ゾビラックス軟膏の効果と副作用【ヘルペスウイルス治療薬】

ゾビラックス軟膏・ゾビラックスクリーム(一般名:アシクロビル)は、1994年から発売されている外用剤(塗り薬)で抗ウイルス薬という種類に属します。

抗ウイルス薬は文字通りウイルス感染に使われるお薬の事ですが、ゾビラックスはウイルスの中でも「ヘルペスウイルス」の感染に対して用いられます。

ゾビラックス軟膏は皮膚に塗るお薬ですので、主に皮膚に生じるヘルペス感染に用いられます。直接塗れる塗り薬は、局所の症状に対して効率的に治療を行う事ができる剤型になります。

ここではゾビラックス軟膏・ゾビラックスクリームの効果や特徴、どのような作用機序を持つお薬でどのような方に向いているお薬なのかについてみていきましょう。

 

1.ゾビラックス軟膏の特徴

まずはゾビラックス軟膏の特徴について、かんたんに紹介します。

ゾビラックス軟膏は、主に皮膚に生じたヘルペス感染(口唇ヘルペスや陰部ヘルペス)の治療薬として用いられます。

外用剤であり病変部位にのみ塗れるため、効率的にウイルス感染を治療する事ができます。

ヘルペスによる感染は様々な病気を引き起こしますが、皮膚のみに限局するものとしては「単純疱疹」が挙げられます。

単純疱疹は、単純ヘルペスウイルスが原因で生じる疾患で、

  • 単純へルペスウイルスⅠ型(HSV1)
  • 単純ヘルペスウイルスⅡ型(HSV2)

があります。HSV1は主に口唇ヘルペスを引き起こし、HSV2は主に陰部ヘルペスを引き起こします。これらの治療薬としてゾビラックス軟膏が用いられます。

ゾビラックスはヘルペスウイルスを「殺す」お薬ではありません。あくまでも「増殖を抑える」お薬だという事です。

そのため、ある程度ヘルペスウイルスが増殖しきってしまってから塗布してもあまり効果は得られません。ウイルスが増殖しきっていない発症初期に塗布する事で高い効果が得られるお薬になります。

ゾビラックス軟膏・ゾビラックスクリ-ムは塗り薬であり皮膚局所にしか作用しません。体内にはほとんど吸収されない事が分かっており、そのために副作用も少なく安全性が高いお薬になります。

以上からゾビラックスの特徴として次のようなことが挙げられます。

【ゾビラックスの特徴】

・皮膚のヘルペスウイルス感染(口唇へルペスや陰部ヘルペス)に用いられる
・ウイルスを殺すのではなく、増殖を抑える作用を持つ
・発症初期に塗らないと高い効果は得られない
・塗り薬で全身に作用しないため安全性が高い

 

2.ゾビラックスはどのような疾患に用いるのか

ゾビラックスはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】

単純疱疹

ゾビラックスは、ヘルペスウイルス感染に用いられるお薬になります。しかしヘルペスウイルスの感染であれば何でも効くわけではありません。

ヘルペスウイルスには多くのタイプがあり、

  • 単純へルペスウイルスⅠ型(HSV1):口唇ヘルペス、角膜ヘルペス
  • 単純ヘルペスウイルスⅡ型(HSV2):陰部ヘルペス
  • 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV):水痘・帯状疱疹
  • エブスタイン・バーウイルス(EBV):伝染性単核球症
  • サイトメガロウイルス(CMV):サイトメガロウイルス感染症
  • ヒトヘルペスウイルス6(HHV6):突発性発疹
  • ヒトヘルペスウイルス7(HHV7):突発性発疹
  • ヒトヘルペスウイルス8(HHV8):カポジ肉腫

などに分類されます。

このヘルペスウイルス属のうち、ゾビラックスを使うのは、

  • 単純へルペスウイルスⅠ型(HSV1):口唇ヘルペス
  • 単純ヘルペスウイルスⅡ型(HSV2):陰部ヘルペス

の2種類だけです。

ちなみにゾビラックス軟膏・ゾビラックスクリームは目には塗れないため、角膜ヘルペスには用いません。角膜ヘルペスの場合は飲み薬か、ゾビラックス眼軟膏が用いられます。

ゾビラックスは、

  • 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV):水痘・帯状疱疹

にも効くお薬ですが、外用剤であるゾビラックス軟膏・クリームはVZVウイルスには使いません。

水痘・帯状疱疹では、皮膚表面だけでなく身体の中の神経節にもウイルスが存在するため、外用剤だけでは不十分な治療になってしまうためです。

ゾビラックス軟膏の単純疱疹に対する改善率は95.2%と報告されており、高い有効性を有します(クリームに関しては調査は行われていません)。

またゾビラックスはヘルペスウイルスを「殺す」お薬ではなく、「増殖を抑える」お薬になります。そのため、ある程度増殖しきってしまった後に投与してもあまり効果は得られません。

