ゾビラックスの効果と副作用【ヘルペスウイルス治療薬】

ゾビラックス錠・ゾビラックス顆粒(一般名:アシクロビル)は、1988年から発売されている抗ウイルス薬になります。

抗ウイルス薬は文字通りウイルス感染に使われるお薬の事ですが、ゾビラックスはウイルスの中でも「ヘルペスウイルス」の感染に対して用いられます。

ヘルペスウイルスは口唇ヘルペスや帯状疱疹、水痘(みずぼうそう)など多くの疾患の原因となるウイルスです。

ここではゾビラックスの効果や特徴、どのような作用機序を持つお薬でどのような方に向いているお薬なのかについてみていきましょう。

 

1.ゾビラックスの特徴

まずはゾビラックスの特徴について、かんたんに紹介します。

ゾビラックスは

  • 口唇ヘルペス、角膜ヘルペスの原因となる単純へルペスウイルスⅠ型(HSV1)
  • 陰部ヘルペスの原因となる単純ヘルペスウイルスⅡ型(HSV2)
  • 水痘・帯状疱疹の原因となる水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)

の増殖を抑える作用を持つお薬になります。

これらのヘルペスウイルスに感染した場合に投与する事で、早期にウイルスを除去する事が出来ます。

ゾビラックスはヘルペスウイルスを「殺す」お薬ではありません。あくまでも「増殖を抑える」お薬だという事です。

そのため、ある程度ヘルペスウイルスが増殖しきってしまってから投与してもあまり効果は得られません。ウイルスが増殖しきっていない発症初期に投与する事で高い効果が得られるお薬になります。

また現在では抗ヘルペス薬はいくつかの種類がありますが、その中でゾビラックスは古い部類に属します。古いから悪いお薬だという事はないのですが、古いために作用時間が短く、そのために一日に何回も服用しないといけません。

以上からゾビラックスの特徴として次のようなことが挙げられます。

【ゾビラックスの特徴】

・HSV1、HSV2、VZVの増殖を抑える抗ウイルス薬である
・ウイルスを殺すのではなく、増殖を抑える作用を持つ
・発症初期に飲まないと高い効果は得られない
・作用時間が短く、1日に何回も服用しないといけない

 

2.ゾビラックスはどのような疾患に用いるのか

ゾビラックスはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】

<成人>
単純疱疹
造血幹細胞移植における単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制
帯状疱疹

<小児>
単純疱疹
造血幹細胞移植における単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制
帯状疱疹
性器ヘルペスの再発抑制
水痘(ゾビラックス顆粒のみ)

ゾビラックスは、ヘルペスウイルス感染に用いられるお薬になります。しかしヘルペスウイルスの感染であれば何でも効くわけではありません。

ヘルペスウイルスには多くのタイプがあり、

  • 単純へルペスウイルスⅠ型(HSV1):口唇ヘルペス、角膜ヘルペス
  • 単純ヘルペスウイルスⅡ型(HSV2):陰部ヘルペス
  • 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV):水痘・帯状疱疹
  • エブスタイン・バーウイルス(EBV):伝染性単核球症
  • サイトメガロウイルス(CMV):サイトメガロウイルス感染症
  • ヒトヘルペスウイルス6(HHV6):突発性発疹
  • ヒトヘルペスウイルス7(HHV7):突発性発疹
  • ヒトヘルペスウイルス8(HHV8):カポジ肉腫

などに分類されます。

このヘルペスウイルス属のうち、ゾビラックスが効くのは、

  • 単純へルペスウイルスⅠ型(HSV1):口唇ヘルペス、角膜ヘルペス
  • 単純ヘルペスウイルスⅡ型(HSV2):陰部ヘルペス
  • 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV):水痘・帯状疱疹

の3種類だけです。

ゾビラックスの有効率は、

  • 単純疱疹に対する改善率は94.78%
  • 帯状疱疹に対する改善率は94.81%
  • 水痘に対する改善率は98.81%

と報告されています。

ゾビラックスはヘルペスウイルスを「殺す」お薬ではなく、「増殖を抑える」お薬になります。そのため、ある程度増殖しきってしまった後に投与してもあまり効果は得られません。

反対に発症初期であればあるほど効果が高いと考えられています。

 

3.ゾビラックスにはどのような効果・作用があるのか

ゾビラックスは抗ウイルス薬であり、ウイルスの中でも一部のヘルペスウイルス感染に効果のあるお薬です。

ではこの作用はどのようにしてもたらされているのでしょうか。

ゾビラックスが効くのはヘルペスウイルス属の中でも、

  • 単純へルペスウイルスⅠ型(HSV1)
  • 単純ヘルペスウイルスⅡ型(HSV2)
  • 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)

の3種類になります。

これらのウイルスは私たちの身体の細胞内に侵入すると(これを「感染」と呼びます)、感染細胞中ではウイルスがチミジンキナーゼ(TK)という酵素を産生します。

チミジンキナーゼはDNA合成に関与する酵素で、ウイルスが産生したチミジンキナーゼはウイルスのDNAをどんどん合成するため、ウイルスがどんどん増殖してしまいます。

これを食い止めるのがゾビラックスです。

ゾビラックスはチミジンキナーゼと反応し、アシクロビル三リン酸(ACV-TP)という物質になります。このアシクロビル三リン酸がウイルスのDNAに取り込まれると、ウイルスはDNAを複製できなくなってしまいます。

