていて、どのような効果が期待できるお薬なのでしょうか。
皮膚外用薬はたくさんの種類があるため、それぞれがどのような特徴を持つのか分かりにくいと思います。亜鉛華軟膏がどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのか、その効果・効能や特徴、副作用についてみてみましょう。
目次
1.亜鉛華軟膏の特徴
まずは亜鉛華軟膏の特徴をざっくりと紹介します。
亜鉛華軟膏は有効成分である酸化亜鉛が、組織や血管を収縮させたり、浸出液(傷口から出てくる液)を吸収することによって「創部を乾燥させる」はたらきがある点が特徴です。
これはメリットでもありデメリットでもあります。
乾燥させる作用があるため、汗によるムレなどで皮膚トラブルが生じる場合は、その予防には適しています。
しかし傷口に対しての使用は注意が必要です。昔は「傷口は乾燥させる方が良い」と考えられていましたが、近年では「湿潤療法(Moist Wound Healing)」という創部治療が推奨されており、傷口は乾燥させずに湿潤環境(潤った環境)で治した方が、早く・きれいに・痛み少なく治ることが分かってきました。
傷口を乾燥させるというのは、分泌物が多くて管理が大変な傷口には良いかもしれませんが、そうでない場合はかえって治療を遅くしてしまうリスクもあるため、その適応は慎重に判断しなくてはいけません。
例えば、
・重度のアトピーで浸出液が多量に出ている
・汗をかきやすい部位のあせも、かぶれを予防したい
という時に亜鉛華軟膏を使うというのは良いと思われますが、湿潤療法で治した方がよさそうな傷に対して亜鉛華軟膏を傷口に直接塗りこむのはあまりよくありません。
ちなみに、重症の熱傷においては傷口を乾燥させてしまう亜鉛華軟膏は「禁忌(使ってはいけない)」となっています。熱傷部の乾燥を助長して、傷の治りを遅くしてしまう可能性があるからです。
以上から、亜鉛華軟膏の特徴としては次のようなことが挙げられます。
【亜鉛華軟膏の特徴】
・創部を乾燥させるため、乾燥させた方が良い場合には適している
・創部を乾燥させるため、傷の治りを遅くする可能性がある
・重症の熱傷には使えない
2.亜鉛華軟膏はどんな疾患に用いるのか
亜鉛華軟膏はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています(2015年8月現在)。
【効能又は効果】
下記疾患の収斂・消炎・保護・緩和な防腐
外傷、熱傷、凍傷、湿疹・皮膚炎等、肛門そう痒症、白癬、面皰、癰、よう。その他の皮膚疾患のびらん・潰瘍・湿潤面
様々な皮膚トラブルに対して用いる事が可能ですが、主に軽症例に用いられることが多いです。
また皮膚トラブルの中で、
・乾燥させた方がよいケース(浸出液があまりに多量であったり、汗が皮膚トラブルの原因になっている場合)
に用いられます。
傷は基本的には乾燥させずに湿潤させて治すことが勧められていますので、亜鉛華軟膏を使うべき皮膚トラブルなのかどうかは主治医にしっかりと判断してもらいましょう。
亜鉛華軟膏は、
・収斂作用(傷の組織を収縮させる)
・消炎作用(炎症を和らげる)
・保護作用(傷を保護する)
・穏やかな防腐作用(傷が腐敗するのを防ぐ)
の4つの作用を有しています。これら4つの作用について詳しくは後述します。
副作用もほとんどなく安全性が高いため、赤ちゃんからお年寄りまで幅広く用いられており全身に用いることができます(眼は除く)。
3.亜鉛華軟膏にはどのような作用があるのか
皮膚潰瘍治療薬として用いられる亜鉛華軟膏ですが、、具体的にはどのような作用があるのでしょうか。
亜鉛華軟膏には大きく分けると次の3つの作用があります。
Ⅰ.収斂作用
収斂作用というのは、組織を収縮される作用です。
組織が収縮して引き締まると、傷口が小さくなるだけでなく、分泌物も減少し、感染予防にもなります。
亜鉛華軟膏の主成分である酸化亜鉛は、毛細血管を収縮させることで、透過性を低下させ、分泌物の減少をもたらします。また血液中の白血球が組織中に出てきにくくなるため、これが消炎作用をもたらすと考えられています。
Ⅱ.消炎作用
亜鉛華軟膏には穏やかですが、炎症を抑えるはたらきがあります。