反対に発症初期であればあるほど効果が高いと考えられています。

 

3.ゾビラックス軟膏にはどのような効果・作用があるのか

ゾビラックスは抗ウイルス薬であり、ウイルスの中でも一部のヘルペスウイルス感染に効果のあるお薬です。

ではこの作用はどのようにしてもたらされているのでしょうか。

ゾビラックスが効くのはヘルペスウイルス属の中でも、

  • 単純へルペスウイルスⅠ型(HSV1)
  • 単純ヘルペスウイルスⅡ型(HSV2)
  • 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)

の3種類になります。

そしてゾビラックス軟膏・クリームは皮膚表面のヘルペスにしか効きませんので、ゾビラックス軟膏・クリームを使うヘルペス疾患は主に、

  • 口唇ヘルペス(HSV1が原因)
  • 陰部ヘルペス(HSV2が原因)

になります。

これらのウイルスは私たちの身体の細胞内に侵入すると(これを「感染」と呼びます)、感染細胞中ではウイルスがチミジンキナーゼ(TK)という酵素を産生します。

チミジンキナーゼはDNA合成に関与する酵素で、ウイルスが産生したチミジンキナーゼはウイルスのDNAをどんどん合成するため、ウイルスがどんどん増殖してしまいます。

これを食い止めるのがゾビラックスです。

ゾビラックスはチミジンキナーゼと反応し、アシクロビル三リン酸(ACV-TP)という物質になります。このアシクロビル三リン酸がウイルスのDNAに取り込まれると、ウイルスはDNAを複製できなくなってしまいます。

するとウイルスが増殖できなくなるというわけです。

このようにゾビラックスはウイルス性のチミジンキナーゼが存在している「ウイルス感染細胞」にだけ作用するため、正常な細胞には毒性を示さずに効果が得られます。

難しく書きましたが簡単に言えば、ゾビラックスはウイルスのDNAに作用する事でウイルスの増殖を抑える作用がある」という事です。

 

4.ゾビラックス軟膏の副作用

ゾビラックス軟膏はウイルスをやっつける目的で投与されます。となれば、「ウイルスをやっつけるという事は身体にも害があるのではないか」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。

しかしゾビラックス軟膏は安全性の高いお薬であり、副作用が生じる頻度は多くはありません。重篤な副作用の報告もほとんどありません。

ゾビラックス軟膏の副作用発生率は、0.63%と報告されています(クリーム剤の副作用発生率の調査は行われていません)。

生じうる副作用としては、

  • 接触皮膚炎(かぶれ)
  • 紅斑性発疹
  • 瘙痒(かゆみ)

などになります。これらも重篤な状態になる事は稀で、多くの場合様子を見れる程度かゾビラックスの塗布を中止すれば自然と改善していく程度です。

また副作用ではありませんが、ヘルペスウイルスはゾビラックスに耐性を形成する可能性があります。これは、ゾビラックスに抵抗力を持つヘルペスウイルスが現れてしまうという事です。

耐性形成はヘルペスウイルスがチミジンキナーゼやDNAポリメラーゼ(DNAを合成する酵素)を変化させることで、ゾビラックスが作用できないようにしてしまう事で生じると考えられています。

長期間ゾビラックスを投与していると、ヘルペスウイルスが耐性を獲得してしまう可能性があります。ゾビラックスを投与しても改善が乏しい場合は耐性化している可能性がありますので、漫然と投与を続けるのではなく、別の治療法に切り替える必要があります。

 

5.ゾビラックス外用剤の用法・用量と剤形

ゾビラックスの外用剤は、

ゾビラックス軟膏5%  5g
ゾビラックスクリーム5%  2g

といった剤型があります。

ちなみに塗り薬には「軟膏(油性クリーム)」「クリーム」「ローション(外用液)」などいくつかの種類がありますが、これらはどのように違うのでしょうか。

軟膏(油性クリーム)は、ワセリンなどの油が基材となっています。保湿性に優れ、刺激性が少ないことが特徴ですが、皮膚への浸透力は弱めです。べたつきは強く、これが気になる方もいらっしゃいます。

クリームは、水と油を界面活性剤で混ぜたものです。軟膏よりも水分が入っている分だけ伸びがよく、べたつきも少なくなっていますが、その分刺激性はやや強くなっています。

ローションは水を中心にアルコールなどを入れることもある剤型です。べたつきはほとんどなく、遣い心地は良いのですが、保湿効果は長続きしません。浸透性が高いため皮膚が厚い部位(頭部など)に用いられます。

ゾビラックス軟膏・クリームの使い方は、

通常、適量を1日数回塗布する。

となっています。

かなりざっくりとした書き方ですね。

実際の使い方も1日に2~3回、患部に塗れば良く、明確に「何時間置きに塗らないといけない」とシビアに考える必要はありません。

ただし上記の耐性化の問題もあるため、漫然と長期間塗る事はお勧めできません。1週間ほど塗っても改善のない場合は、お薬を変更する必要があります。

 

6.ゾビラックス軟膏の使用期限はどれくらい?