するとウイルスが増殖できなくなるというわけです。

このようにゾビラックスはウイルス性のチミジンキナーゼが存在している「ウイルス感染細胞」にだけ作用するため、正常な細胞には毒性を示さずに効果が得られます。

難しく書きましたが簡単に言えば、ウイルスのDNAに作用する事で、ウイルスの増殖を抑える作用がある」という事です。

 

4.ゾビラックスの副作用

ゾビラックスはウイルスをやっつける目的で投与されます。となれば、「ウイルスをやっつけるという事は身体にも害があるのではないか」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。

しかしゾビラックスは安全性の高いお薬であり、副作用が生じる頻度は多くはありません。もちろん注意すべき副作用はありますが、総合的に見れば安全に使えるお薬と言っても良いでしょう。

ゾビラックスの副作用発生率は、

  • 単純疱疹に使用した場合の副作用発生率は1.12%
  • 帯状疱疹に使用した場合の副作用発生率は5.91%
  • 水痘に使用した場合の副作用発生率は1.05%

と報告されています。

生じうる副作用としては、

  • 腹痛
  • 下痢
  • 嘔吐

などの消化器系の副作用があります。

また検査値の異常として、

  • TG(中性脂肪)上昇
  • 肝機能酵素(AST、ALT、LDH)上昇
  • BUN上昇
  • 好酸球増多

などが報告されています。

非常に稀ですが重篤な副作用としては、

  • アナフィラキシーショック、アナフィラキシー(呼吸困難、血管浮腫等)
  • 汎血球減少、無顆粒球症、血小板減少
  • 播種性血管内凝固症候群(DIC)、血小板減少性紫斑病
  • 急性腎不全
  • 精神神経症状
  • 中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)
  • 呼吸抑制、無呼吸
  • 間質性肺炎
  • 肝炎、肝機能障害、黄疸
  • 急性膵炎

などが報告されており、使用中に異変を感じた場合はすぐに主治医に報告する必要があります。

また副作用ではありませんが、ヘルペスウイルスはゾビラックスに耐性を形成する可能性があります。これは、ゾビラックスに抵抗力を持つヘルペスウイルスが現れてしまうという事です。

耐性形成はヘルペスウイルスがチミジンキナーゼやDNAポリメラーゼ(DNAを合成する酵素)を変化させることで、ゾビラックスが作用できないようにしてしまう事で生じると考えられています。

長期間ゾビラックスを投与していると、ヘルペスウイルスが耐性を獲得してしまう可能性があります。ゾビラックスを投与しても改善が乏しい場合は耐性化している可能性がありますので、漫然と投与を続けるのではなく、別の治療法に切り替える必要があります。

 

5.ゾビラックスの用法・用量と剤形

ゾビラックスは、

ゾビラックス錠 200mg
ゾビラックス錠 400mg
ゾビラックス顆粒 40%

の3つの剤型があります。

ゾビラックスの使い方は、使用する疾患によって異なってきます。成人においては、

<成人>

【単純疱疹】
通常、成人には1回200mgを1日5回経口投与する。

【造血幹細胞移植における単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制】
通常、成人には1回200mgを1日5回、造血幹細胞移植施行7日前より施行後35 日まで経口投与する。

【帯状疱疹】
通常、成人には1回800mgを1日5回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

となっています。

小児においては体重によって使用する量が異なってきます。

<小児>

【単純疱疹】
通常、小児には体重1kg当たり1回20mgを1日4回経口投与する。ただし、1回最高用量は200mgとする。

【造血幹細胞移植における単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制】
通常、小児には体重1kg当たり1回20mgを1日4回、造血幹細胞移植施行7日前より施行後35日まで経口投与する。ただし、1回最高用量は200mgとする。

【帯状疱疹】
通常、小児には体重1kg当たり1回20mgを1日4回経口投与する。ただし、1回最高用量は800mgとする。

【水痘】
通常、小児には体重1kg当たり1回20mgを1日4回経口投与する。ただし、1回最高用量は800mgとする。

【性器ヘルペスの再発抑制】
通常、小児には体重1kg当たり1回20mgを1日4回経口投与する。ただし、1回最高用量は200mgとする。なお、年齢、症状により適宜増減する。

となっています。

注意点として小児の性器ヘルペスの再発抑制に用いる場合は、お子様の体重が40kg以上でなければ投与できません。これは性器ヘルペスにかかる年齢を考えると(中学生以降)、これくらいの体重がある事が普通だからです。

 

 

6.ゾビラックスが向いている人は?

以上から考えて、ゾビラックスが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

ゾビラックスの特徴をおさらいすると、

・HSV1、HSV2、VZVの増殖を抑える抗ウイルス薬である
・ウイルスを殺すのではなく、増殖を抑える作用を持つ
・発症初期に飲まないと高い効果は得られない
・作用時間が短く、1日に何回も服用しないといけない

というものでした。

  • 単純へルペスウイルスⅠ型(HSV1)
  • 単純ヘルペスウイルスⅡ型(HSV2)
  • 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)

の治療に対して長い歴史を持っているため安心して使えるお薬ですが、作用時間が短く、1日に何回も服用しないといけないのはやや面倒になります。

そのため、現在ではゾビラックスの改良型である「バルトレックス(バラシクロビル)」などが処方される事が多くなっています。バルトレックスは作用時間が改善されているためです。

またこれは多くの抗ウイルス薬に共通する事ですが、耐性化には注意しないといけません。ウイルスは変異する事があり、これによってゾビラックスが効かない菌が出現する事もあります。

このような状態でゾビラックスの投与を続けていても意味はありません。ゾビラックスを投与しても改善が乏しい場合は、耐性化の可能性も考えて治療方針を再検討する必要があります。