炎症とは、発赤 (赤くなる)、熱感 (熱くなる)、腫脹(腫れる)、疼痛(痛みを感じる)の4つの徴候を生じる状態のことで、感染したり受傷したりすることで生じます。またアレルギーで生じることもあります。
みなさんも身体をぶつけたり、ばい菌に感染したりして、身体がこのような状態になったことがあると思います。これが炎症です。皮膚に炎症が起こることを皮膚炎と呼びます。皮膚炎も外傷でも生じるし、ばい菌に感染することでも生じるし、アレルギーでも生じます。
どのような原因であれ、炎症を抑えてくれるのが消炎作用です。亜鉛華軟膏は穏やかな消炎作用を持ち、発赤・熱感・腫脹・疼痛を和らげてくれます。
Ⅱ.創部保護作用
亜鉛華軟膏は、塗る事によって創部を保護するバリアになります。
傷口を軟膏が覆うことで、外部からばい菌が侵入してくるのを防げます。また傷口を密封することで肉芽形成を促し、傷の治りを促進します。
亜鉛華軟膏の主成分である酸化亜鉛は、皮膚のたんぱく質に結合することで膜を形成します。これが、
・保護作用
・防腐作用
を発揮すると考えられています。
4.亜鉛華軟膏の副作用
亜鉛華軟膏には副作用はほとんどありません。
稀ですが、軟膏が合わずに皮膚がかぶれたり、刺激性を感じる方がいますが、多くは使用を中止すれば速やかに改善します。
また、亜鉛華軟膏は重度又は広範囲の熱傷には「禁忌(絶対に用いてはならない)」となっています。
重症熱傷は皮膚の乾燥が症状の1つです。亜鉛華軟膏も皮膚を乾燥させる作用があるため、熱傷に使ってしまうと、更に熱傷の症状を悪化させてしまう可能性があるからです。
亜鉛華軟膏は、組織や血管を収斂させ、分泌物を減少させる作用があります。小さな病変であれば、この作用によって創部管理がしやすくなるというメリットもあるのですが、実は分泌物には傷を治す成分も含まれています。
そのため、広範囲にわたる傷に亜鉛華軟膏を使ってしまうと、分泌物を減少させ、組織修復を遅らせてしまう可能性があるのです。
5.亜鉛華軟膏の用法
亜鉛華軟膏の使い方は、
通常、症状に応じ、1日1~数回、患部に塗擦又は貼付する。
と書かれています。
また患部に直接塗布すると、創部を乾燥させてしまうため、「重層療法」といって、創部には湿潤させるような軟膏を塗り、その上に亜鉛華軟膏を塗るという方法もあります。この方法だと、傷口を直接乾燥させることなく、しかし余分な浸出液は亜鉛華軟膏が吸い取ってくれます。
ただし常に重層療法が良いというわけではありません。用法は処方された医師の指示に従うようにしましょう。
6.亜鉛華軟膏の使用期限はどれくらい?
亜鉛華軟膏の使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
「家に数年前に処方してもらった軟膏があるんだけど、これってまだ使えますか?」
このような質問は患者さんから時々頂きます。
これは保存状態によっても異なってきますので、一概に答えることはできませんが、各製薬会社による記載では「3~5年」となっています。
なお亜鉛華軟膏は基本的には室温にて気密容器で保存するものですので、この状態で保存していたのであれば「3~5年」は持つと考えることができます。反対に一回開封してしまった場合などでは、気密環境ではなくなっていますので、使用期限は短くなります。
7.亜鉛華軟膏が向いている人は?
以上から考えて、亜鉛華軟膏が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
亜鉛華軟膏の特徴をおさらいすると、
・創部を乾燥させるため、乾燥させた方が良い場合には適している
・創部を乾燥させるため、傷の治りを遅くする可能性がある
・重症の熱傷には使えない
というものでした。
ここから、「軽症の皮膚疾患」であり、乾燥をさせることで創部の改善や予防になる場合には向いているお薬だと言えます。
臨床の経験としては、
・あせもやおむつかぶれの予防(汗が原因となるため、亜鉛華軟膏の吸湿作用を利用する)
・浸出液が多量で管理困難な創部(亜鉛華軟膏が余分な浸出液を吸ってくれる)
に利用することが多いと感じます。
しかし傷口は基本的に乾燥させて治すものではないと現在では考えられていますので、亜鉛華軟膏を使用すべき皮膚状態なのかどうかというのは、主治医とよく相談して判断してください。