ゾビラックス軟膏・ゾビラックスクリームの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。

「家に数年前に処方してもらった軟膏があるんだけど、これってまだ使えますか?」

このような質問は患者さんから時々頂きます。

保存状態によっても異なってきますので一概に答えることはできませんが、適切に保存されていた前提(30℃以下の室温保存)で考えれば、「3年」が使用期限となっています。

ただしクリーム剤は15℃以下の冷所に保存してはいけませんので冷所や冷蔵庫などで保管してしまっていた場合は3年以内でも使用しない方が良いでしょう。

 

7.ゾビラックス軟膏が向いている人は?

以上から考えて、ゾビラックス軟膏・ゾビラックスクリームが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

ゾビラックス軟膏の特徴をおさらいすると、

・皮膚のヘルペスウイルス感染(口唇へルペスや陰部ヘルペス)に用いられる
・ウイルスを殺すのではなく、増殖を抑える作用を持つ
・発症初期に塗らないと高い効果は得られない
・塗り薬で全身に作用しないため安全性が高い

というものでした。

軟膏やクリームといった外用剤のメリットは、病気が生じている局所にのみ治療が行える点です。一方で飲み薬は全身の隅々にまでお薬が回ってしまうため、幅広く効果を得られる反面、余計な作用が出やすいというデメリットもあります。

軟膏・クリームを使うメリットがある状況というのは、ヘルペス感染が局所にとどまっている状況であり、

  • 軽度の口唇ヘルペス
  • 軽度の陰部ヘルペス

などに対して安全に治療したい際に向いているお薬になります。

一方で例えゾビラックスが効くタイプのヘルペス感染であっても、程度が重かったり、感染範囲が広かったり、皮膚以外にも感染を認めるような場合は、軟膏・クリーム製剤でない方が良いでしょう。

またこれは多くの抗ウイルス薬に共通する事ですが、耐性化には注意しないといけません。ウイルスは変異する事があり、これによってゾビラックスが効かない菌が出現する事もあります。

このような状態でゾビラックスの塗布を続けていても意味はありません。一定期間ゾビラックスを塗布しても改善が乏しい場合は、耐性化の可能性も考えて治療方針を再検討する必要があります。

 

8.ヘルペス感染に効果がある市販薬は?

ゾビラックスは病院で処方してもらうしかありませんが、同様の成分を持つお薬で薬局で購入できるものもあります。

始めてのヘルペス感染の場合は、病院を受診し医師に診断をしてもらう事をお勧めしますが、何度も再発している方や病院を受診できないような場合は、このような市販薬を検討しても良いでしょう。

アクチビア軟膏はゾビラックス(一般名:アシクロビル)」と同じ成分が含まれています。病院処方薬であるゾビラックスと同じく5%のアシクロビルが含まれており、同程度の効果が期待できます。

アラセナSは病院で処方される抗ヘルペス薬である「アラセナA(一般名:ビダラビン)」と同じ成分が含まれています。病院処方薬であるアラセナAと同じく3%のビダラビンが含まれており、同程度の効果が期待できます。

アラセナAとアラセナSはほぼ同じ成分で病院で処方されるのがアラセナA、薬局で買えるのがアラセナSです。

なぜ名称を分けているかというと薬局で買えるアラセナSは適応上は「ヘルペスの再発」にしか使えません。これは初発の場合はアラセナSで自己治療しないで、病院で医師にちゃんと診断してもらってね、という意味になります。

ドッズは皮膚と同じような色のパッチ剤(皮膚に貼るシール)です。ヘルペスによって水疱が出来てしまった部位を目立ちにくくし、保護する役割があります。

抗ヘルペス薬が入っているわけではなく、あくまでも「傷を隠す」「傷を保護する」目的になります。

有効成分が入っているわけではありませんが創部を保護しますので、治りを多少早める事が期待できます。またヘルペスの水疱が見た目的に気になってしまう方(女性など)にとっては、水疱を目立ちにくくしてくれ、重宝します。